#068 1st TRV WAR 予選 その二十四
『【冥】』
短い詠唱が終わるとエネルギーが凝縮された球体が解き放たれる。
黒い球体が口から解き放たれたと同時にこの空間の音が消え失せ、黒い球体が厨二に向かってゆっくりと落ちていく。大気が揺れ、その球体が地面へと近付く程揺れが大きくなっていく。
「厨二ィ!!避けろォォォォォォォッッッ!!!!」
【鷹の目】を発動、厨二を遠距離から目視で確認すると、厨二の身体はこの技が解き放たれる直前の咆哮で身動きが取れなくなっている事に気付いた。
確実にあの攻撃は受けてはいけない類の攻撃だ。ポンの【爆発推進】のおかげでリヴェリアとの距離はかなり離れたのでこちらよりも至近距離にいる厨二の方が圧倒的に危険だ。
あの球体が地面に着弾した瞬間、間違いなく厨二は死ぬ。これは抗いようのない事実だろう。
だが、こちらの不安を読み取ったのか、厨二は一瞬笑みを浮かべてからようやく動けるようになった身体で穴を指さし。
「行け!!!!!」
ぐっと、喉を詰まらせ、視線を前に戻して厨二の指示通り穴との距離を測る。
目測で後数十メートルといったところか。ポンの【爆発推進】なら後数秒で到達できる距離だ。
だが、あそこに向かえば確実に……!
「くそっ!」
大会脱落を選ぶか、粛清の代行者の謎に近づくか。
数瞬の迷いは、ポンが先に決断を出す。
「【
厨二を犠牲に、前へ。
彼が作り出した時間は、決して無駄には出来ない。そう決断したポンは、これまで見せた【爆発推進】の中でも一番の火力を出し、急速に穴に向かって突撃する。
「村人君、少し無茶します!先に行っててください!!」
「は!?」
ガッと、ロープをポンが掴み取り、引っ張り上げると遠心力を活かしてそのまま砲丸投げの要領で大きく回転する。
「せぇぇぇぇぇぇいっ!!!」
投げ飛ばす瞬間にポンは自分の腰に巻き付けてあるロープの根元を爆発で吹き飛ばし、ちぎり取る。支えを無くした俺はそのまま穴へとさらに加速しながら直行する。
(ちょ、待て!これ絶対壁の染みになるやつだろ!?)
今声を上げたら舌を噛みそうだから心の中で愚痴を言う。流石にいくら何でも速度が速すぎる!あの技が地面に落下する前には穴に入れるだろうが、あまりにも安全性に欠けているだろ!!
(ああくそ、ここまで来たら何としても生き残ってやる!俺は諦めだけは悪いからなぁ!)
ド根性頼みのムーブは命が幾つあっても足りないので却下。
吹き飛ばされながら弓矢を装填、落下の際にバックショットを放ち、ノックバックで少しでも衝撃が緩和されるように。
穴に突入、奥行きがかなりあったおかげでぺしゃんこにならずに済んだ。すぐさま終点を確認、何か変な笛のような物を通り過ぎ、奥の壁が傍に迫ってくる。そのまま壁にバックショットを放ち、跳ね返ってきた矢に直撃して速度が急速に落ちる。【
「あ、あぶねぶべらっ!?」
だがノックバックでかっこよく着地と行くわけでもなく。見事に変な体勢で地面を転がって不時着するが、すぐさま身体を起こして入り口の方に振り向く。そしてノータイムで弓矢を装填し、スキルを発動する。
「【彗星の一矢】!!」
ポンがまだ来ていないが、早急に対処せねばなるまい。あの技が地上に降り立った瞬間、その衝撃波がこっちまで来るかもしれないから。相手との実力差を考えれば焼け石に水かもしれないが、やるかやらないかで言ったらやった方が安心できるだろう。
ギリギリまで【チャージショット】を溜めて最高威力で解き放つ幼水龍の奥義。跳弾ルートを計算し、最終的に洞窟の出口をまっすぐ突き抜ける方向になるように。
青と白の粒子が収束された矢が放たれ、洞窟の壁を抉りながら跳ね返り続けて洞窟の入り口を目指していく。それと入れ替わるようにポンが穴に到着、勢いを殺し切れないままこちらへと向かってくる。
「ポン!!ボムでこの穴を塞げ!!」
ハッとしたような表情で、ポンはすぐに指示通りにボムを取り出して即座に落とす。ボムが地面に触れた瞬間に爆発を起こし、穴の天井が落盤し始める。
一拍遅れて凄まじい轟音が鳴り響く。奴の技が地面に落ちたのだ。あの場所に取り残された厨二はもう助からないだろう。
幸運な事に奴の攻撃で落盤してきた瓦礫は吹き飛ばなかったお陰で追っ手の心配もないだろう。
ポンは体勢を変えると、手を前に突き出して爆発を起こして勢いを緩和。そのままゆっくりと地面に降り立ち、地面に前のめりに倒れ込んだ。
「大丈夫か!?」
「あ、あはは……ちょっと無理しすぎました。本当に危なかった、緊張しっぱなしだったので少しだけ休ませてください……」
肩で呼吸をするポンを尻目に、自分もようやく緊張が解けて座り込む。深く息を吐き出すと、回復ポーションを取り出して一気に飲み干した。空になった瓶を地面に置くと、ポンに微笑みかける。
「お疲れ、ポン」
「お疲れ、さまでした……」
厨二を助けられなかった罪悪感にとらわれながらも生き残った喜びを分かち合う。
これで穴に辿り着けなかったら厨二になんて言われていただろうか。確実に三日三晩は煽られ続けていただろう。
……生き残って良かったー!マジで!あいつめっちゃねちっこく言ってくるからな!
◇
少し休憩をしてから、ミニマップを確認する。どうやらここは洞窟の中でも特殊なエリアなのかミニマップがノイズのような物でかき消されてしまっていた。
恐らく粛清の代行者に関係するエリアだからだろうと一人で自己完結してから、ちらりとポンの方を見る。
「ところで村人君、アレが……」
「ああ、きっとそうだろう」
回復ポーションを飲み干したポンが一息吐くと、この穴にあった異物を指さしたので頷きで返す。穴に突入してあっという間に通り過ぎてしまったが、視界に映った謎の笛。
「あれがあの龍が護りたかった物……。きっとティーゼってやつに関係する物だろうな」
「笛……というよりも法螺貝でしょうか?」
この穴の中にあった、水冥龍リヴェリア・セレンティシアが護っていた物。それは、巨大な水色の法螺貝だった。ゆっくりと腰を上げて法螺貝に近付き、マジマジと観察してみる。
「あの龍はなんでこんなものを?」
そう言って俺が法螺貝に触れた瞬間、法螺貝が淡く輝きだして宙に浮かんだ。
『トラベラー、聞こえますか?』
そして、驚いたことに淡く輝く法螺貝から声が聞こえだしたのだ。
『私の名前はティーゼ・セレンティシア。……覚えていますか?三千年前に私達の村、ハーリッドで会った一人の村娘です』
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