#041 VSゴブジェネ その二


『本当に行うつもりですか!?』


「当たり前だ。頼むシャドウ、時間が無い!」


 内心少し焦りながら早口で言うと、シャドウが少しだけ逡巡する。だが、やはりマスターであるプレイヤーには逆らえないのか、ゆっくりと動き出す。


『…では、スキル生成システムを起動します……。主人マスター、危険を感じたらキャンセル致しますのでご了承願います』


「すまないな、よろしく相棒」


 敵に見つかったら即アウトの状況下、前代未聞の戦闘中でのスキル生成に挑む。

 一つ深呼吸をすると、シャドウが周囲を漂い始めた。


 イメージは先ほど塗り固めた。隙を生むためのスキルでどんなものが良いか悩んだ結果、パッと思いついたのは

 では、視界潰しに良く使われる存在とは?

 それは、Aimsという戦場に身を投じ続けてきた俺にとっては、毎試合と言っても良いほど使われ、見飽きてきた存在。

 だからこそイメージするのも容易で、完成したとしてもすぐに使うことが出来るスキルだ。


『対象解析中……分析中……』


 それはごく一般的なFPSでも使われる存在。

 対象の視界を真っ白に塗りつぶし、時には一時的に聴覚を失わせる投擲型のアイテム。

 意識を逸らす目的でも良く使われ、今の俺がもっとも必要としてるスキル。


『スキル自動生成システム起動……形成中……形成、完了』


 さあ、来い。俺の切り札を使うための切り札。



――――――――



【スキル生成システム】


スキャニングの結果、【フラッシュアロー】スキルが作成されました。

この結果で確定しますか?


【YES】【NO】



――――――――


 俺はその結果を見るや否や、即座に【YES】を押す。


――――――――



【フラッシュアロー】必要スキルポイント20pt 【MP消費5】


魔力を消費して強い閃光と炸裂音を発生させる矢を生成するスキル。



――――――――


 俺は結果を見て小さくガッツポーズを作る。

 完成だ。新切り札、『スタングレネード』の弓矢版、【フラッシュアロー】。

 このスキルが俺の想像通りならスタングレネードの効果をそのまま専用の弓矢として圧縮させたようなスキルだろう。

 対モンスターの視界奪取はもちろん、対人でも十分に活かすことが出来る。元々生物用の道具だしな。


 スキルを作成し、スキル欄に入った事を確認すると、俺は思考をすぐさま切り替える。


「シャドウ、もう一つ作るぞ」


『ま、まだ行うつもりですか!?』


 シャドウが狼狽えてしまうのも無理ないだろう。先ほど覗き見した時、ゴブリンジェネラルは既に火だるま状態から抜け出し、斧で木を薙ぎ払いながら俺の事を血眼になって探していたのだから。

 だが、このスキルだけだと根本的な部分が解決しない。


「すまんが頼む、見つかる前に……!」


『……分かりました。スキル生成システム、起動します』


 俺の根本的な問題というのは、という問題だ。

 弓使いなら必ずしも通る道で、そもそも弓使いというのは一撃の火力が出る代わりに、いちいち矢を装填しないといけないデメリットがある。

 これが中々に大きいもので、装填している間は他の事が出来ず、ある意味相手に隙を見せるようなものだ。

 FPSだって同じだ。銃器はマガジンをリロードしなければ発砲することが出来ないし、リロードのタイミングで詰められることなんてザラだ。

 しかし、この世界はファンタジー。【スキル生成システム】というとんでもない存在がある以上、そのリロードのを作ってしまえば良い。

 そうすれば隙は減り、結果的にこっち側の攻撃の時間は増え、リロードの必要が無い武器を持った相手とも戦いやすくなる。


 つまり。


『スキル自動生成システム起動……形成中……形成、完了』

 

 俺が望むもう一つのスキルは―――。


――――――――



【スキル生成システム】


スキャニングの結果、【自動装填オートリロード】スキルが作成されました。

この結果で確定しますか?


【YES】【NO】



――――――――


 自動装填オートリロード、そのものである。

 再び【YES】をタップして結果を確認する。


――――――――



自動装填オートリロード】必要スキルポイント15pt 【MP消費1】


矢を放った後に魔力を消費すると自動的に矢筒から矢が装填されるようになるスキル。



――――――――


 魔力消費型にしたおかげでスキルポイントは緩和されたけど、それなりにポイントを食うな……!

 だが、このスキルの効果は非常に大きい。これにより装填時の隙は大幅に軽減される上、先ほど作成した【フラッシュアロー】とも相性が良い。相手からすればいつ閃光が飛んでくるのか読みにくくなるのだから。


 スキルを取得すると、先ほどまでの戦闘で消費したMPを回復するためにMPポーションを一息に飲み干す。


「完璧だシャドウ、あいつを迎え撃つぞ」


 これで、奴の対策はOK。頭部を吹き飛ばされても復活するような相手をどうやって仕留めればいいか分からないが、取り敢えず攻撃あるのみだ。


 そして、先ほど【彗星の一矢】を使用して思いついた技がある。

 マンイーター戦で閃きそうになっていた『多段ヒットによる複数ダメージ』。今までは矢を当てても貫通までに至ることは無かったが、【彗星の一矢】及び、【水龍奏弓ディアライズ】の通常攻撃で相手を軽々と貫通する事を確認した。


 なら、この貫通という要素を最大限に活かすには?

 

「行くぞゴブジェネパイセン……!先ほどよりも痛いぞこの攻撃は…!」


 【水龍奏弓ディアライズ】に矢をあてがうと、ギリリと引き絞り始める。


 【チャージショット】発動、跳弾弾道計算開始、演算完了。【彗星の一矢】発動…!


「今までは跳弾は壁に反射させてから当てるものだと認識していたが…!」


 矢が青いオーラに包まれる。体の底から力が吸いあげられるのを感じながら、力強く矢を引き絞る。


「特大ダメージが威力を増しながら何度も当たる地獄を、とくと味わいやがれ!」


 答えは、跳弾射線上に敵を絡めてしまえば良いじゃない。


「【彗星の一矢】ァァァァアアアア!!!」


 ゴブリンジェネラルの顔がこちらに向く。醜悪な笑みを浮かべてこちらに近付こうとするが、ぴたりと動かなくなった。俺の【彗星の一矢】を先ほど動いた結果当たったのを学習したからだろう。

 だが、そんなことはだ。

 ゴブリンジェネラルが矢を掴み取ろうと考えたのか、斧を投げ捨てて両手を空にした。

 残念だったな、俺が今から放つのは跳弾後に当てる【彗星の一矢】ではない。


 一発目から当ててヒットさせる【彗星の一矢】なんだよ。


 最大限までに引き絞られた矢は青と白のエフェクトを帯びて、真っすぐにゴブリンジェネラルの下へと飛び立った。

 普通の矢なら対応出来たかもしれないが、この一撃は水龍の奥義を模した高速の一撃。

 ゴブリンジェネラルの金属鎧を軽々貫いて赤いポリゴンを宙に舞わせると、後方にあった木に当たって跳弾する。

 直撃を受けたゴブリンジェネラルは貫かれた腹部の穴を抑えると、片膝をついた。


 今回はすぐに放たなければマズイと判断してバックショットを打たなかったので、痺れるような反動を三秒間その身で受けながら、笑みを作った。


「一発では終わらないぞ、ゴブジェネ!!」


 苦しそうに項垂れるゴブリンジェネラルに、【跳弾・改】の効果が発動し、より一層火力が増した矢が飛来する。


『gyraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


 再びその身体を矢が貫くと、悲痛な叫び声をあげた。

 だが、まだ矢の勢いは止まらない。地面と木を反射しながら、その猛威を増してゴブリンジェネラルに迫りくる。


「さしもの化け物耐久力のお前でもこれは効くだろ…!」


 跳弾限界近くまで行けば頭部を爆砕するような威力の矢が何度も何度も当たるのだ。これで効かないとか言ったら泣くぞ、マジで。


 そんなことを思いながら残り数が心もとなくなったMPポーションを取り出して飲み干す。


『guraiiiigiiiiiiiiaaaaaaaaa!!』


 だが、奴もこの程度では終わらないと立ち上がり、矢を鷲掴みにしようと構えるが――。


「【フラッシュアロー】、【自動装填オートリロード】」


 矢筒に出現した黄色く光る矢が自動的に弓に装填され、その矢を引き絞り、すぐさま放つ。


 放った【フラッシュアロー】はゴブリンジェネラルの目元にまで飛来し、即座に反応したゴブリンジェネラルの手が矢に触れると、凄まじい閃光を発しながら炸裂する。


『guruururuauuruaaaaa!!?』


 恐らくチャージショットを発動させた【バックショット】か何かと勘違いしたのだろう。視覚だけでなく、聴覚にまで影響を及ぼす矢は、間近で浴びたゴブリンジェネラルを一時的とはいえ無力化する。


 そして、その無防備になった体に再び脅威が迫りくる。


「これが跳弾彗星コンボの真髄ィ!落ちろゴブジェネェェエエ!!!」


 中指を立てながら貫通し続けるゴブリンジェネラルを見つめていると、事態は急変する。


『gyurararararararara!!!!』


 突如、真っ赤なオーラを吹き出しながら【彗星の一矢】を弾き飛ばしたのだ。


「ちょっと待て!?それはねえだろ!?」


 こいつも発狂モードがあるのか!?待て待て、それは聞いてない。絶対こいつの発狂モードとかろくでもないだろ……!?


 ゴブリンジェネラルの傷が急速に回復していき、先ほどの貫通によって向こう側が見渡せた腹部の傷も完全に塞がる。

 そして、奴が手を掲げると、真紅の斧が吸い込まれるようにして二本…二本!?


「二刀流とか嘘だろお前!?」


 二刀流じゃなくて二斧流か!?

 いや傷が治ってるとかそこら辺も突っ込みたいけどさ!それはちょっとまずいだろ!?


 ゴブリンジェネラルはその真紅の斧を両手で掴み、交差させるようにして高く掲げる。


『グルルルルォォォォオオオオオオオオオオ!!』


 頭部が修復しきったことにより、元の声へと戻ったゴブリンジェネラルは、大きく二本の斧を振りかぶって……。


「待て、今は視覚と聴覚が潰れているはずだ、当てられるわけ……」


 と、ゴブリンジェネラルを見ると、鼻がすんすんと動いているのを確認した。


 あー、嗅覚……。


「三十六計逃げるに如かずぅ!!」


 やっぱこいつには逃げが最適解だな、うん!!

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