#057 1st TRV WAR 予選 その十三


「さて、ここらへんで良いかな」


 粛清の代行者を求める厨二と共に行動を始めて数分後。広々とした空間に出た瞬間に厨二がぴたりと足を止めた。一度洞窟内を探索したことがあるらしいライジンは、首を傾げて。


「……?ここって、まだ中間だよな?」


「そうなんだけどねぇ。ちょこっと面白いイベントが起きそうでサ」


 厨二が薄ら笑い、俺達が来た方向をじっと見つめる。何か嫌な予感がして少し身構えるが特に何も起きない。


「……あのさ、なんかミニマップに赤点が増えてね?」


 ぽつりと串焼き先輩がそんなことを呟く。それを聞いてミニマップに意識を向けると、確かに洞窟内に点在していた赤点は段々と集まり出し、集団となってこちらに向かっていた。


「厨二、お前なんかろくでもない事しただろ!?」


「真っ先にボクを疑う辺り傭兵君らしいねぇ。ま、そうなんだけどサ」


 間髪入れず矢を厨二に放つが、ぬるりと回避される。本当にこいつの回避術は訳が分からん。Aims時代からAGI極振りで俺Tueeeビルドしてたのは知ってるけど、こいつの場合AGI振りじゃなくても弾を回避するんだよな。……思ったけどそれAGI振る必要なくね?

 さて、話は戻るがこいつはどうやらろくでもない事をしでかしたらしい。明らかに洞窟に入っているプレイヤーの数が増えている。それも、微々たる数ではなくそれなりの数が、だ。


「大方俺らをダシにプレイヤーを引き込んだだろ」


「わぁお、流石ボクの相棒ソウルフレンド、読みの精度が完璧だねぇ」


絶許生かしては帰さん


 今度は串焼き先輩がスキルを使って弓を乱射するがそれを叩き折るか素早い身のこなしでことごとく回避をする厨二。……どうやって捌き切っているのだろうか。

 と、しばらく打ち続けていた串焼き団子が急にピシッと固まる。矢筒に手を伸ばしているが、その手は弓の弦に戻らない。


「もしかして串焼き先輩……」


「やめろ、言うな。やめろ、マジで」


 あっれれ~?おっかしいぞぉ?俺が大会始まって間もなくに弓の消費について忠告したはずなのにたった今の無駄遣いによってこいつ……。


「矢、尽きたな?」


「うぐっ」


 俺の言葉に声を詰まらせる串焼き先輩。そして、同じく俺の言葉を聞いて厨二の口角が吊り上がっていく。


「おやおやぁ?どうやらボクを倒すのは無理そうだねえ。それとも素手でやるかい?まあ君の拳がボクに届くことはないだろうがねぇ」


「オッケーぜってぇ泣かす!」


 そう言って全力で殴りかかる串焼き先輩を高笑いしながら避けて足払いする厨二。

 盛大にこけた串焼き先輩はそのまま地面に顔面を強打し、うぎゃっと情けない声を上げた。


「ふふっ」


 その様子を見ていたポンが思わず吹き出して両手で顔を覆いながらしゃがみ込んだ。


「ポン……」


「ご、ごめんなさい、あまりにもきれいにこけたものですから……!」


 ツボに入ったのか、肩を震わせて蹲り続けるポン。

 こけたままの体勢の串焼き先輩は羞恥に顔を真っ赤に染め、うぐぐぐ……とうめき声を漏らした。


「あんだけストックは取っておけって言ったのに……」


「……すまん、取り敢えずこいつを倒す分だけの矢をくれると助かる」


「多分手持ち尽きても厨二に当てられないと思うから却下」


「うおお辛辣ゥ!」


 俺の無慈悲な言葉に串焼き先輩は両手で頭を抱えながらへたり込む。

 ポンがまあまあとたしなめてくるが、自業自得だから自分でなんとかしてもらおう。


「まあ矢なんてこれからいくらでも補給出来るしねぇ、


 厨二が腰からナイフを抜き取ると、俺達が来た方向へ視線を向ける。


「おいおいマジで百ポイント越えが複数人いやがる!」


「あいつらを倒せば間違いなくポイントMVP取れるぞ!!」


 間もなくして、騒がしい声と共に武器を持った集団がこちらへと走ってくるのが視認できた。ナイフを抜き取ったという事は戦うつもりなのだろうか、と厨二を見てみると、今更ながら別の事実に気付く。


「……お前、まさか」


 厨二のポイントは今現在たったのしか取得していない。予選通過のポイントは最低でも百ポイント稼ぐことがルールとなっている以上、このまま代行者探しに出てしまえば本選通過の条件を達成することは非常に厳しくなる。

 つまりは、だ。


「まあ、本当は君たちが苦戦するところを見るのも良かったんだけどねぇ。でもボクとしてはこんな所で負けるなんて最高にし、ここまで面白い戦いを見せ続けてくれていたのもあるし、ボクからのご褒美だよ」


 プレイヤー自身がキルをすることでポイントを稼ぐ事が出来る。先ほどまでの乱戦のような状況でもない限り、プレイヤーが大量に居る状況を作る事は難しいのだ。だから、わざと俺らをハメるをして他のプレイヤーをハメた、のか。


「ボクの実力、とくとご覧あれ」


 ナイフをくるくると回しながら、にやりと笑う厨二の顔が、真剣なものになる。

 ピエロのメイクを施してはいるが、素の顔立ちは端正であり、いつも浮かべているにやにやした表情やふざけた言葉を消せば、非常に男だ。


銀翼シルバーウィング、押して参る」


 厨二が現在のプレイヤーネームをぽつりと呟くと、残像を残してこちらへと向かってくるプレイヤー達に襲い掛かった。


「なあ、村人」


「なんだ串焼き先輩?」


 駆け出して行った厨二を見て、串焼き先輩は座りながら首を傾げて。


「あいつって、害悪なんじゃなかったのか」


 信じられない物を見るような目で厨二を見ているので、俺は一つため息を吐いてから苦笑を浮かべる。


「まあ確かに一見するとあいつの行動は害悪かもしれないけどな……」


 ポンが毒で脱落する寸前に現れてきたり、プレイヤーをこの洞窟内に引き込んでいたり。Aimsの大会では敵を引き連れて自分だけ離脱したりなど、散々迷惑行動をしていたりする気もする、が。


「あいつは何より退。自分にとって刺激的なシチュエーションに燃えるタイプで、自分が楽しければそれでいいって言う性格なんだが、最後はなんだかんだで俺らにとってプラスの役割を果たしてるんだ」


 元々ポンを助けるつもりだったという口ぶりだったし、プレイヤーを引き込んだのは自分のポイントが足りなかった分を補填するため。Aimsの大会でも引き連れてから自分が反対まで駆け抜けて挟み撃ちにすることで立ち回りやすくするためだったり。


「で、あいつに一度何が一番退屈か聞いたことがあるんだよ」


 退屈を嫌う厨二が一番嫌う事とは何か。他愛ない雑談をしている最中だったが、途端にまじめな顔になって真剣な声音で話し始めたから記憶に鮮明に残っている。


「『自分が負ける事って言おうかと思ったけど、やっぱり一番嫌なのはね』」


「嫌なのは?」



「『ボクが認めた仲間の敗北』、だってさ」



 実は、変人分隊で何より一番味方思いな奴なのは厨二なんだ、なんて言ったら普段のプレイを見ている連中からしたら誰も信じやしないだろうが。



「だから俺らはあいつと一緒にチームを組んでるし、認めているんだ」


「……確かに、それならフレ切らねえのも納得だな」


 少し見直したような笑みを浮かべる串焼き団子の笑みに、俺はにやりと笑って。



「あいつは。これだけは揺るぎようがねえ」



 変人分隊は個性的なメンツの集まりだ。どいつもこいつも一癖二癖ある連中ばかりだが、俺がこれまで出会ってきた中で一番気の合う連中だ。

 俺を含め、変人ばかりで構成された内のチームメンバーであることは揺るぎようが無いし、チームから外すなんてことは以ての外だろう。


「大概お前も甘いよな」


「俺の甘さは身内限定な」


「違いねえ」


 俺の頭を容赦なくスナイパーで撃ちぬくしな、と笑って言う串焼き先輩に苦笑を浮かべながら厨二の戦いを眺めるのだった。


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