#032 新装備のお披露目

 

 ぼったくり商人に復讐が完了してから一晩が明けた。


 そろそろ装備完成するかなぁとぼんやりと思いながら、俺とポン、そしてライジンは【鈍色の槌】へと足を向けていた。


【鈍色の槌】に入ると、昨日とは違った顔の大柄の男が出迎える。


「あ、いらっしゃいませなんだな。昨日のお客さんなんだな?」


「あ、ども。えっと、ホーガンさん?」


 俺が軽くぺこりと会釈すると、モーガンの弟、ホーガンはニコニコと笑顔で頷く。


「そうなんだな。よろしくだな。今、兄は最後の仕上げに入っているんだな。もう少し待ってて欲しいんだな」


 やたらと特徴的な語尾だが、少なくとも悪い人ではないらしい。むしろ好意的な印象を受ける。

 弟とは聞いていたが、身長から体格までそっくりだ。

 兄が少し気難しい職人さんだとしたら弟は温和なイメージかな?弟さんの方が接客に向いていそうだ。


「少し見学してみても良いですか?」


 ポンが目をキラキラさせながらホーガンに近寄るが、彼は苦笑を浮かべて首を横に振る。


「オラは構わねえけど兄はダメなんだな。極限まで集中して打ち込んでる時に水を差すような真似をすると本気で怒られるんだな」


 実際にそんな事が何度かあったのか、少し身体を震わせるホーガン。確かにあの人は一ミリの狂いもなく完璧に仕事をこなしたいって気質の職人っぽいしなぁ。


「そんなわけで待ってて欲しいんだな」


「はい……」


 ホーガンの言葉にしょぼんと落ち込むポン。まあ確かに鍛治師の仕事を生で見てみたい気持ちは俺もあるし分からないでもない。でも俺たちが集中を乱して失敗するよりかは集中してもらって完璧に仕事をこなしてもらった方が後々の為だ。


「しっかしまあまた色々と進んでますな」


「動画編集してなければ俺たちと一緒にあの地獄を経験して大量の経験値と大金手に入ったのに」


「俺は毎日投稿を心掛けてるからな。もう2年以上毎日投稿してる以上切らしたくないし」


「動画投稿者の鑑だなぁ……」


 昨日と違い、今日はライジンもこの店に来ている。

 残念ながら彼は逃走中に落盤攻撃を行わなかったので経験値などはそこまで稼げていない。なので彼はまだ装備を一新するつもりはないようだ。


「まぁ経験値はいいとして問題は資金なんだよね」


「ここで大きく差がついたよな……。百万単位で金増えたし」


「……ほんとお前なにしたの?」


 ちなみに商人から金を巻き上げた話はしていない。取り敢えず伝えたのは【幸せのお裾分け】を入手したことと防具と武器の作成依頼を出したことぐらいだ。


「親切な商人が俺の素材を高値で買い取ってくれてさ」


「それにしても稼ぎすぎだろ……」


 そう言ってジト目で見てくるライジン。俺はそっぽを向いて武器を眺めます。いやーかっこいいなー。


 そんな感じで駄弁っていると、店の奥にあるドアが開き、モーガンが顔を覗かせる。ナイスタイミング。


「待たせたな。完成したぜ、装備一式」


「待ってました!」


 俺は思わず手を合わせて笑顔を作る。ついに新装備かぁ、こういう瞬間って最高にワクワクするよな!どんな感じに仕上がってるんだろうか。


「取り敢えずお前さんが狩人だって聞いてたから重装備って感じよりも軽装備の方が良いと思って軽装備にしといたぞ。嬢ちゃんもな」


 そう言ってモーガンが装備を持ってくる。俺は意気揚々と青を基調とした装備を受け取ると、内容を確認し始めた。



――――――――――



【水蜥蜴の羽付き帽子】耐久度 300/300

清流崖に住む水蜥蜴の素材を用いた羽根付きの帽子。水属性の魔法や攻撃に対して耐性を得る。

DEF+10 MGR+8 

【水耐性微上昇】



【水蜥蜴のベスト】耐久度 400/400

水蜥蜴の素材で作られた簡易なベスト。重要な部分は堅い鱗で守られ、それ以外の部分は軽い皮で作られているため機動性に優れる。

DEF+15 MGR+10 AGI+2



【水蜥蜴のハンドグローブ】耐久度 200/200

水蜥蜴の素材で作られた指抜きグローブ。吸い付くようにフィットする。長時間着用していても蒸れない代物。着用していると命中率が微上昇する。

DEF+5 MGR+5 DEX+3



【水蜥蜴の皮ズボン】耐久度 300/300

水蜥蜴の素材で作られたズボン。軽さに定評がある水蜥蜴の皮をふんだんに使用した物の為、非常に軽い。

DEF+8 MGR+5 AGI+5



【水蜥蜴のハンターブーツ】耐久度 250/250

水蜥蜴の素材で作られた狩人専用のブーツ。機動性を重視しているため防御面では乏しいが、着用者に身軽さを授ける。

DEF+2 MGR+2 AGI+8

【狩人専用装備】



――――――――――



「これは優秀ですわ」


 内容を見た俺は思わずつぶやく。防御面でそこそこあればいいかな程度にしか思っていなかったのにAGIとDEXの数値が上がるのは本当にありがたい。そして何より結構見た目が良い。なんかがっしりしているのを想像していたけど、軽装備らしく守るところは守る、それ以外は機動性確保のために最小限という所が非常に良い。真っ青というわけでもなく所々に黒などの配色を施してくれているのもポイント高いな。


「喜んでくれて何よりだ。まあ、これから本命があるんだけどな」


 ニヤリと笑うモーガン。本命、という事は【幼水龍の逆鱗】を用いた武器の事か。魔力を帯びた武器というのはどんな感じになるのだろうか。


「よし、こいつだ」


 モーガンが布を被せた物を持ってきて、ばさりと一気に布を取り払う。


「うおお」


 そこに出てきたのは青と白を基調とした木の弓ぐらいのサイズの弓。手に取ってみて掲げてみると弦も頑丈にできていて、なおかつ引きやすい。本体は見事な曲線美を描いていて、着飾り過ぎない程度に鱗や皮を用いられている。そして、手に取って分かったのだが魔力が満ちているのが伝わってきた。なんていうかこう、身体の一部になったというか同化したというか、ジャストフィットしたような感覚が伝わってくるのだ。


「間違いなく俺の作品の中で一番の出来だ。今回はいつもより一層気合入れて打ったからな」


「そうみたいですね」


 間違いない。これはかなりいい武器だろう。

 はっはっは!と豪快に笑うモーガンに笑みを向けながら、俺はウインドウを開く。


――――――――――


【水龍奏弓ディアライズ】耐久度600/600

使用者に見合う武器をという信念を持つ職人が一晩掛けて打ち続けた幼水龍の弓。放たれる矢に強力な水エネルギーを付与し、堅い装甲をも貫く。幼水龍の逆鱗を用いた事により強力な魔力を収束させることが可能で、魔力を収束させて放つ矢は幼水龍の奥義の如く。

STR+60 必要STR50 VIT30

【通常攻撃に水エネルギー付与】【彗星の一矢】


――――――――――


 いやなんだこれ。単純な数値だけ見て木の弓の15倍の攻撃力とか笑うしかないだろ。今まで共に死線を潜り抜けてきた相棒の木の弓先輩が完全に雑魚武器と化したんだけど。

 つうか【彗星の一矢】ってスキル何?水棲だから彗星ってか?やかましいわ。

 てかもしかしてもしかしなくてもこのスキルってあのレッサーアクアドラゴンの発狂レーザーモドキが俺にも使えるようになるって事?うわ最高かよ(怒涛の掌返し)

 俺は思わず顔を引きつらせながら、


「火力インフレェ……」


「所持金インフレが何をいまさら」


 これがMMORPGの恐ろしさか。俺のウインドウをのぞき込んだライジンも「うわなにこれエッグ」と言葉を漏らす。やっぱりガチ勢基準でも現段階でこれは大分ヤバいんだな。


「流石に強すぎるからステータス要求出てきたかー。良かった、STRとVITに数値振っといて」


「比較的軽い部類の中サイズ弓でステータス要求出てきたのが少し驚きなんだけど」


 ライジンが戦慄したようにそう言う。絶対これ大成功しちゃいました系の武器だよなぁ…。名前が厨二臭いけどAimsで厨二武器は使い慣れてるからいいや。取り敢えずこのスキルを早く使ってみたい。


「あ、代金支払いますよ」


「用意できたのか」


 俺は所持金から三十五万マニーを具現化させると、袋包みで出てきたそれをモーガンに手渡す。


「五万程多く入れてますけど感謝の気持ちという事で」


「そんな気遣いしなくてもいいのにな。まあ、分かった。そういうことならありがたく受け取っておこう」


 だってこんな滅茶苦茶強そうな武器作ってもらって全部合わせて三十万は流石に気が引けるしな……。え?それならもっと払うべきだって?バッカ、あんまり多く渡すと後で困るでしょ。相手も多くもらえてハッピー、俺も出費少なくてハッピー、これがwin-winってやつだ。


「装備のメンテナンスとかしたくなったらまた来いよ」


「了解です!」


 ポンもホーガンさんから装備を受け取ったのを確認してから、俺達は【鈍色の槌】を後にした。





 リバス渓流の広い草原で俺は深く深呼吸をして、矢を一本取り出す。

 【水龍奏弓ディアライズ】を構えて俺は一言、ポツリと。


「【彗星の一矢】」


 その言葉がトリガーとなり、矢が青いオーラに包まれてモーションアシストが働く。自動的に矢を弦にあてがうと、すぐに放たずにギリギリと力強く構える。次第に弓も青く光り、俺の身体からMPという名の魔力が矢へと注ぎ込まれていく。

 五秒ぐらい構えて限界まで引き絞ると、凄まじい勢いで矢が放たれた。

 青いエフェクトをまき散らしながら一筋のレーザーの如く猛スピードで飛来すると、モンスターを一瞬で爆砕してなお止まらず猛進する。

 矢を放った衝撃で三秒ほど硬直状態になりながら、矢を眺めていたがすぐに見えなくなった。


 その様子を頭の中で整理し、結論を出す。


「これオーバーキル気味だからしばらく封印ですわ」


 若干白目になりながら、俺は【彗星の一矢】のあまりの威力に笑うことしか出来なかった。

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