#040 VSゴブジェネ その一
「さっきの一発の様子からして通常攻撃でもダメージは入ったっぽいよな」
高所からの飛び降りざまの一発を思い出す。あの時の攻撃は確かに金属鎧を貫いていた。これは【水龍奏弓ディアライズ】の火力が奴の装甲を上回ったことに他ならない。恐らくは【水龍奏弓ディアライズ】の説明文に書いてあった『放たれる矢に水エネルギー付与』が影響しているのだろう。硬い装甲をも貫くって書いてあったし。
ふっと息を一つ吐くと、再びゴブリンジェネラルを覗き見る。すでに火だるま状態から抜け出していて、眼を血走らせながら俺の事を探しているようだった。
「良いねえ、良いねえ!成長したことを実感できるってのはいつ感じても良い物だ!」
前回対峙した時は遠すぎる差に絶望したものだが、今はそんなことは無い。攻撃は通る、行動もある程度は分かる、絶望感もない。うん、勝てるんじゃね?(慢心)
矢を装填しながらギリリと引き絞り始める。
「まだ視認されていない今ならチャージショット、跳弾改、彗星コンボ打てるか?」
現状出せる最高火力。火力モリモリハッピーセットと言わんばかりの詰め合わせだ。これで耐えるなら相手は化け物としか言いようがない。……なんか普通に耐えそうな気がしてきた。
だが、こんな状況は本格的に戦闘が始まったら二度は無いだろう。
「チャンスは一回、俺の最高火力の試し打ち。雑魚だと一瞬で消し飛ぶから測定できないけど……」
お仕置き専用に最強個体と化しているあいつなら。
硬直回避用に一発【バックショット】を発動した矢を放ち、再び矢をすぐに装填する。
【チャージショット】発動。徐々にスタミナが減少……俺の身体から力が抜けていくような感覚を感じていると、矢は徐々に黄色に光っていく。そして跳弾演算。跳弾上限は30回だが無理は禁物。25回でとどめておきながら演算を完了させる。見ていろゴブジェネ、これが俺の出せる最高火力だぁぁぁぁあああああああああああ!!!
「【彗星の一矢】ぁあああああああああ!!!!」
モーションアシストが入り、矢を引き絞る力に尋常でない力が入り込む。
限界まで引き絞るうちに黄色と青のエフェクトが混在し、鮮やかに矢を彩っていく。
俺の咆哮にも等しい掛け声に、ゴブリンジェネラルがこちらへと視線を向けるが問題ない。
限界を迎えた矢はすさまじい勢いで放たれ、木々を爆速で反射しながら、25回目の跳弾でゴブジェネに当たるように迫っていった。
『グルァァァァ!!?アアアアアアアアアアアア!!!』
矢に一瞬びくりと身体を震わせるも、いつか見た真っ赤な斧を構えながら、こちらに猛進してくるゴブリンジェネラル。残念だったな、俺の跳弾計算は
発動硬直でビリビリと電流が走ったように動けなくなった体に、先ほど放った【バックショット】が当たり、俺の身体を容赦なく吹き飛ばす。
まだ【跳弾】のレベルが低いので【跳弾改】のダメージがかなり痛いが、それでもメリットの方が大きい。
吹き飛ばされながら、俺はニヤリと笑みを浮かべる。
「その余裕綽々とした顔面を苦痛で歪めろォ!」
悪役張りのセリフを吐きながら、最後の反射を終えた矢を眺める。
こちらにしか意識を向けていないゴブリンジェネラルは気付かない、気付けない。
青いエフェクトをまき散らす矢はその無防備な後頭部へ吸い込まれていく。
「吹き飛べえええええええええ!!!」
ズドン!!と凄まじい威力を物語るように衝撃波を発生させ、ゴブリンジェネラルの頭部が吹き飛んだ。……吹き飛んだ!?
「いやマジで吹き飛んだのかよ!?ぐへっ」
テンションが最高潮だったから言ってみただけなんだけどまさか本当に吹き飛ぶなんて思わないだろ!?
頭部を失ったゴブリンジェネラルはその突進の勢いのまま木々をなぎ倒し、転がるようにして倒れ込んだ。
俺はバックショットで吹き飛んだ衝撃で地面を転がると、ゆっくりと立ち上がると弓を背中に担ぎなおした。
ピクリとも動かなくなったゴブリンジェネラルを見て、じわじわと倒したという実感に包まれ、自然と口角が上がっていった。
「マジで勝っちまったよおい……!」
あまりにあっけなさすぎる幕切れに呆れそうになりながらも、リベンジを果たせたという感触に拳を握る。
「ふはははは余裕すぎたなぁ!火力は正義!正義の前に悪は滅びるのだぁ!?」
ガッツポーズを作って喜んでいると、ふと少し前に感じた違和感を再度感じる。
ちょっと待て、なんで頭部吹き飛んで動かなくなったのに
あ、お仕置きMobだから戦闘判定じゃないとか?うんうん、そうだよな、そうしてくれ。
「フラグ建築士一級が取れそうな気がしてきたわ」
俺は目の前の光景を見て白目になる。
そうやってすぐにフラグを回収しに行く癖はどうにかした方が良いよなぁ。
ピクピクと動き始めたゴブリンジェネラルは、頭部を失うも何かを探すように指を動かして、手放した真紅の斧を確かに鷲掴んだ。
「オッケーオッケー、流石運営の悪意の集大成、頭部損失程度じゃあ落ちたりはしないと」
腕を組んでうんうんと頷く。ゾンビでも頭部吹き飛ばせば死ぬというのに(個体差)こいつときたら…!
ぐちょぐちょとグロテスクな音を立てながら頭部が徐々に再生していき、完全に治り切っていない目でこちらを確認すると、口らしき何かがニィッと動く。なにこれR18?
「ポンが見たら卒倒しそうだなこれ」
思わずそんな感想を漏らしながら、くるりと後ろを振り返る。
いや、割とポンはこういうの強いんだっけか?今度映画でも見せてみるか(現実逃避)。
『gyurrururririirriiiiii!!!』
「SAN値すり減らすのやめてえええええ!?」
おぞましい叫び声を上げながら、この世の物とは思えない醜悪な何かが動き出す。
俺の身体もそれと同時に動き出し、追いつかれまいと半泣きになりながら逃走を開始した。
◇
「いやこれこの前より攻撃激化してねえか!?」
真紅の斧が投擲され、すんでの所で回避した俺は止まることなく必死に足を動かす。斧は木々にダイレクトアタックするとその切れ味を示すかのように突き刺さることなく、両断していく。
前回と同じならばあの斧は状態異常を付与する液体が塗布されているだろう。かすっただけでも状態異常を発生させる程の強い液体だ。当たるだけでアウト、いわゆる【オワタ式斧】と言ったところか。
「突進も超火力、斧はオワタ式、耐久も申し分ない。なにこの魔改造」
部位損失などは動きを止められるがそれもすぐに修復されてしまう。状態異常も火だるま状態から燃焼の状態異常になっていなかったから多分無効、臆することなく突っ込み続けるタフネス。マジで隙がねえな。
「【バックショット】!」
俺が振り返りざま放った矢をゴブリンジェネラルが鷲掴むと、その握力でへし折る。
おまけにこれだ。あいつ、ボスモンスターと同様に自立思考AIが搭載されてる。カテゴリだけで言えばあいつもボスなのかもしれないが、学習機能が尋常じゃない程優秀で、即座に対策される。
バックショットも一発当てた時点でもうその性質を覚えやがった。
舌打ちを一つすると、対策を考え始める。
「多分かなりダメージ自体は入っているから【彗星の一矢】を当て続ければいつかは落ちるか?」
そのいつかがいつなのかは分からないが。それに、先ほど出した彗星の一矢が最高火力ではあるが、完全にロックオンされている状況である今だと最高火力を出す準備をする余裕はない。
「ロックオンが外れる状況を生み出す?いや、そんな状況を生み出せる手段は今の俺には……」
ん?と自分の発言をもう一度思い起こし、再び口にする。
「
そうか、と続けて口にした。
今の自分に足りなかった物。相手が猛攻を仕掛けている状況だと自分の必殺技を発動できないという弱点。その弱点を克服するには、相手にこちらから意識を逸らさせる手段を
少しだけ見えた一筋の光明。少しずつイメージを塗り固め、それを形にしていく。
先ほど投擲した斧の付近を過ぎてから少し走ると、くるりと後ろに振り返る。
「せぇえええい!」
『gyuriiioooooo!!?』
斧を回収していたため無防備になっていたゴブリンジェネラルにボムを投擲すると、流石に対応できなかったらしく、直撃を受ける。
刹那、巻き起こる爆炎。衝撃と業火に焼かれ、再び火だるまになったゴブリンジェネラルから距離を置くように逃げると、視界に入らないように離れた木陰に身を隠す。
「シャドウ、居るか!?」
『はい!私はいつもあなたのそばに』
この隙を無駄にはできない。少し慌てた口調でシャドウを呼び出すと、即座に反応が返ってくる。
戦闘中でも呼び出せるんだな、と一安心すると、続けて俺の要求を口にする。
「
『なっ!?今は戦闘中ですよ!?危険です!』
危険でも出来るんだな。その事を確認した俺は、一か八かの博打、これに賭けるしかないと冷や汗を流しながらニヤリと笑みを作った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます