#036 事前情報の収集と葛藤


「やりますか。新スキル作成」


 場所は変わって【フェリオ樹海】。周囲を見回し、人がいないことを確認してから俺は腰を落とした。


 ポンとライジンは俺と同じくPVPなので手の内をこれ以上晒すのは良くないと判断したので合意の上で一度解散した。彼らもまた別の場所で修業を開始しただろう。


 さて、現状を把握しよう。


 ポンとライジンには現時点での俺の最高火力である【彗星の一矢】を見せてしまっている。また、【跳弾】によるテクニックも大半を見せているのだ。当然、その動きをすれば警戒されるし、【彗星の一矢】はモーションもエフェクトもド派手なわけで発動した瞬間ボーナスタイムに突入する。

 知らない人からすれば【彗星の一矢】はド派手だけどどんな攻撃か分からない以上下手に動けないだろうし、跳弾なんかはこいつクソエイムだぜヒャッハー!と勘違いしてくれるだろう。

 だが、知られている以上ノータイムで対応してくるのがあの二人だ。油断はできない。


「うーん……」


 うん、詰んでね?と思いそうだがここで諦めるわけもなく。

 逆に言えばそれだけ俺の行動を警戒してくれているのならばそれを活かした戦い方が出来るというものだ。ハッタリ、偽装、隠蔽。例として挙げるならば、スキルの発動は声に出しても良いし、出さなくてもいい。つまり声ではそう言っていても思考では別のスキルを発動してしまえば良い。ただ、そうなると口と思考を切り離す必要がある。……簡単に言ったが正直楽か難しいかで測れば圧倒的に難しいという方に傾くだろう。

 これは要練習だ。この技が出来れば発動するスキルの攪乱も可能になるから【彗星の一矢】と宣言して近寄ってきたところにズドン!みたいなことも出来るようになるだろう。ふふふ、楽しみだな。


 だが、問題はそこだけじゃない。俺の攻撃はライジンの近接主体の対、遠距離主体となる。そしてポンも遠距離主体ではあるが近接も高火力を出せる技を兼ね備えている。残念ながら距離を詰められてしまえば一瞬でお陀仏なんてことになりかねない。その対策も考えないと。


「あー、シャドウのお節介進化が無けりゃもう少し幅が広がっただろうに」


『……すみません』


 俺の言葉に申し訳なさそうにシャドウが呟いた。


 【跳弾】が無くなるのは流石に痛かったので、なんとかして再取得出来ないか聞いてみた結果、【スキル生成システム】を用いてのスキル取得なら再取得が可能と言われたので取得し直した。

 スキル生成権を一つ使い潰すというのは少し痛かったが、それだけのポテンシャルを【跳弾】は秘めている。大会開始までにカンストとまで行かずともスキルレベルを上げておいた方が良いかもな。


「まあいい経験になったよ。それに、ことPVPに関しては改の方が世話になるかもしれないし、一応タイムリーと言えばタイムリー。進化を選択したのは俺だしそんな気にしてないから落ち込むなって」


『……先ほどの発言は嫌みのように感じ取れたのですが?』

 

「おっAIの癖に人間味を帯びた事言うねえ!こんにゃろ!可愛くねえ奴!」


 ぴしっと指で弾くと『あうっ』と短く悲鳴を漏らすシャドウ。何だこいつ可愛い。

 くすくす笑ってからウインドウを開き、スキルを一通り確認する。


「今の所の選択肢は新スキルで完全新規の攻撃手段を作成して、相手がこっちの攻撃の詳細を掴み切れないうちか不意打ちで仕留めるか。それか完全に汎用性、既存のスキルに特化してコンボスキル的なものを作って攻撃の幅を広げるか、だな」


 ん?防御?そんな子は知りませんね……。攻撃こそ最大の防御!昔の偉い人は殴ればいつか死ぬって言ってたんです。僕はその考えを信じます(脳筋)。


「あ、そうだ。ついつい1on1の事ばかり考えてたけどバトルロイヤルもあったんだった。ルールとか出てたし見とかないと」


 ふと思い出して慌ててウインドウを開き、公式サイトにアクセスして、今回のイベントの詳細を確認する。





 【1st TRVトラベラーズ WARウォー】 【開催日 明後日】 【申込期間 明日正午まで】 【受付場所 セレンティシアのギルド】


 今大会のPVPモードのルールは予選をバトルロイヤル、本選を1v1デュエル形式とする。


 予選で行われるバトルロイヤルの持ち込み可能アイテムは装着している装備、およびそれに準じた攻撃手段のアイテムのみである。その他のアイテムは予選終了まで使用制限が掛かり、使用不可となる。その代わり、バトルロイヤル開始時に回復アイテムなどを所持品に直接配布する。その数も一定数しかないので追加の回復アイテムが欲しければマップを探索して支給品BOXを見つけるか、相手を倒して奪い取るという二つの手段がある。


 制限時間は四時間。評定基準にはポイント制を導入し、一人一ポイントを所持して大会が開始される。本選出場の条件は百ポイントを稼いでスタート地点 (セレンティシアのギルド)に帰ってくるか、百ポイント以上稼いだ状態で制限時間まで生き残る二つの方法がある。百ポイント稼いで判定員が確認したらその時点で勝ち上がりになるが、判定員の確認が終わるまでは攻撃可能なので気を付ける事。もし百ポイント以上稼いだプレイヤーが十六人未満の場合、ポイントの高い順から勝ち上がりとする。また、百ポイント以上が十六人以上いた場合もポイントが高い順に優先される。


 ポイントの計算方法はポイントを所持しているプレイヤーを倒したらプレイヤーの頭上に表示される数字が加算される。他プレイヤーを倒して奪ったポイントを奪うことも可能で、倒した段階でそのプレイヤーの所持しているポイントを全て奪うことが出来る。ポイントを全て失ったプレイヤーはその時点で失格となり、観客スペクテイターモードとなる。ちなみに表示される数値は数値が大きくなるほど大きくなり、目立ちやすくなるので注意が必要。


 今大会はバウンティーハンターシステムを導入している。好きなプレイヤーを一人選び、その選んだプレイヤーを見事倒したプレイヤーにボーナスポイントが付与されるシステムである。ボーナスポイントの数値は大会前にそのプレイヤーを選んだ人数がそのままポイントに直結する。


 バトルロイヤル時の報酬だが、最もポイントを稼いだプレイヤーにポイントMVP報酬、最もプレイヤーをキルしたプレイヤーにキルMVP報酬、最も支給品を回収したプレイヤーに支給品回収MVP報酬、一番早く勝ち抜いたプレイヤーに最速MVP報酬が配布される。また、参加したプレイヤーには参加報酬、制限時間まで生き残ったプレイヤーには生存報酬が配布される。この二つはプレイヤーのキル数が基準となって報酬が増える。






 取り敢えず予選内容だけ確認した俺はウインドウを閉じて眉をしかめた。


「割と厳しくないこれ?」


 なんか生き残るだけって勘違いしてたけど普通にルールシビアだぞ?四時間で百キルかー、まあ妥当と言えば妥当だけど広大なマップでそれだけ見つかるかどうかだな…と思ったけどそのためのポイント奪取とバウンティーハンターシステムか。プレイヤーを見つけるために躍起になって動くからそれで遭遇率を高めるわけか。ただ、死亡した時点でポイント全損、そのまま脱落なのでリスキーではある。それに恐らくだけど参加賞より生存報酬が良いだろうからそれ目当てで逃げるプレイヤーも少なからずいるだろう。……百ポイント稼ぎきるのは少し大変な気がしてきたぞ。


「ワンチャン賭けてのプレイヤーがどれだけいるかだよなぁ」


 脳死で狩りつくしてやるぜ!といった感じのプレイヤーなら返り討ちにしやすいと思うのだが、逃げ回られると厄介だ。下手したら追いかけているうちに制限時間に……なんてことにも。


「あとはバウンティーハンターで投票数多めのプレイヤーを狙うかだな」


 これが一番現実的か。競争率が高くはなるがその分リターンも大きい。百人以上のプレイヤーが投票しているプレイヤーを見つけ出して狩るのがベストだろう。


 早速調べてみるべくウインドウから【イベント】項目にアクセスすると、一番上にバウンティーハンターシステムの項目があったのでそれをタップする。


「うわぁライジンえっぐ」


 思わず笑いが出てしまった。一番上に出てきたから気付いたが、現時点でのライジンの得票数は3200票超。ライジンを倒すだけで余裕で予選を勝ち抜き出来るポイント数である。それどころかMVPも狙えるんじゃないかというレベルで票数がある。人気配信者はこういう点でデメリット背負っているよなぁ。まあ、その分迎え撃ってポイントを稼ぐことも出来そうだけど。

 その下にもいくつか有名な配信者の名前が並んでいる中で……。


「……俺、200票も入ってんのかよ」


 得票数ランキング6位。マジかよ。普通に俺もロックオンされすぎじゃない?……完全にライジンの動画のアレと始まりの平原の一件が尾を引いてるよなコレ。試合開始までに1000票超えないと良いけど。……胃が痛くなってきた。


「これは尚更ポン達と合流案件だな…」


 合流まで連戦は避けたいし、集団に襲われて敗退!なんてことになったら辛すぎる。奥の手をひけらかさない程度に協力して暴れる方が賢明だ。


「マジでこれスキル作成どうすっかなぁ……」


 集団戦も意識した構成にしないと生き残れない気がしてきた。あんまり二人に寄生キャリーさせてもらうのは嫌だし、出来る事ならMVP報酬とやらも気になるので頂きたい。



 こうして俺のスキル作成と特訓は、難航することになった。


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