#052 1st TRV WAR 予選 その八
『次から次へと……!とことん僕をいら立たせてくれる人達だねまったく……!』
超遠距離からの跳弾改込み彗星の一矢が命中し、ゼリー状の紫色の巨体はその半分ほどを消し飛ばしていた。だが、欠損した部分が蠢くと、グジュル、グジュルと再生に向かって動き出す。
「させるかよ」
再生している隙に串焼き団子が動き出し、弓を構える。
「【
スキルを発動した串焼き団子の弓は赤く輝き、一本矢を放つとそのまま次の矢が即座に装填され、立て続けに発射される。
『ぐっ!?』
一本一本はそこまで威力が出ない矢である。だが、銃の射撃の如く放たれる続ける矢は細かく巨体を穿ち続け、それ相応の威力を発揮した。
残る四本の首を全て本体の守りに回し、串焼き団子の矢を溶かし続けるが、その体積はどんどん減っていくばかり。
串焼き団子が気を引いているうちに、懐からポーションを取り出し、ポンに飲ませる。
「大丈夫か?ポン」
「……ええ、少し、不味い状況ですが」
儚げに微笑むポンの顔色は悪い。毒の症状は酷く、足は両方使い物にならなくなってしまっている。俺達が来るまでに無茶な戦闘をしていた結果だろう。手持ちのHPポーションをありったけ渡すと、弓を構えて矢を装填する。
「よく頑張ったな。あとはゆっくり休め」
その言葉を聞いて安堵したように息を吐くポンを見ると、【チャージショット】を発動させる。
「……ライジンもボッコボコにされたな」
「うるせ、相性が悪すぎるんだっての」
ポンに負けず劣らずボロボロになったライジンがこちらに近寄ってくるのを見てそう呟く。
「オキュラスの奴、俺のガンメタスキルを作りやがって」
「え、オキュラスってまさかあの人かよ」
てっきり時間経過でポップしてきた化け物かなんかだと思ったんだけど。しっかしスキルってすげえな、あんなもんまで生成できるのか。
「ん?オキュラスの事知ってたのか?」
「まあサーデストでちょこっとね……。おっと、無駄話をしている場合じゃない」
【チャージショット】の威力が最高まで高まったのを確認してゆっくりと弾道計算を始める。首を最も多く巻き込める軌道はっと……。
「串焼き先輩ぶちかますぞ!」
「了解!」
俺が指示を出すとすぐさまその場から飛び退く串焼き団子。
弾道計算完了、【彗星の一矢】発動、発射まで残り五秒……!
青白い粒子が収束を始め、弓と矢を明確に照らし出していく。
『またさっきのスキルか!打たせるわけにはいかないな!』
ポンの窮地を救った一撃であり、大きくオキュラスのスキルを損傷させたことで特別警戒しているらしい。首の形を崩し、鋭利な棘へと形を変えて、一直線に俺を目掛けて飛ばしてくる。
スキル発動中は身動きが取れないが、今は味方がいる。
「いけ、村人!」
ライジンが右腕を振るい、剣でこちらに飛ばしてきた棘を切り落とす。
切り落とした先から修復が始まるがそれよりも早く俺の矢は放たれる。
「吹き飛べえええええええええええええええ!!!」
全身全霊、本気の一撃。爆速で放たれた矢は真っすぐオキュラスに向かって飛来し、速度と威力を増しながら襲い掛かる。
『【形状変化・固形】!!』
ゼリー状の紫色の巨体が急速に圧縮し、ビキ、と固形に変化する。形状変化したことで先ほどのように再生したり触手や棘を飛ばして攻撃は出来ないようだが、守りは堅そうだ。
しかし、こちらの攻撃は圧倒的超火力でゴブリンジェネラルの頭部を爆散するレベルのスキルだ。その程度で止められると思っちゃ困るなぁ!
『ぐうううううううっ!?』
飴細工が割れるような音を響かせながら彗星の一矢は容赦なく紫色の巨体を貫いていく。スキルを維持するのに必要な魔力も底を尽いたらしく、修復されないままその巨体は霧散するようにして消えていく。
オキュラスのスキルが解除されると同時に、ドサッと倒れ込むオキュラス。
MP切れを起こしているのだろう、オキュラスは地面に倒れ込んだまま動く様子はない。
一応MPポーションを飲み、彗星の一矢で消費した分のMPを補充する。
「悪いな、4v1っつー卑怯な状況で」
「……はは、ライジンを追い詰める事が出来ただけでも上々さ」
「サーデストで何となく感じてたけど、やっぱりあんた、猛者だったんだな。あんたとはタイマンで戦ってみたかったよ」
サーデストで会った時に何となく強そうな感じはしていたが、ライジンを追い詰めるほどの腕前とは。弱った所を漁夫の利でかっさらうのではなく、加勢無しに本選で戦ってみたかったが、これはバトルロイヤル。敗者は大人しくやられるのが常である。
俺は少し不完全燃焼気味にため息を吐くと、ふふっと笑うオキュラス。
「それは僕もさ。はぁー、仕方ない。潔く諦める……」
どこか満足した様子のオキュラスは笑顔を浮かべ、ゆっくりと……。
「とでも、思ったか?」
ボン!っと煙玉がどこからともなく投擲され、視界を煙が覆いつくす。倒れ込んでから大人しくなったと思えば、オキュラスの仲間が付近に潜んでいたのだろう。慌ててオキュラスがいた位置に矢を放つが反応はない。
『ははは!いやあ君たちの奥の手をある程度把握することが出来て良かったよ!これで本選に向けて対策を練る事が出来る!じゃあね、ライジン、厄災君、ポン!本選でまた会おう!』
「おいナチュラルに俺の存在忘れてんじゃねえ!」
オキュラスのあざ笑うような笑い声に、串焼き団子が吠えるが返答はない。少しだけ可哀想。
「あの野郎……!途中から俺達のスキルに探りを入れてやがったのか……!」
「なんかあっけないとは思ったけど逃げの方針に変えてたってわけね……」
ライジンとポンが消耗させていたとはいえ、あまりにもすぐにあのスキルを解除できたのはおかしいと思ったんだよ。余力を残してたってわけか。
「どうする、追うか!?」
「強敵を倒す千載一遇のチャンスだけど、深追いは禁物だ。オキュラスのクランはPVP専門クランだし、奴の味方のスキルは未知数。対してこっちは俺とポンが負傷している。ポンに至っては猛毒を解除しないと死へと直行だからな、ここは退くべき……」
串焼き団子とライジンが慌てて話し始めるが、俺はゆっくりと歩き出し、弓を構え始める。
「おい村人、何して……」
「おいおい忘れたのか?……俺は、
「視界が確保できてない状況じゃあ無理だろ!?」
「馬鹿言え、くっそ余裕だっての」
そう、なんも焦る必要なんてなかったんだ。俺の視界端にはミニマップにこの場所から遠ざかっていく
こっから先は俺の領分だ。
「運はこっちに味方してくれている。……さあ、狙撃の時間だ」
◇
「オキュラスさんがやられるんじゃないかってヒヤヒヤしましたよ」
「流石にそこら辺は見極めているさ。厄災君が来た時点で無理だと思ったからね。合図に気付いてくれて助かったよ」
「ふーん、それにしてもなんか結構頭に来てるみたいだったのは気のせいですか?」
「敵を欺くならまず味方からってね。怒り狂ってるふりをするのは簡単だよ」
「そうですか……」
森林地帯を疾走する影が二つ。片方はオキュラス、もう片方はクラン【お気楽隊】のクランメンバーである『lol』というプレイヤーのもの。
HPポーションを飲みほしたオキュラスはポーションを後方に投げると、ガシャンと割れる音が聞こえてくる。
「しかし、収穫は大きかったですね」
「ああ。あのポンって子が想像以上に厄介だったのと、ライジンのスキルをある程度知ることが出来た。それに、奥の手もどうやら【
「黒薔薇の連中に優勝は取られたくないっすからね。あとは試合のリプレイ見て研究しますか」
「そうだな。……よし、セレンティシアに向かうぞ。一抜けは僕達が飾ろうじゃないか」
「了解。既にセレンティシアではうちのクラメンが待機してますから合流しましょう」
lolの言葉に頷き返したその時、ぞわりとした悪寒がオキュラスを貫く。
「ッ!lol!避けろッ!?」
「え」
その悪寒の正体は【危険探知】というスキルによるものである。それは自身の体力を一撃で消し飛ばす程の攻撃が来た際、自動で悪寒という形で警告を促してくれるパッシブスキルだ。それが今発動したという事はオキュラス自身に危険が迫っているという事であり……。
慌てて横っ飛びするオキュラスの目前で身体が爆散するlol。何が起こったのか分からないといった表情のまま宙を回るlolの首は、やがてポリゴンへとその姿を転じた。
(
思考が加速し、宙に浮いたまま凄まじい速度で飛来してきた矢を見つめるオキュラス。lolを貫いてなおその速度を落とさない矢は、木を反射し、真っすぐにこちらへと……。
(はは、バケモンかよ。回避すら
矢を見ながら乾いた笑いを漏らすオキュラス。あくまでlolはついでらしい。一人キルして回避で空中で無防備になった二人目を仕留める。そんな計算が人間の脳で処理できるものなのか。
ひそかにライジンと同格にまで村人Aの評価を上げると、にやりと笑い。
「見事だよ、完敗だ」
防御する暇も無く、矢はオキュラスの身体を粉砕し、ポリゴンがゆっくりと宙を舞った。
◇
『バウンティーハント対象【オキュラス】のキルを確認。投票数2130票ですので現在ポイントに2130ptの加算を行います』
「
ゆっくりと弓を下ろし、自身のログにオキュラスのキル表示が出てきたのを確認すると、俺はそう呟いた。
あんぐりと開けた口のまま固まる串焼き団子と、苦笑いしながら頬を掻くライジン。その表情を見て俺は満足げに頷き。
「あ、折角だし今のクリップ保存しとこ」
動画サイトに今のショットの動画を上げようと決意したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます