#037 特訓開始


「進展しないしシミュレーションといこうか」


 考えが堂々巡りになってしまってまったく進展しないので立ち上がった俺は、ウインドウを開いて動画を再生し始める。


「まずは対ライジン、双剣士相手の立ち回りだな」


 再生した動画はライジンの【双剣士の戦い方講座】という初心者向けの動画だ。初心者向けとは言えど侮ることなかれ。これは基礎中の基礎が詰め込まれているが故に、『型』を知ることが出来る。この型が出来ているからこそその基礎を応用した立ち回りを可能にしている。この動画から動きを想定してどのように動くか補うのだ。


 俺は動画を再生してから駆け出した。動画で動くライジンの動きに合わせて間合いを詰められないように障害物などを活かして動きながら、矢を放つ。


『人型モンスター及び対人戦等における双剣士の動きは基本的に距離を詰めてしまえば自分側が有利に立ち回ることが出来ます。ただし、反対に距離を離されてしまえば双剣士は圧倒的に不利になってしまいます。ですので飛び道具やフックショットなどを使うと簡単に距離を詰めることが可能です』


 そう言って動画内のライジンは左腕に取り付けたフックショットを放ち、その先端が地面に突き刺さると伸びたロープが急速に縮み、その反動で身体が勢いよく引っ張られ、回転しながらゴブリンを切り裂いた。……なにこれ、どういう原理でフックショット働いてんの?先端が発射される前に緑色の光が見えたからなんか魔法っぽかったけど……。


 その動きを見ながら俺はフックショットの先端が地面に刺さった所(仮定)から飛び退き、ライジンの攻撃射程圏外へと退避する。つうかこれ初心者向け講座なの?いきなり飛び道具推奨って割と上級者向けだったりするのかな?


『今の例はあくまで慣れた人向けですのでフックショットによる高速機動は推奨いたしません。初心者の方は相手の動きを見ながら徐々に距離を詰めるようにしましょう。飛び道具なんかは、お手軽に相手の動きをある程度制限できるので誘導しやすいです』


 まあ流石にフックショット必須というわけじゃないよな。マンイーターの時も使ってなかったし。


 ピンポーンというSEと共に注意喚起が表示されると、ライジンは手を閃かせて何か鋭い物を三本放つ。カカカッ!と地面に釘の様なものが突き刺さると、ゴブリンが困惑して動けなくなる。その隙に一気に距離を詰めてゴブリンを一閃。一瞬で貫かれたゴブリンはそのままポリゴンとなって消えていった。


『こんな感じですね。一応プレイヤーとの戦闘の場合でも先端が尖った物などを投げつけると反射的に防衛本能が働いて身構える事が多いですので、おすすめです。特に目の付近に投げつけるのが一番いいですね。数瞬相手の視界を遮ることが可能ですのでここから一気に詰めたり体勢を立て直したり出来ます』


 目潰し推奨とか中々エグいな。確かに眼瞼がんけん閉鎖反射を活用した動きはフルダイブVRという脳に信号を送られているゲームである以上対人戦には有用だ。


『次に、距離を詰める事が出来てからの動きを紹介します。双剣士は距離を詰める事が出来たら、最初に狙うべき場所は脳天、手足の腱のどれかですね。脳天の場合ですと直接切り込んでも良いですが、大抵防がれてしまうので確実に仕留めるために柄を用いて強打します。すると、スタン値が加算されて大抵脳震盪のような症状を起こしてぐらつきます。その隙に切り裂いてあげれば火力と手数の多さでそのまま押し切ることが出来ます』


 これはあれか。初めて跳弾検証した時にライジンがゴブリンに対してやったあの動きか。すっげー洗練されてたんだよなぁ。簡単に回避を許してくれなさそうだ。


『頭をフルフェイスヘルムなどで守られていた場合は手足の腱を狙いましょう。こちらも金属鎧などで身を守られていると難しいですが、革製や布製の防具を付けている相手は狙いやすいです。利き手を狙えば武器を持つことが出来ず無力化、足を狙えば移動速度の大幅ダウンが見込めます。回復ポーションなどで身体損傷の状態異常が回復されてしまう前に畳みかけましょう』


 ライジンはそのまま回転しながらゴブリンの足の腱を切り裂くと、足がカクンと落ち、そのまま前のめりに倒れ込む。こうして生まれた隙を逃さずに脳天にぐさり。これは酷い。


 ……はっ!駄目だ、途中から見入ってしまった。動画見ながらだと集中できないな…。ある程度見てから一人でやってみるか。





「次はポンだな」


 一通りライジンの動画を見てライジンの立ち回りを勉強した後、次はポンとレッサーアクアドラゴン戦での戦闘の動画を再生する。ポンは比較的対処しやすい部類ではあるが、本気で集中しているときのポンは本当に強い。初対戦時にはその圧倒的な先読み技術に圧倒され大敗したのだ。フレンドになってからは、数手先まで読んでその場所に撃ち込んでくる技術を盗み、自分の物とすべく教えてもらいながら努力したのだ。そういう所を考えると彼女は師匠みたいなもんだからな。


「基本的なポンの立ち回りはミニボムを活かした動きだから…。距離は近からず遠からずぐらいで保った方が良いな」


 遠すぎれば的になりかねないし、近すぎれば近接攻撃の餌食。一撃一撃が重いため基本紙装甲の俺からすれば一撃受けた時点で大分キツイ。これは完全回避という方向で立ち回りを勉強しなければならないな……。


「距離を離してミニボムを持ったところを射抜くか?いや、流石にそれぐらいは見え透いてるからダメか。……爆裂アッパーを回避すれば少し隙が生まれるよな?その時に跳弾改込みチャージショットを当てられるように計算して……」


 ブツブツ言いながらポンがレッサーアクアドラゴンに爆裂アッパーを打ち込んでいる所を見る。傍から見れば完全に不審者だが気にしない気にしない。


「あ、金も入ったからミニボムの上位互換のアイテムも買ってるかもなぁ……。ちょっと後でサーデストに寄って買ってくるか」


 顎に手を添えながら呟く。あ、そういえばポンも新装備作ってたよな。

 それで一応どんな性能なのか聞いてみたが……。


『内緒です♪』


 とウインクしながら人差し指を唇に添えて言われてしまった。その数秒後に顔真っ赤になってたけど。おう慣れないことするんじゃねーぞ。

 今思えばそれもこのPVP大会を見越しての発言だったのか……。くそう、完全に俺だけ手の内晒しまくってるじゃねーか。

 彼女が新装備で作った籠手も【幼水龍の逆鱗】を使った装備だったよな?今思えば、二つも逆鱗ドロップしているのはおかしいと思ったけど、ゲームである以上仕方ない。切り分けたとかそんなんだろう、多分(適当)。

 まあそれは置いといて逆鱗を使っている以上俺の【彗星の一矢】のようにレッサーアクアドラゴンの魔力を宿したスキルがあると想像して間違いないだろう。問題はどんなスキルなのか、だが。


「うわぁー、分かんね!」


 頭を抱えながら叫ぶ。多分ポンのジョブとスタイルからして確実に攻撃であることは間違いないのだがどのような感じのスキルなのか想像することが出来ない。レッサーアクアドラゴンの攻撃にも思い当たる節は無い。あるとすれば追尾水弾とか、か?いや、完全に違うスキルという線もあり得る。


「大方俺と同じド派手な奴なんだろうなぁ…」


 広範囲高威力のスキルだと仮定しておこう。エフェクトとかも凄そうだからやばいと判断したらすぐにポンを止めるか回避の方向で。多分硬直時間とかも長いだろうし上手くいけば隙になる。


「そのスキルがあると考慮した上で、どんな立ち回りが要求されるかだな」


 こうしてポン対策も徐々に進めていった。





 ライジンとポンの対策を考えた上で、第三の鬼門。いや、実際は第一の鬼門か?

 バトルロイヤルでの集団戦。これが中々に対策を考えるのが大変だ。


「素直に範囲攻撃を覚えるのが身の為なんだろうけど……」


 近接職(一人は遠距離も可だが)が二人いる以上、範囲攻撃で彼らを巻き込む羽目になりかねない。そうならないよう1v1の環境を作り出すのがベストなのだろうが、バウンティーハンターというシステムがある以上俺らは美味しい獲物にしかならない。俺単体撃破でも予選は突破できるし、なんならライジンを倒せばMVPも狙える。集団で襲い掛かって恨みっこ無しの早いもん勝ち争奪戦が行われるのは考えるまでも無い。


「巻き込むことなく複数人同時撃破、それが可能なのは……」


 ちら、と【水龍奏弓ディアライズ】を横目で見る。一発で多人数を一気に屠れる可能性を秘めているのは【彗星の一矢】しかない。これと【跳弾・改】を合わせてみたらどうなる?


「検証開始だな」


 ニヤ、と口角を上げると、視線の先にはゴブリンの集団。それを見ると俺は駆け出した。


「まずは多人数が激しく動いていないときのシミュレーション。辺りを散策して相手を探している最中の敵だと仮定しよう」


 ギリ、と矢を弓をあてがうと【彗星の一矢】を発動する。青白いエフェクトが矢に収束していき、限界まで矢を引き絞ると限界を迎えた矢が凄まじい勢いで放たれる。最初に当たったゴブリンは反応することも出来ずに頭が爆散。【跳弾・改】が発動した矢は、勢いが衰える事無く反射し、そのまま他のゴブリン達の身体を貫き、上半身と下半身を真っ二つに切り離した。

 俺はビリビリと痺れるような反動を感じながら、その様子を眺める。


「これなら複数人は持っていけるな。ただ、この反動がなぁ……。三秒硬直は痛すぎる。バックショットで硬直キャンセルできないか試してみるか?」


 手をブラブラさせた後、ウインドウを開いて所持品からMPポーションを取り出して飲み干す。


「えーと、五秒後にヒットするようにバックショットを打つと……うわ、【跳弾】作り直したから跳弾回数足りねえ。……早急なスキルレベル上げが必要だな。取り敢えず今は【跳弾・改】で代用するか……」


 【跳弾・改】は【跳弾】の進化だけあって跳弾回数自体は【跳弾Lv10】と同じ回数跳弾させることが可能である。ただ、ダメージ量が大変なことになるが。


 またゴブリンの集団を見つけると、今度は先に一本矢を放ってから【彗星の一矢】を発動させる。

再び青白いエフェクトをまき散らしながら矢が飛んで行った次の瞬間、俺の身体に矢が当たり、強いノックバックで吹き飛ばされた。


「ぐおっ!こいつぁ厳しいけど、なんとか……!」


 地面を転がった後、すぐ立ち上がる。硬直キャンセルは成功、ただ、飛んでいく方向とかも計算して打たないといけないな。それと、このノックバックに慣れる必要がある。完全無防備の状態だと空中機動のように体勢を直せないので扱いが難しいからな。


「ふふふ……楽しくなってきた!ゴブリンども、俺の検証の糧になるが良い!!」


 【彗星の一矢】を見て蜘蛛の子を散らすように逃げ出したゴブリンを追いかけながら、俺は高らかに笑った。

 

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