#073 結果発表


≪ただいまの時刻を持ちまして1st TRV War 予選を終了します。ポイントを集計してから結果発表を行いますのでしばらくお待ちください≫


 大会開始から四時間経過。ファンファーレの音と共に運営からシステム通知が届き、大会が終了したことを告げる。

 結局あの後ライジン達はギルドに到達することは無かったので、ポイント狙いの一般通過枠となった。

 無論、他のプレイヤー達のポイントよりも多ければ、の話だが。

 セレンティシアの一角、海が一望出来る広場のテーブルに座っている俺とポンは、ウインドウを開きながら大会の詳細を確認していた。


「ギルド到達してポイント報告通過は合計で十人か……。思ったよりも少なかったな」


 俺の通過順位はRosalia氏、ルゥ氏、鬼夜叉氏に次いで四位。続けてポンと串焼き先輩を合わせて六人の通過。その後の通過は二十分ほどなく、ギルドを取り囲むプレイヤー達にやられたプレイヤーも少なくない。その中で生き残ったプレイヤーがギルドでの報告を成し遂げた。

 その中で見知ったプレイヤーも居て少しばかり驚いた。


「まさかこの大会に生産職で参加してるとはなぁ……」


 清流崖の洞窟で出会った、リキッド侍氏が【ゴーレム使い】としてこの大会に参加していた上、生き残って本選出場を決めたのだ。生産職でどう立ち回ったのかタネが気になって仕方ない。


「少しだけ運営の放送で見ましたけど確か戦闘はゴーレムに頼り切りでしたよ?」


 と、ポンが言っていたのでそうなのだろうが、そのゴーレムとやらが気になる。

 まぁ、公式放送のアーカイブを見れば確認できるか。

 本選通過者の十人の名前が表示されたウインドウをスワイプしながら名前を確認して、顎に手を添える。


「で、やっぱり魔物使い系統は強いよなぁ……」


 リキッド侍氏が本選抜けしてから続いて現れたのはモンスターを使役するジョブの二人だった。どちらも連携力が取れているパーティで、プレイヤー達を軒並みなぎ倒していた。その主人は安全圏でモンスターに守られていたのであれほど楽な手はないだろう。


「もしこの大会がまた開催されるとしたら魔物使い増えそうですね」


「戦闘面はモンスターにまかせっきりで主人は楽に通過、だもんな。ソロプレイヤーにも人気が出そうだ」


 俺達はどちらかというと他人に戦闘を任せるというよりも全員が全員突っ込んで戦闘を楽しみたいという人間の集まりなので、魔物使いにジョブチェンジすることは無いだろうが。……でも鳥系のモンスターに乗って高所から一方的に長距離射撃とかロマンあるよなぁ。サブジョブにでも入れてみようかしら。

 と、物思いにふけっていると光の粒子が収束し、そこに現れた人物を見てから「お」と声を漏らす。


「体調の方はどうなのよ串焼き先輩?」


 現れた人物の正体は串焼き団子。あの乱戦で見事グロッキーになり、一旦ログアウトしていたのだ。

 少しやつれたような表情で串焼き先輩は。


「……VR酔いしたのなんて久しぶり過ぎてリアルで何回かリバースするほどグロッキーになってた。……シオンに介抱してもらえたから体調は割と回復したけど」


「「うわあ……(ドン引き)」」


 ごめん串焼き先輩、素で引いた。ここまでシオンが串焼き先輩に影響を及ぼすとなると、シオンが声援を送るだけでも厨二を超えるポテンシャルを発揮するんじゃないだろうか。

 

「あんまり無理してぶっ倒れないでくれよ?」


「いやむしろお前らが無理させてくるんだが?これは俺キレていいよな?」


 人を鬼畜呼ばわりするとは何事か。だって串焼き先輩反応が良くてからかいがいがあるんだもの、仕方ないよね。


「つうかなんだあの不安定な射撃環境…。逆に村人、なんでお前リバースしてないの?」


「ヒント:Aimsのヘリ射撃」


「あっ……」


 俺の言葉で全てを察した串焼き先輩は黙り込む。あの射撃を成功させるためにあのミッションを何回やったことか。一度成功させた後も跳弾を絡めながらとかプレイして散々お世話になったから、VR酔いに関しては割と耐性あるのよね。流石に地下洞窟の初見時は慣れなかったからリバースしかけたけども。


「ま、予選通過できたから良しにしようぜ」


「そうだな。お前らが居たから通過できた部分もあるしな」


「あれ?串焼き先輩がデレるなんて珍しい」


「結果から見ても明らかだろうが。少なからずお前らには感謝してるよ」


 プロゲーマーの面子も保てたしな、と笑う串焼き先輩を見て、俺も笑う。


「ま、本選では叩きのめすけどな」


「何をぅ!?吠え面かかせてやるから覚悟しておけよ村人!?」


「ま、まあまあ。これから結果発表ですし仲良く仲良く、ね?」


 俺と串焼き先輩が取っ掛かりになりそうになった所をポンが静止する。


≪お待たせいたしました。それでは、1st TRV War 予選!結果発表を行います!≫


 と、タイミング良く運営のアナウンスが入る。集計結果がもう出たのか、早いな。

 一口セレンティシア名物のクッキーに似たお菓子を頬張り、食感を楽しみながら大会の結果を待つ。


≪まずは本選通過者の発表を行います。上からトータルのポイントが多い順に発表を行いますのでご了承願います≫


 さてさて、これでライジン達が呼ばれるかどうか。楽しみだな……って、あれ?そういやあいつもしかして戦闘しなくても……。


≪まず本選通過者第一位、プレイヤー名『ライジン』!26250ptで本選通過!おめでとうございます!!≫


 運営の発表に、周囲のプレイヤー達が盛り上がる。

 あー、そういえばバウンティハンターシステムって逃げ切れば得票数がそのままポイントに加算されるんだっけ。ならあいつが逃げ切った時点で一位確定なわけか……ハイリスクだけどハイリターンだなこの制度。これずるくねぇ?


≪続けて第二位!プレイヤー名『村人A』!4298ptで本選通過!おめでとうございます!!≫


「あ、俺だ」


 結構夢中になってプレイヤーを狩ってたけど、二位とはなぁ。バウンティハンターでオキュラス氏を狩っていたのが響いたのだろう。ライジンには理不尽に一位をかっさらわれたがこれはこれで嬉しいな。


「村人君おめでとうございます!」


「やるなぁ村人!」


「見事だったね、おめでとう」


「どーもどーもってオキュラス氏!?」


 周りから賞賛の声を貰っていると、オキュラス氏がこちらに向かってくる。

 思わず身構えると、彼は苦笑を浮かべて頬を掻いた。


「あはは……そんな身構えなくても。ここは戦闘の場じゃないからね。本当に、あの時の射撃は見事だったよ。まさかあんな事が出来るプレイヤーがいるとはね……」


「あ、え?あ、どうも…」


 俺の中のオキュラス氏の印象だと戦闘の時のような荒々しい印象を持っていたが、普段は温厚らしい。すっと差し出された手を取り、握手する。


「まあしかし上手いタイミングで現れてくれて……。あのまま行けばライジンとポンさんを倒せたのになぁ、惜しい事をしたよ」


「オキュラス氏のスキルも凄かったけどな。なんだあれ、モンスターを出してるのか?」


「あれは【毒龍ヒュドラ】って名前のスキルで結構色々制限はあるけど毒龍を召喚するスキルだよ。中に入れば操作することも出来る」


「あ、あれ?ネタバラシしても良いのか?」


 正直教えてくれないだろうなと思って聞いたんだが。そんな困惑した表情の俺を見てオキュラス氏はにこりと笑い。


「まあ一度見せちゃったスキルだからね。次が通用するとも限らないし。それに、村人君でしょ?」


「……ああ、そういう事か」


 結局のところ、俺は本選に出場するので、他の全プレイヤーに手の内を曝け出してしまうというわけだ。ある意味対等、といったところだろう。


「でも本当にすごかったですよ、あのスキル。私は何度も追い詰められて……。村人君が来なければ確実に負けてました」


「そ、そうかい?それなら嬉しいけども……」


 ポンがオキュラス氏を褒めると、突然オキュラス氏はわたわたし始める。

 ……この人、そういや女性苦手なんだっけ。


「あの、ちょっと気になったんですがオキュラス氏って――」


「ああ!こんな所に居た!ちょっとオキュラス!鬼夜叉の所に戻るわよ!」


 なんで女性が苦手なんですか、と聞こうとした所で声を遮られる。

 その声を聞いたびくりと肩を震わせたオキュラス氏は縮こまってしまい、「うぅ……」と憂鬱そうな声を漏らした。

 そして声の主である燃えるような赤髪をした気が強そうな女性プレイヤーがこちらへと歩いてくる。


「ん?あんたが村人Aってプレイヤー?」


「え?ああ、はい。そうですけど……」


 ええ、なんで知ってんのこの人……と思いながら現れた女性を見るが、そういえば注視すればプレイヤーネーム見えるな。

 赤髪の女性は重そうなハンマーを背負いなおすと、ニヤッと笑う。


「あたしの名は紅鉄。ジョブは鍛冶師。そこのオキュラスと幼馴染なのよ」


「あ、オキュラス氏が言ってた鍛冶師って……」


「そう、彼女の事。そのうち会わせたかったけど、いい機会になったね」


 サーデストでのモーガン擦り付け事件の前、鍛冶師のジョブレベルが低い云々でいつか紹介してくれるとは言っていたが、この人の事か。

 紅鉄氏は鼻をふんっと鳴らすと、サムズアップして。


「お金と素材さえ用意してくれればあたしがあんたの装備を打ってあげるわ。オキュラスも認めてるようだしね」


「それは助かります」


 もうしばらくはモーガンさんに頼る事にはなりそうだけど。

 そんな俺の心中を察して居ないだろう彼女は、上辺だけの俺の言葉を聞いて嬉しそうに頷くと、オキュラス氏のスカーフを掴んで引っ張って行く。


「ほら、行くよオキュラス!鬼夜叉が待ってるわ!」


「ああもう、いつも君はそうやって急くなぁ……!またね村人君、ポンさん、串焼き団子さん、本選頑張ってねー」


「俺の事覚えてくれてる……!」


「串焼き先輩……!」


 そのまま引っ張られてオキュラス氏と紅鉄氏が去っていくと、串焼き先輩が感動で打ち震えていた。最も、感動するポイントがその存在を忘れられていないという点ではあるが。

 そんな串焼き先輩の裏で、ポンがなるほど、と合点がいったように掌の上に拳を置いた。


「オキュラスさんの女性苦手な理由って……」


「……?あー、何となく察した」


 多分あの幼馴染の存在が大きいんだろうなぁ、としみじみ思う。あの人、気が強そうだからなぁ。振り回されてるんだろうな。

 と、嵐が去っていったかのような余韻に浸っていると。


「あ!待って、もう順位が殆ど出ちゃってる!」


 ポンがウインドウを開いて目を見開いていた。あ、すっかり忘れてた。オキュラス氏が現れた衝撃で結果発表の事が頭から飛んでいた。

 慌ててウインドウを確認するが、順位を確認してほっと溜息を吐く。


「串焼き先輩が六位、厨二は十二位、ポンは十三位、か」


「割とポイント僅差だったんですね。取り敢えず、変人分隊のメンバー全員で本選出場出来て良かったです!」


 ポンの言葉に頷き返す。これで、変人分隊総当たり戦が行われるわけだ。いつ誰と当たるか分からない以上、楽しみが増す。


「さて、本番はこれからだぞ―――!」


 順位表が全員分表示された後、表が切り替わり、お待ちかねの発表が始まる。


 いわば順位は。ここからが本命の発表なのだ。


≪続いて、今大会のMVPの発表を行います!≫

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