#025 頼れる仲間
「大丈夫ですか!?」
半壊したエリアの縁で、ポンがこちらをのぞき込む。慌てたような声音なのは、俺が凄まじい勢いで水面に落下したからだろう。俺は水面から顔を出すと、腕を高々と掲げてサムズアップする。
「平気平気、体力ゼロだけど」
「それ絶対大丈夫じゃないですよね!?」
うん、多分石ころ投げられただけでも死ぬわ、俺。なんとか岸部までたどり着き、ウインドウを操作してHPポーションを取り出すと、一息に飲み干す。回復特有のじんわりと癒されるような温かさに包まれて、HPバーが緑の領域まで戻るのを確認してから、ポンに手を振る。
「今そっちに行くわ」
そう言って俺は弓矢を真下に構えて【バックショット】を再び放つ。景気づけの一発。俺の身体は再び凄い衝撃で宙に躍り出ると、情けない姿勢のまま地面へと落下した。
「どわあああああ!!?」
「最後まで締まらないですねえ……」
くすくすと落ちてくる俺を見てポンが笑う。これ攻撃とかに使うのは良いけど落ちるときに制御が難しいのが難点だよなぁ…。あ、でも落ちるときにバックショットを当てれば勢いを緩和出来るんじゃないか?不時着は確定だけど。
「あっ見て下さい、滝が……!」
ポンが指差した方向を見てみると、正面にあった大きな滝が二つに割けていき、その中心に穴が存在していた。恐らくあの向こうが第三の町へと繋がる通路なのだろう。
続けてこの半壊したフィールドから足場が次々に出現し、その通路へと導くように連結していく。
「なるほどねー。どこから次の町に行くんだろうかとは思ったけど滝の中にあったのか」
「なんとなくそうなんじゃないかなぁとは思っていたんですけどやっぱりそうでしたね」
まあ演出もド派手なこって。でもこういう演出は割と好きだよ、隠し通路的な奴が現れるの。
俺はポンの方へと振り向くと、口角を少しだけ上げる。
「と、言うわけでマラソン終了お疲れ様!」
「お疲れ様でした!」
そう言って俺とポンはこつんと軽く拳を合わせると、彼女は満面の笑みで返してくれた。
精神的にも大分疲れたなー。なんせマラソン含めて一時間以上戦闘状態だったのだから。常に緊張状態で少しのミスも許されない状況下だったからほとほと疲れてしまった。今夜はぐっすり眠れそうだ……。
「あ、おーい、そこのお二方ー」
「ん?」
と、ちょうどその時後方から声が聞こえてきた。先ほど出会った銅鎧のプレイヤーが目に入ってああ、と納得した。
「攻略おめでとう。良く二人で行けたなー。あ、俺リキッド侍って言います、以後お見知りおきを」
「ああわざわざどうも。先ほどはすみませんね。村人Aってプレイヤーネームでプレイしてます。よろしくお願いします」
リキッド侍と名乗るプレイヤーが手を差し出してきたのでその手を握り返し、笑顔で応対する。
「いやー本当に見事だった。あんな面白い物見せられたらこっちのモチベーションも高まるよ。今後の活躍にも期待してるよ」
「ギリギリだったのが本音ですけどね。とにかくこの相棒が良くやってくれました。彼女がいなかったら絶対勝てませんでしたから。…おっと、そういえばなんでリキッド侍氏達はここに入れるんですかね?」
確かマンイーターの時は全滅してから一分経たないと入れなかったような。あ、倒した場合は十分だっけ?
「一応討伐の場合はリポップするまでの時間はエリアに入れるんだよ。ただ、討伐経験が無いとその先の道は障壁みたいなもので遮られて進めないんだけど」
「なるほど、そうなんですね」
「そんな堅苦しく無くていいぞ。さっき会ったときみたいな感じの砕けた口調で良いから」
「さっきは焦っててつい口調崩しちゃってたんですけどね……。ええと、まあそれでいいのなら。ごほん、それでどうして声を?言いたかったのはそれだけじゃないんだろ?」
「あ、それは俺が説明しますよ」
と言って前に出てきたのは俺と同じ狩人の男だった。
「どうも初めまして。アヌビス丸って言います。今回お二人に声をかけたのはご相談がありまして……」
「相談?あ、悪いけどクラン勧誘は受け付けてないぞ?」
「ああ、そうじゃなくてですね。まあ少しそちらもあったのですが……。えっと、情報を公にしていいかって事なんです」
「俺たちが二人で討伐したってことを?」
「それもあるんですけど……、今回お二人が戦いの中で教えてくださった
「フレーバーテキスト?」
世界観を説明するための補足みたいなやつだよな?それがどうかしたのだろうか。
首を傾げていると、少し驚いたような表情でアヌビス丸が固まるが、すぐに笑みを浮かべて。
「そうですか……。なるほど、直感だったんですね。凄い、いろんな人から注目されているプレイヤーなだけある。お二人が発見したのは、フレーバーテキストが文字通り
「……あー、なるほど」
大方レッサーアクアドラゴンとアクアリザードの関係性とかそんな感じの内容だったのだろう。で、特に意味をなさないと思われていたものが普通に攻略のヒントをくれたように、有用性があったものだった。その開示をしても良いか、と言われたら……。
「そりゃあ、もちろん。別に俺らに不利益になるわけじゃないし」
俺の場合は掲示板だけど、情報収集ではいつもお世話になるからな。それに、この話が広まれば他の人が得た情報も得ることが出来そうだし。
「それは良かった。引き留めて済まなかったね」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。それでは攻略頑張ってください」
「このお礼は必ず。もし町とかで見かけたら声を掛けてください」
「そんな気負わんでも」
お礼を言われて悪い気はしないのだが、遅かれ早かれその事に気付いていただろう。たまたま発見した、というか気付いたのは彼であり、実際俺が見つけたわけじゃないんだし。
「じゃあ、ここらへんで」
「ではまたどこかで」
そろそろまたあいつもリポップしそうだ。二連戦は避けたいからな……。
そう言って、俺たちは軽く会釈した後にリキッド侍達と別れ、第三の町へと足を向けたのだった。
◇
「なんか、久しぶりですね。こうして二人だけでずっと一緒に戦ったのって」
先ほど出現した穴の先の洞窟を歩いていると、ポツリとポンが呟いた。そうだったかな、と思いながら顎に手を添えるが、確かに二人で長時間戦い続けたのは大分久しぶりだった。少し感慨深くなって思わず笑みが作られる。
「最近はポンも忙しかったからあんまりイン出来てなかったもんなぁ。その理由が引っ越しとか転校手続きとかそういう理由なんだろうけど。……あ、そういえばどこに転校するんだ?」
「村人君と同じ総明高校ですよ。夏休み明けには一緒の学校ですね!」
「……あれ、俺、ポンにどこの高校に通ってるって言ったっけ?」
「あ、えと、お母さん経由で教えてもらって……」
(マジで外堀埋めに来てやがる!)
俺の母親がポンの母親に教えたのだろう。まったく、どうして俺の親はとことんくっつかせようとしてやがんだか。……別に、俺自身は悪い気はしないのだが。
ちら、とポンの事を見ると、彼女はほんの少し首をこてんと倒しながらこちらを見つめる。
(絶対、釣り合わないんだよなぁ…)
はぁ、と一つため息を吐く。外見に無頓着な俺でも分かる。ポンのリアルの姿は百人中百人が認めるほどの美少女だ。そんな彼女が傍にいるべき人間は、もっとこう、雑誌に載るようなイケメン……。そうそう、ライジンのような。老若男女に好かれる、そんな感じのイケメンがふさわしい。
ポンだって付き合うならその方が良いだろう。こんな女っぽい外見の引きこもりゲーマーより一緒にいて楽しいと思えるような人間なんてごまんといる。好意を抱いていない今なら間に合う、早くお似合いの相手を見つけてあげないと……。
「ど、どうしました?あの、やっぱり私と二人だとつまらなかったり……?」
「そんなことは無いぞ。むしろ楽しいよ」
こんな美少女と一緒にゲーム出来るんだ、野郎どもの恰好の嫉妬の対象ではあるが男としては最高に嬉しい。それに、気も合うし、伊達に年以上の単位で付き合っていない。
そうですかと恥ずかしそうに笑いながらニコニコするポンに、少しだけ胸をドキリとさせながら、心情を読み取られないように話題を変える。
「そういえば、なんでポンはAims引退するなんて言い出したんだ?このゲームに専念したいってわけだけでもないだろ?飽きたのか?」
そう聞くと、ポンの顔が少しだけ影を落とした。
「いや、そうじゃなくて……。……少し、力不足を感じたんです。その、村人君はもっと上の舞台で活躍出来るような人です。厨二さんも、ボッサンも、ライジンさんも。私はそのおこぼれを貰ってるだけに過ぎないって……。私なんかより、もっと上手い人が入れば、世界大会だって上位入賞間違いないと思いましたし」
ぽつぽつと語りだすポンに、俺はすぐに首を振って否定する。
「ポンが力不足だなんて、一度たりとも思ったことないけどな。ポンの技術はほかの誰も持っていないような凄いもんだし。事実、日本大会決勝でも即座に二人キルするぐらいの腕前だし」
「私は簡単なグレネードランチャーでキルを取っているに過ぎません。……外してしまえばただのお荷物ですし」
「……ポンがなんでそんな自己評価低いのか分からないけど、俺にとって変人分隊のメンバーはあいつらしかいないと思ってる。無論、ポンもそうだ。ポンがいない変人分隊は考えらんないし、居てくれないと困る。……まあ、本当に嫌というなら無理に引き留めはしないけど、俺はずっと一緒にゲームをしたいと思ってる」
そう言い切って俺はふっと笑うと、ポンは驚いた表情をしてから、顔を俯かせた。そして、ゆっくり指を前に向けたので、そっちを向くと、ポンが近寄りポスっと俺の背中に頭を預けた。
「ぽ、ポン?どうしたんだ?すまん、泣かせたなら謝るぞ」
小刻みな振動を感じたので俺はみっともなくおろおろしながら言うと、ポンは震えた声で。
「そういう無自覚に言う所がズルいです」
「ず、ズル?ああ、そうだよな、こんな言い方だと辞めるに辞めれ無いもんな」
「そうじゃないです。……本当に、……もう」
そのまま背中に頭を預け続けるポンに俺はそのままおろおろすることしか出来なかった。
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