#071 1st TRV WAR 予選 その二十七
「ああ空気が美味い!これが地上!なんて美しいんだ!」
「それ何のネタですか?」
「初めて地上に出た地底人の物真似」
リヴェリア・セレンティシアという名の龍との邂逅から無事に生還し、テレポートしてから開口一番にそう言うと、ポンがジト目で俺の事を見てくる。
海鳴りの洞窟の周囲に広がっていた森林地帯はすっかり道具袋の山と化していた。ここに来たらしきプレイヤー達の争いの痕跡なのだろう。なんて醜い争いなんだ。もっとやれ。
「これって厨二さんが仕掛けたトラップでこうなったんですかね?」
「ああ、確かにここに来るように仕向けたとは言ってたな。…まあ、早いもん勝ちだもんなぁ、裏切りもしたくなるわ」
洞窟内で厨二が戦っていた敵が協定みたいなのを結んでたよなぁ。絶対俺らの中で誰か一人の首を取った途端標的が首取った奴に向くぞ。俺だったらそうする。
「いやあこうまで綺麗に引っかかってると文面気になるよなぁ。厨二の事だから言葉巧みに騙したんだろうけども」
そう言いつつふと視線を木に向けると、看板がぶら下がっていたのに気付く。それをのぞき込み、その内容を確認して俺は思わず「うわ」と声を漏らした。
「『この先優勝候補が複数人おります、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。優しい森のお兄さんより』って、怪しさMAXじゃねえか!!こんなのに引っかかる方も引っかかる方だけども!!」
「うわあ、こ、これは……。ま、まあポイント的に逆転が厳しいと判断した方がワンチャン狙いで来たんじゃないですかね?」
「ポンはピュアだなぁ……(白目)」
いやどう考えても罠だろコレ。俺ならポイント足りなくても絶対に参加しないぞ。
そのまま歩きながらある事を思い出す。
「……ん?地上にテレポートさせられたって事は、ライジン達も近くに居るんじゃないか?」
「確かにそうですね。少し探しに行きましょうか」
地下の洞窟ではライジン達と遭遇しなかったから、もしかしたらどこか遠くの地上にテレポートさせられた可能性もある。なら、合流しておいた方がこの先生き残れる可能性も高くなるだろう。
「あの二人に限ってあっけなく死ぬなんてないだろうからなぁ……。どうにかして生き残ってるだろ」
「信頼というか投げやりというか……。まあ確かにあの二人なら大丈夫そうですけどね」
俺が適当に言うと、ポンもそれに同調する。だってライジン無駄に器用だからなぁ……。串焼き先輩を見捨てない限りは大丈夫だろうし。
◇
数分歩いて、俺達は
「あ、厨二……」
「……の、遺体でしょうか?」
木に寄りかかるように、黒焦げになってしまっている人型の物体がそこに居た。
リヴェリアの技をくらった結果がこの有様なのだろう。奴が命を賭して俺達を先に行かせたことで粛清の代行者討伐に一歩近づかせることが出来たのだ。
「すまない、厨二。……お前の犠牲があったからあそこまで辿り着けた。……感謝してる」
少なからず奴には感謝の念を抱いている。大会敗退というリスクを背負ってなお、その決断を出した厨二に敬意を払い、両手を合わせて頭を下げたところでふと違和感に気付く。
「あれ、そういえばなんで遺体が残ってるんだ?」
「……ん?……た、確かにそうですね」
このゲーム、基本的にはHPがゼロになった時点でモンスターと同じ様にポリゴンとなって消失するのだ。だというのに、厨二の遺体は黒焦げになっているのにも関わらずポリゴンと化していないのだ。
「……【ド根性】でも発動したのか?」
俺はレッサーアクアドラゴン戦での出来事を思い出す。あの時は地上30mからの紐無しバンジーという自殺行為を行った結果、水面に叩きつけられてHPが一瞬で消し飛ばされたが、【ド根性】というVITの数値が関係してくるスキルの影響で板状にならなくて済んだのだ。もしかしたら厨二も…と思い、目の前の遺体を注視してみるがネームタグは出てこない。
と、俺がその黒焦げの死体?に近付くと。
「やあ、どうだったかい?洞窟の中には何かあったかなぁ?」
耳元で、囁くように聞こえてくる中性的な声。
全身に悪寒が走り、飛び退くとそこにはピエロメイクを施した男がけたけた笑いながら立っていた。
「厨二!?」
「いやー見事に騙し切れたねぇ。お見事だったよ。その様子だとたどり着けたみたいだねぇ」
「なんで、生きて……!?いや、この遺体は!?」
「ボクのスキルさぁ。まぁ制限きっついから弱体化バリバリ入ってる上にもう今日はこのスキルを使えないんだよねぇ。出来れば切りたくなかった奥の手サ」
頬が引き攣りそうになりながらも頭を抑えて平常心を保つ。いけない、俺の胸中の気持ちを察せられたら確実に馬鹿にされる。
厨二が俺の表情を見て、にやりと笑い。
「おやぁ?どうやらボクが命を投げうった事に感銘を受けていたようだねぇ?あれあれあれぇ?実は確実に助かる手段を持っていたから助けただけと知った村人くぅん?どうしたのかにゃあ?」
だが、こいつはこういう無駄な所で察しが良い男。厨二が最高に腹が立つ顔で俺を煽り立ててくる。
「ねえねえ、今どんな気持ち?ねえねえ?助からないと思って悔しそうな顔をしていた村人くぅん?」
「オッケー厨二、ぶっ殺す!」
俺はそのまま矢を引っ張り出し、すぐに構えて射撃を開始する。それを楽しそうに回避する厨二を見てさらに腹が立ってくる。
と、タイミングが良かったのか悪かったのか、ここで別の方向から声が聞こえてきた。
「お!村人!ポン!厨二!生きてたのか!!」
それは、良く知る友人、ライジンの物。俺達はその声の方へと顔を向けると、ライジンと串焼き先輩が必死の形相で走ってきていた。
「ライジン!串焼き先輩!良かった、お前らもやっぱり生きてたか!」
再開の喜びを分かち合おうとしたところで、串焼き先輩が息を切らしながら。
「お前らも、早く逃げろ……!!三時間経過のルール、見ただろ?」
「ああ、えっと、【生存可能範囲の縮小】でしたっけ?」
串焼き先輩の言葉にポンがそう返すと、串焼き先輩は頷く。
それがどうかしたのかと思ったが、ライジンは焦ったままの表情で。
「てっきり大会終了までゆっくり狭めてくるのかと思いきやそうでもないんだ。もうすぐそばまで迫ってきているんだ!このままギルドへ直行しよう!」
「いやそんな焦らんでも縮小っつったって継続ダメージとかそんなもんでしょ?」
これがもしFPSと同じような円縮小(生存可能範囲が円の内側)だった場合、エリア外に居るプレイヤーは円が縮小していく毎に継続ダメージが増加していくだけだ。
だから最悪円外に居てもHPポーションは潤沢にある為、回復しながらでも安全に円内に辿り着けるはずと踏んでいたのだが。
「あれを見ても同じ事が言えるか?」
そう言ってライジンは先ほど走ってきた方向を指さし、それをそのまま上空に向ける。
一体何がと思って空を見上げると、煌めく何かが凄い勢いで大量に落下してきて――――。
「…………隕石?」
「そうなんだよ!だから急がねえと死ぬぞ、マジで!」
「それを最初に言えよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」
弓を背中に背負いなおすと、隕石の落下による爆発を背景にすぐさまギルドのある方角へと走り出す。
大会も終盤。時折聞こえる頭上のファンファーレを聞きながら、俺達はセレンティシアのギルドに向けて出発した。
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