#067 1st TRV WAR 予選 その二十三


「ポン、あそこに見える穴に向かって全力で飛べるか!?最悪、俺を切り捨ててでもあそこに到達してくれ!頼むぞ!」


「厨二さんに頼まれたんですね?分かりました、【爆発推進ニトロブースト】!!」


 ポンがスキルを発動すると足元から爆発を起こし、急速に速度を上げて飛び始める。それに合わせて俺もバックショットで吹き飛んでポンの手を取る。

 俺の手を取った次の瞬間『キィィィン』と高い音が鳴ったかと思えば、勢いよく爆発が起きて穴へ向けて加速を開始した。


『その場所に近付くなぁ!!』


 だが、それをリヴェリアという名の龍は叩き落さんと凄まじい勢いで腕を振り上げ、こちらを逃がしはしまいと襲い掛かる。

 ステータスに差がありすぎるため、凄まじいまでの巨躯を誇るあの龍の全てが致命の一撃になりかねない。かすっただけでも危険だ。

 だが、こちらも速度に特化しているためギリギリ躱せる程度まで速度を上げている。ポンが旋回し、再び爆発を起こして小刻みに角度を変えながら穴へと突き進む。


「村人君、安全性度外視でスピード上げるので気を付けて!」


「安全性が担保されてねえのはもう身をもって分かあばばばばばばば」


 ガックガック揺さぶられながら龍の攻撃を無理矢理回避するのは正直しんどい。三半規管が壊滅的なので最悪この後リバースするだろうなぁ……。それを見かねたポンが俺を放り投げ、空中に捨てた。……え、捨てられた?


「のおおおおおおおおおおおおぅ!!??」


「村人君、背中に掴まってください!」


 自由落下を開始し、無防備な状態で放り出されてしまった俺は迫り来る龍の攻撃に成すすべもない。だが、急速旋回してきたポンの背中にしがみつく事に成功すると、なんとか一命を取り留める。

 心臓がバクバクとうるさい中、荒い息を吐きだして厨二の方を見る。


「厨二ィ!普通にこっちに攻撃来てんぞ!ちゃんとヘイト向けといてくれぇ!」


「分かっているサ!だけどねぇ、全部カバーできるほど甘くないんだよねぇ!」


 厨二の余裕のない叫びを聞いて、本格的に相手にしている存在の強大さを否が応でも認識させられる。龍が目の前を動き回る厨二を薙ぎ払おうと腕を振り上げて襲い掛かるが、回避し続ける事で何とか凌いでいるようだ。


『すばしっこいな、貴様ら……!!良いだろう、少しだけ私の力の片鱗を見せてやろう』


 だが、回避し続けるだけではまともに攻撃を加えられるわけでもなく。

 龍が咆哮すると、その周囲に鋭利な氷の塊が出現し始める。


≪【水冥龍リヴェリア・セレンティシア】の周りに氷塊が集い、渦巻いていく……≫


 特殊ログが視界端に流れた事で、その技の危険性がひしひしと伝わってくる。

 宙に浮かび始めた氷塊がぐるぐると回転し、こちらにその鋭利な先端を向け、狙いを定めているようだった。


 それを見た俺は素早くウインドウを操作、他の参加者の道具から拝借したロープを取り出すと、すぐさまポンの身体に巻き付け始める。


「えっ、ちょ、村人君!?」


「迎撃する!彗星の一矢の反動が来るかもしれないからバランス調整はそっちに頼んだ!」


「迎撃するって、どうやって!?」


「飛び降りて射撃する!」


「えぇ!?」


 ポンの背中にしがみついたままだと恐らく迎撃出来ない。なら、一度飛び降りて不安定な体勢のまま射撃すれば良い。


「恐らくだがあの氷塊はホーミングするような気がするしな!」


「何を根拠に!?」


「勘!」


 勘かぁ、と若干呆れ交じりのため息を吐き出したポンを見て、軽く笑う。ロープを自分の腰に巻き付け、きつく結び付けたのを確認。


「ポン、飛び降りるから少し揺れるぞ!バランス調整頼む!」


「はい!」


 手を離し、宙ぶらりんの状態になると、弓を構える。


「はは、予想以上に最悪の射撃環境だな……!!」


 ポンが少し遠慮してくれているのか、勢いを少し弱めてくれているので三半規管が壊滅的になることは無いがやはり不安定な体勢での射撃は中々定まらない。


『【氷塊飛翔撃アイシクル・レイン】!!』


 こちらの体勢が整うよりも前に、リヴェリアは攻撃を放つ。回転してから花が開くように散開してこちらに速度を上げながら飛来してくるのを見ながら矢を構える。


(だが、こちらに向かって撃っている以上的は絞れる)


 思い出すはAimsの墜落するヘリでのターゲット射撃。あまりにも不安定過ぎてエイムアシスト抜きにした場合当たるわけがないと言われた最悪のミッション。その中で世界二番目に成し遂げた時の事を思い出す。


(ヘリが爆破するときの衝撃も無い、緊急離脱を推奨するアラートの騒音も無い。余裕だな)


ぶら下がっているという傍から見れば極めて滑稽ではあるが、いつもの戦場に比べればこの程度の射撃なんてことない。むしろ蝙蝠戦で行った射撃の方が難易度的に言えば高いだろう。


「【彗星の一矢】」


 短く息を吐き出した後に端的に紡がれる魔法の言葉スキル。それがトリガーとなり、矢に青白い粒子が収束し始める。

 ギリギリと矢を引き絞り、氷塊を引き付けてある程度弾道を絞り、予測する。

 続けて跳弾計算。飛翔してくる物体に対して跳弾させて全て撃ち落とす計算を行い、そのルートを算出。

 【跳弾・改】、【チャージショット】発動、威力を極限まで引き上げ、標的を容赦なく確実に撃ち落とす。


「落ちろ」


 放たれる全てを穿つ破壊の射撃。矢の反動で大きく仰け反り、その衝撃でロープでつながれているポンまで衝撃が伝わり、空中機動に大きな揺れが生じる。

 放たれた【彗星の一矢】はまず一つ目の氷塊に直撃後、すぐさま反射し、次の氷塊に向かって勢いを落とさずに飛来していき次々と氷塊を穿ち続ける。


「ぐぅッ、村人君!速度を戻します!」


 【彗星の一矢】が放たれたのを確認したポンは、すぐさま【爆発推進ニトロブースト】を大規模に噴出し、体勢を整えた後加速する。


『ほう、やるな。だがその程度の攻撃で私の攻撃は止められんぞ!』


 だが、氷塊を穿ち続けている【彗星の一矢】を見ても臆することないリヴェリア。そして次々と生成される氷塊を見て思わずひくりと頬が引き攣る。

 やはり一筋縄にはいかないか。だが、その余裕な態度もすぐに変わる、ゴブジェネの頭部を一瞬で爆砕したその威力、とくと味わいやがれ!


 最初に作り出されたの最後の一つの氷塊を跳弾し、リヴェリアに向かって【彗星の一矢】が向かっていく。

 だが、何も気にすることなくリヴェリアはただ淡々と【彗星の一矢】を一瞥すると。


『ふむ』


 ズガァン!と地面を抉り取りながら凄まじい勢いで腕が振り下ろされ、それに巻き込まれた【彗星の一矢】は完全に勢いを失ってしまった。

 ただ、腕を振り下ろしただけ。たったそれだけの事で俺の渾身の一撃は、圧倒的存在の前では成すすべもなく撃ち落とされた。


「……マジかよ」


 正直、これで倒せないにしてもダメージを負わせる事が出来ると自惚れていた。だが、現実はかすり傷すら負わせることも出来ないなんて。


「これが、RPG……!」


 冷や汗を流しながら俺は引き攣った笑みを浮かべる。FPSのように、立ち回り次第で格上の相手とも戦えるわけではないのだ。非情な現実に打ちひしがれていると、鋭い眼光がこちらを捉えて。


『それが貴様の全力か?弱い、弱すぎる。貴様、?』


 それだけ呟くとリヴェリアは咆哮を上げて、急速に口元にエネルギーを溜め始める。


『ならばこの技を持って終わりにしよう』


≪水冥龍リヴェリア・セレンティシアの龍核が鳴動し、辺りのマナ粒子が呼応して急速に収束を始める……≫


 不穏な通知が左下のログに流れ、FPSで培った本能が警鐘を鳴らし始める。

 生成されていた氷塊が崩れ去り、光の粒子となってリヴェリアの口元に収束されていく。絶対に、あの攻撃だけは受けてはならない!そして、その目標はちまちま攻撃を続けていた厨二の方へ。


「厨二!!逃げろォ!!!」


 咆哮の硬直に縛られた厨二は、無防備のままただリヴェリアを見上げるのみ。

 振動が大きくなっていき、光の粒がリヴェリアの口元に集まり、一つの漆黒の球体を形作る。


 そして―――。


『【冥】』


 世界から音が消えた。

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