#063 1st TRV WAR 予選 その十九
「【
ポンの声に応じて手に持っているボムが赤く煌めく。目まぐるしく動き、ひたすらに高速移動を続ける蝙蝠達に照準を定めようと試みているが、中々その手からボムが離れる事はない。
「やっぱり早いですね……!!」
悔しそうに呟くポン。それもそうだ、この洞窟は明らかに自分たちのレベル帯で来るようなダンジョンではないのだろう。AGI気味に振っている俺の視界でも最高速で移動されると、常に視界を動かし続けていないと追いつけないのだから。
「ポン!無理に追おうとしないでもいい!狙うのは、奴らとの空間を物理的に遮断してエネルギーの供給を絶つことだ!」
「っ、了解!」
だが、今回の目的は奴らと対等に渡り合う事ではない。超高火力の一撃で奴らに一泡吹かせる事なのだから。
もしかしたら一撃で倒し切れない可能性もあるにはあるが、挑まないことには始まらない。
「村人君、そろそろ通信が切れます!」
「了解!こっちでタイミング合わせる、ポンは好きに立ち回れ!!」
その言葉を最後に、再び赤く光る石に亀裂が入る。わずかな破砕音の後に粉々に砕け散った石を見てから、深呼吸した。
(集中すんのは滅茶苦茶疲れるけど……贅沢は言っていられまい)
もう一度深く息を吸うと、ぴたりと呼吸をやめる。集中が途切れないようにしながら、蝙蝠達の動きを観察し始めた。
(不規則な動きのように見えてその実、統率が取れていて一定のパターンで動いている……。あの中に司令塔が居るんだろう、まずはそれを見極める!)
ともすれば目が追いつかなくて見逃しそうになってしまう蝙蝠達の高速機動を見ながら、俺はゆっくりと矢を構える。
(身に纏う水晶の形が違うやつがいるな、恐らく司令塔なのは奴か)
水晶の形状が異質な物が一匹。水晶に向けて音波を放ち、周りの個体に指示を出しているのだろうか、こちらに攻撃を加えてこない蝙蝠が居た。
(あいつをまず初めに射抜こう。そうすれば供給が途絶えた時に困惑する以外にも司令塔が落ちれば動きは鈍くなる)
俺はそう確信すると、ポンに視線を送る。
(頼む、ポン)
蝙蝠の攻撃を避けたポンが、ちょうどこちらに顔を向け、俺の考えを読み取ってくれたのか頷いた。
次の瞬間、ありったけのボムが空中にばらまかれ、自由落下を始めた。
(集中!!)
蝙蝠達の動きのパターンは多くて三個の周期に分かれる。
一つは円状に、一つは三角形状に、そして最後の一つが……。
(交互に入れ替わりながらエネルギーを補給するためにクリスタルに最も近づく!!)
エネルギーを消耗すれば奴らもエネルギーを補給しなければいけない。こちらからすれば一瞬の出来事だが、その一瞬の隙が命取りになる!!
(……今!!)
ボムが自由落下を終え、閃光が炸裂する寸前に俺は【彗星の一矢】を発動、青と白の粒子が矢に収束していき、神秘的なベールを纏わせる。
轟音。ボムが爆発を始め、周囲のボムを巻き込んで爆発する前に【彗星の一矢】は俺の手元を離れ、爆風を振り払って猛進する。
ミニマップから一つの赤い点が消え、一つの命が燃え尽きたのを確認すると遅れて爆風が俺を巻き込んだ。
(ぐうっ……)
【彗星の一矢】の反動で動けなくなった俺の身体は軽々とボムの爆風で吹き飛ばされ、地面を二転三転してようやく止まる。
再び消える赤い点。動けなくなった蝙蝠を射抜いたのだろう、どうやらボムを跳弾してくれたようだったが、正直賭けではあった。
Aimsの跳弾という技は基本的に破壊不能オブジェクトを反射する技であり、固定オブジェクトでないボムに跳弾するのかどうか、という点は先刻のバックショットで証明されたが、それは威力が低いバックショットでの話。
火力が桁違いに高い【彗星の一矢】が成功するかどうかは分からなかった。
だが、結果として【彗星の一矢】は蝙蝠達を射抜き、屠った。
(ああ、くそ、撃ち漏らしか)
だが、やはりというべきか。残り一匹を残して全滅させることは出来たが、慣れない環境はほんの少しだけ精度を狂わせてしまった。
司令塔を失い、仲間を失い……。その怒りの根源たる俺を潰そうと、最後の蝙蝠は翼を震わせて……。
突然現れた影によって勢いよく繰り出されたエルボーに叩き落された。
続いて生じる爆発。それを最後に、短い鳴き声を上げると、蝙蝠はポリゴンとなって消えていった。
そして訪れる静寂。ギリギリの場面で蝙蝠にエルボーをお見舞いしたポンは俺の近くまで駆け寄ると、すっと手を差し出してくる。
(お疲れ様でした!)
満面の笑みを浮かべてこちらを見るポンの表情から、彼女の声が聞こえてくる気がした。
硬直状態が解けて彼女の手を取ると、ゆっくりと起き上がる。
(お疲れ様、助かった)
そう口パクで伝えると、ゆっくりと頭を振るポン。むしろこっちが助かりました、と返してくる。
手を掲げ、ポンとハイタッチする。
この地下洞窟での戦いの初戦闘、勝利という結果を残し、俺達は勝利の余韻に浸るのだった。
◇
「ふー、あぶないあぶない……」
パラパラと石が落ちる中、一人孤島のような場所で取り残された厨二こと
ゆっくりと上を見上げ、ここから戻れないことを知ると、また一つため息を吐いた。
(せーっかく合流したって言うのにねぇ……。これじゃあ観察できないじゃないか……)
心底つまらなそうにあくびをすると、辺りを見回し始める。
(さっきのモンスター出現と同時に聞こえた甲高い咆哮……。【双壁】かなぁ?いや、そうじゃない気がする)
双壁と呼ばれる存在がどんな姿なのかは知らないが、一つだけ、他のパーティメンバーに伝えていないことがあるのだ。
(【双壁】は、
ただ、今の実力では確実に声の主には敵わないだろうけど、と一人ごちると厨二は歩き出した。
(ごめんねぇ、隠し事はあんまりしたくないんだけど)
そう思ってはいるが、その表情は笑みを隠しきれていなかった。まだ見ぬ強敵との出会い、そしてその中で自分がどれだけ立ち回れるか、それだけを強く思いながら。
(【双壁】を最初に見つけ出すのはボクだ)
粛清の代行者捜索レース、最初に動き始めたのは厨二だった。
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