#039 昂った感情の赴くままに


「さてさて、どれぐらいの威力が出るのかな……」


 掌の上で転がすのはミニボムの上位互換のアイテム、【ボム】。ミニが消えただけと思いきや、その値段はミニボムの十倍。正直高いなと思いはしたが、あの爆発至上主義のポンがコレを買わない筈がない。

 試しに二、三個買ってみたがボムを主な武器として使うとなると一瞬で資金が溶けそうだ……。

 大きく振りかぶって投擲すると、きょろきょろと辺りを見回していたゴブリンに着弾し……。


 ズドォォォォオオオオオオオオオオン!!


「……ッ!?」


 凄まじい熱波と爆音。一応距離を置いて高い所から投げてみたのだが、この場にも伝わる程の衝撃。爆炎をまき散らしながら森林を容赦無く焼いていくその様は…。


「嗚呼懐かしきかなAims……」


 Aimsの中威力ロケットランチャーを彷彿とさせる威力だった。

 まだAimsから離れて一週間ほどだがそれでも酷く懐かしく感じた。オフラインモードでやたらロケラン乱射してくるボスがいたんだよなぁ……。ネタプレイでロケランの弾撃ち落とす練習をした頃が懐かしい。


「さて、問題はこれが素の威力だという事だよな……」


 そうなのである。実際の所威力としてはポンの【爆弾魔ボマー】スキルを発動させた【ミニボム】の三割増しぐらいと言ったところか。この威力にさらにスキルの効果が上乗せされるとなると……。


「最悪ポンとは近接戦闘のみという事もあり得るか?ボムを出させる前に【爆裂アッパー】を回避してから組み伏せてナイフでザクっと行くのがベストかもしれないな…」


 恐らくだけどボムをまともに受けたら俺の紙装甲など、一瞬で蒸発する。近接戦闘の場合【爆裂アッパー】も脅威ではあるが、外せば隙も大きい。見た感じかなりモーションアシストが働いているから避けてしまえばこっちのものだ。


 ふふふ、と不敵な笑みを作り、脳内シミュレーションを始める。ポンの動きはAimsの頃から癖があり、特に近接戦闘になるとその癖が顕著に現れる。その動きを読んで制圧すれば……。


「ポン対策は取り敢えずOKとして、問題はライジンなんだよな……」


 一つため息を吐いてから再び動画を開く。

 再生した動画はアンチがPKしてきそうになったので逆にボコボコにしてみたという趣旨の動画である。

 一対数十という一見ただのリンチになりかねない動画なのだが、ただメンバーを募っただけなのか相手は連携も取れておらず、そういう所を上手く突いて一人ずつ撃破していく。

 相手側は慌てふためきながらライジンを倒そうと躍起になっているのだが、ライジンは一切焦りを見せず、笑みすら浮かべながら相手しているので背筋がうすら寒く感じた。

 ……これヤラセじゃないよな?


「……マジで弄られてるときのライジンと同一人物だとは思えねえ……」


 半分笑いそうになりながら動画を見つめる。アニメや漫画の主人公を見ているようだ。圧倒的な力で有象無象を蹴散らすその様には爽快感すら感じる。……なるほど、これがライジンリスナーが抱いている感情か。


 ただ、ライジンの動きを真似しようとして断念した人間も数多くいるだろう。もしかしたら自分も出来るかもしれないと期待して、同じように多人数に挑んで蹴散らされる。そんな人間がアンチになりやすいってライジンも言ってたっけ。

 確かに才能に嫉妬してアンチになるのは分からないでもないが、ライジンだって努力を積み重ねて今の形になっているのだからその考えは間違っている。

 努力も何もしないで才能の一言で片づけるのはおこがましいにも程がある。


 取り敢えずRTAで俺のWR塗り替えてから物事言おう?な?と半分キレかけていたライジンを見たのはいつだったか。


「人気な分、それだけ多くの人間の目にさらされているわけだから耐性もつくものか……」


 ふとセレンティシアのギルドでのライジンリスナーへの対応を思い出して感慨深げに頷く。

 PVP大会は大衆の面前で全力のパフォーマンスを常日頃から行っている彼にはもってこいの舞台。だが。


「わりいなライジン、俺もAimsでは日本大会に二度優勝している実績があるんだ。そのほかにも数多くの大会で上位入賞してるからな。大衆の面前でお前の鼻っ柱、へし折ってやるよ」


 ニヤリと口角を上げながらこの場にいない彼に宣戦布告する。

 FPSという俺の最も得意とする分野では圧倒できたが、今回は彼の得意分野。

 相手の得意分野で勝ってこそ、どや顔で誇れるものだ。


 丁度その時、自分の眼下に、何かが出現したことに気付いた。


「……あれは」


 少し震えが生じるような威圧感。初見の時も、こんな感じの感情を抱いたっけ。

 どこからどう見ても倒せないような敵。だからこそ闘争心に火が付く。

 無茶?無謀?結構!勝てる確率が一ミリでもあるなら戦いを挑むのがゲーマーだよなぁ!?


「待ってろライジン、お前をボコボコにする算段を付けて赤っ恥かかせてやるからよぉぉお!!」


 俺は眼下に出現した、へと狙いを定めると、奴の下へと飛び降りていった。



 こんなにテンション上がって今更戦わない選択肢とかないよなぁ!?





「はっはー!おひさぁゴブジェネパイセン!!ちったぁ強くなった俺と遊んでくれやぁ!!」


『グルァァァァアアアア!!?』


 飛び降りざまに一発、【水龍奏弓ディアライズ】に矢を装填してすぐさま放つ。

 強力な水のオーラを纏った矢は、ゴブリンジェネラルの金属鎧を貫き、赤いポリゴンをまき散らした。

 どこの誰が出したのか知らないけど、俺のカルマ値が上がらないなら再戦は願ったり叶ったりだ!


 そのまま着地すると衝撃で体力が全損しそうなので木の枝を掴み、次々に飛び移って勢いを殺しながら移動した後、着地する。


「あ、あんたは!?」


 後ろを振り返ると、腰を抜かしたらしき革鎧のプレイヤーが地面にへたり込んでいた。このプレイヤーが呼び出したのだろうか?


「通りすがりの村人さ!ところであのゴブジェネ出したのはあんた?」


「い、いや!俺じゃない!さっきここに来たばかりなのに急に出現したんだ!」


 ふむ、ならこの場にいない誰かがこのお仕置きMobを出現させたという事か。はた迷惑な事しやがるぜ、まったく。(始まりの平原での出来事に目を逸らしながら)

 だけど無償で楽しい事が出来るんなら飛び込むのが当然!MPKだろうが知ったこっちゃねえ!


「取り敢えずここは俺に任せて先に行け!」


「あ、ああ!すまないけど頼んだ!」


 人生で一度は言ってみたいランキング五位の言葉を叫ぶと、革鎧のプレイヤーは一目散に逃げだした。

 あいつに敵わないってのは身をもって知ったことだしな。あの頃の俺と同じような装備でこのゴブジェネに敵うはずが無い。

 逃げていったのを見送ると、正面に立つゴブリンジェネラルを見据えながら息を一つ吐く。


「今の俺がどこまでやれるか、検証開始と行こうじゃねえかゴブジェネパイセンンン!!」


『グルァァァァアアアアアアアア!!!!』


 ゴブリンジェネラルの咆哮を開戦の合図として、同時に動きだした。


「せぇえええい!!」


『ッ!?』


 開幕ボム投擲。卑怯?いやこれは立派な戦法だ。遠距離職がこんな至近距離で戦うわけにはいかないからな。

 ボムが弾ける様に炸裂すると、真っ赤な業火が膨れ上がる。


『グォォォォオオオオ!?』


 爆発のダメージは流石に堪えるのか、ゴブリンジェネラルは苦しそうなうめき声を漏らしながら叫び散らす。爆発の衝撃に耐えながら視界が遮られない程度に片腕で顔を隠すと、振り返って距離を置くために後方に向けて走り出した。


「もう初見殺しのコンボ技は使わせねえからなパイセン!」


 木の後ろに隠れると火の玉となって転がっているゴブリンジェネラルを見ながら、矢を装填する。


 あいつは【彗星の一矢】のダメージ量検証に丁度いいな。それに、【水龍奏弓ディアライズ】の本格的な試運転も兼ねて楽しませてもらおうじゃないか。



 レッツリベンジマッチ!!


 

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