#066 1st TRV WAR 予選 その二十二


「ああもう、アクアリザード達もそうだったけど蜥蜴達の巣ってなんでこうアリの巣みたく複雑化されてるんだ!?右、左、どっちにする!?」


「右で行きましょう!」


「了解!」


 岩を、水晶を飛び越えながら俺達は洞窟内を疾走する。アクアリザードより地のステータスもかなり上だからか、落盤で生き埋めにしてもすぐさま吹き飛ばして追いかけ続け、じりじりと距離は迫っていく。

 ずっと走り続けていては確実に追いつかれるので時折ポンがボムを投げてくれてはいるが、ボムが無くなるのも時間の問題。さらに清流崖の洞窟のように自分たちの天井まで落盤してきてもおかしくはないので、このマラソン大会も早々に決着をつける必要がある。


「こうして走っていると今が大会中だって忘れちまうな……!」


「もう少しゆっくり探索したいところですよね……!」


 まあ大会でなくともあの蜥蜴どもに追いかけられ始めたらゆっくりなんて探索出来ないんだけどさ。


 現在の時間は二時間三十五分、早いな、もうこんな時間になっていたのか。この洞窟に入ってきてからの時間経過が早いように感じるのは、常に集中していたせいか。


「村人君、前に大きな空間が―――」


 ポンが指さした方向を見ると、終点らしき空間が見えた。その場所に向けて駆け込むとその先には異様な光景が広がっていた。


「「――――ッ!?」」


 辺り一面が氷の壁によって覆われた謎の空間。広大な空間に先ほどまでとは打って変わり鏡面の世界のようなその中心で、ぽつんと人が一人立っていた。


「厨二!?生きてたのか!」


 生きていたことに対する喜びと何故こんな所にいるのかと驚き、思わず声を上げてしまう。そしてすぐにこちらの声に反応した厨二が口を閉じるように要求してきた。何故口を、と疑問に思ったがすぐに悟った。


「――――あ」


 掠れた声が口から漏れ出る。一見ただの氷壁に見えたその中にとんでもないサイズの巨龍が眠っていたのだから。俺とポンが蝙蝠戦の後、二時間経過時にやばそうなモンスターも起きたとは言っていたが、この龍の事ではないのだろうか。

 そろりそろりと移動を開始し、龍を起こさないようにゆっくりと動き始める。だが、氷壁の中にあったその瞳は大きく見開かれ、人間以上の大きさの瞳が俺の姿を捉える。


「む、村人君……」


「あ、あわてるな。まだ、見つかった訳じゃない。こうしてゆっくりと行けば―――」


 と、その時に俺達を追い続けていたクリスタルリザード達も到着し、こちらの姿を確認して鳴き声を上げた。それに共鳴するように、氷の中の巨龍を纏う氷壁に亀裂が入っていき―――。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!』


 氷壁が砕け散っていく音と共に放たれる、けたたましく鳴り響く巨龍の大咆哮。透き通るような咆哮から発せられる音の衝撃波と、その龍の雄大さに思わず身体が硬直してしまう。かろうじて耳を抑えはしたが、確実に今の咆哮をモロに浴びていたら失神しかねなかった。現に、後ろまで来ていたクリスタルリザード達は泡を吹いて倒れているか、咆哮の衝撃波でダメージを負い、ポリゴンへと変化している。

 厨二とポンも、今の咆哮で硬直してしまっているようだった。身動きが取れない状態で、巨龍の眼光が俺達をゆっくりと捉えると。


は――――いや、貴様達はトラベラーか』


「――――」


 自身に向けられる途方もないほどの敵意に、全身に悪寒が走り、咆哮とは別に動きが止まってしまう。何故、この龍が自分たちをトラベラーと認識しているのか、知性があり、言葉を巧みに操るこの龍が途方もないほどの敵意を俺達に向けているのかは分からない。


『なぜ、を裏切った。わが友は貴様を信じていた。同じ目標を持って切磋琢磨し、最後のその時まで共に居たのではないのか……!?答えよ』


 ?何を言っているのか分からない、この龍は俺達を何と勘違いしている?怒りに身を震わせ、眼を血走らせながら龍は言葉を続ける。


『わが友はあのような姿になってまで、を救い出さんと足掻いているのだぞ、答えよ!!!』


 ティーゼって誰だ?この龍は何の話をしているんだ?……トラベラーって、こいつにとってどんな存在なんだ?


「ティーゼ、か……。なるほど、間違いないな……」


 と、その時龍の言葉を聞いて厨二が何かに気付いたらしく、眼をそっと細める。


「厨二、何か気付いたのか?」


「……細かい事は後で説明するよ、取り敢えず、こいつは確実に【双壁】に関係しているのは分かった」


 厨二が真剣になっている。おどけたような口調は抜きにして、至ってまじめな声音で淡々と情報を伝えてくる。そして俺の傍に近寄ると、静かに耳打ちしてきた。


(奴は奥にある小さな穴を守っているように見える。そこに何かしらの【双壁】に関する重要なキーがあるに違いない)


 短くそう告げると肩に手が置かれ、目線で伝えてくる。


(ポンか君か、どちら一人でもいい、あの穴に行くんだ)


「ッ――――」


 こいつは自分が犠牲になってでも、強行突破させるつもりか。確かにここまでたどり着けたのは僥倖、だが、再トライしようにも次はモンスター達が今現在よりも多く産み落とされる状況でのリトライとなる。確実に今トライするよりも厳しい状況を強いられるだろう。

 ならば、今この時を持って本格的にこの洞窟を攻略する方が良いと、そう判断したのか。


(行け)


「えっ!?」


『行かせるわけないだろう!!問いに答えろ、答えたところで絶対に生かしては帰すつもりは無いがな!!!!』


 生かすつもりは無いんかい!!厄介すぎるなこの龍!?


 厨二の思惑を汲み取り、俺はその場から駆け出し、ポンの手を引いて奥にある穴に向けて走り出す。その姿を見て龍は咆哮を上げて俺達の身体を縛り付ける。だが、歩みを止めてはならない、厨二が時間を稼いでいるあいだに、なんとしても奥の穴にたどり着かなければ!!


『貴様ァ!!逃亡など許さん、貴様らに対する憎しみは、何度殺しても満ち足りないものなのだ!!!!』


 エネルギーが収束し、口から巨大な水のレーザーが放たれる。その間に入った厨二がスキルを発動すると、薄い黄色の膜のような物が出現し、レーザーに直撃した。


「【鏡面反射リフレイン】」


 直撃したレーザーはギャリィンと甲高い金属音を上げながら、角度を変えて地面を抉り続ける。すぐさま無駄だと判断した龍は、レーザーを止めて厨二を鋭く睨みつける。


「ごめんねぇ」


 挑発するような声を出しながらくいくいと指先を曲げておちょくる厨二は、にやりと笑い。


「お前の相手はボクだよ、クソ蜥蜴」


『安い挑発だな、貴様。よかろう、望み通り遊んでやる』


 自らがイベントの立ち合い人になる事よりも、奥の穴に辿り着ける可能性がある方を優先すべきと考えた厨二は出来る限りのヘイトを自分に向けて、攻撃を開始する。



≪特殊ボスモンスター【水冥龍リヴェリア・セレンティシア】との戦闘を開始します≫



 ―――大会開始三時間経過まで、後十五分。


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