#024 マラソン大会フィナーレ 


「……何あれ、バグ?」


「いやいや、仕様の範囲内じゃないですか……?」


 アクアリザード達がレッサーアクアドラゴンに攻撃し始めたのを見てリキッド侍が呟いた言葉に、アヌビス丸が困惑しながらも答える。


「そうか、アクアリザード達のタゲはまだあいつらに向いていなかったのか。それで、タゲを敵の攻撃で敵に向けさせたというのが今の状況の答えか」


「いや、でもボス戦だぞ?ボスが呼び出した敵だから普通タゲが向くのはプレイヤーの方なんじゃないのか?」


「多分、普通の敵ならそうなんでしょうね。だけど、相手はあのアクアリザード。基本温厚なMobだけあって限りは敵対してこないMobです」


「……あーなるほど、ボス戦だろうとモンスター自体の性質は変わらないってわけか。逆に、その性質を生かした戦い方が可能だと」


「これは中々興味深い発見ですね。本来ならば攻撃の手を止めることなくボスに攻撃し続ける人が大多数ですから、アクアリザードが湧いたことに気付かずに攻撃し続けてタゲを取ってしまうのが真実なんでしょうけど、いままでそうしてこなかったから気付かなかったんだと思います。あの変な鳴き声をした途端、彼らの手が止まったのはそれを知っていたからなんですかねぇ……?」


「狙ってやったなら凄いな。そうじゃないにしても、普通そんなことを考えたりしないだろ…」


「二人しかいなかったからたまたま攻撃の手を止められたんですかね?凄い偶然…」


「にしても普通あいつらは同族で、なおかつ仲間意識が強いから同士討ちするなんて思わないだろ?」


「それに関して何ですが」


 アヌビス丸が攻略サイトを開き、その内容を読み上げる。


「レッサーアクアドラゴンのフレーバーテキストに書いてあった内容から一部抜粋した物なんですけど、どうやらアクアリザード、ハイアクアリザードの中で特に敵対意識が強い個体が、仲間を食い荒らして独自進化した個体イレギュラーらしいです。そのため、一応種族上の位階的には上位種ではあるけど、リザード種の中で浮いた存在なんですよね。強者という意味では付き従っているけどそこまで仲間と認識していないみたいです」


「……はー、そこまで熟知した上で攻略してるのか……。やべえ、本気でリスペクトしそう」



 リキッド侍達は知らない。


 彼らはたまたま結果としてそうなっただけであって、そこまで計算づくではないことを。





 ガジガジと俺の尻を噛みついた時のようにレッサーアクアドラゴンの尻尾や身体に思いっきり噛みつくアクアリザード達。精一杯の攻撃を加えている彼らの邪魔をしないように俺は後方からちまちまと援護射撃を続けていた。


 どうやらアクアリザード達の対応で手一杯らしいレッサーアクアドラゴンは、こちらへの攻撃を減らしている……が、どうやらアクアリザードは何度も湧いてくるらしく、処理が終わったと思えば補充の繰り返しが行われている。その結果、処理しきれないアクアリザードが出てきてしまい、その数はすでに十を越している。


 一方、俺から戦力外通告を受けたポンはいじけてしまい、エリアの縁で足をブラブラしながらため息を吐いていた。……一応、戦闘中なんだけどなー。

 俺は弓を背中に担ぎなおすと、敵の方を見て呟く。


「そろそろ矢も温存しとくか……。出費が痛いし」


「あのー、村人君、私の出番はもうない感じですかねぇ……?」


「うーん、あれ見て必要だと思うか?」


「あー……確かに……」


 俺が指さした先には大量のアクアリザードに全身余すところなくハムハム(鋭く尖った牙持ち)されているレッサーアクアドラゴンがいた。それを見てポンが少し口角をひくつかせながらも納得する。


 ……なんかゾンビ映画とかで見たことあるぞ、あんな感じの。


「なんかあまりにも順調すぎてヌルゲーな気が……」


「あれ、そういえば、体力減るとなんか特殊な行動しませんでしたっけ」


 あ、すっかり忘れてた。そういえばマンイーターの時は地面から飛び出して暴れたんだっけ。あいつもボスだし何かやってくるんじゃ――。


「ッ!ポン!戦闘準備!」


「――了解!」


 ウワサをすればなんとやら。レッサーアクアドラゴンの身体が突如として赤く輝き、ドクンッ!と心臓の鼓動のような音が響いたと思えば、その身体から爆発するような衝撃波を放ち、纏わりついていたアクアリザードをすべて吹き飛ばす。


 その後グシャリ、とやけにグロテスクな音が響くと、その水色の背中から大きく翼が飛び出し、羽ばたき始めた。


「地を這う竜は、大空に憧れ続けて、翼を得る――か」


「なんですかその厨二さんが言いそうなワードは」


 おっと、良い感じの厨二ワードが口から出てしまった。なんか感動的な場面に出くわしたような気分なんだよ。その割にはグロい音鳴ってたけど。


「まあ待て、どうせ翼が生えただけだ。どうせ大したことは――」


「知ってますか村人君、それ、フラグって言うんですよ?」


 ポンがニコリと微笑むとレッサーアクアドラゴンの口元に何かが収束され始めて……。


「フラグ回収早すぎるだろ馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!?」


 放たれるのは熱線に似た沸騰した水のレーザー。ギュン!と凄まじい速度で薙ぎ払うと、射線上にいたアクアリザード達を一瞬で分断し、ポリゴンへと変えた。一拍遅れて地面が隆起して地割れが発生する。

 その勢いのまま天井までレーザーを薙ぎ払うとようやく止まり、レッサーアクアドラゴンの口から白い煙を放出する。


「やべえあれとんでもねえ威力だぞ、あの様子だとアクアリザード肉壁が機能しないだろうな……」


「アクアリザードのこと肉壁っていうのやめません?」


 ソンナコトイッテナイヨー。ヤダナーポンチャンオチャメ。ボクラハズットトモダチサ!


「さて、それは置いといてあいつをどう攻略しようか」


「あっさらっと流された……」


 宙に浮いている分、先ほどよりも少しやりづらくなった。俺はまだ大丈夫だが、ミニボムを用いない場合のポンは近接主体だ。……俺の矢で空中機動させるか?


 発狂モードに突入したレッサーアクアドラゴンはぐるりと空中を一周すると、急降下してこちらを目掛けて襲い掛かってくる。先ほどまでと違ってかなり移動速度も速くなり、正直余裕もない。ギリギリで回避すると地面を削りながら進行していったレッサーアクアドラゴンは、再び空中に戻って悠々と漂う。


「なんだあいつ、飛べるようになったと思ったらイキり始めたぞ」


「攻撃が当たらなくなったので余裕を見せてるんじゃないのでしょうか?」


 そうそう、ドヤ顔で悠々と漂っている所悪いけど、さっき地上に降りてきたときにまた君の尻尾ハムハム(割と食い込んでる)されてるからね?


「ポンのミニボムってまだ四つあったよな?」


「はい、ありますよ?」


「指示したタイミングでスキルを使って俺に渡してくんない?」


「何か作戦があるんですね?了解です!」


 作戦っつーかそう大したもんじゃないんだけどさ。俺は弓を構えながら辺りを見回す。

 お、アクアリザード達また湧いてきた。さて、あいつらの有効活用が今後のカギになるぞ。


「あいつらがまだ生きているうちに……ポン、あいつあとどれぐらいで倒せると思う?」


「えーと、確か検証動画で少し見たんですけど、あのような発狂状態になるのは大体一割を切ったラインかららしいです。なので、あと少しで削り切れるかと」


「OK、それだけ聞ければ十分だ。ポン、次あいつが降りてきたらミニボム頼むぞ」


 それだけ言うと、再び口元で何かが収束していくのを確認してハンドサインでばらけるように指示する。

 再び放たれる火力特化の高速レーザー。地面を穿ち、アクアリザード達を薙ぎ払いながらこの戦闘エリアを蹂躙する。


 ひたすら走り続ける事で射線から逃れた俺は、レッサーアクアドラゴンが降りてくるタイミングを待つ。


 ……来る!


「ポン、ミニボムを!」


「はい!」


 ポンがミニボムを投擲したのでそれをつかみ取り、俺に向かって猛進してくるレッサーアクアドラゴンをスライディングで回避し、すれ違いざまにミニボムを直撃させる。


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!』


 翼に直撃を受けたレッサーアクアドラゴンは、そのまま墜落して地面へと落ちた。ズゥゥゥゥン、と盛大な音と地響きを起こしながらぴく、ぴくと痙攣する。

 そして、その時を待ってました!と言わんばかりにアクアリザード達が我先にとレッサーアクアドラゴンに噛みつき始めた。


「ポン、ミニボム追加!」


「え、は、はい!」


 少し逡巡したポンがミニボムを再び投げて寄越す。俺はそのまま思いっきり……!


「グッバイ、アクアリザード!君たちの勇姿は忘れない!!」


「ええええええええええ!!?」


 ミニボムをレッサーアクアドラゴンに向けてぶん投げた。間を殆ど置かずして直撃させられた二度目の爆弾。周りに張り付いていたアクアリザード達が爆炎に巻かれて一匹残らずポリゴンと化したのを見てポンが驚きの声を上げた。……うん、攻撃すんなっていった本人がやったからね、そりゃ驚くよ。


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 だが、奴は腐ってもエリアボス。しぶとさだけは見せつけるのか、すぐに立ち直って焼かれた翼を大きく広げて空へと羽ばたいていった。


「ポン!俺は攻撃するから挟み撃ち頼む!」


「え、上!?まあ、えっと、頼みました!」


 空高くへと羽ばたいたレッサーアクアドラゴンを見て、俺がそう叫ぶと矢を高速装填、射出を繰り返す。

 

「ポン!最後に一個くれ!」


 ポンから三個目のミニボムを受け取ると、俺は向かって矢を放つ。凄い速度で跳ね返ってきた矢は、俺の身体を容赦なく吹き飛ばした。……真上に。

 ただでさえノックバックが強い【バックショット】は、真上だろうと軽々と吹き飛ばす。そして、先ほど打った矢が時間差で俺に直撃してさらに高度を上げていく。


 HPが削られながらも、俺はレッサーアクアドラゴンと同じ高度まで到達した。


『グルァァァアアアア!!?』


 奴もこの高さまではこれまいとタカをくくっていたのか、困惑したような鳴き声を漏らした。


「人間ってのはな、翼が無くても飛べるんだぜ?」


『――――――――――ッ!!!!!!』


 そう言ってミニボムを投擲すると、致命的なダメージを受けたのか耳を塞ぎたくなるような金切り声を上げるが、爆発の爆音ですぐにかき消される。そして、煙をまき散らしながらその巨体が再び地面へと墜落していった。

 だが、それでも奴はまだ倒せない。ポリゴンへとその身を変えずに足掻き続けるその姿は、ボスとしての貫禄があるように感じた。


「良いぜ、この長かったマラソン大会、フィナーレといこうじゃねえか」


 爆発の煙から抜け出た俺は一本の矢を矢筒から取り出すと、自分の身体が重力に従ってスピードを上げながら落下していく。


「その身を犠牲にして我、敵を穿たん!」


 気分がハイになってきたので思わず叫び散らす。想像するはそう、にっくき宿敵ゴブジェネ先輩の超アクロバティック兜割!!


「弓使いの本当の闘い方魅せてやらあああああああああああ!!!!!」


 見せるんじゃない、魅せるんだ。知ってる?弓使いって弓使わなくても良いんだよ?

 地上から30メートルほどの高さからの紐無しバンジー、一度きりが生み出すその威力をとくと味わいやがれ!!!


 一条の流れ星と化した俺は、その矢を持って狙いを定める。狙うはあおむけになった奴の逆鱗!硬くて剥げなかった奴の弱点を今貫いてやる!!!


「トドメだああああああああああああああああああ!!!!!!」


 凄まじい速度で狙い通りレッサーアクアドラゴンの逆鱗に見事直撃し、一瞬で粉砕しながら地面へと突き刺さ……らなかった。

 レーザーの影響で脆くなっていたフィールドが崩れ、そのまま地面を粉砕しながら水面へと落下する。


「うわあああああやらかしたあああああああ!!!」


 もちろん簡単に止まることなどできなかった俺は、そのまま水に凄まじい勢いで叩きつけられてHPが一瞬で全損した。



 ……したの、だが。


「あぶぼぼぼぼぼぼぼ!!?(あれ、生きてる!?)」


 HPバーが真っ黒になっているという事は確かに俺の体力はなくなっている。ふと何かがログに出てきたので見てみると…。



≪VITスキル、【ド根性】が発動しました≫



 どうやら俺は悪運が強かったらしい。体力一ならぬ体力ゼロで生き延びたのを少し変な感覚で揺蕩いながら、俺は『congratulation!』と表示された文字列を満足気に眺めていた。




——————————————


【Battle Result】


【Enemy】 【レッサーアクアドラゴン】【アクアリザード】x325【ハイアクアリザード】x46

【戦闘時間】 82:35

【獲得EXP】 15060EXP

【獲得マニー】 19350マニー

【ドロップアイテム】 【水蜥蜴の鱗】x143 【水蜥蜴の皮】x133 【水蜥蜴の爪】x27 【水蜥蜴の眼】x12 【水蜥蜴の舌】x5 【水蜥蜴の尻尾】x5 【水蜥蜴の上鱗】x23 【水蜥蜴の上皮】x16 【水蜥蜴の上爪】x5 【水蜥蜴の頭殻】x2 【幼水龍の鱗】 【幼水龍の皮】 【幼水龍の翼】 【幼水龍の鋭爪】 【幼水龍の逆鱗】 


獲得した経験値に伴ってレベルアップしました。


【狩人(弓使い)Lv15→22】


スキルポイント+23 ステータスポイント+35


レベルアップに伴ってメインジョブのスキルを獲得しました。


【野生の心得Lv1】任意発動型アクティブスキル【消費MP5】


気配を絶つことで敵MOBに見つかり辛くする。ミニマップ上からもアイコンを消すことが出来る。


【チャージショットLv1】任意発動型アクティブスキル


弓を構えて打たずにそのままでいると、威力の高い矢を放つことが出来る。溜め時間が長いほどスタミナを消費する。


熟練度が一定数に達したため、スキルを獲得、レベルアップしました。


【弓使い8→9】主職業メインジョブスキル


弓の扱いが上達する。飛距離が伸びる。


【跳弾Lv9→10】任意発動型アクティブスキル


投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが減少する。


スキルレベルが最大になりました。


【近接格闘術Lv3→Lv5】常時発動型パッシヴスキル


近接格闘の威力が増加する。


【遠距離命中補正Lv5→Lv6】


投擲アイテム、弓などの遠距離武器の命中に補正が入る。


【バックショットLv4→6】任意発動型アクティブスキル【消費MP2】


通常の弓矢の威力が半減する代わりに強いノックバックを発生させるスキル。


特殊戦闘による称号を獲得しました。


【水蜥蜴の猛攻を生き延びた者】【生存本能】【ランナー】【スピードスター】【幼水龍を倒した者】【モンスタースレイヤー】


称号獲得によるスキルを獲得しました。


【不屈の闘志Lv1】常時発動型パッシヴスキル


恐怖耐性を得る。VITスキルの発動率が上がる。


【ランナーLv1】常時発動型パッシヴスキル


スタミナ減少率が下がる。


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