#050 1st TRV WAR 予選 その六


「ははっ、やるなライジン……!まさか予選でこんなに楽しい戦いが出来るとはね……!」


「俺としてはネタバレになるから本選まで取っときたかったんだけどな……!」


 辺りに鋭い金属音が響く。激しい攻防は互いの身体に傷を生み続け、HPバーを着実に減らしていくが一瞬のスキの内にポーションを飲み干し、即座に戦線復帰する離れ業をもってして、ひたすら持久戦を繰り広げていた。


 だが、支給されるポーションには限りがある。オキュラスとひたすら剣を打ち合い続けるライジンは、HPポーションの底が見え始めていた。


(あんまり消耗しちまうと後半戦が厳しくなるな……!だが、それは奴も同じ。……どこかで、引いてくるとは思うんだが……!)


 ライジンはバックステップで一旦距離を置き、HPポーションを飲みながらオキュラスを見据えるが……。


(どう考えてもあいつ、後の事考えていないよな……!?)


 爛々と目を輝かせ、今この場における勝負を全力で楽しんでいる。そういう性格なのは知っているが、厄介極まりないのが正直なところだ。


 ちらっとポンを見ると、漁夫の利を狙いに来ているプレイヤー達の相手をひたすら続けている。内心で感謝の言葉を呟きながら、双剣を握りなおした。


「ライジンもさっさと手の内を晒すといいさ。ギャラリーが湧くだろうし」


「お前ってそんなエンターテイナー気質だったっけ?……まあ、断る」


 ライジンは内心焦りながら再び打ち合いを再開した。これは恥を忍んで村人にポーションを恵んでもらうしかないな、と思いながらひたすらオキュラスの攻撃をさばき続ける。


「僕のスキルはトリッキー型だから、晒した所であんまり真似する人が少ないからね。……汎用性があって初心者でも使いやすいスキルを上手く使う君と違って」


「いちいち嫌みを言うやつだな全く。……素直にPSごり押しのスキルを作らないのが気に入らないと言えばいいじゃないか」


「ふふっ。……人気配信者も大変だね」


 オキュラスの言い分も分かる。人気配信者という枷が確かにライジンを縛っていることは否定できなかったからだ。汎用性が優れているスキルを上手く使いこなす事でトッププレイヤーに誰でもなれるという事を証明するために、無意識のうちにやっている癖だ。

 PSごり押しのスキルを作ってしまえば、自分も真似ができないからというわがままな理由でヘイトを買い、炎上の火種になりかねない。そういった不安要素は火種になる前から除去する癖がいつの間にかついてしまっていたのだ。


「まあ縛りプレイの一環だと思えば楽しいから問題ないノープロ。まあ少しはそういうスキルを作ろうかなとは思っているけど」


「はは、何言ってるんだ。……もう、あるんだろ?」


「……なんのことやら」


(正直ここに来るまでにスーパーアーマー差し込んで回避するごり押しスキルは使ってはいたけども)


 激しい打ち合いだというのにそう感じさせない程彼らの顔色は涼し気だ。飛び道具の邪魔が入るが、長剣を流す次いでに撃ち落とす。

 ふっとオキュラスが笑うと、長剣を鞘に納めて、手から毒霧を放出し始めた。


「僕もあんまり長期戦になるのは勘弁だからね。……かといって勝負を焦ると自分の負け筋を作ってしまうかもしれない」


「……何をするつもりだ?」


 くっくっくと笑いながら毒霧散布を続けるオキュラス。ライジンは顔を顰めながらオキュラスとの距離を離していく。


「なーに。単純な事。……奥の手を晒す、それだけさ」


「「なっ……!?」」


 簡単に言い切った彼の言葉に驚愕するライジンとポン。ポンの方も他プレイヤーの相手が終ったらしく、合流しようとしていたみたいだが、毒霧散布のタイミングだったらしく、視界不良の弊害もあり、タイミングが悪かった。


「僕の奥の手は特殊でねえ……!できれば、予選では使いたくなかったんだけど、ライジンとポンさんだっけ?を討ち取るチャンスだ。……これ以上ない好機でライバルを減らすことが出来るなら喜んで使うよ」


「くっ……!?」


 自信満々に言い放つオキュラスに、たじろぐライジン。毒霧散布を止めたのを確認すると、手をゆっくりと振りかざす彼を見て嫌な予感がした。


(ちょっと待て、ここは、一番最初に毒霧を出し始めた場所?打ち合いの最中に知らず知らずの内に誘導されていた?……そして、突然武器を納刀して毒霧を出し始めた訳は……!?)


 マズイ、とライジンが慌ててポンの方へと振り向く。


「ポン!毒霧を吹き飛ばせ――――」


「もう遅い」


 ニヤリと笑ったオキュラスが高らかに宣言する。



「【毒龍ヒュドラ】」




 長時間の放出によって濃密となった周囲の毒霧が急速に収束を始め、その質量を増しながら徐々にその姿を顕現する。九つ首生やし、煙状だったその身体が明確な実体を持ち、その巨体はゆっくりと地上に降下を始める。


「はっ――集大成?これがか?馬鹿野郎、はったりも大概にしろ――」


「そうでもないさ。こいつの能力を知ればそんな減らず口もじきに閉じる事となる。一日一回の大博打、さあ始めようライジン。一方的な蹂躙の始まりだ」


 たかが的が大きくなっただけのハッタリ武装。そう思いたいが、奴の自信満々な笑みを見ればそれも思い違いなのだろう。

 オキュラスが飛ぶと、その紫色の巨体へとその姿が吸い込まれていった。


『ははは、どうだいライジン、少しは怖気づいたか?』


(なんつーデカさだよ…!?)


 全長三十メートルを越えそうなその巨体は、モンスターならばそこそこ見かけるかもしれないが、およそ人が作り出せる代物にどうしても思えない。


の毒?……はは、まだサービス開始して間もないのにどんだけスキルポイントを稼いだっていうんだよ……!?制限は……一日一回っつってたな。だが、それだけじゃないんだろう。……にしても、これは……)


 冷や汗をかきながら冷静に分析する。ライジンが想定していたスキルとまるっきり指向が違っていた。恐らくは、彼自身に対する対策。


、っつーわけか…!)


 近接特化であるライジンは、基本的な攻撃手段は近寄って乱舞で一気に相手の体力を削り取っていくスタイルである。そんな彼の対策をするとすればどうすればいいか。


(恐らく、近寄っただけでスリップダメージは堅い、毒ブレスでも浴びちまえばヒュドラの毒を再現しているとなれば死へと直行……!くそったれ、俺の奥の手とも相性が悪い……!)


 軽く舌打ちをすると、目の前の紫色の巨体へ視線を向ける。


(だが、それは俺だった場合の話……!)


 そして、隣にいる頼もしい仲間へと視線を向けると、彼女は怖気づくどころか楽しそうに笑っていた。


「頼んだぜ、ポン」


「任せてください!」


 ボムを取り出した彼女を見ながら、ライジンは周囲を見回す。


(視認しやすい目標も出来てあいつらが合流しやすくなった!これで、後は耐久あるのみ!)


『行くぞ!』


 毒龍の開戦の咆哮と共に二人組は動き出す。



 いつか来る助けを、待ち望みながら。


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