#047 1st TRV WAR 予選 その三
「やはり戦火に赤く染め上げられたか……」
「俺、結構あの街好きだったんだけど……」
割と冗談で言っていたことだったのだが、いざ現実となってみると目を疑うな。
俺と串焼き先輩は集合場所である『海鳴りの洞窟』に向けて進行していたのだが、その場所に向かう最短のルートは【セレンティシア】を突っ切る必要があった。多少の敵はいるかもしれないと覚悟していたが、それ以上の事態が【セレンティシア】で起きていた。
白と青で彩られた美しい街並みは見る影もなく、プレイヤー達の交戦の爪跡が深々と残っていたのだ。視線をどこに向けても立ち上る煙、倒壊した建物の数々、中には炎上している家屋まで。
まあ故意でやったわけじゃ無いんだろうけど……。
「それにしても
「まあ壊れたら実質逃げ切るしか方法が無いわけだから……」
そんな倒壊した街の中で一つだけ傷一つ付いていない建物が建っていた。判定員がいる、この大会のスタート地点、セレンティシアのギルドである。
あ、爆撃。……無傷とかマジか。
因みに、ギルドの前では多くのプレイヤーが姿を潜めてポイントを大量に持っているプレイヤーを待ち構えている。まあポイント奪えるからな。100ポイント以上持ったプレイヤーを奇襲してそのまま勝ち抜け、か。
隣に立っていた串焼き先輩が俺の方に顔を向ける。
「村人、どうする?」
「どうするっつってもなあ、俺らが先に一抜けした所でポンが勝ち抜けないかもしれないだろ?だから合流優先かなぁ」
現在、俺と串焼き先輩の頭上にはそれぞれ130pt、102ptというポイント表示が出ている。暴れれば暴れるほどプレイヤーが寄って来るからあっという間にポイントが貯まってしまった。このまま勝ち抜けで上位16名に食い込むことも出来るが、変人分隊メンバーで本戦に行くと決めた以上、裏切る事も出来ない。ライジンなら裏切るけどポンだからなぁ……。
「ポイント表示がくっそ派手なせいでプレイヤー達が寄ってきそうだし、早めに駆け抜けるに越した事は無いよな」
なんかめっちゃキラキラしてるし。100ポイント超えた辺りで一定周期で謎のファンファーレが鳴りはじめたせいで隠れててもバレるんだよねコレ。絶対悪意あるだろ。
「走るか」
「了解」
潜んでいたプレイヤーの頭を【跳弾】を駆使して撃ち抜くと、俺と串焼き先輩は再び移動を開始した。
◇
「まだッ……まだですッ!こんなものじゃ足りません!もっと数で潰すぐらいでかかって来てくださいッ!」
空中を爆発しながら変態機動する姿が太陽に照らし出される。目を爛々と輝かせ、高らかに叫ぶのはポンである。
騙し討ちの相手を爆死させてから集団を一人で戦い抜き、戦闘の影響で集まっていたプレイヤーも一人残らず潰して回っている。その影響か、彼女は215ptという、現在の大会中トップのスコアを叩き出していた。
100ptを超えたらこの場を離れようと思っていた彼女だったが、途中から楽しくなってきて蹂躙の限りを尽くしていた。彼女を襲うプレイヤーも、襲わないプレイヤーも見境なしに爆死させていく。
「嫌だ、死にたくない!やめ」
「ここに来てしまったのが運のツキです、さようなら」
ポンが笑顔を浮かべながら拳を振るうと爆発が巻き起こる。至近距離の爆発を受けたプレイヤーはそのまま地に伏せ、ポリゴンへと姿を変える。
「楽しいですねぇ、楽しいですねぇ!やっぱり爆発は良いものです!ストレス解消の度合いが違います!」
後ろから襲い掛かってくる剣士に手をかざし、そのまま爆発させると、足元を爆発させて空中に躍り出る。
そして再び足元を爆発。移動速度を上げてMPを回復しようとしていた魔法使いに襲い掛かり、手に持っていたMPポーションを奪い取ると、一息に飲み干す。
「MPも尽きる心配はないですし……!存分に遊びましょうか、皆さん」
にこりと微笑む彼女を見て、プレイヤー達は身震いする。彼女の矛先がいつ自分達に向けられるか気が気でないから。
「行きますよ」
と、彼女が再び動き出そうとしたその時。
「なッ!?」
突如飛んで来た小柄なナイフが肩に突き刺さった。油断していたわけでは無いのだが、まさか当てられると思って居なかった彼女は、少なからず動揺してしまう。そして。
「な、に、れ」
ナイフに塗布されていた【麻痺】の液体の効果によって呂律が回らなくなり、身体が硬直してそのまま落下してしまった。
高い位置から落下した彼女は、勢い良く地面に激突すると、少なくないダメージを負った。
そのまま起き上がることも出来ず、ぴく、ぴくと痙攣して地面に突っ伏す。
(マズイ、マズイマズイマズイッ!)
他プレイヤーを圧倒していた状況から一転、窮地に陥ってしまったポンは、冷や汗をかきながら必死に身体を動かそうとするが、麻痺の効果は伊達じゃない。
「ふぅ。ちょっと暴れ過ぎなんだよなぁ、君」
「あ、たは」
プレイヤー達の合間を縫って一人のプレイヤーがこちらに歩み寄って来る。ポンが視線を向けた先には見覚えがある男が立っていた。
「お、きゅ、ら」
「どうも。ごめんね、こんな目に合わせて。彼と一緒に居たから少し警戒しておこうとは思ってたけどここまでとは。残念だけどキル数MVPは君には取らせないよ。それに、本選の出場権もね」
ニヤリと笑った男は、【サーデスト】で鈍色の槌前で遭遇した男、オキュラスだった。前に出て来たオキュラスを見て、周りのプレイヤーにどよめきが起こる。
「あいつってまさか……!」
「【はめ殺し】のオキュラスじゃね!?」
「その二つ名超絶ダサいからやめて欲しいけど確かにプレイスタイルがそうだから否定出来ないのが何とも言えないよね……」
はは、と頬をかきながら苦笑いを浮かべるオキュラス。そのままゆっくりと歩みを進めながら、にじり寄ってくるオキュラスに鋭く睨みを向ける。
「そんな怖い顔しないでよ。ただ殺す前に少しお話がしたいだけなんだ。……僕のクランに入らないか?勿論、
「な、にを」
柔和な表情でオキュラスは穏やかに話し掛ける。
「君達の才能は予想以上だった。君らが居ればこのゲームのメインコンテンツ、二つ名討伐も夢じゃない。僕らは特に縛るような事もしないし、どうかな?」
「【お気楽隊】勧誘とか……マジかよ」
「【黒薔薇騎士団】と同列の所だろ?超トップクランじゃねえか……!」
相当有名なのか、再び周りのプレイヤー達がどよめき出す。確かに悪くない提案なのかもしれない。トップクランではあるが、ノルマなどが課せられないのであれば楽をして甘い蜜を吸う事も出来るのかもしれない。……だが。
「……お言葉ですが」
呂律が回るようになった彼女は、身体が動かせない事にもどかしさを感じながらも笑みを無理矢理作った。
「私の居場所は一つだけなんです。……ごめんなさい」
彼女が思い浮かべたのは大切な人達。変人分隊というかけがえのない仲間達の姿だった。
断られるとは思って居なかったのか、少し呆気に取られた表情を見せるオキュラス。
「うおおおおお!!超トップクランの勧誘を蹴りやがった!」
「ヒャッホゥ嬢ちゃん男前ェ!ヒューヒュー!」
ポンの返事を聞いて周りのプレイヤー達が野次を飛ばす。すっかり固まっていたオキュラスは、かぶりを振って、薄い笑みを浮かべた。
「そうか……残念だ」
そう呟くと、オキュラスは長剣を抜き取り、ゆっくりと振り被る。落下のダメージもあり、振り下ろされたらHPは呆気なく全損してしまうだろう。
だが、彼女は恐怖心を抱く事は無く、口元を緩めて目を閉じた。
(ごめんなさい、渚君。あなたと戦いたかった)
迫り来る剣の気配を感じながら、ポンは終わりの瞬間を待つ。ほんの少しの罪悪感を感じながら。
長剣とポンの首が接触しそうになった瞬間。
「うちのクラメンを唆すんじゃねえよ」
容赦なく振り下ろされた長剣と
耳に届いたのは小さな舌打ち。そのまま誰かに抱き抱えられ、浮遊感を感じて目を見開いた。
「えっ!?」
「よっ、ポン。いやードゴンドゴン爆発音するから居場所が分かりやすかったわ」
「……」
「うわっ露骨に残念そうな顔すんなよ、悪かったな、愛しの王子様じゃなくて」
「なっ……!?」
左腕からフックショットを射出しながらため息を吐いたのはライジンだった。愛しの王子様という言葉に反応してポンは顔を赤に染める。
「分かりやすいこって。悪いけどこのまま移動させてもらうぜ。
「あ、あの!?どこまで知ってるんですか!?」
ポンが別の話題であわあわしている一方、ライジンは至って真剣な表情で逃走を続ける。それだけオキュラスという存在を警戒しているからだ。
【はめ殺し】のオキュラス。
間の抜けたような名前だが、その二つ名を付けるに値するプレイヤーである。そのプレイスタイルはとにかく『ハメ殺す』。例えば、状態異常、スタン、ノックバック、ダメージ硬直。システムの仕様上確実に生まれてしまう隙を継続させて繋ぎ続け、相手に反撃の機会を与えさせないというプレイスタイルである。
因みに、別のMMORPGでも【お気楽隊】という
ナイフが飛んできたのをフックショットを駆使して回避すると、口笛を鳴らすオキュラス。
「出たな、ライジン。相変わらずちょこまか動き回るプレイスタイルは変わらないようだね」
「人をGみたいに言うなっての!」
ライジンが叫ぶと今度は双剣でナイフを弾く。
双剣を戻し、再び前を見たライジンは眉を顰めた。
「その先に木は無いよ。久し振りにやろうよ、ライジン」
「……だぁ、クソ。このまま撒くのは無理か」
ちら、とポンの方を見るライジン。彼女が居なければ逃げ切れたかもしれないが、フックショットに二人分の荷重をかけ続けるのは負担が大きく、耐久度が著しく減少している。このままだと逃げている最中に壊れる可能性が高い。
「ポン、動けるか?」
「え?あ、一応麻痺は無くなりました!」
「すまないけど、あいつを二人で倒そう。それから馬鹿共と合流だ」
「……了解!」
「あいつは強いから最悪奥の手も晒してもらうかもしれないが、それでも良いか?」
「元々助けが入らなければ負けてましたしね。大丈夫ですよ!」
木からフックショットを外し、飛び込むように砂浜に着地すると、走って追いかけて来ていたオキュラスの方へと身体を向けた。
「ポン、ここからが正念場だぞ」
「はい!」
大会開始から一時間、有名プレイヤー同士の対決が始まろうとしていた。
◇
≪大会開始から一時間が経過しました≫
≪第二
戦いは、さらに激化する。
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