#027 グレポン少女によるスキル講座
「第三者視点から見てみると面白いなこれ」
スナック菓子を口に放りながら俺はにんまりと笑みを作った。リスポーンした後、すぐにログアウトして現実世界へと帰ってきた俺は、先ほど配信開始したライジンの生放送を見ている状況だ。
突発的とはいえ、律儀にこなすつもりなのかライジンは真っ向から俺の挑戦を受けている。今は洞窟内に降り立った所だ。アクアリザード達の巣の所だね、あのブワッと赤い目が洞窟中に広がったやつ。……うわ、思い出しただけでも背筋がゾワっとした。
と、その時ピンポーンとインターホンの音が響いた。
「お、もう準備出来たのか」
俺は
そう思いながら玄関のモニターの電源を入れると、亜麻色の髪の美少女の姿が映った。
「紺野さんご自由に入って下さい」
『あ、ごめんなさい、渚君。開けてもらっても良いですか?』
ん?何か持ってるな……鍋、か?
俺が返答しないままなんだろう、と思っていると紺野さんがくすりと笑い。
『ええっと……実は昨日、肉じゃがを作ったんですけど、もし良ければご一緒に食べませんか?』
「……マジで?」
え、手作り?普通にありがたいんだけど。やったぜ悲しいお惣菜コーナーと化した俺の食卓が彩られる。(なお大概一品だけ)
「勿論。……ありがたいけど紺野さんは良いの?」
『あはは……。引っ越す前は、私が家族全員分の食事を作っていたので、まだ一人っていう感覚が抜けなくていっつも多く作っちゃうんですよね。捨てちゃうのももったいないし、協力してくれると嬉しいなぁって』
「俺で良ければガンガン食べるよ」
だし巻き卵の前例もあって俺はポンの手料理がかなり年月を掛けて磨き上げられてきたものだという事を知った。片親がプロゲーマーだし、俺と似たような境遇だったから料理も手慣れているのだろう。まあ俺の場合は料理はコンビニ弁当で済ませてたから生憎と料理スキルは皆無なのだがな……。
「今開けるよ、待ってて」
お、ライジンが滑って転んだ。……転がりながら返信してるのは狂気の沙汰としか言いようがねえな。ドアを開けると。
「ごめん、お待たせ」
「いえいえ、いきなりこっちこそすみません」
ポンがニコリと微笑み、肩より少し先まで伸びた亜麻色の髪が揺れると、ふわっと甘い香りが漂う。つい先ほどまで他の料理をしていたのか、彼女はエプロン姿だった。少しぼーっと見ていると、彼女は照れるように頬を赤く染める。
「あ、あの……、えっと、その……。み、見惚れちゃいました?」
「……少しな。ほら、重いだろ、俺が持つよ」
「あ……」
少し逃げるように俺は紺野さんから鍋を受け取り、キッチンへと持って行った。
「う、うぅ……」
かぁぁとその場に取り残された彼女の顔が朱色に染まっていくのを横目で見ると、慣れない真似はするもんじゃないぞと俺は笑みをこぼしながら呟いた。
◇
「それではライジンソロ攻略鑑賞会兼、リバス渓流攻略祝勝会という事で、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
そう言ってジュースの入ったコップをこつん、と軽く当てる。
そして一息に煽ると、ぷはーと満足げに吐息を漏らした。
「本当にお疲れ様でした。まさか普通の狩りの筈がこんなに大規模な戦闘になるなんて思いもしませんでした」
「俺もだよ。いやーまさか思いつきで逃げてきた穴がアクアリザードの巣だとはなー。まあ普通に考えたらすぐに分かることだったけどあの時はいっぱいいっぱいだったからな……」
ジュースをコップに注いでからスナック菓子を一口。サクサクとスナック菓子特有の音を心地良く楽しみながら、昔を懐かしむように視線を天井へと向けた。
「あ、あんまりスナック菓子食べ過ぎると後の食事が食べれなくなっちゃうので控えめにしておいてくださいね」
「分かってるよ。折角紺野さんが作ってくれた料理だし、腹いっぱいになるまで食べたい」
「……ふふ、嬉しいです。あ、そうだ。この前作っただし巻き卵はどうでした?」
「文句なし。出汁の味も優しくてふんわりとした食感が損なわれていなかった。うちの母親よりも美味いかも。紺野さんは将来いいお嫁さんになるよ」
はははと笑いかけながら言うと、彼女は顔を横に逸らした。……あ、もしかしてまた地雷踏んだ?
少し気まずくなって視線をウインドウに持っていくと、ライジンが俺達が落盤させた辺りのエリアまで来ていた。……アクアリザード達が開通してくれたおかげで道は出来てるな。良かった良かった。
「あーごめん紺野さん、気を悪くしたなら謝るよ。折角だから祝勝会しようって言いだしてくれたのは紺野さんなのに気分を損ねさせてすまない」
「……いえ、気分自体はその……平気です」
そう言って紺野さんがこちらを向くと、手で口元を抑えていた。
「……なぜ口元隠してるの?」
「お気になさらず」
まあいいか。再びウインドウに視線を戻すと、ライジンの生放送の視聴者がリアルタイムで十万人を超えていた。……すげーなオイ。こんなコメント流れる速度早いの中々見ないぞ。さすが大手。
「あ、ライジンさんの生放送ですか?」
俺がさっきからちらちらと視線を変えていたことに気付いた紺野さんが近寄ってきて、俺の肩を優しく触れるように掴んで、後ろからのぞき込む。
「紺野さんも見ようぜ。ライジンがどこまでやれるか気にならない?」
「ぜひぜひ。……どうやってレッサーアクアドラゴンのソロ討伐をするのか気になります」
そう言って肩から手を離し、俺の隣まで移動すると、腰を落として、触れるか触れないかぐらいの距離で俺と同じウインドウをのぞき込む。ちょ、近い近い!この子は本当に無自覚に来るな!少しは向こうも意識して……ないな。めっちゃ楽しそうにウインドウ見てる。
「あ、そうだ。レッサーアクアドラゴンで思い出したけど、あの戦闘で【跳弾】のスキルレベルが最大になったんだよね。その後ってもう上がらない感じ?」
「えっと、基本的にスキルレベルが最大になればそれ以降は上がることはありません。しかし、スキル生成システムで作られたスキルを含め、全てのスキルは
「上位スキル?」
「ジョブで言う所の上級職みたいな感じです。簡単に言えば強化版みたいな感じですかね」
なるほど、強化版か。【跳弾】の強化なんて想像つかんけど。……それよりも。
「進化の方法って?」
「ステータス画面からレベルが最大にまで上がったスキルをタップすると【進化】という項目が追加されているのでそれを押します」
「……それだけ?」
「ここからです。基本的に進化には三種類の進化があります。まず一つ目、【通常進化】。こちらは単純に使い勝手が良くなったり、デメリット系が無くなったりする進化ですね。レベルが最大になった時点で行うことが出来ます」
なるほど、通常進化、ね。俺の場合は跳弾のダメージ減衰が無くなる感じかな?なにそれ弱体化じゃねえか。
「二つ目は【複合進化】。複数の最大レベルのスキルをまとめて合わせて一つのスキルにします。新規効果の追加などで超強力スキルになることもありますが、基本的に一つにまとめてしまうとMPの要求量が増えたり、使い分けが不可能になってしまうので一長一短の進化ですね」
ふむ、なるほど……。【跳弾】と【バックショット】を合わせるのもありかもしれないな。良く使う組み合わせだし、今後も使い続けるだろうし……。あ、でもアイテムとかにもノックバックついたりするのかな?なにそれ微妙。
「最後が【参照進化】。プレイヤーの今までのプレイ履歴を参照して、システムが最適な進化を施す、という進化です。一番ポピュラーなのがこれですね。大体外れはないと言われている進化ですが、進化する際にキャンセルが出来ません。なので少し博打のような進化ですね」
ほう、運ゲだと?これはこれでそそるものがあるな…(アレ泥の沼)。
「基本的な進化は以上になります」
「基本的っていうと例外的な進化もある、ということか?」
「はい。特殊ですが【成長進化】と言われているのがあります。戦いの最中に進化することが多いという進化ですね。スキル生成システムの要素を最大限に活かした進化です。プレイヤーが強く望んだ願望をもとに、状況を打開すべくスキルが変化する……らしいです」
「なにそれくそかっけえ」
こいつ、戦いの中で成長してやがる!!!を地で行く進化とか最高に滾るんだけど。
「ただ、この進化の条件は全く判明してないそうなので忘れた頃にやってくるという感じです」
「ですよねー」
物語の主人公の気分が最高に味わえる進化だ、相当特殊な条件を満たさないと駄目なのだろう。
「進化は以上ですね。あ、ちなみに
俺で言う所の【弓使い】スキルか。確か上級職になる条件はジョブレベル最大と
「というかもうスキルレベル最大になったんですね。早いなぁ……」
「跳弾は毎回アホみたいに使うからなぁ。その分スキルレベルが上がるのも早いんだよ。弓使いだってもう9まで上がってたし、あとはレベルかなぁ」
初級ジョブは確かレベル50が最大だったはず。あと半分ぐらいか。遠いようで割とあっさり行きそう。
「まぁスキルはまたインしてから見てみるか。跳弾がどんな感じになるか楽しみだな」
うっすらと笑みを作る。ダメージ減衰の強化が入ったりするのかな?それ強化って言うのか分かんないけど。
「あ、ライジンさんがボス部屋に着きましたよ!」
紺野さんが声を弾ませたのでウインドウを見てみると、たった今ライジンが息を切らしながらボスエリアに駆け込んでいた。マッピングデータがあったから迷わず行けたのだろうが、早いな。
「さてさてお手並み拝見だな」
その後も俺らは、ライジンのレッサーアクアドラゴンソロ攻略を鑑賞しながら、楽しい時間を過ごしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます