#061 1st TRV WAR 予選 その十七
「あっぶねえ……」
暗がりの中で、ぽつりと呟く声が一つ。パラパラと石が真下へと落下していくのを眺めながら、息を深く吐き出し、もう片方の腕で支えている物を引っ張り上げる。
「どわああああっ!?」
垂れ下がった状態からいきなり引っ張り上げられ、情けない悲鳴を上げたのは串焼き団子である。それを見て思わず引っ張り上げた張本人、ライジンは軽く噴き出した。
「っと、笑ってる場合じゃない」
双剣士としてDPSを上げるためにSTRを上げているおかげで、なんとか片腕で串焼き団子を支える事も出来た事に安堵すると、近くにある足場を探し始めた。
◇
「串焼き団子さんっ!」
「誰がお義兄さんだボケェ!?」
「誰も言っとらんわ!?」
地面が崩落するその瞬間、ライジンの右腕に装着された装備から発射されたフックショットは、見事に串焼き団子の身体に引っ掛ける事に成功した。そのまま手繰り寄せようとするが、その前に地面が崩壊してしまい、あえなく空中へと放り出される。
「くそ、きっつ……!?」
ガクン、と重力に逆らえずに落ちていく串焼き団子の重量が一気に掛かり、フックショットがギシギシと悲鳴を上げる。STRを高めに振っている分、支える事はまだ出来るが、まず支点が無ければ支える事は出来ない。
「村人ぉ!厨二ぃ!ポォン!打開策は!?」
思いっきり叫んでみるが、返答は帰って来ない。どうやらこの空間は光を吸い込むだけでなく、音すらも吸い込んでいるらしい。思わず頬が引きつるが、このまま何もせず落下死というわけにはいかない。
と、ちょうどそのタイミングで何やら明るいものが飛んでくる。それが矢の形をしているのに気付いた途端、慌てて飛んできた方向を見るが、そちらからは何も見えない。
(今の矢は村人に違いない……!)
その明るい矢が急に炸裂し、ひと際強い光が辺り一帯を照らし出す。光ったのはその瞬間のみだったが、その一瞬で見えた物を見逃さなかった。
「あんなところに穴が……!」
村人達の救出を優先するかどうか逡巡するが、すぐに助かる可能性が高い方に向かう事を決断する。
「串焼き団子さん、行きますよっ!」
「は、え、ちょ、おい!?」
空中でぐるりと大きく回転し、その回転の勢いで串焼き団子の身体を思いっきり放り投げる。重力に逆らうこの行動に大幅にスタミナを持っていかれながらも、串焼き団子の身体に引きつられて、ライジンの身体も跳ね上がる。
どこか懐かしい感覚を覚え、ライジンの口角がにやりと上がる。
「はは、懐かしいな
それはとあるRPGのRTAに挑んでいた時の事。ストーリーの関係上、必ずお使いクエストをしなければいけない場面があったのだが、その時によく使用していた技だ。荷物自体が重すぎるため、ステータスデバフが付いて移動速度が制限されてしまうのだが、荷物の損壊度はクエストクリアに関係してこなかっのでSTRガン振りで荷物をぶん投げてその反動で吹っ飛んで移動する方がどの移動手段よりも早いという荒技である。もちろん荷物を配達された本人は悲しそうな表情を浮かべることになるが、タイムの為なら仕方ない。
この技を編み出した
「届けええええええええええ!!!」
先端に取り付けられたフックが、壁を穿ち、突き刺さる。自身の身体を支える重量がかかり、フックショットがミシッと悲鳴を上げたので、冷や汗が流れた。
「ぐえっ」
だが、心配もつかの間。回転の勢いが殺し切れなかったので壁に叩きつけられながらも、見事に壁に這う事に成功したので安堵のため息を吐いた。
「村人の矢がなけりゃヤバかったな……」
凄まじく深い闇の中、言葉通り見えた一筋の光明。恐らく村人Aが放ったスキルなのだろうが、あんなスキルは見た事が無い。
(恐らくだがあいつの隠し玉ってところか。光が炸裂する瞬間に感じたわずかな耳鳴り、熱量…。FPS好きのあいつの思考から考えて、フラッシュバングレネードの矢バージョンってところか。…くそ、初見で切り抜けたかった)
彼の切り札をこんな所で切らせてしまった事にほんの少しの罪悪感を覚え、正々堂々真っ向勝負がしたかったライジンは眉をしかめた。
だが、彼の矢が無ければまず確実に助からなかったのも事実。
(後でお礼を言わないとな)
心の中でそっと感謝すると、さて、これからどうすっかなぁとライジンは思案するのだった。
◇
「――君!」
身体を揺らされる。
深く、濃い闇の中で、自分が呼ばれているような気がする。微睡みに似た感覚の中、微かに聞こえるそれに手を伸ばし、意識を水面から引っ張り上げる。
「村人君っ!」
必死な形相で、見目麗しい少女がこちらに向けて声を張り上げる。少し離れている所にいるらしい少女、ポンの方へと顔を向けると、意識を完全に覚醒すべく両手で頬を打った。
「起きましたか!良かった、間に合った!」
「わりいポン!何分飛んでた!?」
「十分ほどです!」
端的に返される情報のやり取りだったが、それを伝えるには少々焦燥感を感じる声音だ。時折爆発音が響くことから、戦闘中だという事が伺える。
……待て、
「十分経ってるって事はまさか……!」
「そのまさかです!敵Mobが湧いてます!」
ドドドン!!と連鎖する爆発音と、身体の所々から水晶が生えている蝙蝠が放つ超音波のような衝撃波が衝突する。ポンが放っている火力は相当な物なので、相対する敵Mobも相当レベルの高いモンスターだろう。
と、ここで意識を失う前とは違う違和感を感じる。
「ん?声―――」
落下している時は声が聞こえない状態になっていたが、何故か今は問題なく発声出来る状態になっている。ポンが何かしたのだろうか。だが、今はそんな事を考えている暇はない!
即座に背中に背負う弓を構え、矢を装填する。
「加勢する!指示を!」
「
了解、だが先ほどに比べればまだマシだが視界が悪すぎる。壁もどこだか分からないから跳弾ルートの計算も出来ない。
できれば跳弾でまとめて持っていきたいところだがこの状況でこの環境だ、確実に一匹ずつ仕留めていくほかあるまい。
ポンが手元に持っているボムを放り投げ、蝙蝠に直撃させると、腕を正面に構えてスキルを発動させる。
「【水龍爆撃掌】!!」
あのスキルは確かオキュラス氏との戦いでポンが使っていたスキルだ。恐らく名称からしてレッサーアクアドラゴンの武器スキルと見て間違いないだろう。ポンの手、正確には籠手から放たれる水分を多分に含んだ爆発が飛び回る蝙蝠を正確に穿つと、一匹の蝙蝠が地面へと落ちていく。
「光源関係は足元に生えている水晶を砕いて散布すれば多少はマシになります!声もまたすぐに聞こえなくなるので気をつけてください!」
それを最後に、ふっとポンの声が遠のいていった。それと同時に足元に転がっていた石が突然ひび割れてパキン!と破砕音を響かせる。どうやらこの石が一時的にではあるが意思伝達を可能にしていたらしい。
集中するべく息を軽く吐き出すと弓を引き絞り、蝙蝠達に狙いを定める。
(あの石の効果がまだ残っている時に状況を確認できたのは幸運だった。だが、事態が好転したわけじゃない)
高速で飛来し続けている的を狙う事は大して苦手でもないのだが、その数が多いとなるとまた話は別だ。
(【彗星の一矢】は駄目だ、隙がデカすぎる上に貫通するから効率が悪い……!)
だが、自分の持ち手の中であの蝙蝠達を一撃で葬れる手段もそのスキルのみだという事も理解している。蝙蝠の動きさえ抑制出来ればいいのだが。
そう考えているうちに、ポンが次の蝙蝠へ攻撃を始めたときに
(……ん?蝙蝠の動きが鈍い時がある?)
ポンの爆発が巻き起こる瞬間に蝙蝠達の動きが鈍くなり、また高速飛来を再開する。爆発が起こる瞬間ということは衝撃波か、爆風か、それとも。
(閃光か)
足元に広がっているこの水晶のみが明るく道を照らす地下空間。超音波を頼りに移動しているのかと思いきや、地面に生えている水晶と、蝙蝠に生えている水晶同士が明るく輝き、位置を把握しているようだった。その仮説を裏付けるように、水晶と蝙蝠の空間に巨大な爆発が巻き起こると、遮断された時間だけ蝙蝠が動かないのだ。
(つうことは光源の為に水晶を砕いて散布するのは相手を手助けする羽目になる……!さて、この事にポンが気付いているのか……いや、無さそうだ)
先ほど光源関係は散布すればマシだとポンは言った。つまり、動きが鈍くなっているのには気付いていても、それがダメージによる物だと勘違いしているのかもしれない。
(光でこいつらの動きが鈍くなるなら話は別だ。……よし)
目を鋭く細め、思考を巡らせる。狙うは一発の射撃で接敵している蝙蝠全てを撃ちぬく射撃。そのために必要な材料をポンと協力して作る必要がある。
(跳弾ルートの計算開始だ)
意思疎通の困難な空間での戦闘が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます