#070 1st TRV WAR 予選 その二十六
「どどど、どうしましょう村人君!?」
「お、落ち着け。まだ三時間経過したわけじゃ無い!残り五分でルールが追加されるからとりあえずそれまでは安全だ!」
余計な事に気付いてしまった。と言うよりも気づく事が出来て良かったと言うべきか。
バトロワゲーのお約束として最終的に生存可能な範囲が縮小していき、戦いは更に熾烈を極める。そうしなければルール上決着がつかないから。
ルールが公式から発表された時に出ていた生存報酬はこのルールを追加するからこそ存在していたと言われた方が確かに説得力がある。
「考えれば考えるほど信憑性が増してくるな……」
頭が痛くなる思いで先ほど崩落させた穴の入り口の方を見る。
ポンがボムでこの穴の入り口を塞いでなければリヴェリアにやられていただろうから、どちらにせよあの段階でリヴェリアと遭遇していた時点で『詰み』が確定していたわけだ。
その『詰み』の結末が完全に無駄死にか粛清の代行者への挑戦権を獲得するかだけの違いな訳で。
「……一か八か、吹き飛ばしてみます?」
「いや、技を放った龍自身が自爆しているってことは無いだろうし……それに、吹き飛ばしたところでどうする?奇跡が起きてあのエリアから離脱出来ても待ってるのはあの蜥蜴達と他のモンスター。極め付けにこの洞窟から垂直に登り続けないと行けないんだぞ?……圧倒的に時間が足りない」
来る際は落下すれば良いだけだったから楽だった(実際死にかけた)が、登るとなると話は別。労力と時間があまりにも掛かり過ぎてしまう。
無事に地上に出れたとしても地上に待ち構えている他のプレイヤー達に囲まれてしまえばおしまいだ。
顔を真っ青にしてオロオロしだしたポンは手をわたわた忙しなく動かして。
「な、ならどうすれば……」
「……お祈りゲー?もしくは、一時間HPポーション飲み続けて耐久?」
「ここでまさかの運ゲーですか!?」
いやだって無理じゃんこんなの。ははは、バトロワゲーで円外死亡とか1番萎える奴じゃねーか。もう少し先の事を考えて行動するべきだったなと後悔するも時すでに遅し。
と、諦めモードに入っていた俺らがぼんやりと入り口の方を見ていると、突然光が漏れ出ているのを確認して顔色を変える。
「ポン、伏せろ!」
一拍遅れて漏れ出た光の正体である水のレーザーで岩盤が消し飛ばされてしまう。
かろうじて伏せた事で頭上スレスレを通ったレーザーが洞窟の奥まで行くと、何か不思議な力でかき消された。
水のレーザーだったのでほぼ無いとは思うが、ライジンと串焼き先輩が助けに来たのか?という淡い期待は、グルルル……という龍が喉を鳴らす音が聞こえた為一瞬で潰えた。
『トラベラー、聞こえるか?ふん、どうせ生きているのだろう』
その声を聞いて思わず乾いた笑いが漏れ出る。ここまで来てしまっているという事は、やはり厨二は脱落してしまったという事だろう。
『そのままで良い、聞け。貴様があの村へ来たせいでティーゼは帝国に連れ去られ、あの兄弟は貴様が行なった事の償いで貴様と共にティーゼを救い出さんと旅に出た。……何故、最後にあの兄弟を裏切ったのだ?』
なんだ?攻撃的ではない?厨二を倒して満足してしまったのか?なんか何度殺しても満足出来ないみたいな事言ってたのに。
『何故攻撃しないのか、と思っているのだろう?……ティーゼが大切にしていたその笛が、貴様を認めているからだ。本来ならばその笛はその場所から動く事は無かったからな。ティーゼの魂が貴様を許したという事は……私が何か勘違いしているのかもしれない』
あれ?この龍、もしかしてそんなに悪い奴ではないのかもしれないな?そういやこいつ、リヴェリア
『お願いだ、教えてくれ。……過去に何があった?その返答次第では貴様を許そう』
ドッドッドッと心臓の鼓動が早くなって行くのが分かる。正直、昔のトラベラーという存在が分かっていない以上下手な回答をしかねない。その返答でこいつの敵意を買ってしまえば最後、確実に大会から脱落してしまうだろう。
「……聞いてくれるのか?」
なら、当たり障りのない回答をすれば良い。間違えるな、選択を。俺の返答が一個でもミスしてしまえば死ぬと思え。
そして俺は時間を確認し、三時間経過まで残り2分という事を把握する。
『ああ、勿論』
三時間経過で何が起こるか分からない。せめてそれまで、この龍との対話を継続しなければならない。
「俺は、俺
ゆっくり息を吐き出しながら、正直な事を告白する。その言葉を聞いて、リヴェリアは驚いたように目を白黒させた。
『……私を騙そうとしているのか?貴様はその程度の存在では無いだろう?』
「まあ聞け。記憶を失っているのは事実で、ティーゼという少女の事も、お前が言う兄弟というのも誰だか分からないのが正直なところだ。だから、お前がそんなに敵意を向けている理由も分からない」
さて、俺は至って真面目に答えてみたがどうだろうか。相手の反応を伺いながら、自然な仕草で手を矢に添える。もし突然攻撃されても反撃できる様に。
『……なるほど、そうか。記憶喪失か。……あれほど強大な力を持っていた貴様が私に太刀打ち出来なかったのもそれが理由か』
「俺が昔どんな感じだったのかは分からんが、出来る限り記憶を取り戻せるように努力はするつもりだ」
手に汗が浮かび、相手の態度が豹変しない事を祈りながら時間を確認。後、30秒。
『今はそれで信用しよう。記憶を取り戻した時は私に真実を伝えろ。もしその真実がロクでもないものだった場合は……』
鋭い眼光がこちらを捉え、戦闘の時のような敵意が向けられて背筋が震え上がる。
『貴様を殺す。殺して、殺して、生まれてきた事を後悔する程に貴様の魂に後悔と恐怖を植え付けてやろう』
喉が一瞬で渇き、膝が震えそうになりながらも笑みを無理矢理浮かべる。
と、同時に大会開始3時間を知らせるログが流れ出した。
≪大会開始から3時間が経過しました。
絶望の通知と共に、その下に一文追加されていのに気付き、目に火が灯る。
≪
後1分耐えれば、俺とポンはこの地下洞窟から労力を伴わずに脱出する事が出来る。
この場を、どうにかして切り抜けなければ!
自然と拳に力が入り、笑みを浮かべて自信満々な表情をリヴェリアに向け、俺は。
「ああ。その時は甘んじてそれを受け入れよう。……ここでティーゼという名の少女にその兄弟を止めてくれとお願いされたからな、それを成し遂げてから、またお前に会いに来るよ」
光の粒子が俺達の体から立ち上り始め、強制テレポートの準備が始まったのを理解する。
俺の言葉に、リヴェリアは先ほどよりも驚いたらしく、目を見開く。
『ティーゼに会ったのか!?どうやって!?その笛に魂が眠っているのは理解してはいたが、何度声を掛けても返答しなかったのだぞ!?』
「俺も分からないけどな。だが、約束したからにはそれを完遂するつもりだ。……そして、この笛を持ってお前に返しに来る」
大切な物だと言ってたしな、と笑いかけるとリヴェリアは目を閉じ。
『……分かった。ならば貴様を地上まで運んでやろう。それぐらいなら手伝えるしな』
リヴェリアの申し出に俺は満面の笑みを浮かべて。
「あ、結構です」
だって強制テレポートで地上に転送されるみたいだし。
ポカンとした表情を浮かべたリヴェリアの顔を最後に見てから、俺とポンは地上へと大会のルールで強制テレポートさせられたのだった。
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