#072 1st TRV WAR 予選 その二十八
「逃げろ逃げろー!」
「なんでお前そんな楽しそうなの!?もうちょっと命の重み感じようぜ!?」
本日の天気、晴れ時々隕石。これなんて世紀末?いや、この世の終焉か。
海鳴りの洞窟近辺から全力ダッシュを始めること十分。隕石が降り注いだ地帯は既に更地と化し、そこに生きる者の気配を残していない。
地面と一緒にならされるのは勘弁願いたいところなので絶賛逃走中なわけなのだが、思ったより生存範囲の縮小の速度が速い。こうして走っていないとすぐに隕石が頭上から降り注ぐ事になりかねない。
「なあライジン、後ギルドまでどんぐらいよ!?」
「後五分ほどって所かな!村人、スタミナ持つか!?」
「あったりめーよって言いたいとこだがこの速度を維持すんのにはちょっとばかししんどいかもしれねえ!」
このゲーム、スタミナゲージという物が存在し、それの上限を超えると一時的に小休止を余儀なくされてしまう。限界を超えた動きはシステム的に制限されているって事だな。とはいえ、スタミナゲージが振り切っても少しの時間は動けるようだが。
このゲージ自体はステータスを上げるか、スキルの効果で長続き出来るようになる。俺の場合はあのマラソン大会の副産物、【ランナー】のスキルのおかげでこうして長時間の走行が可能となっている。長時間と言っても、十分そこらしか全力で走れないからスキル上げを意識した方が良いだろう。
因みにライジンはフックショット、ポンは【
……で、このパーティで一番不安そうなのが。
「串焼き先輩、大丈夫か?」
「ぜひぃー、ぜひぃー。ば、馬鹿野郎、平気に決まってるだろ」
心底苦しそうな表情で走り続けている串焼き先輩が一番不安だ。確実にこの人スタミナゲージ振り切ってるだろ。それに加えてこの人大会前にシオンの買い物に付きあわされて徹夜明けって言ってたしな。大会終了が見えてきてアドレナリンの出力が落ちてきているんだろう。
「おぶってあげようかぁ?」
「てめえに背負われるぐらいなら走って死んだ方がマシだ!!」
厨二がにんまりとした笑顔で言うと、串焼き先輩は嫌そうな顔を浮かべて怒鳴りつける。それを聞いた厨二はつれないねぇ、とけたけた笑った。
というか串焼き先輩、ここで死なれたら困るんですけど。
「つうか厨二、レベルが高いのもそうだけどスタミナお化けだな。スタミナ面に振ってたりしてるの?」
「んー?そうでもないよぉ。ただ、走り方にコツがあるって感じかなぁ。このゲーム、やたらとリアルに作られてるから歩法とか意識するとスタミナの消費を抑えられるんだよねぇ」
おお、それは初耳だ。……つうか厨二、歩法を意識するって何者?割と武芸の達人だったりする感じ?いや昔からハイスペックなのは知っていたけども。
ライジンがちらりと串焼き先輩の方を見ると、少し悩んでから。
「串焼き団子さんもきつそうだし、ちょっと速度落とそうか」
「賛成だが、このまま速度を落とせば隕石に追いつかれかねないぞ?」
「それは多分大丈夫だよ。大会の設定時間は四時間。これまでの速度を見るからに円の内側になるにつれて速度が落ちるはず。流石に大会終了時間前に隕石で全面ならすなんて事は考えにくいからね」
なるほどなぁ。確かにそうだ。試合終了前に全滅オチなんて、先に百ポイントを取ってギルドに直行したもん勝ちだからな。最後まで生き残ろうとしたプレイヤーはカンカンだろう。
「だけど、こうして隕石から逃げていれば自ずとギルドに向かって一抜けしようとするプレイヤーは増えるだろうから、うかうかはしていられない」
「そうだな」
本選出場の切符は十六枚。そこに参加出来るのはポイントが高い順…というわけではない。百ポイントを獲得した後、早くギルドに到達し、判定員に報告した者が本選の出場権を得られる。あくまで最後まで生き残ったとしても、判定員から一抜けしたプレイヤー達の
ならば、一抜けして安全に本選の参加切符を得る方が確実だ。
と、走り続けている俺達に、大会アナウンスが流れだす。
≪本選出場プレイヤーが決定致しました。クラン【黒薔薇騎士団】、プレイヤー名『Rosalia』3254ptで本選通過。同じくクラン【黒薔薇騎士団】、プレイヤー名『ルゥ』1750ptで本選通過です≫
やられた。同じ考えを持っている人がもう一抜けしたのか。てかRosalia氏達じゃねーか!あの時確実に仕留めておくべきだったな。許すまじ私欲全振り国家権力……!!
俺が静かに闘志を燃やしていると、ライジンはすっと真顔になり、速度を上げる。
……ちょっと!?速度落とすって言ってなかったっけ!?
「まぁ、ここで対抗意識燃やすのがライジンらしいというかなんというか……」
平常時こそまともではあるが負けず嫌いで、先を越されると躍起になるやつだもんなぁ、昔から。それは俺も同じだけども。
「急ぐぞ、ギルドはもう近い!」
ライジンの余裕のない声を聞いて俺達は気合を入れなおす。最終決戦の地、セレンティシアに到達した俺達はギルドに向かって一直線に突き進む。
◇
「【雷鳴斬】!!」
「【チャージショット】ォ!!」
セレンティシアに到達した俺達に襲いかかるのはこれまでの試合で生き残っていたプレイヤー達。ポイントを稼いできたプレイヤー達を漁夫の利でもろともかっさらう事を選んだプレイヤー達がひっきりなしに襲い掛かってくるのだ。
矢を放ち、跳弾を絡めながら長剣で切りかかってくるプレイヤーをヘッドショットで射抜いた後、次点の矢を装填し、集中する。
「……ふッ!」
樽の後ろに隠れているプレイヤーをミニマップで確認して、矢を放つと見事に命中してポイントが加算される。
「……次!」
また次点の矢を装填、【チャージショット】を溜めながら、走り続ける。
多い、あまりにも多すぎる。恐らくはここに居るもの同士で奪い合っても意味がないと結託したのだろうが、それにしても数が多い。
そして、鳴り響くファンファーレ。これが一番厄介だ。ポイントが百を超えると鳴り響くファンファーレが周囲のプレイヤー達を呼んでしまう。
これまでの戦いでポイント総数が2500ptを超えたせいか、既に俺のファンファーレはファンファーレというよりもウエディングベルが鳴り響くような音にまで変わってしまっている。遠くまで響くその音は、周囲のプレイヤー達に否応なしにその存在を知らしめてしまうのだ。
「向こうで凄い音が鳴ってるぞ!あっちのプレイヤーを狩れぇ!」
「くそっ!」
大歓声と共にこちらに迫り来るプレイヤーの大群。補給する間もなく来るため、このままではジリ貧だ。
それを見かねたライジンが、一つ呼吸を置くと。
「村人、串焼き団子さんとポンを連れて先にギルドに行け。お前が居たらプレイヤーを延々と、それこそいなくなるまで引き寄せそうだからな」
ニッと、屈託のない笑顔を見せてそう言い切るライジン。
この中で、一番本選に出場したがっているだろうに。だが、すぐに俺は頷いて行動に移す。そんな俺に背中越しでライジンは。
「この予選が終わったら、
その言葉を聞いて、俺はははっと軽く笑う。なるほど、そういう事か。
あいつはこの場の殿を務める代わりに、
「勿論、そのつもりだ」
俺がそう言い切ると、ライジンは嬉しそうに頷く。
まったく、考察厨はこれだから。そんな事別にタダで教えてやるっつーのに。だが、その精神は好きだぜ。相応の対価を出してこそ、フェアな取引だ。
そうして俺達は先に進み、ギルドを目掛けて走り出す。もう、視認できるところまで来ているからな。このままラストスパート、一気に駆け抜けようか!
◇
「おっとぉ?ボクもここに残っていいのかなぁ?」
「頼みますよ。むしろあんたが居ないとこの数相手には時間が掛かる」
「でも一人で倒し切れるって言えるってところが流石ライジン君ってところだよねぇ」
ライジンが修復が完了した片腕の感触を確かめると、双剣を構えて厨二と背を合わせる。目視できる数だけでもプレイヤーは五十を超えている。だが、これは今現在いる数という話。ここからファンファーレを聞きつけたプレイヤー達が集うのも時間の問題だ。
「まあボクも不完全燃焼だったしねぇ。あの龍にコテンパンにされた腹いせをこの人達にぶつけるとしますかぁ。ま、
ボキ、ベキと手の骨を鳴らしながら厨二が薄ら笑う。その眼差しは、やがて周囲を威圧するように変わり、ゆっくりと短刀を抜き払った。
「ついて来いよ、厨二」
「無論、こいつらが全員退場するまでお供するさぁ」
ライジンと厨二が動き出し、戦闘という名の蹂躙が再び再開される。
◇
「【
「うおぉぉぉぉぉお!?」
「串焼き先輩射撃に集中して!」
ついにギルド前までたどり着いた俺達は最後のギルドまでの階段を、あの地下洞窟と同じ要領でロープでぶら下がりながら一気に突っ切る。半ば悲鳴を上げている串焼き先輩も情けない姿を晒しながらも階段で待ち構えていたプレイヤーを正確に射抜いていく。こんな悪環境でも正確に射抜く辺り流石プロゲーマーというべきか。精度が違うな。リバース寸前だけど。
かくいう俺は【彗星の一矢】を静かに発動させ、その時を待つ。
「一気に突入します!!」
ギルド内にもプレイヤーがわんさかいるのだろう。だから、その処理は俺の役目だ。この中で一番高火力で、瞬間的に敵を葬れるのは俺だからな。
青と白の粒子を纏いながら矢を引き絞り、その息を深く吸い込む。
「3!」
ポンがカウントダウンを開始すると、一気に直下降りし、ギルドの入り口まで高度を下げていく。
「2!」
そして地面すれすれまで急降下すると、横方向に推進力を強め、地面と平行しながら爆走する。
「1!!!」
と、同時にポンがロープを爆発で焼き切り、ロープから離れた俺はその勢いのままギルドへと猛進する。
ポンがギルドの入り口を爆発で吹き飛ばすと、串焼き先輩を連れたまま上空へと一気に駆け上がる。殺し切れない勢いのまま、俺はスライディングしながらギルドに入ると、即座に人数を把握する。
(1、4、9…13!!)
人数を把握して続けて行う跳弾計算。アドレナリンが溢れている俺は、脳が極限状態まで研ぎ澄まされ、そのルートを素早く算出し、正確に射抜けるルートを作り出す。
「悪いな諸君、出会って間もないがさようなら!!」
そのままノータイムで限界ギリギリまで引き絞った【彗星の一矢】が解き放たれ、一番最初に視界に入った一人の頭を粉砕し、ギルド内を激しく損傷させながらピンボールのように矢が跳ね返り続ける。そして跳ね返る矢に大声で固まったプレイヤー達がなすすべもなく貫かれ、ギルド内が阿鼻叫喚となる。
「あっやっぱイキり過ぎたぐへぁっ!?」
射撃こそ出来たはいい物の、ポンの【
一気にHPバーが減少し、あっという間に赤ゲージまで行ってようやく止まる。彗星の一矢が暴れ狂う事で凄まじい音が鳴り響く中、【彗星の一矢】の反動で動けない身体のまま、ぼんやりとギルド内を眺める。
(あ、やべえ。一人撃ち漏らした)
静かになった室内に、一人の男が立っていた。
あの蝙蝠戦に引き続き、どうやら俺は最後の一人だけ残してしまう性質でもあるのだろうか。【彗星の一矢】から逃れた斧を背に担ぐやたらとゴツイ武人のような偉丈夫がこちらに向かってくるのを見ながら、俺は嘆息する。
(串焼き先輩はスタミナ切れとポンの高速移動でグロッキー、ポンも恐らくMP切れでこちらをカバーできない、詰んだか)
と、思っていると、近寄ってきた偉丈夫に引っ張り上げられ、壁から引きずり出された。俺が困惑していると、偉丈夫は何故か俺にHPポーションを渡して軽く口角を上げた。
「見事な、射撃だった……。ようやくギルドに入れたというのに、待ち構えていたプレイヤーに、囲まれていて困っていたのだ。……礼を言う」
と、それだけ言い残すと偉丈夫はギルドの奥の方の部屋へと消えていく。【彗星の一矢】の破壊力をもってしても傷一つ付ける事が出来なかったその部屋は、恐らく判定員がいる部屋なのだろう。
そして、偉丈夫が部屋に入って間もなく聞き覚えのあるアナウンスが流れだす。
≪本選出場者が決定しました。クラン【お気楽隊】、プレイヤー名『鬼夜叉』3329ptで本選通過です≫
「はは、あぶねえ。あの人に喧嘩売ってたらヤバかったな……!」
鬼夜叉という名の偉丈夫から貰ったHPポーションを飲み干しながら、冷や汗をかいた。
事実あの人も射撃対象だったから、当たっていればあの人も脱落していたはずだから、喧嘩を売る以前の問題かもしれないが。
ゆっくりと立ち上がり、ふと床に転がっているものを見つけた。
それは矢であり、俺が良く使っている【鉄の矢】で……。
その事実を反芻すると、ピク、と頬が引き攣り、俺は乾いた喉で吐息を漏らす。
「あんの野郎、【彗星の一矢】を
確かにあの鬼夜叉というプレイヤーを最後に狙ったが、それでもあの高速の矢を正確に撃ち落とした腕前はただものではない。
(本選が楽しみになってきたな…!)
これだけの実力者が出場する本選。これまでにないほど充足感を得られるだろう。
ニヤリと笑みを浮かべていると、串焼き先輩を担いで顔を真っ青にしたポンがギルドに遅れてやってくる。
「凄い音しましたけど大丈夫ですか!?」
「壁にめり込んだけどヘーキ。取り敢えずギルド内は処理完了だ。このまま大会を抜けようぜ」
「壁にめり込んでるのに平気ってどういうことですか……」
半ば呆れ気味のポンがため息を吐くが気にしない、気にしない。
「判定員が居る部屋はあそこだ。長い事お疲れ様、二人とも」
「お疲れ様でした!」
「ちょ、待ておええ、ごめん少し休ませて……」
「締まらねえなぁ串焼き先輩!?とっとと行くぞ!」
「あっごめん待って本当にリバースする、リバースするからぁ!」
弱音を吐く串焼き先輩を引きずりながら、俺達は判定員の部屋へと入っていく。
1st TRV War予選、村人A、串焼き団子、ポンは見事生存で予選を通過した。
≪本選出場者が決定しました。プレイヤー名『村人A』4298ptで本選通過、プレイヤー名『ポン』569ptで本選通過、プレイヤー名『串焼き団子』2450ptで本選通過です≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます