#026 やはり彼は可哀想な目に合う
あれから少し気まずい空気になり、俺とポンは殆ど会話しないまま洞窟を歩き続けた。
大体五分ぐらい経った頃だろうか。
「あ、もうすぐ洞窟を抜けますよ」
ポンが声を弾ませて指を指したので、上に向けていた視線を前に戻すと、眩しい光が視界に入ってきた。少し目を細めて、ゆっくりと先の景色を覗いてみると――。
「うわぁ、絶景」
「ですね!」
思わず目を輝かせながら目の前に広がる、外壁によって囲まれた巨大な都市を見て感嘆の吐息を漏らした。
あれが、第三の町【サーデスト】。第一、第二の町はこれといって特徴となるものが無い、RPGにはありがちなごく普通の町並だったが、規模からして全然違う。商業が盛んなのか行商の馬車がひっきりなしに往来し、多くのNPC達が盛んに商売を行なっている。意味有りげな巨大な建物もいくつか点在し、恐らくあの都市を訪れる事で出来る要素も増えるのだろう。少し、というかかなり楽しみになってきた。
【鷹の目】を解除すると、隣に立っていたはずのポンが既に階段を降り始めていて、こちらに手を振っていたので慌てて追いかける。
「先に行かないでくれよ」
「だって、あんな都市を見せられたら早く行きたくもなりますよ!」
うん、気持ちは分かるけどな。なんかこう、大都市ってわくわくするよな。町の隅々まで探索したくなるっていうか。
「まあゆっくり行こうぜ。さすがにちょっと疲れた」
「そうですねぇ。私も流石にちょっと疲れました」
たはは、と弱弱しく笑うポンを見て俺も頷く。廃ゲーマーと言えど緊張状態が長時間続けば疲れるものは疲れる。【サーデスト】に着いたら一旦落ちるかな……。
再び歩き出すと、メッセージアイコンが『ピコン』と音を立てて表示される。誰からだろうか。
ウインドウを操作してメニュー画面からメッセージBoxにアクセスすると、メッセージを送ってきたのはライジンだという事が分かった。
「あれ、ライジンからメッセージ来た」
「どうしたんですかね?」
確か奴は動画の編集作業でいったん落ちたはずだ。もしかしたらひと段落ついて帰ってきたのかもしれない。
ライジン:あのーお二人さん?俺の見間違いじゃなければ【サーデスト】前にいらっしゃらない?ボスはどうしたの?
「あー」
そうか、フレンドリストから俺達の現在位置を把握したのか。それで疑問に思ってメッセージを送ってきたと。うーん、まあ嘘つく理由も無いし。
村人A:二人でボス含めて踏破しただけ。今はそれで【サーデスト】に向かってる最中
ライジン:何二人で先に攻略してんの!?いや突っ込みどころそこじゃないけど、はあ!?ちょっと、攻略するならするで俺に一報ぐらいしてもいいじゃない!
なんだこのめんどくさい女感。嫉妬か?嫉妬だな。ポンにやきもち妬くなんて本当にお前が怖くなってきたよ。まあいいさ、君もすぐに
村人A:あ、そういやお前が【リバス渓流】の崖エリアを推す理由が分かったよ、散々楽しい目にあったからさ
そうなのである。奴は解散前にやたらとレベル上げは崖エリアがお勧めだよとしつこく言ってきていたのだ。なんか怪しいなと思いつつも油断していたらあのザマだったのだ。
ライジン:あ、
村人A:逃げ切ったよ。ようし、てめえの言質は取れた、確信犯なら容赦しねえ、覚悟してろ
ライジン:えっなになにこわ
『ライジンからの通知をOFFにしました』
さて、これで奴に対するお仕置きの正当な理由も出来た。絶対あのイケメンフェイスを泣きっ面にしてやる。
「えと、ライジンさんからはなんて?」
「なんで俺を誘わなかったんだよ、おこだよって内容とアクアリザードの習性知ってたからお疲れ様ですざまあああああと」
「なっ、それは酷いですね……!」
ポンもムッとした表情で怒りを示す。すまんなライジン、しばらくお前には勘違いされたままでいてもらうぞ。まあ大方ニュアンスとしてはあってるけど。
「サーデストに着いたら一旦セカンダリアに飛ぼう。そしてライジンに合流だ」
「も、もう一度行くんですか!?」
「いや、あいつには俺達の楽しかったワクワク洞窟探検隊を追体験してもらう」
「あっ……」
ポンは俺の言いたいことが伝わったようだ。先に二人で攻略したのなら君も追いつけばいいじゃないってね。うん?俺らは疲れたから協力出来るのは少しばかりの情報とマップ提供ぐらいだ。
前人未踏の
◇
基本的にこのゲームは町から町へとファストトラベルすることが可能だ。特にファストトラベルのための専用の店などはなく、メニュー画面から幾ばくかのマニーを払う事で簡単に行き来が可能である。町の入り口で【サーデスト】から【セカンダリア】へとファストトラベルすると、町の入り口でライジンが待っていた。
「おっすライジン、おつおつ」
「おつーじゃない!はぁ、また何かやらかすとは思ってたけど、今度は二人でボス攻略か。レベル上げれば簡単なんだろうけど、流石にまだ早いんだよなぁ……」
「安心しろって、その記録を上回る人物が現れるからさ」
「えっと、それはどういう……?」
俺は終始ニコニコ笑いながら話しかける。まあその意味は後でしっかり理解してもらうから大丈夫だよ、多分。
俺達は【リバス渓流】へと歩き出しながら、話し始める。
「じゃあ事の経緯を説明しよう。まず俺達はアクアリザードを怒らせました。するとどうでしょう、沢山の増援が押し寄せてくるではありませんか」
「うん、リザード種はそういう習性があるからね。それで?」
「必死になりながらも俺達が穴に飛び込むと、そこは奴らの住処でした」
「だって穴から湧いてくるもんね。その穴の続く先は住処だよ」
「そして再び逃走、その逃げた果てにボスエリアへと到達し、ボスを倒しました」
「過程省きすぎじゃない?」
細かいこたぁ良いんだよ。実際に体験すれば否応なしにも知る羽目になるんだから。
◇
「そうそう、ちょうどこの辺り」
一時間ちょっと前に来たばかりだというのに酷く懐かしいような気持ちに襲われながら、俺は辺りを見回す。アクアリザード達がのそのそと歩いて、岩の上でのんびりしている姿を見ると心が穏やかな気持ちになるな……。
「えっと、村人?」
「これ洞窟のマッピングデータね」
「あ、ありがとう……。あの、なんか企んだりしてないよな?」
ライジンが訝し気な表情でこちらを見てくる。
何言ってんだこいつは。当たり前じゃないか(呆れ)。
「あそこの穴からあいつらの巣に行けるからそこからは洞窟のマップを頼りに行けばボスエリアまで行けるから」
「……あのさ、ずっと気になってたんだけどポンは?」
「ポンはちょっと疲れたから落ちてる。俺も疲れてる中案内してやってんだから感謝してくれよ」
「そ、そうなのか。ごめん、助かる」
お礼を言うにはまだ早いぞライジン君よ。君はこれから地獄を見る羽目になる。
「あ、ウインドウプリーズ」
「え?まあ、いいけど……何のために?」
「マッピングデータの一応確認がてら」
ライジンがウインドウをこちらに飛ばしてきたので悟らせないように俺は
「ライジン、俺を信頼してくれてんのは嬉しいけどパスワードで制限しておいた方が良いぞ」
「ちょっと待て、お前今何やってんだ」
流石に気付いたのか、慌てた様子で俺に近寄るが、その前に設定が完了し、
「なっ!?」
ブン、とライジンの頭上に表示される赤い円状のマーク。そのマークが出現したのを見て、ライジンは酷く動揺した。俺やライジンが良く見知った物であり、ライジンに至ってはしょっちゅう使っている機能である。
『生放送』を開始したのである。
「やあやあお茶の間のみんな!僕の名前は村人A!一般市民さ!」
ライジンの生放送が始まって少し経ってから俺は明るく話し始める。超人気配信者だけあって数秒も経たずに視聴者数は千を超え、コメントがブワッと流れ始めた。
「今日はそこのライジン君が、レッサーアクアドラゴン
ライジンは生放送のタイトルと、俺の言葉を聞いて顔を引くつかせる。だが、始まってしまった以上簡単に生放送を止めるわけにもいかない。それに、コメントでは
「前人未踏のエリアボスソロ討伐を達成するのが先か、ライジンの心が折れるのが先か。これは僕にも分からないけど、きっと彼なら勝ってくれる!」
俺はわざとらしくガッツポーズを作ってから矢を取り出して、弓に装填する。
さて、ここで復習問題です。
アクアリザードは、その性質上、誰にヘイトが向くんだったかな?
「おい、村人、やめろ……!」
ライジンが絶望したような表情を浮かべたのでにこりと笑い。
「それでは、挑戦開始!」
答えは、
容赦なく矢を発射。真っすぐ飛んで行った矢はアクアリザードに突き刺さり、たちまち周りのアクアリザードがあふれ出してくる。
それを見届けた俺はポンから貰った最後のミニボムを取り出して……。
「
「てめっ絶対許さねええええええええええええええええええええ!!!!??」
自身の身体に叩きつけて体力全損。ライジンの絶叫を聞きながら俺は満足気にリスポーンしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます