#043 久々にやるゲームはまた格別
≪テロリストを制圧し、人質を奪還せよ≫
「久しぶりのこの空気!嗚呼素晴らしきかなAims……!」
不完全燃焼で非常にモヤモヤしたので俺は今、別の世界へと足を踏み入れている。
穏やかな空の下、仲間たちと和気藹々と敵Mobを狩りに草原へ――否。硝煙の匂いが立ち込め、銃声が鳴りやまない戦場を駆けているのだ。
Aims。自分の原点であり、日本では頂点を掴んだ自らが最も敬愛するゲーム。
一週間とちょっと離れているだけでも大分懐かしく感じるな。やはり自分はこの環境が一番力を発揮できるように感じる。
今の装備はナイフ一本とハンドガンのみという超軽装備。ゲームモード【テロハント】の特殊部隊フェーズ、人質の回収に向かっている最中だ。
単身で先行して敵部隊の基地に向かって突撃し、窓に設置された簡易型のバリケードを破壊するとその身体を基地内へと潜り込ませる。
『傭兵、突っ込みすぎだが……行けるか?』
「
視界端のチャットログに端的に返しながら、音を立てないように廊下を突っ切っていく。
ああ、久しぶりだ。この感覚、この臨場感。モンスターではない、人と人との読み合いの戦い。
知能が高いゴブジェネのような相手もある意味対人に近いが、基礎能力が違い過ぎる。
互いにフェアな制限下で自身が今まで築き上げてきた物を総動員し、全身全霊でぶつかり合う。
それが堪らなく好きで俺はFPSにのめり込んだのだ。
全身黒のユニフォームを着る事で影とほぼ同化できる装備で隠れた俺は、
「【籠城基地】の内装のカメラは八つ、人質はB1、B2、1F、2F、3Fのどこか…」
今までの対戦と、カスタムゲームで何度もマッチを行ったことで全ての内装が完全に脳内に叩き込まれている。敵の大体の遊撃ルート、置き打ちポイント、罠の設置傾向は把握しているから、それと人質位置を逆算すれば簡単に相手の位置と罠の位置が割り出せる。
チャットログに『人質3F金庫』と書き込まれる。それを見て俺は「
3F時は基本的に1F遊撃は稀、たまに
俺はそれを見越してカチャリと暗視ゴーグルを取り付けながら2Fへと続く階段へと影を伝いながら走っていく。
(……カメラ見てやがるな)
階段前に設置されたカメラが動いている音を聞き、俺は思考を巡らせる。
簡易バリケードの割れる音を聞いたからだろう。恐らくは1F遊撃の人間か、人質近くに潜んでいるプレイヤーが確認しているのだろう。音が聞こえたとするならば1F遊撃の人間だと仮定して動くか。
俺は懐から小さな設置型カメラを取り出してカメラの死角になるようにひっそりと設置する。
『設置カメラ配置。確認できる方は見ていてほしい』
『ok』
俺が思考入力でチャットを打ち込むと、即座に返信が帰ってきて、小型カメラの起動音が聞こえてくる。
これでokだ。カメラを見ている間は基本的に無防備な事が多い。ずっと見続けてくれているなら好都合だ。
「
よく使われるテンプレな
「取り敢えず倉庫からしらみつぶしに走っていくか」
俺はそのまま踵を返すと、反対側にある倉庫に向かって走り出した。
◇
……いた。相手は全く気付いていないどころか、カメラを見るのに夢中になって声を漏らしてしまっている。
「ったく、一階に入ってきたんじゃねえのかよ!ちっつまんねー、裏取りしてオールキルしてやろうと思ったのに」
イライラしているのだろう。刺々しい言葉が聞こえてくる。きっと彼の言う通り、このまま上手くいけば裏取りは成功していたかもしれない。だがな。敵がいないと思い込んで大声を出している時点で裏取りなんて出来っこないしオールキルなんて夢のまた夢だ。
俺は倉庫の入り口近くの影で
「しゃーねー動くか。一応二階に入ったのは分かってるからバレないように……」
すくっと立ち上がる音がする。その音に俺は全神経を集中し、息を殺す。
仕掛けるのは入り口を出た瞬間。完全に注意が他に向いている今なら難なく制圧できる……が。
スタスタと入り口に向かって歩く音。歩くという動作で音を出している時点で減点。最終的には走っても極力音を立てないのがこのモードでの到達点だ。
きっと彼はまだ始めて間もないのだろう。なら、先輩が直々に教育してやろうじゃないか。
入り口から飛び出した瞬間、死角から詰め寄りポンっと肩を叩く。すると、驚いたようにこちらに振り返ると身構える相手プレイヤー。……気付かれたと思ったら反射的にナイフを抜き取るか銃口をこちらに向けるのが正解だ。
「な、なんだよ!くそ、エイムもまともに出来ねえ雑魚がイキりナイファーとか舐めてんじゃねえぞ!」
……ほう?これでも日本一位のチームのスナイパー専門なんだがな。まあいい。
ようやくナイフを抜き取り、こちらに向けると一気に突っ込んでくる。
それを見ながら、突っ込んできた相手の腕を掴むと、グイっと手前に引っ張り、体勢を崩した所で軸足を足払いする。
「うわっ!?あぐっ!?」
そのまま腕を掴み続け、どさりとうつ伏せに倒れ込むプレイヤーに馬乗りになるように乗ると、ナイフを抜き取り、顔と共に近づける。
「仲間の位置を吐け。吐かないと腕を折る」
「いでででで!!」
ミシ、と相手のL字に折り畳まれた左腕を徐々に顔側に上げながら言うと、悲鳴を漏らした。
実際は完全な痛みは伴わない筈で、強い痺れで済む筈なのだが、初心者が良くやる痛覚機能の数値を最大まで上げているのだろう。それはそれで緊張感があるのだがこういった状況になることもあるためベテランはみんな基本的に低い数値で留めている。減点。
「くそが、つまんねえことすんなよ!FPSは銃を撃ち合ってなんぼだろ!」
「それは分からないでもないが人のプレイスタイルなんて自由だろ。勝手な持論でプレイスタイルを強制すんなっての」
冷ややかな声で告げる。そりゃあ俺だって撃ち合いしてる方が楽しいけどさ。今はポン対策の特訓がてらCQCモドキの感覚を取り戻すためにこのモードをやってるんだから。
「さて、無駄口はもういいか?さっさと吐いてすぐ楽になるか時間いっぱいまで苦痛を味わうか選べ」
そう告げてナイフを首にそっと当てると、赤いポリゴンが発生する。
それに応じて「ひっ」と悲鳴が漏れた。
「ぜ、絶対言わないからな!」
「まあ言おうが言うまいが関係ないがな。てってれー!『自白剤』ー!」
俺がにこやかにナイフを仕舞ってからその代わりに特殊な液体が込められた弾丸が入ったハンドガンを取り出すと、ぴく、と頬が引きつるのが見えた。うんうん、良い反応。
「割と一発の値段張るんだよなーコレ。まあ、大体一人捕まえれば勝ち確定みたいなもんだから当たり前っちゃ当たり前だけど」
そう言ってセーフティを外してから首へと突きつける。
「どう?言う気になった?」
「は、ハッタリなんだろ?」
「残念ながら自白剤入りの弾丸はアイテムショップで累計100万クレジット以上購入すれば買えるようになるんだよなぁ……。プレイが足りてない、減点」
「減点ってなんだよ!?」
おっと、声が出ていたか。まあいいや減点だし。
トリガーに指を掛けて、口を開く。
「あ、冥土の土産に教えてやるけど俺の名前は傭兵A。クソエイム呼ばわりしてたけど多分ネットで検索かければ分かると思うから」
クソエイムじゃなくて実際はエイムが出来ない雑魚、だけどな。まあ似たようなもんだろ。
カシュン!と気の抜けたような発砲音が響くと、相手プレイヤーが項垂れる。
自白剤という名の弾丸は相手プレイヤーを即死亡扱いさせて端末の情報を抜き取ることが可能になるというほぼチートアイテムである。ただ、ゼロ距離でしか当たらないので滅茶苦茶使いづらいアイテムではあるが。
そのまま相手の懐にあった端末と自身の端末を接続し、ハッキングアプリを起動させる。すると、相手端末の情報がこちらに流れてくる。
「さてさて、これで後は端末の情報を流して、と」
端末を操作して味方に敵の位置情報などの情報を流す。これで後は待つだけで味方が楽々制圧してくれるだろう。
「はー、やっぱ対人楽しいなー」
息を吐いて口角を上げる。
まあある意味初心者いじめみたいになってしまったが、この経験を次に活かしてくれると信じよう。うん。
◇
味の薄いコーヒ―を口にしてほう、と一つ息を吐く。
このコーヒーもご無沙汰だ。特に美味しいわけではないんだけど癖になるんだよね。
あの後も何試合かやって感覚を少し取り戻すことが出来た。たまにこっちに遊びに来た方が良い息抜きになるな。
コーヒーブレイクしていると、ふと見覚えのあるプレイヤーが視界に入る。
すると、向こうもこちらに気付いたようで、こちらに近寄ってきた。
「おう!傭兵A、inしてたんだな?」
「おひさ、ボッサン」
そのプレイヤーの名前はボッサン。変人分隊参謀兼唯一の常識人メンバーである。
「もう飽きたのか?」
「いや、向こうも楽しいんだけど、こっちに少し戻って感覚を取り戻したくて」
「なるほどな。最近みんな向こう行ってるから俺も買っちまったよSBO」
「マジ?」
俺が驚くと、はっはっはと笑いながらサムズアップするボッサン。
「だけど中々手が伸びなくてな…。長時間インしないとやっていけないから仕事が落ち着いてから俺も参戦しようかと」
「そっか。あ、クラン作る予定だから枠空けとくよ。折角だし」
「お、それは助かる」
「まあ長い付き合いだし。……そういえば、厨二は?あいつもインしてるんじゃね?」
「それがなぁ……。最近あいつ見ないんだよ。四六時中インしてリボルバー愛でてるようなあいつがいないなんて不気味に思ってな」
「ふーん……」
ボッサンの言葉を聞いてフレンドリストを開くが、厨二はオンラインにはなっているがAimsにはログインしていないようだった。別ゲーでも発掘したのかな?
「……まあいいか」
「あ、これから【コントロールポイント】籠るけど来るか?」
「おっけ、今日は特にもう向こうに戻る用事無いしずっと付き合うよ」
コーヒーを飲み干すと、立ち上がってボッサンの後を付いていった。
こうして少し違和感を抱きながらも俺は久々のAimsを楽しんだのだった。
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