#028 第三の町、商業都市サーデスト
「いやーお疲れ様でしたライジンさん。世界初!SBOエリアボスソロ攻略記念に一言どうぞ!」
「二度とやんねえ」
俺がニコニコしながらインタビューすると、幾分かやつれたような表情でライジンがぽしょりと漏らした。結局、彼は一時間かけて洞窟踏破含め、レッサーアクアドラゴンを見事討伐したのである。……そう、一時間である。俺達よりも二十分も早く攻略したのは正直驚きだった。これがMMORPGガチ勢の実力か……!
ちなみに生放送は終了している。先ほどまで笑顔をずっと振りまいていたのに今は元から感情が搭載されていないロボットの如く無表情で淡々と言葉を返すお人形と化した。
サーデストの入り口前で石の上に座り、燃え尽きたように項垂れるライジンの隣で俺は門に向かって指を指した。
「これから俺達サーデスト観光行くけどライジンも来る?」
「お前らほっぽり出したらまたなんかやらかしそうだけど流石に疲れた、編集して寝ます」
「いや編集はするんかい。編集作業もほどほどにな」
いや無理やり挑戦させたお前が言うなよ、とお小言を頂くと、ライジンはそのまま光の粒子となってこの世界から姿を消した。
その場に取り残された俺とポンは、くるりと向かい合い。
「じゃ、行きますか。サーデスト観光」
「行きましょう!」
そう言って俺らは行商が盛んに行われている商業都市、サーデストへと歩き出した。
◇
第三の町、商業都市サーデスト。
第一の町【ファウスト】、第二の町【セカンダリア】と違う点を挙げよ、と問われれば一番最初に挙げられるのはその町の規模の大きさだろう。
日の出ぐらいの時刻からインして、徒歩で観光を開始したとして、半分も観光出来ずに日が落ちている、といえばその馬鹿みたいな広大さが理解できるだろうか。
無論、広すぎるために移動手段はそれなりにある。プレイヤー達は商店や鍛冶屋を始めとした店が立ち並び、バザールが毎日開催されている
煉瓦造りの家が立ち並んでいる町並みを観光するもよし、バザールで掘り出し物を探したり、自身が出店するもよし、マイハウスを購入して自由にインテリアを装飾してまったりするもよし。
そんな自由にまったりと楽しむことが出来る夢の都市、それがサーデストである。
俺達は最初に商業区にある、小物を販売している出店を見て回っていた。
「あ、村人君、このコップ可愛くないですか?」
ポンが声を弾ませながらNPCが経営している出店の商品を手に取る。花柄のデザインの白いコップだ、ふむ、確かに女の子が好きそうだな、と顎に手を添える。……でもな。
「インテリア買っても飾るとこないじゃん……」
「ですよねぇ……。あ、すみません店主さん、商品を勝手に手に取って」
「気にしなくて大丈夫ですよ。良ければ他の商品も手に取って見て行ってくださいね」
ポンが謝ると、NPCの女性がにこりと笑う。……やっぱりただのNPCに見えないな。この人にもAIが搭載されているんだろうけど、注視することで現れる、NPCを示すアイコンが表示されないと普通にプレイヤーと勘違いしてしまうぞ。
俺がじっと見ていることに気付いたのか、NPCの女性は少し困ったように笑うと、首を傾げる。
「どうしました?」
「最近、俺達と似たような人達が増えてたりします?」
「そうですねえ。
この町を初めて訪れた最初のプレイヤーが二日前、という事か。やっぱり最速勢は早いな。
そう思ってうんうん頷いていると。
「サーデストに来てくださってありがとうございます」
「へ?」
突然、ぺこりと頭を下げてきたので思わず素っ頓狂な声が漏れた。
「
うっすらと笑みを浮かべて、NPCの女性は俺とポンを見つめる。
と、その時、女性の後ろから小さい女の子がひょこっと顔を出した。NPCの女性が手招きすると、小さい女の子はこちらにぽてぽてと歩いてくる。
「…私にはこの
「そうなんですか…」
思った以上に
「なので、あなた方が市場を盛り上げてくださることに本当に感謝しています。この
優しく、慈愛に満ち溢れた表情で娘の頭を撫でる女性。撫でられた少女は、柔らかい表情を浮かべると、はにかんだ。
確かに、女性の身体はやせ細っている。こんな細い身体で女手一つで育てているのか……。
「あ、すみませんね。私のお話なんて関係ないですよね。同情を買って商品を買わせるような事を言って申し訳ありませんでした」
慌てて女性は、両手を振って苦笑いを浮かべる。……そうだな、取り敢えず。
「今この店頭に置いてある商品全部くださいって言ったらいくらになります?」
「私も買います」
「……え?」
ここで買わなかったらただの鬼畜だろうが!ほかに選択肢あるか!?見ろ、ポンなんて涙流してんぞ!
「え、えと、本当に無理しなくていいんですよ?私の事情なんて気にしなくて大丈夫ですよ」
俺達の発言にしどろもどろになりながら困惑する女性。そんなこと言うけどなぁ!そんな事情を知ってなお無視したら流石にそいつは人間としてどうかしてるとしか言いようがねえよ!
「出せる分だけ出します。……おいくらですか?」
「えっと……、取り敢えず今店頭に出ているもので合計は12000マニーです」
「俺だけで足りるな。じゃあ、これを」
メニューウインドウを操作してマニーを具現化すると金貨の入った包みに変わる。ずしりとした重みを感じながら、その包みを女性に手渡した。
「これで、今日は美味しい食事でも食べさせてあげてください」
「―――っ」
そう言うとぽろぽろと涙をこぼし始め、金貨の入った包みを大切そうに抱くと、心の底から嬉しそうな表情を浮かべる女性。
「ありがとうございます……!ありがとうございます……!」
その表情を見ながら、俺達も笑顔を返す。
「これからも貧しさに負けずに頑張ってください」
「はい……!」
激励の言葉を贈ると、彼女は、娘を撫で、指で涙を払いながらにっこりと笑った。
≪称号を獲得しました≫
【幸せのお裾分け】
◇
「『サーデストの商業区にある出店の小物売り店の未亡人の店主、シェイラさんという女性NPCが女手一つで子供を育てているというエピソードを確認。紳士諸君、救援求む。取り敢えず今日の分の商品は全購入しておきました。場所はこちら【画像】』……よし、これで良いな」
掲示板に書き込むと、俺はメニュー画面をそっと閉じた。きっと、あれだけではすぐにまた飢えで苦しんでしまうだろう。ならば、プレイヤーに救援を求めればいいじゃない、という結論だ。
彼女の名前は別れ際に聞いておいた。これで、彼女が少しでも幸せになればいいのだが。
「それに、思わぬ見返りもあったしな」
俺は称号欄を開いて、内容を確認して微笑んだ。
【幸せのお裾分け】
NPCの好感度が上がる。
偶然だったのだが、思わぬ見返りを得た。今後のプレイにも大いに影響してくるだろう。人助けもしてみるもんだな、と一人ごちる。
「ポンはいつまで泣いてんだよ……」
「だって、だってぇ……」
すんすんと鼻を鳴らしながら腕で涙を拭うポン。商品を受け取りながら、もう少し話を聞いてみたのだが、どうやら夫は元冒険者で、魔物との戦いで命を落としたらしい。舞台がファンタジー世界である以上そういった事情は避けられないが、やはりその世界で生きる住人達からの生々しい話を聞くと割と精神的に来るもんがあるな……。
「きっとほかのプレイヤーも彼女が作った商品を買ってくれるさ。あの子が不自由なく大人になれると良いな」
「そうですね…!」
そう言って俺たちは観光を再開したのだった
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