#018 いつも彼は可哀想な目に合う


「さぁて串焼き先輩ィ?おめーさん何か遺言あるか?」


「いやマジですまん!タイミング悪い奴って昔っからよく言われてんだよ……。ついこの間だって、ゲーム落ちてからすぐ風呂向かったら風呂場で妹と遭遇して、妹に『お兄ぃ……。……割と本気で嫌い』と言われて本気で落ち込んだんだよ」


「相変わらずのシスコンっぷりだな……。……はあ、なんか怒るのも馬鹿らしくなるわ」


 半分キレかけながら話し始めると串焼き団子はすぐに頭を下げてきた。


 ハラスメント行為の代償として、一時的に町へのアクセス禁止となってしまった俺は町へのリスポーンが出来ずに町のすぐ傍の森林地帯でリスポーンし、フレンドの位置情報を確認してすぐにライジン、串焼き団子と合流した。


「ええと、村人。この人この前の大会の決勝で戦った串焼き団子さんだよね。……知り合いなの?」


「俺がAims初めて間もないころにボコボコにされた宿敵っつーかライバル的な?」


「どうも串焼き団子です。一応紫電戦士隊パープルウォーリアーってプロゲーミングチームのリーダーやってます。傭兵A……このゲームでは村人Aか。とは年単位の付き合いなんです」


「ああ、わざわざどうも。ライジンです」


「ん?君は……。ああ!ライジン君か!知ってるよ、君の動画を見てこのゲームに興味を持ったんだ。ありがとう、君のおかげで良いゲームに巡り合えた」


「いえいえ!自分も有名な串焼き団子さんとこういった形で知り合えるとは思いませんでしたし、自分の動画でゲームに興味を持ってくださったという事を聞けただけでも動画投稿のモチベーションに繋がるんで。今後とも見てくださると嬉しいです」


 にこりとイケメンフェイスを全面的に押し出した笑顔を浮かべながら串焼き団子と握手するライジン。うんうん仲良くなりそうなとこ悪いけど俺、抱えてんだよね。


「なぁ、ライジン」


「ん?どうした?」


 笑顔のままこちらに振り向くライジンにそっと近寄る。そして、一言。


の兄貴だぞ、こいつ」


「ッ!?」


 目に見えてサッと顔を青ざめて狼狽えるライジン。うーん良い反応。ニヤケ顔が止まらなくなっちまうよ。


「どうした村人?」


「いやなんでもないっすよ串焼き先輩。今後ともこいつとは仲良くしてやってください」


「ああ、うん…?」


 困惑したような表情を浮かべる串焼き団子に対して肩に手を置く。


 さて、シスコンのこいつに対していつネタバラシカミングアウトしようか。先ほどの発言から察することが出来る通り、ライジンが好意を抱いている相手は紫電戦士隊パープルウォーリアーの副リーダーであるシオン――藤咲紫音ふじさきしおんである。その兄、藤咲冬馬ふじさきとうまの正体が串焼き団子なのだ。


 ついでに一つ、串焼き団子こと藤咲冬馬は重度のシスコンである。妹を溺愛し、妹に近付く相手は排除するという中々に危険思想の持ち主なのだ。過去にシオンに近付いた男たちは兄である串焼き団子によって軒並みこっぴどく排除されている。


 つまり……ライジンがシオンに好意を抱いているのを気付かれてしまった時点で串焼き団子の敵対が確定する。それが爆弾。いつも通りなら俺はライジンを陥れるためにカミングアウトしたいところなのだが相手が相手だからなぁ……。まあ俺がやらなくても勝手に自爆するだろう。


 因みにライジンはリアルの紫音に惚れているので天才兄妹プロゲーマー云々の話は知らなかったらしい。プロゲーマー自体は知ってたけど。


 流石にこれ以上はライジンも胃が痛いだろうし話を変えてやるか。


「つーか串焼き先輩変態砂って酷くね?大会後は特に話さなかったから聞けなかったけど」


「いやお前は変態砂で十分だっつの。本当何なんだよ二年前は俺に対して勝率二割切ってただろ…。本職よりゲームやってる時間長いってわけじゃねえだろ?なんで短期間でそんなに成長してんだよ?」


「うーん、努力と才能?後はAims愛かね。多分別ゲーだと串焼き先輩には敵わないわ」


「やっぱ一点特化型はつええよなぁ……。それにAimsは武器の性能にもよるからな、実力を十分に発揮出来ないんだよ」


「負け惜しみ乙。負けは負けだぞぅ串焼き先輩ぃ?あんただってエキゾ武器使ってただろ?武器の性能差なんて実質無いんだよ」


「くっそー腹立つ!見てろAimsで世界取ってきてやるからな!」


「いやAimsの世界大会はエグイと思うぞ……。WUS鯖とかのプレイヤーと対戦したことあるけどキルスコアランキングトップ張ってる連中は俺でも正面からの撃ち合いは勘弁だわ。跳弾の挙動読まれたときは背筋冷えたマジで」


「えっマジ……?」


 俺の言葉に串焼き団子が顔を引きつらせる。串焼き団子は前回のAims日本大会において俺に対して為すすべもなく敗北した。その俺が撃ち合いを勘弁という相手が世界には存在するという事実。まあビビるわな。俺が逆の立場でもビビる。


「まあそんな世間話はここら辺にしよう。さっきはよくも邪魔をしてくれたなぁ?串焼き先輩ィ?罪を償ってもらおうか?」


「おーい村人、お前が粛清の代行者っぽくなってんぞー」


 ボキボキと骨を鳴らしながら串焼き団子に詰め寄るとライジンが茶々を入れてくる。

 じりじりと詰め寄り続けると身を震わせながら串焼き団子は叫んだ。


「……だぁあ悪かった悪かった!なんであんなにあの女に固執するのかは知らんけど取り敢えず俺が最悪のタイミングで邪魔しちまったのはよぉーく分かった!罰は受ける!どんとこい!」


「よぉし、ライジン、どうしようか?」


「まぁ俺にやったことを彼にも味わってもらうのは確定として、もう一つやってもらいたいことがあるんだよね」


「やってもらいたいこと?」


 ライジンの言葉に首を傾げる串焼き団子。こいつ妹さんくださいとか言わないだろうな?


「串焼き団子さんは次回のアップデートは知ってるかな?」


「んあ?えーと、確か大まかな内容は大規模PVPイベントと夏イベントエリアの解放、そしてクランシステムの実装……だっけ?」


「そう。それでですね……。串焼き団子さん、うちのクランに入りません?」


「はぁっ!?…えーと、それでなんの利点が?」


は多いに越したことは無い、という事ですよ」


「きょ、共犯者!?お前ら、何するつもりだよ!?」


 なーるほど?そういう事か。見ちまったもんな、あの現場。ヴァルキュリアシステム発動時に発生するあの赤いオーラは現時点で俺らしか把握していない…と思う。もし別の場所でヴァルキュリアと遭遇した場合、あの赤いオーラが出ていない可能性が高いから疑問に思って掲示板か何かで情報が流れてしまうかもしれない。ならその前に味方に引き込んじまえ、という事か。


「今俺らは粛清の代行者討伐に向けて動いているんです。そのために助力していただけたらな、と。もちろん本職の仕事が忙しいときはそっち優先で良いですけど」


「まぁー別にいいよ?このゲームもプライベートで楽しんでるだけだし、クランに誘われてるわけでもないし」


「おっそう来なくっちゃ!じゃ、早速俺らの情報を公開しましょうか」


 にやりと笑ってライジンが串焼き団子に向けてスクリーンショットを送信する。


「これは……さっきまでお前らが戦ってた騎士の……、粛清の代行者ってやつ?」


「そうです。さっきの奴と少し違う点に気付きませんか?」


「あー、赤いオーラ纏ってないってとこ?」


「まあぱっと見で分かりますよね。こっちが平常時の粛清の代行者、さっきのがヴァルキュリアシステムという能力を発動した時の粛清の代行者、というわけです」


「ヴァルキュリアシステム?なんだそれ、掲示板でもそんな話題出てこなかったぞ?」


「粛清の代行者、【戦機】ヴァルキュリアの力の一端を引き出した場合の特殊行動、みたいなもんです。具体的にはヴァルキュリアの攻撃を一定時間避け続ける事、が恐らく条件だと思います。それを現時点で出来たのはこいつだけ、という事です」


「いぇーいぴーすぴーす」


「腹立つなお前……。まぁでもお前なら納得だよ。お前の胆力と回避技術ならあの攻撃を避けるのも可能だろう。まぁ俺でも可能だろうけどなぁ!?」


「おっしゃ串焼き先輩言ったなおめえ!?おらっヴァルキュリア呼び出して回避してみやがれ!」


「なら呼び出す条件を教えてみろ!余裕で回避しきってやるからよぉ?」


「おうけぃならあのレイピアの味を堪能してくれよ串焼き先輩ィ?おいライジン!」


「えっ俺!?」


 急にライジンの方に振り向くと驚いたように指先を自分へと向けるライジン。そして口角をグイっと吊り上げて舌を出す。


「シオンちゃん大好きライジンくぅん?サンドバッグになってくんね?」


「あってめおいっ!?」


「あ゛あ゛っ!?シオンに手を出そうとする男は全員抹殺だぞクソガキャ!!サンドバッグになれやライジンっ!」


「ええっ!?」


「回復支援は任せてくれや串焼き先輩!」


「おう助かるぜ!!」


「あああああああああああああああああああああっっ!!??」


 俺らの様子を見てライジンが大声を上げて頭を抱えた。当初の目的は何だったっけ…?まあいいや、面白そうだし!


 その場に一つの影が近づいてきて、ひょっこりと顔を出した。


「えーと、これは一体どういう状況なのでしょうか……?」



 顔を出したポンがそう言葉を漏らすのも仕方ない状況だよなぁ…。





「ぐあっ!?ぐえっ!?」


 地面をびったんびったん跳ねる影が一つ。シオンに好意を抱いているとバレた(というかバラした)ライジンだ。俺と同じ弓使いを選択していたらしい串焼き団子は先ほどの俺と同じ手法でライジンを痛めつけていた。まあ流石に跳弾は習得していなかったみたいだけど。


「ライジーン、HPどんなもん?」


「三割切ったぁ!つかなんで俺がこんな目にぃぃぃぃぃ!?」


「オッケー、串焼き先輩回復ポーション余り何本ある?」


「五本だ村人ァ!俺は一刻も早くヴァルキュリアと戦いたくて仕方ねえんだよぉ!!ほれほれほれほれ!!」


「かんっぜんにそんな気がしないんですけど!?ぐえっ、やっぱPS高いプレイヤーは嫌がらせ一つにしても上手いな畜生!流石シオンのお兄さん!」


「お義兄にいさんだとふざけんじゃねえ!俺はてめえの兄になった覚えはねえぞ!追加百本だ召し上がれぇ!!」


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


「完全に今のは自爆ですよね…」


「ライジンってやっぱドMの素質があるのでは……」


 ポンと共に呆れながら目の前のライジンがボコボコにされているのを眺める。「へへへへへへへへへぇ」と怪しげな声を漏らしながら矢を装填して射出を繰り返す串焼き団子の様子を見ていると少し寒気に似た物を感じるなぁ……。


「ハラスメント抜きにしてもそろそろ来るんじゃね?おーい、串焼き先輩そろそろ準備準備!」


「うーん名残惜しいけどそろそろお別れの時間だライジン君」


「あれ俺これ殺されんじゃね!?」


「ファイトーライジン」


「てめっ見捨てんなっあっ来た来た!来たからぁ!ヴァルキュリアさん来たからぁ!」


 ライジンが吠えると、その視線の先には純白の鎧をその身に纏った騎士が静かに佇んでいた。


「チッ!……ごほん、ようやく来たようだね」


「また貴様らか…………!!!」


 その身を震わせながら純白の騎士、【戦機】ヴァルキュリアがレイピアを握りしめて睨みつけてくる。うーん、今回は俺じゃないんだけどなぁ……。


「うわぁ写真で見たときも綺麗だったけど本物はもっと素敵……」


「ああそうだよなさっきもポンいなかったもんな……」


 タイミング悪くいないんだよなぁ……。まあ初回遭遇時はただライジンと検証してたから仕方ないにしても二回目はこっちの過失だから……うっ、申し訳なさと気まずさが……。


「さっさと俺と戦ってくださいよ代行者さん、ほれ、こっちこっち」


「貴様も同族か…。まあよかろう、少しばかり遊んでやろうじゃないか」


 レイピアを構えてそのまま突きの姿勢を取る。串焼き団子はにやりとした笑みを崩さずその突きが解き放たれる瞬間を待つ。

 額から汗が流れ落ち、その雫が地面へと落ちた瞬間。


「ッ!」


 身体がブレて勢いよく放たれた神速の一撃。ピッと串焼き団子の頬にほんの少しの切り傷が生まれ、血の代わりの赤いポリゴンが迸るが、避けることに成功した。…流石串焼き先輩、俺以上に回避が上手い。俺の対物ライフルの弾丸を紙一重で回避できるだけある。

 べ、別にぃ!?俺だって来るって知っていたらあんぐらい余裕だし!?


「む。貴様も我が一撃を回避するか……!挑発するだけあるな」


「確かにこれはきついな……!だが、こんなの造作もねえな!スピードアシスト抜きのFPSなんてザラなんだよ!せめて銃の弾丸並のスピードを出してみな!」


「ほう……!なら、これを受けても同じことが言えるかな?『ヴァルキュリアシステム、起動』」


 女騎士の顔に微笑が浮かぶ。……もしかして戦いを楽しんでいる、のか?

 それに相対する串焼き団子の顔は玉のような汗を浮かべながらも表情を崩さない。


「はっそれがどうした!淡々とかわすだけの事!」


 赤いオーラを纏ったヴァルキュリアの攻撃を見切ってかわしている。…くそ、あのオーラを纏っている状態での攻撃は俺はまだ回避できていない。くっそー俺も挑みたい!


「面白い、面白いっ!そこの貴様も、そこに座って見ている貴様もっ!!」


 女騎士が喜びに身体を震わせながら攻撃を続ける。……なんかイベント発生のよかーん!


「貴様らの力の源は何だ!?縛られた力によらない、圧倒的に研鑽されたその技術!面白い、面白い!!貴様らが罪人でさえなければ……!」


「あっもう無理っ!村人パスパス!!」


 回避を続けていた串焼き団子も、徐々に傷が増えていき、悲痛な声を上げた。だが、おれは首を振ってその要求を無視する。


「あっれえ?余裕、なんですよねぇ?俺なんかの助力を頼んで良いんですかぁ?」


「だぁあこういうやつだった畜生!!あっ」


 俺に助力を頼むためによそ見した串焼き団子はそのままレイピアの一突きで頭が爆ぜてそのままポリゴンと化した。……ぐっばい串焼き先輩。三十秒は忘れない。

 レイピアをピッと振り、血を払うような仕草をするヴァルキュリア。その仕草一つにおいても優美さを感じるのは凄いな。さて、問題はここからだ。


「ヴァルキュリアさん、俺とも手合わせしていただいても良いかな?」


「……貴様か。……ふむ」


 スタスタと歩いてきて、俺の顎をくいっと持ち上げる。端正な顔が間近まで近づけられ、否応なしにドキッとさせられる。ええい、こいつはロボットこいつはロボット…!!


「えええっ!?」


 顔を真っ赤にして口元に両手を当てるポン。ピュアな子にはちいと刺激が強いか……!?

 その状態のままニコっと微笑みを浮かべ、口を開く。


「そうだな。貴様と真剣に戦ってもいいかもしれない……。が、駄目だ。こんな場所ではなく、しかるべき場所で私に挑みに来い。お前にはそのがある」


 うっしゃこれはフラグ成立したんじゃね!?最速攻略に一歩近づい……!


「ではな」


「は?」


 それだけ言い残すとテレポーテーションに似た何かでこの場から姿を消したヴァルキュリア。

 伸ばしたまま固まってしまった腕をそっと頭に手を当てて空を仰いだ。



 うおおおいっ!もっと情報出しやがれあのアマァ!!

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