#048 1st TRV WAR 予選 その四


「んお?なんだこれ」


「どうした村人?」


 【セレンティシア】を駆け抜けていた俺は、突如起きた異変に気付いて足を止めた。足を止めた事で、串焼き団子も慌てて足を止めて俺の方へと振り返る。


「いや、なんか急にミニマップに大量の赤点が……」


「あ、ホントだ。……どうして、急に?」


 赤点は敵対Mob、もしくは敵対プレイヤーを示すアイコンである。

 先ほどまで、視認していた串焼き団子を除く俺以外のプレイヤーはミニマップに表示されていなかったのだが、突然ミニマップに赤点が表示されたのだ。

 既に俺達は百ポイントを越しているため、ポイント表示が目立つから影響こそ少ない物の、これでは完全に潜伏が意味をなさなくなってしまった。


「ここにきて追加ルール?……やり過ぎだろ、これは」


 思わず苦笑いになりながら呟く。

 確かにギルド前の奇襲はせこいっちゃせこいからそういう手段を禁じるという意味ではありなのかもしれないが……。これでは乱戦が強いられてしまう。多対一は現時点では厳しいから勘弁してほしいものだが……。



≪大会開始から一時間が経過しました≫


≪第二段階フェーズに移行します。第二段階『ミニマップ上に付近のプレイヤーを表示』を起動しました≫



 と、ログに突然システム通知が届いた。…なるほど、ルール追加は時間制か。


「後半に連れてルールが追加されていくって事か……!なるほど、それなら生存報酬にも期待できそうだな……!」


「一時間からこれって……。後半はどんなルールが追加されるって言うんだよ……?」


 にやりと笑う俺と、あまり好ましくない反応をする串焼き団子。……確かに、後半はエリア制限とかありそうだな……。その分生き残るのも難しくなるだろう。


「それなら尚更ポン達と合流を急がないとな。手遅れになっちまう前に行かないと」


 そう言うと串焼き団子も無言で頷き、足を再び動かし始める。海鳴りの洞窟は現在地点から全力疾走で二十分ほどの距離だ。追加ルールが来るまでに合流できると信じたい。


 だが、追加ルールと、存在を周囲に知らせる頭上のポイント表示が俺達の移動を許すはずもなく。


「止まれ!……君は、ウワサに名高い『始まりの厄災』だな?」


「ゲェ、まーた私怨かよ。勘弁してくれって、俺だってわざとやった訳じゃないんだからさ」


 進行方向には、銀鎧を着こなす鋭い目つきの女騎士が待ち構えていた。このまま突っ切るわけにもいかず、足を止めてから女騎士を見つめる。その佇まいはどこか、かの代行者を思い出させるようで……。

 それを見た、俺は思わず。


「何?代行者ロールプレイ勢の方ですか?」


「……やはり君も彼女に接触していたか。あの神速の一撃、回避できたかな?」


 あ、否定しないのね。……まあこの騎士さん美人だからロールプレイしても違和感ないんじゃねーの?

 それはそれとして、神速の一撃?ああ、あの不意打ちの事か。


「一撃も何も、何回かは避けましたよ。隣の串焼き先輩も」


「いえーい」


「なっ!?まさか、アレを回避できるプレイヤーが居ようとは……!?」


 あれ?なんか聞いてきた時にやついてたから回避も出来ねーのプークスクス!って煽り散らそうとしてたのかと思ったんだけど。単なる思い出共有の話だったっぽい?

 思わずポカンとしていると、女騎士は腕を組んでうんうんと頷く。


「ますます君に興味が湧いてきた。どうだい?私のクランに入る気は……」


「あっサーセンこの大会終わったらクラン作る予定なんで」


 素早く断りを入れると、そのまま駆け抜けようと走り出す。ぴく、と頬を引きつらせた彼女は、レイピアを抜き取り……。


「うぉっ!?あぶねっ!?」


「……どうやら代行者の攻撃を回避したというのは嘘じゃないようだな」


 咄嗟に飛び退いて女騎士の攻撃をぎりぎりで回避する。飛び退き際に反撃に矢を放つが、レイピアを閃かして弾かれてしまった。

 舌打ちを一つしてから、矢筒から次の矢を取り出す。


「ここで勝負をしよう。もし私が勝ったら君はクラン加入の話を承諾してほしい」


「ゲェ、俺が一番苦手なタイプ来た。有無を言わさぬ束縛系は一番嫌いなんだよなぁ……」


「君が勝ったら、私に好きな要求をしてもかまわない」


「何それ詳しく」


「おい村人」


 俺が目をキラキラさせて身を乗り出すと、俺の肩を串焼き団子が掴む。


「だって好きな要求だぞ串焼き先輩?明らかにあの人実力者だろ、その人とコネクションを持っとく事でこれから先のプレイに役立つ所が出てくるじゃん」


「そこで不埒な要求を考えない所がお前らしいというか……」


 このむっつり団子め。確かにあのお姉さんは美人だけどセクハラ行為は普通に通報案件だからな。

 俺の言葉を聞いて、女騎士はくつくつと笑いだす。


「面白いな、君は。ちなみに私は顔を弄ってはいないぞ。リアルもこのままだ。そこまで聞いて、私に手を出そうと思わないのか?」


「別に?隣に美少女住んでますしそれなりに耐性ついてますわ」


 女性に対する関心は無いかと聞かれたらあるとは言うが、そこまでだしな。


「つくづく興味を持たせてくるな。君が欲しい」


「美人な女性から俺を欲しいなんて言われるなんて光栄の極みですけど丁重にお断り致します」


 女騎士は俺の言葉を聞かず、じりじりとにじり寄ってくる。嫌だこの人、話聞かないタイプの人間だ。笑みを携えた女騎士は、レイピアを構えると、口を開く。


「私の名前は『Rosalia』。『黒薔薇騎士団』のクラマスだ。いざ、尋常に」


「勝負致しませんというのは?」


「拒否しよう」


「ですよねー」


 もういいやどうとでもなれ。勝てばいい。ただそれだけの事。


「串焼き先輩、三分で片づけるぞ」


「了解」


「言ってくれるな。やれるものならやってみろ」



 セレンティシアでも、有名プレイヤー同士の激闘が始まる。





 一方。



「どうした、ライジン?やはり味方がいるとやりづらいか?」


「……」


 砂浜というフィールドの影響で、ライジンは普段の立ち回りを発揮できないでいた。それを抜きにしても、ポンという存在が気がかりで、全力を出せていない。ライジンの隠し玉は非常に強力な物なのだが、ポンを巻き込んでしまいかねないスキルなのである。

 それゆえ、ライジンは防戦を強いられていた。ひたすら回避し続ける事でスキル、【疾風回避】の効果でAGIに補正はかかってはいるのだが、一向に攻勢に転じられていない。


 毒が塗りたくられたナイフを投擲し続けるオキュラスに対し、ひたすら武器を振るって弾くライジンの表情には焦りが見て取れた。

 投擲が終わったオキュラスが次のナイフを取り出しているうちにポンの方をちら、とみると余裕のない声音で問いかける。


「ポン、お前の隠し玉って俺を巻き込まないで奴を仕留めることが出来るスキルか!?」


「いえ、無理だと思います!私のスキルは多分ライジンさんも巻き込むかと!」


「かぁー!相性わっる!マジで村人が来た方が良かった説あるぞコレ!」


 半ば悲鳴染みた愚痴を叫ぶと、ライジンは双剣を持ち直し、オキュラスへと視線を戻す。


「ライジンさんも私を巻き込むレベルのスキルですか!?」


「多分想像しているのと違うかもしれないけどポンを巻き込むのは確実だ!」


 そうですか、とポンが呟くと素早い身のこなしでナイフを回避する。オキュラスはそれを見て少し眉を寄せながら、うんざりしたように。


「君もライジンと似たようなプレイスタイルのプレイヤーなんだね。てっきり高火力でごり押すだけかと思ってたよ」


「高火力でごり押すのは否定しませんがそこまで似たプレイスタイルじゃないですよ!」


 身のこなし自体は厨二さんとライジンさんに教えてもらいましたからそこら辺は似ているかもしれないですけどね、と一人ごちると、ボムを取り出す。

 すかさず投擲すると、ボムを確実に撃ち落とすためにナイフを投擲して爆発させる。


「……やりますね」


 爆発の衝撃を受けながら、顔を覆い隠すポン。呟いた賞賛の言葉も、爆発の爆音にかき消され、オキュラスの耳には届かない。


「油断していると一気に詰められることもある。こんな感じに、ねッ!」


「――ッ!?」


 爆風の中から、飛び出すようにしてオキュラスが姿を現す。

 完全に不意を突かれたポンは、慌てて防御の体勢を取るが、鋭い蹴りが繰り出されて、直撃を受けてしまう。


「ぐぅッ……!」


「悪いけど僕は女の子は苦手だけど、だからって手加減するほど甘くはないよ」


 ビリビリとした衝撃に思わず顔をしかめるが、後ろに飛ぶようにして次の攻撃を回避する。

 空を切った長剣を再び構えると、オキュラスの足が淡く輝きだし、力強く踏みしめる。


「【疾風脚】!!」


 ダン!と地面から飛び立つと、不自然に加速しながらポンとの距離を一気に詰めた。


「俺を無視すんなっての!」


「やっぱり邪魔だな、君は!」


 だが、すんでの所でライジンが割って入り、オキュラスの長剣はライジンの双剣によって弾かれる。


「【毒霧散布】!」


「うっわ趣味悪いスキルを持っていることで!」


 オキュラスの手からマンイーターの毒霧に似た紫色の煙が放出され、慌ててライジンがバク転の最中にフックショットを放ち、木の枝に引っ掛けて移動する。

 オキュラスが身に着けていたスカーフをぐいっと口元まで上げると、楽しそうな声音で。


「やっぱり君との対決は楽しいな、ライジン」


「こんのVP馬鹿め、VEも楽しめってんだ」


「レッサーアクアドラゴンならソロ討伐もやったよ。ようやくVEに意味を見いだせたしね」


「マジかよ」


 意外そうな表情を浮かべるライジンに対し、オキュラスは笑みを崩さないまま。


「モンスターとの戦いも対人のスキルを磨くための参考になる。僕のスキル構成もこのゲームのモンスターから着想を得て構成した物だし」


「……なるほど、どこかで見たスキルだと思ったわけだ」


 しかもかなりタチの悪い部類のスキルだな、とライジンがぼやく。


「……まあ、僕の切り札は集大成みたいなもんだけど」


「ハメ殺しの集大成って極悪過ぎない?」


「まあそんなに大規模じゃないから安心して」


「信用できねえ……」


「さあ、続きを始めよう」


 オキュラスが再び【疾風脚】を発動して、ライジンの方へと動き出し、ライジンは双剣を握りなおすと共に気合を入れなおした。

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