#033 ギャンブル×ファンブル


 さて、【彗星の一矢】の試射会は終わった。

 結論から言おう、隙がくっそでかい!威力が高すぎてオーバーキル分の過剰ダメージが勿体ない!いちいち打つのにMPがほぼ空になるまで必要!!うん!産廃!!

 【水龍奏弓ディアライズ】を背中に担ぐと、大きくため息を吐いた。


「まあ雑魚狩りとかなら一瞬で溶かせるけどそれ普通の攻撃で良くね?ってなるしなぁ……」


「ボス戦でも確実に隙が大きいよね。確かにこれを今使いこなすのは難しいよな……。まあ、ドンマイ?」


 ライジンが苦笑しながら俺の肩を叩く。スキル時間短縮系のスキルでも作ってみるか?でもそのスキルを作ったとしてもスキルポイントの要求量が分からない以上ある意味博打に近い。貴重な生成権を一個無駄に消化するわけにはいかないしな……。


「……ん?博打?」


 あ、すっかり忘れてた。そういえば跳弾のスキルの進化出来たんだったっけ?ええっと、どうすればいいんだっけ……?


「ポン、スキルの進化の事だけど直接教えてもらっても良い?」


「あ、そういえば進化させるんでしたっけ?えっと、ステータス画面を開いてもらってスキルを開いてください」


 ふむ、そうだったな。俺は言われた通りにウインドウを操作してスキルを開く。



【跳弾Lv10】任意発動型アクティブスキル


 投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが減少する。


 スキルレベルが最大です。進化させる場合は進化の方法を選んでください

【進化】



 あ、出てるわ。

 俺はウインドウに表示された【進化】という文字に手を触れると、続けてウインドウが開く。



【通常進化】

 デメリットの緩和、威力強化などの進化を行います。進化後は進化前スキルに戻すことが出来ませんのでご注意下さい。


【複合進化】

 スキルレベル最大のスキルを一つにまとめて進化します。複合効果の他、新規効果なども付与されます。まとめて進化すると進化後は解体できませんのでご注意下さい。


【参照進化】

 今までの行動ログを参照し、システムが最適な進化を施します。進化後は進化前に戻すことが出来ない他、この進化を選択した後にキャンセルはできませんのでご注意下さい。



 まあご丁寧に警告もあることで。

 進化かー。どれが一番好ましいか考えてみようか。


 まず一番、【通常進化】。

 これは却下だな。この前も考えたけど、今現在の跳弾の使い方としてはダメージ減衰ありきで考えている部分が大きい。【バックショット】を絡めた緊急回避は非常に使い勝手も良いし、レッサーアクアドラゴン戦で見せた空を駆けるテクニックもダメージ減衰があって初めて実現可能な技だ。

 これでもしダメージ減衰が無くなってアプデ前の【跳弾】のようになったら目も当てられない。前は前で強力には強力だったがこっちの使い方が慣れて来ている以上元に戻したらめんどくさい事になる。


 んで、そうなると次に二番、【複合進化】。

【バックショット】を絡めるテクニックは先ほどの通り、俺が最もこのゲームで使っている技だ。スキル自体の相性も良いし、二つのスキルを合わせても良いかもしれない。…と、思ったのだがもし【バックショット】と【跳弾】を合わせた結果、アイテムにまでノックバック効果が付与されたら違う意味でめんどくさくなる。届かない位置にいる相手に跳弾を駆使してアイテムを投げ込んだ結果、吹き飛ばして相手の邪魔をしたとなれば単純に使えないスキルになる。よって、却下。


 で、最後。【参照進化】。

 ……正直これが最適解な気がするけど実際に進化させたことがあるわけでもないからどんな改造が施されるのかが分からない。ポンが言っていたように博打の類になる。運が良ければ今までよりも使い勝手が良くなるかもしれないし、運が悪ければ完全にゴミスキルになりかねない。

 ……ただ、これはプレイヤーの今までのプレイ履歴を参照した上での進化だから9割方求めてた進化になるだろう。痒いところに手が届く感じの進化っぽい。そうなると必然的にこれを選ぶべきなのだろうけど……。



「うーん……」


 ウインドウの前で俺は顎に手を添えて熟考する。正直進化しないという手が1番安全策である。これまで通り使い勝手の良いスキルとしてそのままにしておくという手だ。ただ、進化という要素がある以上もし使い勝手が更に良くなるとしたら、と考えると進化させたくなってしまう。これもう無限ループだな。


「まぁ、お試しでやってみるか」


 取り返しつかないけどお試しで。まぁ最適っていうぐらいだし悪くなったとしてもそんなに酷くならないだろう。というわけで【参照進化】ポチッとな。



『スキル進化システムへの承認要請確認。要請中……。スキル進化システムへのアクセス完了。主人マスターのスキルを昇華致します……』


 シャドウがふわりと現れ、俺の周囲を浮遊し始める。スキル生成システムの時と似てる演出だな。


『パターンC【参照進化】を行います。プレイヤー『村人A』の行動ログにアクセス、確認中…。完了コンプリート。最適化アルゴリズム展開、複数パターンでの架空シミュレーション稼働、完了コンプリート。進化を開始します…』


 シャドウが高速で周囲を回転し始めて数十秒。ひとしきりスキャニングが完了したシャドウが手元まで降りてくる。


『進化が完了致しました』


 そう言うとシャドウが消え、代わりにウインドウが表示される。さて、どうなったのだろうか。



【跳弾・改Lv1】任意発動型アクティブスキル


投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面、道具等を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが上昇する。




 …………。



「大失敗じゃねえか!!」



 ど う し て こ う な っ た。



 いや待て、本当にどうした?何?強化する要素が無いって?強化する要素がないから取り敢えず埋め合わせ的な?俺としては跳弾回数の上限増やすだけでも良かったんだぞ?強化どころじゃねえ、これ普通に弱体化なんだけど?プレイスタイルの幅が狭まったんだけど?脳筋になれと!?

 もしかして運営さん俺が火力不足なのを少し悲しんでたのを見越してこのスキルくれたの!?その問題ならこの頭おかしい武器のおかげで解決されたんだけど!?


「……シャドウ、ちょっと良いか」


『何でしょうか主人マスター


 俺の呼びかけに即座に応じるシャドウ。ふわふわと漂うシャドウに対して苦笑いを向けながら口を開く。


「なんでこんな強化になったんだ?」


「日ごろからの主人マスターの行動を参照するからに、【跳弾】によるダメージ減衰を活用して行動していることは分かっていました。しかし、レッサーアクアドラゴン戦での苦戦の様子、そして先ほどの【彗星の一矢】の発動後の言動から推測するに過剰なまでの威力ではなくとも、単純な敵エネミーを排除するに足る火力を欲していることを推測致しました。そのため、今回の進化が施されたのです!』


 ふんす!と人間ならば腰に手を当ててどや顔を決めていたであろうシャドウを幻視しながら、俺は頬を引くつかせる。


 大体俺のせいじゃねーか!!


 いや言動とかそこまで見る!?チャットログ的なのに刻まれるの!?

 まあ、今やることは一つだな。


「さて、シャドウ君、君にこんな言葉を贈ろう」


『はい、なんでしょう?』


 主人マスターのお役に立てて満足です!とばかりにいつもより心なしかテンションが高めなシャドウがこちらに近寄ってくるのを見てから……。


「ありがた迷惑なんじゃぼけえええええええええええ!!!」


『のわああああああああああああああ!?』



 シャドウを鷲掴みにして思いっきり遠くへとぶん投げた!!




 因みにその後スキル生成システムを使って【跳弾】を再び作り直しました。ちくしょう!こいつスキル生成権を無駄にしやがった!!












『アア、今宵モ星ガ美シイ……』


 ――そこはとある海の沖。その沖に悠々と佇む二つの島。そのが低く、確かに呟いた。


 満天の星空が広がる海岸線。幾億もの星々がその存在を主張するかのように瞬く下で、片割れは言葉を続ける。


『キット今宵ハ――モ私達・・ヲ見守ッテクレテイルニ違イナイ』


 遠く、懐かしむような声音で片割れが呟く。その言葉に共鳴して星々が強く瞬く。流星群がその夜空を彩りはじめる。


『嗚呼、嗚呼!!――ヨ!君ガ好キダッタコノ歌ヲ贈ロウ!』


 空気が唸りを上げたかと思うと、高らかに、美しい音色が夜空を包んでいく。遥か遠くにいる想い人へ届けとばかりに強く、強く。


『スグニ、迎エニ行ク。ダカラ、待ッテテ欲シイ』


 祈るように、縋るように。一筋の希望を求めて、彼らはずっと、この時を待ち続けた。


『アト少シダ。アト少シデ私達ノ長イ戦イモ終ワリヲ告ゲル』


 もう片割れも、続いて言葉を紡ぐ。


『アア。モウジキ、彼ラガ私タチノ元マデヤッテクルダロウ』


 その二つの島は、確かな強い意志を持って彼らを待つ。


『コレデ最後ダ。カツテノヨ、私達ヲ超エテミセヨ』


 どこまでも星が広がるその夜空が彼らを照らしながら、高らかに宣言する。


『『我ラハ【双壁】!!放浪者トラベラーヨ!貴様ラヲ全力デ迎エ撃トウ!!』』



 彼らはその身が朽ちるまで、戦い続ける。



 守り物を、取り戻すため。








 それは三千年前からこの場所を守護する神に等しき存在。



 自身の大切な物を取り戻すためにその姿を変異させてしまった悲しき――の末路。



 永きに渡り、戦いの日々に明け暮れた彼らの存在を仄めかす古き伝承が存在する。



 伝承として伝えられている事はたった一つだけ。

 


 『海岸の主、未だ双璧に傷を負ず』、と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る