#060 1st TRV WAR 予選 その十六
「待てこれ、深ッ……!?」
落下ダメージがどれくらいか分からない為、慌てて真下を見るが、そこに存在するのは深く、全てを呑み込むような漆黒が広がっている。水晶で明るい上層と違い、この地下空間は一切の光源が見当たらない。これでは地面がどこにあるのか分からない。周囲を確認してみるが、壁はおろか他の四人も見えない。地面も壁も分からないとなると、俺の【バックショット】で落下ダメージの緩和もすることが出来ない。まずい、非常にマズイ!
「やべえ、こんなアホな死に方があるかっての!?」
折角オキュラス氏を倒してポイントMVPを取れそうだってのに落下死で予選落ちしたら観客はおろか、オキュラス氏も納得がいかないだろう。
助かる可能性をすぐに考えろ!どうやったら助かる!?
「そうだっ!【フラッシュアロー】!」
真っ暗な空間に強い光が宿る。本来この矢は攻撃用だが、今回は光源として活用して……!?
「ってマジか、光が
自分の周囲を仄かに照らすだけで、そう遠く無い位置に落ちているはずの他の四人の姿すら見えない。
「くっそ、一か八か!」
光源として生成した【フラッシュアロー】を放ち、あると思われる壁に向かって放つ。
だが、俺の位置からは壁に当たったかどうかを判別することはできなかった。
(マジか、ここで詰みかよ……っ!)
代行者探しはおろか、その入り口で挫折するとは思いもしなかった。ギリっと歯を食いしばり、ワンチャンド根性発動に祈りを捧げた瞬間に。
「村人君っ!!」
ガバっと、抱きしめられるように声の主に掴まえられる。その声の主は、ひたすら足から爆発を起こし、落下に抗おうとしているポンだった。
「ポン!?」
「明るい矢が飛んできたので、まさかと思って矢が飛んできた方向に来てみたらやっぱり村人君でしたか!近くて良かったです!」
心底安堵したように顔を綻ばせるポン。だが、まだ安心は出来ない。他の三人も救出しなければいけないのだから。
……って待てよ、ポンが爆発を起こして浮いている状態だとして、
「ポン、浮上は無理そうか!?」
「っ、ごめん―い、思――よりも、重―が、強――……」
確かに、上に上がろうと必死に爆発させてはいるが、わずかに落下速度が緩むだけで根本的な解決にはなっていない。
ちょっと待て、何か違和感を感じる。なんでポンの声が
「ポ―――」
違和感の正体は、すぐに自分が
(声が出ねえ!?)
まさか真空なのかと勘違いするが、問題なく呼吸は出来るのでその線は無い。
落下音と風を切る音、爆発音は聞こえている。
ポンも困惑したように口をパクパクしているが、やはり聞こえてこない。
(鬼畜仕様にも程があるだろ―――!?)
至近距離でしかその存在を確認できない視界、声をシャットアウトし意思疎通困難な空間。
(正直甘く見過ぎていたな、粛清の代行者)
ヴァルキュリアの実力を見る事から、既に明らかだったのだ。これはメインコンテンツどころの話じゃない、正真正銘
(だが、それでこそやりがいがあるってもんだ!)
武者震いが起こり、手に力が入る。廃人ゲーマーは高難易度コンテンツであればあるほど燃え上がる。鬼畜?無理ゲー?上等!ハイパーウルトラ大好物です!(IQ0)
俺が最高に頭が悪い事を考えていると、唐突に横に推進力が強くなる。緩んでいた速度のおかげか、落下は完全に停止し、横に落ちていくような錯覚に陥る。
(ポン!?)
慌ててポンの顔を確認すると、先ほどまでの安堵を浮かべていた優しい表情とは打って変わり、血相を変えて必死な表情に変わっていた。そして、比にならないほど爆発の規模を上げていた。
(それだとすぐにMPが枯渇するんじゃ……)
と、考えたのは一瞬の事。次の瞬間、ボウ、と何かが頬に触れ、熱を感じる。
(あっつぅ!?)
痛覚に関連する設定はかなり低くしてある。ここまでの熱量を感じるという事は、すぐ下は…!?
ゴポリ、と仄かに見える灼熱の大地。泡が立ち、炎が立ち昇るその様は、まさに地獄と言っても過言ではないだろう。灼熱の大地に見えたそれはマグマの海である。本来ならば最終落下地点であるこの場所は俺一人だったら確実に死への片道切符であったはずだ。その事実を反芻すると、ゾクリと肌が泡立つのを感じる。
(落下させてその先がマグマの海とかまじでこの運営鬼だな!?)
こんにちは初見殺しです死ね(直球)と言わんばかりのこのトラップはあまりにも酷いと思う。そういう所だぞ、運営。せめてやるなら煽り看板置いとこうぜ。
(あばばばばばばば!?!?)
声が聞こえていたらさぞ滑稽だろう、風にあおられて声にならない悲鳴を上げながらひたすら横へ猛進する。これ、本当に地面があるのか!?
爆発のおかげで横への推進力を維持しているとはいえ、落下の影響が完全にないというわけではない。ほんの少しずつ、下へと下がり続けているので溶岩に浸かるのもそう遠くはない。
(頼むぞ、ポン!)
声は聞こえていないが、俺を抱く手に力を込めると抱く力が強くなる。絶対に離さないという意志を示しているのだろう。
俺はそのポンの行動に心強さを感じながら、溶岩の先をじっと見据える。
(見えた、地面!)
地底の深淵は、淡く輝く水晶が生えている影響でほんの少し明るくなっていた。その地面が見えた事で、ようやく希望が芽生える。
だが、後ほんの少しという所で、急に横の推進力が弱くなる。
(MP切れか!)
無理もない、落下の間ずっと足元を爆発させるスキルを使い続けてきたのだから。だが、このタイミングで切れたのは最悪だ。あと少しで、届くというのに!
(そうだ、ボムがあるっ!)
俺が対ポン用に見定めるために購入したボムの余り。ほんの少し距離を稼ぐだけでいい、あれだけ威力があるんだ、多少のダメージは覚悟の上で甘んじて受け入れよう!
手慣れたウインドウ操作で即座にボムを取り出すと、すぐ真下に落とす。それを見たポンは、より一層力を込めて爆発の瞬間を待つ。
(3・2・1、今!)
目測で溶岩にボムが触れる直前に俺はボムに向けて直角に跳ね返る【バックショット】を放つ。バックショットの矢が跳ね返ってそのまま被弾し、ほんの少しのノックバックの後に巻き起こる爆発音と衝撃波。至近距離の爆発に多大なダメージを受けながらも、最後の地面までの距離を稼ぐ事に成功する。
盛大にバウンドしながら、地面に不時着すると、HPバーがガリガリ削られていくのが視界端に映る。くそ、無茶しすぎた、このままだと死ぬ!
(あだっ!?)
幸か不幸か、すぐそばに壁があった影響でローリングはすぐに止まり、HPバーがすんでの所で踏みとどまる事には成功した……が。
(あっ、やっべ、確か頭強打するとスタン値が加算されて気絶判定発生するんだっけか……)
壁に盛大に頭を打ち付けた俺は、見事気絶判定を勝ち取り、深い闇の中へと意識を飛ばしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます