#051 1st TRV WAR 予選 その七
「ッポン、平気か!?」
「……はい、何とか」
開戦と同時に【毒龍】が首を振るいながらブレスを放ち続ける。咄嗟に身を投げ出し、地面に伏せる事で回避するが、そのブレスを浴びた木が腐食するようにしてドロドロに溶かされていくのを見てぞっとするライジン。
(猛毒、腐食属性のブレス……!まともに浴びたら一瞬でお陀仏だ、あれだけは絶対に浴びちゃまずい……!)
思考を巡らし、どうすればいいかを模索する。
(恐らく近接特化、遠距離職にはめっぽう弱そうなタイプだな。……野郎、完全に対人の事しか考えてやがらねえ。早めに村人に合流してもらいたいものだが……!)
相手の一挙手一投足に注意を払いながら、周囲を見回す。
(あいつ、どこほっつきあるいてんだよ……!?)
そろそろ大会開始から一時間半が経過する。どんなに遠いところからでも全力で走れば一時間程度で着く場所を指定したのはライジンだ。
(まあ、他のプレイヤー達の邪魔が入ったのが妥当ってところか。……って、違うだろ!)
パン、と両頬を叩いてオキュラスを睨みつけるライジン。
(俺はいつからあいつに頼り切る風になっちまった!?……あいつ無しでも、オキュラスを倒せないようじゃあいつには勝てない……!)
苦笑いしながら、双剣を握る両腕に力が込められる。ふっと短く息を吐くと、スキルを展開し、オキュラスへと肉薄する。
(【クリティカルゾーン】、【斬撃波】!【疾風回避】で積んだAGIの補正が切れないうちにここで少しでも奴のスキルの耐久を削ぐ!)
ライジンの周囲が黄色の光に包まれる。それと同時に双剣を振るうと、斬撃が飛ぶようにしてオキュラスを包む【
だが、【
『ははは、ライジン、どうした?そんなものか?』
「うっせえ、ポン、頼む」
「はいっ!」
『――ッ!』
ライジンの【斬撃波】によって削いだ層を目掛けてポンが【
慌てて別の首を防御に回す形で層を強化するとほぼ同時にボムが炸裂し、防御に回した二本の首が跡形も無く吹き飛ぶ。
『そうだった、君もいたんだったね。ちっ、折角ライジンを潰すためのスキルを作ったのに、ツーマンセルで来られちゃ少し分が悪いな』
「生憎俺には猛者フレが多いんでね」
『まったく、中距離攻撃職がいるんならもう少し汎用性があるスキルを作るべきだったなと後悔したよ』
ライジンが目を凝らしながら
三角フラスコのようなポーションの器に入っている液体を飲む度に
(やはり、修復にはMPが必要か。じり貧なのはあっちも同じ。この調子で攻め立てていけば奴のスキルも解除できる――!)
『うん、そうだな……。なら、負け筋を徹底的に潰していこう。狙いは君だ』
ライジンが勝利の道筋を見つけると同時に、そうはさせまいとオキュラスが動き出す。オキュラスが狙いを定めたのは、当然ポンである。
「ポン!」
「大丈夫です!」
考える前に動くべきだったとライジンが焦燥に駆られるが、それよりも先にポンは動き出していた。
「【
そうスキルの名を叫んだポンの足から、突然爆発が発生し、加速しながら空中へと躍り出る。
そのポンの姿を追従するようにして
「数が多くて邪魔ですね……!きゃあっ!」
標的を完全にライジンからポンに移したため、螺旋状に迫り来る九つの首は、全てポンの下へ。
手や足を爆発させながら首に攻撃を加えるが、移動用の簡易爆発のため、効果は薄い。少しずつ、少しずつポンは追い詰められていく。
(なんとかしてあいつの攻撃を邪魔できないものか…!)
このままではオキュラスに対して有効打である手段を持つポンがやられてしまうのも時間の問題だ。それに、もし自分が居てポンがやられてしまったら、確実に村人が怒るのは目に見えている。何故手の届く範囲に居て守れてないんだとねちねち言われるだろう。
(Noob呼ばわりだけは勘弁だな……!……すべての首の攻撃はポンに向いているおかげで本体の守りは薄い、そこを突けば……!)
ライジンはフックショットを飛ばすと、振り子の要領で勢いを増しながら
『来ると思ったよ、ライジン』
だが、それすら見越していたオキュラスは、ズリュ、と
(この勢いのまま行くとヤバい……!)
【疾風回避】によるAGIの大幅補正と、フックショットの活用による加速のシナジー。本来であればその勢いを活かした高速斬撃で凄まじい火力を出すのだが、その行動が仇となってしまう。一般プレイヤーなら制御しきれない加速。このまま直進すれば触手に串刺しになって一瞬で体力が持ってかれてしまうだろう。
そう、
『なっ!?』
「ッ、片腕はくれてやる!その代わりにてめえの首寄越せ!」
加速しながら無理矢理身体を動かし、頬を触手がかすり、その勢いで左腕を飛ばしながらもオキュラスへと肉薄する。
じわ、と腕の先から毒が浸透し、ライジンの身体を蝕んでいくが関係ない。
狙うは
『ぐうッ……!?』
(浅いっ……!)
一瞬の接敵と同時に刃をその首に当てることに成功したが、先に被弾したことによる【クリティカルゾーン】の補正が無くなってしまい、オキュラスに致命の一撃を当てる事は出来なかった。
ゼリー状の
(仕留めきれなかった……!)
毒特有のゾクゾクとした悪寒がライジンの身体を支配し、ギリっと歯を食いしばる。
手が震え、視界が霞む。じわり、じわりとライジンのHPバーは毒により減少していく。
『ふふふ……!片方に集中してたら油断したよ。流石に今のはヒヤッとしたよ、まったく』
首から赤いエフェクトをまき散らすオキュラスは、
(マズイ、この状況は……!)
部位欠損は専用のポーションがないと再生することが出来ない。手持ちにはそのポーションは無く、生憎手持ちで使えそうなポーションは解毒ポーションのみだ。
フックショットを付けていた左腕が吹き飛ばされてしまって無いこの状況、毒の影響でまともに力が入らない状態で逃走は不可能、だが、解毒ポーションを飲んでいる隙さえ奴は与えてくれないだろう。
(ほぼ詰み、頼みの綱はポンだが――)
視線を動かし、ポンの姿を探す。視界に入ったのは、濃密な毒の沼の中心で片足を腐食され、力なく倒れているその姿。
片方に集中していたというのはこういう事か。本体に危険が迫っていたというのに、長期的な目で見て危険度が高い方を確実に仕留めていた。
目の前が真っ暗になるような錯覚に陥り、地面を指先で抉る。
(畜生、勝負を焦っちまった……!)
激しい後悔。ほぼ詰みから詰み、と断定できる状況へと変わったという認識は絶望という感情が彼の心を蝕んでいく。
『久々にキミに勝てたよ、楽しかったよ。ライジン』
ああ、おしまいだ、すまんな村人と心の中で呟こうとしたところで毒沼に突っ伏していたはずの少女の姿が無い事に気付く。
「【
全身に猛毒を浴び、片足の機能を失ってなお、その目に闘志は消えず。
ただ勝利という目標に向かって足掻く少女は、爆発による推進力で毒沼から飛び出し、高速飛行すると、ライジンを抱きかかえる。
「ポン!?」
「何諦めようとしてるんですか!私はまだ、げほっ!ピンピンしてますから!」
そう言うが、やせ我慢に他ならないだろう。ライジン以上に毒を浴びているので、悪寒や、身体機能における能力低下は激しい。ライジンを抱える身体は震えが激しく、顔色も悪く見える。
スキルで無理矢理移動しているだけに過ぎない。だらり、と放り出された足は腐食が進み、非常に痛々しい。
「なんで、生きて……!?」
「わざとやられた振りをして、逃げ出す隙を伺ってたんです。げほ、やはり人を騙すのは難しいですね。こんなにボロボロにされてようやく攻撃が止みました」
解毒ポーションが無いのだろうか、と差し出すと、ポンは首を振る。
「毒を浴びすぎて【猛毒】状態になってしまったので普通の解毒ポーションは効かないみたいなんです。今も必死に、HPポーションで死なないように食いつないでいる感じですね。それはライジンさんが飲んで下さい」
症状がひどいのでもしやとは思ったが、最悪の状況はどうやら抜け出せていないらしい。機動力を失ったライジンと、早く処置しないと死んでしまうポン。どちらの方が良くない状況かは一目で区別が付くが、それでもポンは。
「ライジンさん!フックショットを落とした場所に向かいます!指示を!」
生き残れる可能性が低い自分よりも味方を優先する。そう決断したポンの意図を汲み取ったライジンは頷く。
「すまない、ポン」
「一度、似たような状況で助けられましたから」
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、頭を下げるライジンに対し、柔らかい微笑みを返すポン。
「この真下だ!」
「了解です!」
手の先からの爆発による推進力で急速に角度を変えると、地面の近くを猛進する二人。
あっけに取られて硬直していたオキュラスは怒りの表情を露わにすると、動き出す。
『一度だけでなく二度までも……!散々コケにしてくれたな!今度こそ潰す!』
「うわこっわ」
トドメがさせそうな場面で窮地を救いだす芸当はそうできるものではないから、彼が感じているストレスはよほどの物だろう。ライジンが内心で同情すると、地面に飛び降りる。そして吹き飛んでいた片方の双剣を口にくわえ、フックショットを右腕に装備し直す。
そしてすぐに旋回してきたポンも降り立つと、
「ライジンさん、下がってください!」
ポンの籠手に青色の粒子が収束し、光を放ち始める。
拳を震わせ、正拳突きの構えを取ると、勢いよく拳が放たれる。
「【水龍爆撃掌】!!」
放たれた拳から凄まじい水を多分に含んだ爆発が巻き起こる。
直撃を受けた
「ッ、まだまだァ!」
だが、九つの首を生やした
「【水龍爆撃掌】!!!」
再び放たれるポンのスキル。二つの首をまとめて吹き飛ばし、次の首に狙いを定めたところで。
「あぅっ!?」
度重なる負傷と毒の影響でガク、と膝が折れ、地面に倒れ込む。
「ポンッ!」
それに気づいたライジンが、慌てて駆け寄るが、それよりも早く
『まず一人ィ!!!』
オキュラスの動きに容赦は無い。だが、ポンは動かない身体でなお、オキュラスを気丈にも睨み続け、咆哮する。
「私はっ!まだ、こんなところで負けるわけにはいかないんだぁああああああああああ!!!」
「その通りだ」
一条の流星が
それと同時にポカンとするポンの傍に降り立つ影。その陰はそっとポンの頭をぽんぽんと叩くと、にこりと笑いかけてくる。
「待たせたな。……良く、耐えてくれた」
「あぁ……!もう、本当に待ちましたよ……!」
それは最も待ち望んだ者の登場であり、軽く怒ったような口ぶりなポンの言葉には喜びが隠しきれていなかった。
「あとは任せろ。俺達があいつを屠ってやる」
降り立った影の正体である村人Aは、オキュラスを見据えながらそう宣言した。
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