#035 ギルドとクラン設立
ギルド。
現実世界では中世より西欧諸都市に存在する商工業者の間で結成された各種の職業別組合の事を指す(ライジン談)。
ゲームに於いてもその例に漏れず、様々な形となって登場する。このゲームの例で言うと、サーデストを本拠として展開されている商業ギルド、まだ見ぬ鍛冶師の本場と呼ばれる町を中心に活動する職人ギルド、冒険者全般を管理する冒険者ギルド……などなど。
今回は今例で上げた一つのギルド、冒険者ギルドが今回のPVPイベントの受付会場となっている。
本来はクエストと呼ばれる依頼を受注したり、転職したりなど様々な事が出来るのだが、今まであまり触れてこなかったのは単に行かなくても良かったからである。
◇
「やっぱり大混雑ですよねえ」
ドタバタとひっきりなしに書類を運搬しているギルド職員とカウンター前に並ぶプレイヤーの長蛇の列。
初めてのギルドという事で楽しみにしていたのだが内装よりもその光景が目についてしまい、少し残念な気分になってしまった。まあ、イベントだから仕方ないと言えばそうなんだけどさ。
俺と同じ気分になったのか、ポンも苦笑しながらそう呟いた。
「やっぱりこっちのギルドは夏イメージで作られてるから内装の配色が明るめなんだね。セカンダリアのギルドはもうちょっと雰囲気的に暗めというかあんまり明かりを確保していない内装だったんだよ」
「ライジンはセカンダリアのギルドに行ったことがあるのか?」
「少し気になって寄っただけだけどな」
いつの間に行ってたんだ。それなら俺も誘って欲しかったのに。
「ギルドで受けられるクエストはそれを主体でやるにはあんまり実入りの良い物じゃないからあくまで狩りのついでって言うのがほとんどかな。手数料とかも取られちゃうから受けるなら町で困っている人の話を聞いて解決した方が割と収入自体は良いよ」
「ギルドの存在意味……」
「まあギルドで受けられる依頼がフラグになってフィールドに出てくるモンスターもいるみたいだから一概にも悪いとは言えないかな。それに、どっかの金持ちの依頼だと依頼内容の割に報酬が大きかったりするし。護衛依頼が典型的な例かな?」
なるほど、モンスター討伐や採取依頼だけじゃなくてそういうのもあるのか。護衛ってどれぐらい時間かかるのだろうか?長いとめんどくさそう。
「まあともかく並ばないことには始まらないし並ぼうか」
「そうだな」
そう言って俺達はプレイヤー達が並ぶ長蛇の列の最後尾へと歩いていった。
◇
「なあ、あれライジンじゃね?」
「うわぁ実物イケメン!やば、握手してもらおうかな」
「あいつ二人も美少女を連れまわしてやがる……!くそう、やはりイケメンの所だけにかわいい子は寄ってくるのか……!!」
列に並んで待っているだけでまあライジンに対する反応があることあること。
テレビが廃れてきつつある現在、ネット配信を見る人も多く、動画配信で多数のファンを獲得しているライジンは一種の俳優レベルの知名度だ。
町を歩いていて芸能人に遭遇した時の反応をされることも多い。こうして、その場に留まって待っているときは尚更そういった傾向が強い。
当の本人は慣れているからだろうが、一切迷惑そうな顔をせずに周囲に笑顔を振りまいている。時折サインくださいと近寄ってくる人にもしっかり対応している。なんだこいつ有名人かよ(実際その通り)。
「なあライジン、めんどくさかったりしないの?」
「そんなことは無いぞ?こういう交流は好きな方だし、応援してくれるファンがいるから俺の動画更新のモチベーションになってるからな。感謝してもしきれないよ」
「心までイケメンとか無敵じゃん」
聖人ってレベルじゃないんだよなぁ……。こいつのアンチはもう相当歪んでる人間な気がしてきたぞ。まあ見た目とか人気とかに嫉妬する人間は少なからずいるだろうしなぁ…。
「とはいえ流石にひっきりなしに来られると疲れはするよね」
「それは仕方ないでしょ」
困るポイントがそこじゃないんだよなぁ。
「あ、ようやくカウンターだぞ、ほら、さっさと受付しようぜ」
雑談をしている間に既に最前列まで進んでいたようだ。カウンターに向かうと、奥の方から受付嬢が用紙を持ちながら駆け寄ってきた。
「ご利用ありがとうございます!本日はどのようなご用件でしょう?」
「あ、PVPイベントの申し込みをしたいんですけど…」
「イベントの申し込みですね!こちらの用紙にご記入願います」
そう言うとギルド職員の女性は申込書を差し出してくる。ここら辺はしっかり筆記しないと駄目なんだな。ウインドウとかで入力するのかと思った。
……ん?これ、プレイヤーネームを詐称できるのか?まあいいや。目指すは上位入賞だし、偽名だと商品貰えませんとかだったら目も当てられん。いや流石にそれはないだろうけど一応、ね?
村人Aと書いて差し出すと、受付嬢は苦笑いしながら受け取った。
あ、これもしかして匿名希望だと思われてるやつかな?
「一応それ本名なので」
「大丈夫ですよ。何度もおかしな名前の方は拝見しましたから」
ちょっと、さり気なく煽ってくるのやめて。
「なんか凄い読み方の人もいましたし、
だってゲームですもの。いや、この世界のNPCからしたらこっちの世界が本来生きる世界だから違和感を感じるのは当たり前か。
「えっと、他に何か書くものとかあります?」
「こちらの申込書があれば大丈夫ですよ。二日後の十二時にイベントが開始されますのでそれまでにこのギルドに来てください」
「分かりました」
参加人数がどれぐらいいるのか分からないけどこのギルドに入るのだろうか。まあそこら辺は気にしたら負けだな。きっと何とかしてくれるさ。
「村人、クランの話は?」
「あ、そうだ。えっと、クランを作りたいんですけど」
「クラン設立ですね。少々お待ちください」
にこりと笑うと奥の方へと慌ただしく戻っていったのでライジン達と向き合う。
「そういやクラン名決めて無かったな」
「変人分隊で良くね……と思ったけど串焼き団子さんがいるしなぁ。勝手に決めるのは良くないよなぁ。一応メッセ飛ばしてみる?」
「多分今は試合中だから通知切ってるだろうけど後で気付くだろうし送っとくのがベストかな?」
一応彼も現時点でメンバーなわけだし、意見を聞いておくのが良いのかもしれない。と、そこまで言ったところでポンが何かを思いついたような表情を浮かべた。
「あ、この大会で一番順位が高かった人がクラン名を決めるというのはどうです?」
「……天才か?」
確かに強者に付き従うという意味ではそれもありかもしれない。世の中弱肉強食、弱者には選択する権利も与えられない。これ一般常識。世知辛い世の中だぜ…!
「しかもPVPだからなおさら、か。何かしら競った方が大会中のモチベにもつながるだろうしありなんじゃない?」
「なら決まりだな。ポン、ライジン、俺は全力で行かせてもらうぞ」
「私も村人君にリベンジしたいと思ってたので丁度いい機会です…!手加減はもちろん一切しないですよ!」
「ふははFPSキチガイが本場のPK特化連中に無双した俺に勝てると思ってるのか?いいぜ、楽しみになってきた!」
変人分隊は常に強者に飢えている。その強者は身内もまた然り。身内で内戦を行った数は数知れない。ただひたすらに強くなろうと、自分の実力に磨きを掛けようとしているのだ。
ここ最近はSBOしかやってなかったからPVPはご無沙汰だが、これはこっちでどれだけ戦えるか知るいい機会かもしれない。三人とも獰猛な笑みを見せながら互いに牽制し合う。
「あのー、良いですか?クラン設立申込書をお持ちしたんですけども……」
「あ、すみません。この紙お借りしてもいいですか?提出は今度にしたいので」
「大丈夫ですよ。クラン名はじっくり悩んでから決める方も多いので」
「助かります」
クラン設立申込書を受け取ると、自身のステータスを確認する。
恐らく今のままだとポンやライジンに手の内が完全に知られている。PVPである以上手の内を知られているというのは完全にデメリットでしかない。知っていれば対策するのも容易だからな。
なら、今は何をすべきか。答えは一つだ。
新スキル、作りますかね。
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