#059 1st TRV WAR 予選 その十五


「お疲れ様、厨二」


「なんかスキル使ってくる以前にボクを見くびってくるプレイヤー多くて拍子抜けしちゃった。色んな手を見せてあげようかと思ったのにあんまり見せる事ないまま終わっちゃったよ」


 やれやれとため息を吐きながら事もなげにそういう厨二に思わず苦笑を浮かべてしまう。

 少なくともこの時間まで生きていて、ポイントを稼いでいたのだからそれなりに強いプレイヤーなのだろうが、それでさえこの反応なのだから恐ろしい。


「ポイントも稼いだし、さっさと行こうねぇ。あ、串刺し君にお土産」


「串焼きな。……まあ、サンキュ」


 厨二がアイテム袋を投げると、その中には射撃用の矢がたんまり入っていた。弓使いは先ほどのパーティの中にはあまりいなかったと思うので、厨二があらかじめ他のプレイヤーから奪取したものを渡したのだろう。それに気づいたのか、串焼き団子の反応は心なしか柔らかい。

 まあ、もしかしたら仲間思いという意外な一面を知って考えを変えたのかもしれないが、悪いがあいつを少し美化したけどゲスいとこはゲスいぞ、厨二。


「少しは参考になったかい?」


「まあ、多少は。……ちなみに今レベルはいくつか聞いても?」


「今レベルは4だねえ」


「嘘だろ?4の動きじゃないだろ」


 残像見えるレベルの動き出来るレベル4ってそれもうチート使ってんだろ。


「ああ、4は4でも上級職の4なんだよねえ」


 さらりととんでもない事言ったぞこいつ。確か上級職って初級職のレベルを50まで上げてから転職出来るんじゃなかったか?

 ライジンがそろそろ上級職に行けそうと言ってたから、厨二はライジン以上のやり込みをしている事になる。……この洞窟に代行者がいると断定しているぐらいだから厨二のやり込みぶりには納得できるが。


「あんまりレベルを上げてPSの差じゃなくてレベル差だって悔しがられるのも嫌だしねえ、オススメの狩場を紹介してあげるよ」


「マジ?助かる」


「まあでも、もしかしたらこの洞窟が狩場の中でも最高効率になりそうだけどねえ」


「あー……」


 代行者がいると仮定されている洞窟だ。簡単にたどり着けるところではないと想定する以上、今までに遭遇したモンスター達とは比較にならない程強いモンスターもいるのだろう。それこそ、通常配置されているモンスターがボス級だったりとか。その分リターンも見込めそうだが、現在の装備で挑むのは心もとないな。


「ボクの見込みでは後三十分もしないうちにモンスターがポップするような気がするんだよねえ。だから、急ごうか」


 厨二の言葉を聞いて時刻を確認すると、大会開始から一時間半と少し経過していた。厨二の目論見では二時間経過でモンスターがポップすると睨んでいるのか。それなら急がないといけないな。


「洞窟の最奥まではあと少し。……もたもたしてる暇はない。行こう」


 俺達は小走りで厨二の後についていく。目指すは粛清の代行者。このゲームのメインコンテンツと評する存在の謎を解き明かすために。



 この洞窟の真の恐ろしさに気付くまで、残り二十分。





「ここだねえ、ここが一番怪しい」


 厨二が足を止め、指を指す。水晶がところどころから生えているエリアにたどり着いた。青く、白く。厨二が言っていた蒼碧と純白が織り成す神秘の洞窟と呼んでいたのも納得の美しさだ。どこか水晶崖の洞窟を彷彿とさせるその光景に息を呑む。最奥と呼ばれた奥の壁には文字が刻まれており、祭壇のようなものが奉られ――――。


「よし、ポン。ここの地盤吹き飛ばしちゃって」


「ほいきました」


「うん早いね!?少しは余韻に浸らせて!?」


 効率厨のこいつらが美しい光景の余韻に浸らせてくれるわけも無く、厨二がポンを呼ぶと、それに応じたポンがボムを取り出す。

 それを見て俺は慌てて止めようとするが、厨二が静止する。


「傭兵君には後で壁画と刻まれた文字のスクショ送るからサ」


「うーんモラルの欠如ゥ……!」


 確かに見れればそれでいいけどさ、少しは探索させて欲しいよなぁ……。まあ、時間はあまりないし、やるしかないんだけどさ。

 ボムを持ったポンに少し待っててと厨二が告げると、奥の祭壇の方へと歩いていく。そして祭壇に触れると、ゆっくりと口を開いた。


「『この祭壇は護り神を奉る物である。この神聖な場を荒らす事は神への冒涜に値する。神の怒りに触れたくなくば即刻この場を離れよ』」


「どうした厨二、唐突に厨二病モードいつものやつか?」


「漁村ハーリッドの住民の言葉さ。そこそこ仲良くなると洞窟を案内してくれるんだけど、その時に教えてくれるのサ」


「でも言葉的にあんまり居てほしくないような感じじゃないか?」


 なんか仲良くなるとか言う割には語気が強めだよなぁ。まあ昔から代々守ってきた大切な洞窟なのだから当然と言えば当然なんだろうけど。


「で、その護り神様ってのが粛清の代行者だと?」


「早い話そうなるねえ」


 うわあ、仲良くなっといて崇めている存在をぶっ飛ばしに行くって言うのも中々ひどい話だな。それ絶対代行者討伐後村人の好感度最低になるだろ。なんなら訪れただけで『野郎ぶっ殺してやるゥ!!』ってなる可能性すらある。

 ライジンが色々言いたそうな顔をしているが、首を振って踏みとどまっている。考察厨としては厨二に聞きたいことが山ほどあるのだろう。

 俺は探すに当たって重要な情報を聞くべく、厨二に近寄る。


「【双壁】ってやつの全容は……流石に掴んでないか」


「残念ながらねえ。崇めている存在とはいえ護り神がどういう姿をしているのかは知らないみたいなのサ。人間だという人もいれば、モンスターのような姿だと言う人もいる。ただ、【双壁】とだけ。後は……伝承で伝えられている、【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】」


「なんじゃそりゃ」


 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】、ね。海岸の主=この島の村の護り神と推定しているということか。根拠も無かったときに比べて幾分か信憑性が上がったな。

 で、ここで出てくるのが双壁か。


「一体双壁という言葉が何を示しているのか…。ただ、傷を負ずって事は一度たりとも傷を負ったことが無いって事だから、とんでもなくんだろうねえ」


「そいつは骨が折れそうだな…」


 問題は超火力の【彗星の一矢】が通るかなんだよなぁ……。まあゴブジェネパイセンの顔面が一瞬で爆散したレベルだ、余裕で通るだろう。……通る、よな?

 厨二がここでパンパンと手を叩き、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


「さあて、無駄話は終わりにしようか。ポン、準備を」


「あ、了解しました」


 ボムを取り出したまま、まだかなぁとずっと待機していたポンが動き出す。

 それを見た厨二は自分の真下に指を指す。


「狙うは。キーは必ずここにある。『神聖な場所を荒らすことは冒涜に値する』。カミサマに喧嘩を売るのサ。ならここを攻撃することが、神に対する宣戦布告なんじゃないかってね」


「『神の怒りに触れる』事で、フラグが立つって事か」


 ライジンがそう呟くと、厨二が満足げに頷く。


「正直こっから先は未知の領域だからねえ、鬼が出るか蛇が出るか分からない。だからこそじゃないか。ねぇ、君たちもそう思うだろう?」


 粛清の代行者と呼ばれる存在。主人公達に密接に関わるというその存在の解明に誰よりも先に一歩近づく。……テンションが上がらないはずが無い!


「よっしゃ行く」


「【爆弾魔ボマー】」


「「「「いやタイミングゥ!!」」」」


「ご、ごめんなさいぃ!?タイミングは今かと思ってぇ!」


 掛け声をかけようとした瞬間に、痺れを切らしてしまったポンが祭壇に向かってボムを放り投げてしまった。オッケーぐだぐだだけど行こうじゃないか!


 厨二はスキルを使ってボムを慌てて回避すると、静かな洞窟内に鳴り響く爆発音と凄まじい衝撃が巻き起こる。これだけの威力の爆弾が当たれば、祭壇なんて粉々に……!


「は?」


 腕をかざして爆風に耐えながら、祭壇があった場所に目を向けると、確かに祭壇は吹き飛んでいたが、問題は祭壇のだった。

 てっきり階段か何かが隠れているかと思っていたのだが、ひび割れがほんの少し出来ていただけ。……もしかして威力が足りなかった?


「おいおい、こんだけやってこの程度かよ」


「もしかして外れでしたかね?」


「いや、これは……」


 串焼き団子、ポンが口々にそう言う中、厨二が顎に手を添えて、ヒビを見つめながら熟考を始める。ピキ、ピキと音を鳴らして亀裂が徐々に広がっていくのを見て、厨二はヒクっと頬を引きつらせる。


「あっちゃー、だねえ」


 最悪なパターンってなんだ、と聞こうとして、目の前の光景を見て悟る。



、このエリア!!」



 厨二が真剣な表情で叫ぶと、それに呼応するかのように、俺達が立っている地面は祭壇から広がった亀裂から一瞬にして瓦解する。

 重力に引っ張られ、俺達五人の身体は広い地下空間へと放り出されてしまった。




 ―――二時間経過まで、残り十分。



 

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