#022 低レベル攻略はゲーマーの性

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PN:村人A 


メインジョブ:狩人(弓使い) Lv.15

スキルポイント残量:81

スキル生成権:3回

ステータスポイント:0

所持金:2320マニー


HP:50/50

MP:20/20


STR:55

DEF:10

INT:10

MGR:10

AGI:50

DEX:45

VIT:25

LUC:20


スキル:【弓使いLv8】【近接格闘術Lv3】【跳弾Lv9】【鷹の目Lv3】【遠距離命中補正Lv5】【戦線離脱Lv3】【バックショットLv4】


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 さて、威勢よく挑み始めたのは良いが生憎俺はヴァルキュリアとの戦闘で下げられた強制レベルダウンの影響で2レベル分低くなっている。ポンの情報によると【レッサーアクアドラゴン】の適正レベルは20、推奨人数はもちろん一パーティ分の6人とされている。ポンのレベルは18らしいのだが、適正レベルに至ってはいない。



 水のブレスがレッサーアクアドラゴンから吐き出され、地面を抉りながら薙ぎ払う。

 予備動作も読みやすく、攻撃の速さも大したことないので避けるのは容易い。

 ブレスを回避しながら、俺はポンの方へと振り向く。


「ポン、ミニボム残数幾つだ!?」


「残り八発あります!弱点に全弾命中させても恐らく削り切れないと思います!マンイーターと違って火の耐性もありますし、レッサーアクアドラゴン自体の耐久力も高いらしいですよ!」


「了解!」


 頼みの綱であるポン自身の火力も期待できねえ状況か。本当に、本当に困った状況だ。ライジンは双剣を用いた安定した火力、そして俺らのサポートも同時にこなすことが出来る非常に優秀な相棒だ。その彼がいないとなると戦力は大幅に落ちる。


 それに、FPSなら一人の実力者がいれば複数人相手でも対処は可能だが、MMORPGとなるとそうはいかない。人数が多いに越したことは無いし、単純に火力が減る上、タゲが取られている分攻撃の手数がどうしても減ってしまう。


 しかも…俺たち二人とも攻撃源が有限だ。ポンは爆弾が無くなれば火力はガタ落ち、俺は矢が無くなれば攻撃手段が近接攻撃のみになる。つまり、どんなに頑張っても時間をかけ過ぎれば俺らは確定で敗北する。恐らくボスも自己回復スキルを持っていそうだし。

 舌打ちしながらウインドウを開いて矢の残数を確認する。木の矢は60本、石の矢は42本。合計、102本の攻撃が尽きた瞬間に俺は戦力外通告を受けることになる。アクアリザードの経験値稼ぎに使った分が悔やまれる。こんなことなら弓矢を使わずに温存すべきだった。ボスとの戦闘になるなんて思いもしなかったからそんな選択肢は元々存在しなかったんだけど。


「基本的に最初は水ブレスを主体とした攻撃らしいのでそこまで警戒する必要は無いです!」


「サンキューナイス情報だポン!頼りにしてるぜ!」


「ッ……はい!」


 さて、パーティメンバーの鼓舞も完了した。俺は弓を構えながら周囲に視線を巡らせて使えそうなものが無いか探す。…あんまり、使えそうなものは無いな。

 ギリリと弓を引き絞り、レッサーアクアドラゴンの攻撃をステップして避けながら射出した。

 真っすぐ飛んで行った矢はその硬そうな水色の鱗をガリガリと削りながら火花を散らす。


「やっぱ硬いな…。もう少し上等な武器と矢があれば鱗を貫通できたかもな……」


「あの鱗の装甲を破壊しないと有効打にならないですね……!」


 耐久力だけでなくその上攻撃も通りにくいと来た。とことん相性の悪い敵だな。


「一点集中で攻撃を通していくか!どこが弱点だと思う!?」


「予想できるのは眼球、また、竜らしき形状をしていることから逆鱗があるかもしれません!」


「逆鱗ってどこだよ!?」


「喉元、顎の下に一枚だけ生えている逆さに生えた鱗の事です!ただ、共通して言えることは逆鱗に触れられると竜種のモンスターは非常に嫌がるそうなので、諸刃の剣ですね!」


 逆鱗に触れるという言葉の語源通りか。ポンがそう言い切ったのでレッサーアクアドラゴンの顎の下を確認しようとするが、やはり弱点を晒さないのか、首を器用に動かして隠し続ける。

 その様子を見ながら顔をしかめ、ポンに指示を飛ばす。


「取り敢えず今は眼球を集中して狙う!動きを止めたらポンのミニボムを放り込んでくれ!」


「了解!」


『グルアァァァァァァ!!』


 吐き出される水のブレスを前のめりに飛んでそのまま前転の要領で回避する。起き上がりざますぐに弓矢を構え、ルート算出、発射。

 洞窟の広い空間を縦横無尽に反射していき、移動し続けるレッサーアクアドラゴンの眼球に突き刺さる。


「ギャオオオオオオオオオオオオ!!?』


「行きます!」


 跳弾により威力自体は落ちているが、有効打には変わりないようだ。その身を震わせ、大きく悲鳴をあげるレッサーアクアドラゴンにポンは【爆弾魔ボマー】スキルを発動させたミニボムを投擲する。

 寸分違わず先ほど矢が突き刺さった眼球へと飛んで行ったミニボムを目掛け、俺は矢を放つ。


『――――――ッ!!!!!』


 刹那、閃光。


 爆炎とその身体を叩きつけるような凄まじい衝撃にレッサーアクアドラゴンは金切り声のような悲鳴をあげ、その巨体が煙を上げながら水辺へと落ちていく。


「ジャストタイミングです村人君!」


「そっちこそな!流石花火伝道師、精度が違うね!」


 ポンと讃え合い、ニヤリと笑みをこぼすがまだ戦いは始まったばかりだ。先ほどの一連の攻撃でも総HPでどれぐらい削れているか分からないが、あまり削れていないだろう。

 ただ、こっちにはストックがまだ沢山ある。この調子ならなんとかなりそうだ。


「ッ!ポン!SE南東方向攻撃来るぞ!」


「は、はい!」


 くそ、少し油断した。水辺からぐるっと回り、俺らの視界外から地面へと這い上がってきていたレッサーアクアドラゴンは、首だけを覗かせて水ブレスを吐き出す。

 少し対応に遅れたポンが直撃を受け、二、三転しながら地面を転がった。


「ポン!大丈夫か!?」


「すみません、反応が遅れました……!まだ体力は六割方残ってます……!」


 すぐに起き上がり、ポンはHPポーションを取り出して一息に飲み干す。あまり水ブレス自体の火力は無さそうだが、ノックバックが酷いな。受けた位置が良かったから良かったものの、水辺に落とされたらたまった物じゃない。もれなく追撃を受けてその時点でゲームオーバーだ。


「ポンが死んだら、流石に勝ち筋が無くなるからな、頼むぜ相棒!」


「はい!もう、油断はしません!」


 真剣な表情でレッサーアクアドラゴンを見据えるポン。その目には先ほどと違い闘志が宿っているように思えた。

 負けず嫌いなのはポンも同じ。こんなとこで諦めるなんて俺らにとっては回線ぶっこ抜きにも等しい愚行だ。たかが一発、それもそこまで重い一撃ではないがその攻撃が俺たちの闘争心に火を付けた。

 

「っしゃあクソ蜥蜴の親玉ぁ!覚悟しろやぁ!!」


 アドレナリンがドバドバ溢れるような全能感に包まれ、高らかに咆哮して再び動き出す。





「着きましたよ。…………あら、誰か戦っているっぽいですね」


「まさかさっきのあいつらまだ二人で挑んでるとか?流石にエリアボスに対して二人で攻略なんて無理だろ」


「単純に火力が足りなさそうですしね」


 一方その頃、違うボスエリアの入り口へとたどり着いていたリキッド侍とその一行は侵入不可領域を示す障壁に手を触れながら呟いた。


「火力特化でも削り切れるかどうか分からんのに無謀なことをするもんだなあ」


「まあそれが出来て動画化して投稿したら伸びそうですけどね」


「ま、すぐに終わるだろ。暇つぶしに観戦しようぜ」


「ですねー」


 そう言って彼らのパーティは障壁の向こうを覗き見すると、その先に広がっていた光景に息を呑む。


「あれ、なんか押してません?」


「いやいやまさか…。あ、マジだ、完全に相手翻弄されてる」


 そこに広がっていた光景は一方的にレッサーアクアドラゴンを圧倒している二人組のパーティだった。レッサーアクアドラゴンが怒りの咆哮を上げながら吐き出された水のブレスを紙一重で回避しながら狂気的なまでに口角を吊り上げて弓矢を放つ女性に似た男性プレイヤー。その後ろから赤いオーラを拳に纏った美少女がレッサーアクアドラゴンの顎の下を打ちぬき、その勢いのまま反転し、鋭い蹴りを入れると爆発が巻き起こる。


「うっわすげえ怒涛の攻撃。てかあれかわせてるの何気にヤバくね?……なんだあれ、魅せプの動画でも撮影中なんかね?」


「身のこなし鮮やかだし、AGI結構振ってるくさいですけどあんだけ振ってるとどこかしら欠陥抱えますよね……。うーん、あんだけうまく立ち回れてるのは何かスキル使っているんですかねぇ……」


「ライジンの【疾風回避】みたいな攻撃かわすとステータス補正はいる感じのスキルかな?それともそのスキル持ちか……?」


「いや単純にレベルが高いのかもしれないですよ?こんな深い所まで二人で来れるんです、安全マージン取ってからここに挑みに来ているのかも」


 あんまり興味なさげだった彼らのパーティが村人Aとポンの戦いを見てわいわいと賑わいだす。


「うわ矢が壁を跳ね返ってる!木に打ってたのはこれが理由か、よーやく謎が解けた」


「でもあれ実用性無さそうじゃありません?見たとこ、直角に反射しているようじゃないですし、相当上手くないと扱えないと思いますよ」


「【反射】スキルかな?でも確か【反射】ってスキルポイントそこそこくうよな?」


「矢のみ限定ならスキルポイント絞れるんじゃないですか?」


「なるほど、確かに」


 アヌビス丸は同じ弓使いとして村人Aとの差をまざまざと見せつけられ、感嘆の息を漏らした。


「うわーマジで女の子にしか見えねー。なんだあの美少女パーティ、花があってなおかつ強いとか無敵じゃねえか」


「確かに二人とも可愛いけど顔に幼さがあるんだよなぁ。でも俺はやっぱ代行者ちゃんかなー」


「分かる。やっぱり代行者ちゃんだよなー!早くゴーレム作成に入りてー!」


 彼らの目的は第三の町、【サーデスト】に着き、土地を確保して個人ハウスを建造することである。完全にこのゲームのプレイ方針が固まった彼らの結束力は強い。

 その時、パーティメンバーの一人がボスエリアを指しながら声を弾ませる。


「お、面白いことになってるぞ!」


「ってことはボスのHPが半分切ったみたいだな。二人でこの短時間でここまで減らせたのも驚きだけど、こっからが本番だよなぁ。いやー面白くなってきたな」



 ニヤニヤとした彼らの視線の先には水辺から這い上がってくるレッサーアクアドラゴンの配下であるアクアリザード達の姿があった。


 攻撃源が有限な彼らにとって天敵である増援が押し寄せているのである。



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