#044 大会開始前
大会当日。
ナイフを用いたこちらの世界での特訓も一通り終え、マップの予習とライジン達の新規スキルの予測をある程度付けたので準備は殆ど完了している。本番でアドリブを強いられることはあるかもしれないが、本選は明日の予定なのでまだ時間があると言えばある。予選でライジン達の動きも見てみたいしな。あわよくば新スキルも。
大会受付をしたセレンティシアのギルドでポン、ライジン、串焼き団子と共に待機していると、ライジンがポンポンと肩を叩いてくる。
「何それ、新兵器?」
「まあね」
ライジンが指を指して問いかけてきたので素直に答える。鞘から抜き取ったコンバットナイフを閃かせて試し振りしてから、ニッと笑った。
――――――――――
【水蜥蜴のコンバットナイフ】耐久度300/300
水蜥蜴の素材を用いて作られた近接用のナイフ。水蜥蜴の鋭利な爪を使用して作られた刃は軽々と標的を切り裂く。
STR+20 AGI+5(使用時)
――――――――――
余りものの材料を使って作ってもらったのでそこまで性能面で突出したものは無かったものの、程よい重量でとても使い勝手が良い。それに、形状自体は俺がモーガンさんに指定して作ってもらったので、Aimsで俺が良く使っているコンバットナイフにそっくりなので手に馴染んでいる。
「ナイフ、か。なるほど、多分ポン対策と見て間違いないかな?」
「ご明察。だが、それだけじゃねえぞ。ライジン、お前の双剣をこのナイフ一本でしのぎ切ってやるよ」
「言ってろ」
互いに笑い合いながら拳を合わせる。もう既に本選出場する気でいるつもりなのには理由がある。
バウンティハンターシステムの詳細を調べた結果、投票数で相手のみ大量にポイントを得られるのは公平性に欠けるため、制限時間まで逃げ切る、もしくは百ポイント以上で勝ち抜いた場合は投票数がそのままポイントとなって加算されるようになるらしい。だが、これではポイントMVPが投票数ぶっちぎり一位のライジンが逃げ切れば確定になってしまうので、逃げ切ってor勝ち抜いて得たバウンティーシステムのポイントは本選出場の基準となるだけで、MVPのポイント換算システムとは別カテゴリになるそうだ。
MVPを目指したい俺としてもその方が助かる。一キルもしないでMVPとか洒落にならないからな。
くるりと振り返り、串焼き団子の方を向くと、少しやつれているような顔をしていた。
……大方、徹夜明けだろう。
「串焼き先輩は何か準備とかしてきたの?」
「いや…昨日も練習試合があってあんまりできなかった……。しかもシオンがその後買い物連れてけって遠方まで車運転させられたからマジでしんどい……」
「それはお疲れ様ですわぁ……」
串焼き先輩はうつらうつらとしながら目をこする。職業柄徹夜とか慣れているだろうにこんなに疲弊しているのは珍しい。……まあ、大会始まればテンション戻るだろ、多分。
「つかライジンお前…シオンをたぶらかすんじゃねえよ……」
「え?俺ですか?」
いつもなら怒涛の勢いで責め立てるだろうにどことなく覇気を感じない。くぁ、と一つあくびをして目元に溜まった涙を拭うと、困惑しているライジンに向けて串焼き団子は言葉を続ける。
「お前の動画見てシオンが目ぇキラキラさせてんだよ……。最近あいつ笑顔を見せるの増えたし、確実にお前関連なんだろうってのは証拠上がってんだぞ……」
「証拠も何も八つ当たりでしかないんですがそれは」
「村人は黙ってろ……」
いや証拠というか完全に思い込みだろうそれ。まあ、紫音の奴もライジンに好意持ってるみたいだしなぁ……。笑顔を見せるのが増えたというのは惚れた影響とかそういうのだろう、多分。
結局ライジンじゃねーか!(結論)
まあ二人とも両片思いみたいなとこあるからな……。好意を示してるのに気付かない鈍感野郎どもだぜまったく。傍から見れば簡単に分かるというのに。けっ!幸せに爆死しろ!
脳内で爆発の
「まあいいや。ポンはどう?コンディションは?」
「はい!完璧です!ちゃんと睡眠もとりましたし、エナドリでブーストも掛けました!」
「それは何より。予選、ポンは大量にキル取らなければならないけど頑張ろうな」
そう言ってふっと微笑みかけると笑顔で「はいっ!」と言ってガッツポーズを作るポン。
最終的な投票数が一番多いライジンで24160票、串焼き先輩が2016票、俺が1298票。そしてポンは……驚愕の0票なのだ。普段からヘイトを稼ぐような行為はしていない上、ライジンの動画に出演するも、女性ファンからの妬みの投票は入れられることは無く、コメントを見る限り『可愛い』『あわあわしてるの本当癒し』『やべー奴らに囲まれた可哀想な子』という共通認識があるみたいだ。おうお前らその可愛い子に爆死(物理)させられるから覚悟しとけよ。誰がやべー奴じゃ。
「ポンのその籠手、どんなスキルか知らんけど、楽しみにしとくわ」
「……ふふ、やっぱり気づいたんですね。出来れば本選までこのスキルを取っておきたいですね。見せるときは度肝を抜かせてみせますよ」
自信満々に腰に手を当てて胸を張るポン。それに対して俺はその肩に手を乗せてニヒルに笑う。
「おう。まあ、予選で大量にポイント稼がないとだから見れないかもしれないけどな」
「なっ、酷いですよぉ!」
そう言ってポカポカ叩いてくるポン。それに対してはははと笑うと、頬を膨らませる。
「いいです、見せてあげます。私の本気」
「それは頼もしいけど観戦者引かせない程度にな。本気を出し過ぎると本当容赦なくなるからな、ポンは」
思わず俺が頬を引きつかせながら呟く。グレポン丸ってバレるんじゃねえだろうな?まあ、バレたところで美少女という事が発覚して花火大会スレが湧くだけだから別にいっか。
「ちょい、お二人とも、そろそろ作戦会議」
「お、了解」
ライジンの掛け声で俺とポンは串焼き団子とライジンの所に赴く。
周囲を確認してから、近寄り、小さな声で話し出す。
「取り敢えず大会が開始したら集合する方針で。合流までは自由に暴れて構わない。このチームから一人でもMVPが出たら上出来、つーか誰か取れ。以上」
「作戦もへったくれもないけどまあその方が縛られなくてやりやすいしね。了解」
「集合場所は昨日メッセ飛ばしたところで。大会中はメッセとか飛ばせないみたいだから場所の確認だけしといてくれ」
「分かりました」
ちら、と横目で見てみると、やはりこちらに向けられる視線が多い。このチームだけでもバウンティハンターでのポイントが三万ポイント近くあるのだ。集合場所を知ることが出来れば待ち伏せで奇襲できるしな。だが、しっかりそこら辺は事前に打ち合わせしてるんだ。悪いな。
≪大会開始一分前です≫
ああ、やはりPVPは心躍る物だ。自然と笑みがこぼれてしまう。
「よし、手段は問わない。みんな、絶対に生き残れよ」
「当たり前だっての。俺一人でも生き残ってやるわ」
「村人も慢心して背後取られないようにな」
「分かりました!」
互いに拳を合わせて獰猛な笑みを浮かべる。徐々にその拳が薄れていき、周りの景色もぼやけていく。ランダムテレポートの合図だろう。
≪大会開始時刻となりました。転送します≫
さぁ、楽しい楽しい
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