#065 1st TRV WAR 予選 その二十一
「強行突破します、掴まって!」
クリスタルリザード達の大合唱(コーラス)を全身で浴びながら、俺はポンと共に空中に飛び出す。崖を登っていたクリスタルリザード達は空中に飛び出した俺達を自分への被害度外視で飛びつこうと試み、あえなく落下していった。
豪快に地面とごっつんこ(圧死)したクリスタルリザードはトマトのように潰れ、その上を他の個体が踏み荒らす始末。
「こいつら仲間意識が強いのかどうでもいいのか分かんねえよな……」
「戦闘不能になってしまえばどうでもいいんじゃないですかね……?」
無慈悲なり、水蜥蜴。世の中弱肉強食なんだなって。
ポンが空中機動出来るようになったおかげで多少なりとも余裕が出来たが、いつかは地に降り立たねばなるまい。洞穴に入ってしまえば奴らも喜んで行き止まりまで追いかけるだろう。仲良くゴートゥヘルは流石に洒落になんねえ。
「しっかしなーんか忘れてる気がするんだよなぁ……」
「忘れてるって、何を?」
空中でホバリングし続けてる中、俺は一人悩み始める。アクアリザード達を見て何か引っかかりを感じて解消できないでいた俺は、昔の記憶を掘り起こそうと呟き続ける。
「いや、あいつらって確かにずっと追いかけてきたけどさ、空中に居ても手出しできなかったっけ?」
「あの時は空中に居続ける手段はありませんでしたからねぇ」
「いやでもさ、あいつらって……」
そこまで言って、俺は引っかかりの正体を思い出す。思わずあぁ……とため息を吐いて、ポンの方を向いた。
「あいつら、水ブレス撃つよね?」
「あ」
追いかけ続けて噛みつきばっかしてたから印象が薄かったが、そういえばあいつら岩盤吹き飛ばす時に水ブレス使ってたなぁ。それを思い出したと同時に、地上で待ち構えていたクリスタルリザード達は大口を開けて、何かを溜め始める。
「急げポン!もうこの際罠だって良い!!あの洞穴に全力で逃げこめぇ!!」
「はい!言われずともそうしますぅ!!」
ポンが足元を爆発させて洞穴へと急降下を開始すると同時に、俺達が居た場所に向けてリザード達の水ブレスが襲い掛かる。寸前で回避すると、一直線に落下して最速で洞穴へと入り込んだ。
その後ろを蜥蜴達は追従し、他の仲間を巻き込みながらこちらへと向かってくる。
「ああもう、なんで私たちってこんなにあの蜥蜴達と因縁があるんですかねぇ!?」
「俺達があの蜥蜴達に遭遇した時点でこうなるのは目に見えてたっつーか……」
「私としては勘弁してほしい所なんですが、ね!」
まあ追いかけられる直接的な原因を作り出したのは俺なんですけども。
ポンが去り際にボムを落とすと、それがリザード達に触れて爆発を起こす。その影響で岩盤が崩落していくのを見守るが、奴らはこの程度では止まらないだろう。
「今回は前回と違って学習しているからな、逃げ続けよう」
「すいません村人君、割とずっとしがみつかれるの恥ずかしいのとMPが切れそうなので一旦降ります。走って貰っても良いですか?」
「OK。悪かった、助かったよポン」
振り落とされないように強めにしがみついていたからか顔を赤くしているポンを見て申し訳なく思う。
架空の身体とは言え女の子だからなぁ、確かに触られていい気はしないだろう。
地上に降り立ち、走り続けながらポンから次の石を渡される。
「おっと、そういえばそろそろ切れるな」
「一回の接続で五分ぐらいでしょうか?でも、これが無くなるとまずいので温存しておきたいところなんですが……」
この石が無くなればポンと俺の会話の手段が無くなってしまう。この蜥蜴達に追われている状況で会話手段が無くなれば先ほどの蝙蝠戦のように上手くはいくまい。
ほんの少しの焦燥に駆られながら、洞穴の先へと進んでいく。
この洞穴の最深部に何があるのかは分からないが、取り敢えず行き止まりにたどり着かないことを祈るばかりだ。その時点で詰みだからな。
「そろそろ岩盤が吹き飛ばされる頃か」
「なんかもう分かり切っているのが嫌になっちゃいますね……」
あの地獄のマラソン大会を経験した俺達だ、以前あったことは今回もあってもおかしくない。常に最悪の事態を考えて行動することが大切なんだってばっちゃが言ってた。
と、俺が呟いて数秒後に、ドン!!と岩盤が吹き飛ばされる音が響く。そして続けて聞こえてくるのはリザード達の大合唱。やはり俺達を見逃すつもりはないらしい。
「取り敢えず行ける所まで行きましょう!追い詰められたらその時はその時で!!」
「了解!!」
◇
「さぁて、どうしたものかねえ、コレ」
ピエロメイクを施した男、厨二はぽつりと呟いた。その目の前にあるのは巨大な氷壁、そしてその中に眠る一匹の巨大な龍。全長30m程の巨躯を誇る龍は、眠っているだけでも見るものを圧倒し、その威圧感を放ち続けていた。
(確実にこいつが二時間経過の時に上げた声の主だよねえ、なんで氷壁の中に閉じ込められてるとかいろいろ気になるけど、こんなのたたき起こしたらボクらはひとたまりもない。だけどこの先に進むにはこいつを起こさないと始まら無さそうなんだよねぇ)
いっそのこと起こしてしまおうかと厨二は考えるが、すぐに先ほど来た道を見て考えを改める。
(あの
対処しきれないことも無いが、確実に大会中はずっとリザード達と戦い続ける羽目になりそうだ、と厨二がため息を吐き、再び龍を見る。
(レッサーアクアドラゴンとは比にならない程の巨大さ、これが上位互換のアクアドラゴン?いや、さらに上の存在に違いない……)
まさかこんな序盤にはるか先のストーリーでお目にかかりそうなモンスターと遭遇する羽目になるとは厨二は思いもしなかった。戦ってみたいが確実に敗北するのは目に見えている。
「取り敢えず騒がないようにしないと、こいつが起きたらその時はおしまいって事で……」
いつも自信に満ち溢れている厨二らしからぬ言葉を残し、周囲の散策を始める厨二。
そんな中、まさか二人組のプレイヤーが爆音をまき散らしながら進んでいるとはこの時想定もしていないのだった。
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