#017 ハウトゥーまっちぽんぷ
「というわけで粛清の代行者についての情報を集めたいと思います」
「行動が早いことは良いんだけど実質何も分かってないから何から手を付ければいいのか分かんないんだよな…」
場所はセカンダリアの中心の噴水広場。割と早くにカフェから出てそのままどこにも寄ることなく帰宅するとポンは少し悲しそうにしていたが、また今度どこかに誘えばいいだろう。
辺りを見回すと、ファウストから移動してきたばかりのプレイヤーなのか、革鎧で身を纏ったプレイヤーたちがそこかしこに散見できた。かくいう自分たちもライジンとポンは革鎧、俺に至っては初期装備だ。避ければいいの精神にしろ先刻の純白の騎士の一撃のように回避が厳しいような場合もある。そのうち防具も新調しないとな…。
「あんまりプレイヤーがいるとこで粛清の代行者についての会話をするのは良くないかもな」
「へんなとこでボロが出るかもしれないしね。ええと、こっから近いとことなると【リバス渓流】がいいかな。壮観な景色が広がっている崖エリアとモンスターが沢山いる平坦なエリアがあって、崖エリアは割と人が寄り付かないし」
「決まりだ。ならそこに向かおう」
ニッと笑い、ライジン、ポンと共に【リバス渓流】へと歩き出した。
◇
【リバス渓流】。
セカンダリアから隣接するエリアであり、【リーマス平原】、【フェリオ樹海】のように敵Mobがスポーンするエリアである。比較的穏便な水棲の敵Mobが住む崖エリアと、多少凶暴性の高い敵Mobが存在する一面が平坦な草原エリアがあり、崖側のモンスターは数も少ないのでプレイヤーたちはこぞって草原エリアの方へと集う。そのため今回のようにあまり街中で会話しづらい内容を話し合う場合は崖エリアで会話する方が適しているのだ。
モンスターの数が少ないにせよ、水棲モンスターの素材目当てにやってくるプレイヤーたちもいるが、それは微々たる数なので注意を払っておけば問題ない。
それに、この崖エリアは草原エリアから30m以上の高低差がある。崖際で草原エリアをのぞき込んだら腰を抜かしかねないのであまり好んでくるプレイヤーも少ないだろう。
そんな崖エリアの壁際で下へと流れていく水流を眺めながら腰を落とした。
「えーと、二つ名を倒す為にはクエストを発生させる必要があるんだっけ?手っ取り早く呼び出して何かしらアクションを起こす必要があるかもなぁ……。けど呼び出すにしてもカルマ値上げないとだろ?」
「村人の抑制Mobによるプレイヤー虐殺は確実に他プレイヤーのヘイトが凄いだろうし却下だとして、他の手段でカルマ値上げ……。ハラスメント行為が手っ取り早いかな?」
「ハラスメント行為か……。全裸で街中爆走すればカルマ値グイングイン上がりそうじゃね?」
「いやこのゲーム全裸になれませんし、第一そんなプレイヤーと知り合いだと思われたくないです……」
確かにポンは女の子だから思う所があるかもなぁ……。というか自由度謳ってても流石に全裸は無理か。いや自分の醜態晒す性癖は持ち合わせてないけども。
「ハラスメント行為ねぇ……」
うーんと唸りながら腕を組んで考え込む。街中でナンパでもするか?いやでも変な噂広がったら嫌だしなぁ。
「!。……」
「え、ええっ!?」
ライジンが何やら思いついたようにポンへと耳打ちする。会話の内容は聞き取れなかったけどポンが顔を赤くしている様子を見るとロクでもないこと吹きこんでそうだな…。
「ポン、それでもいい?」
「……。ま、まあ平気です。頑張ります」
ライジンがニコリと笑うと顔を真っ赤にして俯くポン。いやお前セクハラ発言したんじゃないだろうな?もうそれでカルマ値上がってんじゃね?
そしてニヤニヤした表情のままこちらへと近寄ってきたライジンは俺の傍に来ると腰を落とし、肩に手を置いてきた。
「やぁやぁ村人君、一つお願いがあるのだが良いかね?」
「お前のその言い方だと大体ロクなお願いじゃないから拒否したいんだがよろしいか?」
ジト目でライジンを見るとその表情のまま首を振って俺の申し出を受け入れてくれなかった。こんにゃろ。
「で?お願いって何?」
「ポンにセクハラしてくれ」
「はいライン越え。オッケーライジン縁切ろう、マジで最低だわお前。もしもしポリスメン?」
「ちょーっと待て自然な流れで絶縁申請強制処理と警察通報しようとするのやめてくんね!?いやこれポンも了承の上での相談だからな!?」
「さっきのポンとの会話それだったのかよ!イケメンだからって流石に言っていい事と言っちゃダメな事があるだろ!モラル考えろモラル!」
「偉大なる先人たちが残した名言を知っているか?『※ただしイケメンに限る』という言葉を」
「イケメンが何でも許されたら警察いらねえんだよなぁ……」
こいつ自分でイケメン言いやがったぞ。自他ともに認めてるからこそその長所を活かして人気獲得に繋がっているんだろうけどさ。
未だ顔の赤いポンの方へと振りむき、ため息を一つ吐いてから。
「ポンもポンだぞ。確かに顔見知りとはいえみだりにセクハラしても大丈夫なんて嫁入り前の娘が言うセリフじゃありません。いや嫁行っても普通言わないんだけども。もっと大切な人が出来てそういう経験をしてくれよ」
「おおっと無自覚セクハラ発言頂きましたぁ!これはカルマ値微上昇といったところでしょうか」
「ド直球クソ野郎に言われたくないんだけど」
ライジンがニヤニヤしながらそう言うので中指を立てる。流し目でポンの方を見ると、硬直していたポンは何かを決意したように顔を上げた。
「む、村人君っ!ど、どうぞ!!!」
両拳を握りしめながら「ん!」と頭を差し出すポン。……頭撫でろって事?まあ確かに過剰なスキンシップよりかは幾ばくか難易度下がるけどそれカルマ値上がんのかなぁ……。
すっと手をポンの頭に乗せてゆっくりと優しく撫でてみる。すげえサラサラだし、手触りがとても心地良い。こんなところまで表現するシステムにもびっくりだけど女の子の髪ってこんな気持ちいい物なのか……。
「えへへぇ……」
赤く染まった顔が緩みながら俺の手を従順に受け入れてくれた。うーん、これマジでカルマ値上がってんのかなぁ?なんか思った反応と違うから困るんだけど。
「ポン、ポン。顔緩み切ってるぞ、しっかり」
「はっ!い、いやですやめてぇ(棒)」
「芝居にしても酷過ぎるのは指摘してあげるべきか否か」
眉を顰めて少し首を振るポンの口元を見ると、プルプルしながら口角が吊り上がりそうになっていた。なんか面白くなってきた。ポンには申し訳ないけど。
「ライジン、これカルマ値上がってる?ポン受け入れてんだけど」
「そうだなーきっと上がってるさー。続けてあげなよー(棒)」
「なんなのうちのパーティ三流役者しかおらんのか?」
これいつまでやりゃいいの?下手すりゃ数十時間単位でかかりそうじゃねこれ。おーい検証勢の方女の子の頭撫でてヴァルキュリア呼べるか検証してくれ(他力本願)。
「うーん、キリが無さそうだから趣向を変えてみるか。ちょいと失礼」
「え」
撫でていた頭から手を放し、ポンの頬を指先でつんつん触れてみる。唐突に触れたからかポンはビクリと身体を震わせ完全に硬直した。
「ポン、嫌だったら言ってくれ」
「……(パクパク)」
金魚が餌を求めるように口をパクパクと開閉していたポンは、そのまま何も言わずに光の粒子へと変わってこの場から姿を消した。
「……」
「……」
場に気まずい沈黙が訪れる。えええ……。なんか前にもこの流れあったぞおい……。
「弁明の余地は?」
「おうけい聞こうじゃないか」
手を伸ばしたまま固まっている俺は、ライジンが何か言いだす前に発言すると、素直に受け入れてくれた。なんでこんな時は受け入れるんだよ。
「弁明の前に一つ、ライジンから見て今の光景をどう認識する?」
「……頭だけならセクハラを許してくれた勇気ある少女の不意を突いて身体に触れるという禁忌を犯して強制ログアウトへと導いたド畜生」
「原因の一端担ってるのお前なの自覚してる?ねえねえちょっとはお前も罪悪感持とうぜ?」
「けっ!俺はキッカケを作っただけでその先までやったのはお前だろうが!俺は知らぬ存ぜぬを貫き通してやるぜ!」
「語るに落ちてるんですがそれは。いやだって頭撫でるだけで代行者来たらあっちも困惑するだろ!?なんで顔緩んでる少女を撫で続けるだけでシステム的に駆り出されなきゃならねえんだって!だから別の刺激をですな」
互いに情けない罪の擦り付け合いをしていると、何か呆れた様子のライジンはやれやれといったポーズを取りながら。
「まあ結果的には強制ログアウトさせるレベルのセクハラ行為でカルマ値爆上げしてるんじゃない?後は地道に稼げば良いと思うし」
「んな経験値みたいに気軽に言ってくれてもなぁ……。……つうかどうしよ、リアルでポンと会うのすげえ気まずいんだけど」
隣の部屋に住んでるだけあって顔を合わせる事なんてそこそこあるし。前回は良くわかんないまま落ちたから平気だったけど今回は明確なものだから余計に……。くそ、ライジンに何か一泡吹かせることが出来ねえかな。……ん?
「……そっか、その手があったか」
「ん?どうした村人、何かいいアイデアでも思いついた?」
うんうんそうだよ、前回来た時には
「えーとライジン君、君のおかげで僕はポンと気まずい関係になってしまったかもしれません。その償いをしてもらいたいのです」
「やめろその口調は良くない事の前触れだぞ。俺とお前はろくでもない事を言うときは大体敬語口調かふざけた口調になる癖があるんだから……。……まあ一応聞くよ」
「なぁに、ただサンドバッグになってもらうだけだって」
「断固拒否するぞ馬鹿野郎!満面の笑顔で言うセリフじゃねえんだよ!」
僕がにこやかな笑顔でそう言うと、彼は顔を引きつらせながら身構えました。おかしいなぁ、僕達は友達なのに。
「大丈夫、痛い思いはしないって。今ならなんと回復の負担も俺持ちとかいう初めてのサンドバッグでも安心コースですよ」
「初めてのサンドバッグって何!?コースって何!?俺の知らない世界の話はやめていただけませんかね!?」
「まあ跳弾させて当てる単純作業なんですけどね」
「なんだ、ビックリさせんなよ」
安堵したようにほっと息を吐くライジン。
誰がただ跳弾させて当てる
◇
「ちょっと待て村人ぐぇっ!?ちょまっどわぁっ!?」
【フェリオ樹海】。俺の目の前にはライジンが吹き飛びながら地面を転がり、回転が止まったかと思えば矢が当たってノックバックでまた転がり回っていた。
「ふはは【バックショット】!【バックショット】ォ!!」
「これほぼダメージねえぐぇっ!?からたちわるっ!?」
今何しているのかって?……最近習得したばかりの強いノックバックを発生する代わりに威力が低い弓使いのスキル【バックショット】を駆使して最高の嫌がらせの真っ最中です。
「安心しろ矢のストックはたんまりあるからよぉ!とくと味わってくれぇ!」
「普通の矢にしてくれどわぁ!!ちくしょうマジで害悪過ぎるんだが!?」
こうして七転び八起きという言葉が出来ましたとさ。『意味(ひたすらノックバックで転ばせられて起きようとするとすぐノックバックさせられるさま。)』
「タンマ!HP赤ゲージ入った死ぬ死ぬ!!」
「……(無言でHPポーション投げる)」
「おまっ!?ミリで調整すんのやめろ!?HPポーション跳弾させるの割と普通に使えそうなのにこんなとこで才能の無駄遣いすんじゃねえっ!?」
だんだん慣れてきたのかノックバックされながらも普通に話し始めたライジン。うーんこれが場数による適応力の差ってやつかぁ(適当)
「あのぅ村人さんこれぐえっいつまで続けるおつもりで?」
「無論代行者降臨までやり続ける所存」
「揺さぶられ過ぎて三半規管壊滅的なんだオエッ……けどまだやんのかよぉ!」
涙目になりながら吹き飛ばせられ続けるライジンを見ながら僕は愉快な気持ちになります。わるいやつをこらしめるのがぼくのいきがいなんだ。
「あっ村人おでましだぞぐえっ!?」
「え、マジ?」
バッと後ろを振り向くと純白の騎士が静かに佇んでいた。立っているだけでも絵になりそうなその騎士を見ていると、威圧感を感じるのか背筋が冷えるような感覚に襲われる。
「……我、粛清の代行者」
いつもよりも少しばかり名乗りが遅いヴァルキュリアに少し疑問を感じながらも、神速の一撃に対応すべく避ける準備を整える。
「ぐあっ!?」
「……これは、一体……」
あと三発分余計に転がっているライジンの姿を見て、困惑したような表情を浮かべるヴァルキュリア。ええと、
「やぁヴァルキュリア。同じ奴に対して一日に二度も出勤させて申し訳ないね。……また、手合わせ願うよ」
「……貴様は。……なぜ、罪を繰り返す」
ギリ、と歯を食いしばりながらその美しい顔を歪めてこちらを睨みつける。……機械とはいえ、一度相手した事を記憶しているんだな。……まあほんの少しでも力を引き出したからかもしれないからたまたまかもしれないが。
「あんたに会いたかったからだよ。こうでもしてくれないと来ないだろ?」
「……そのようなふざけた理由で、だと?貴様には少しばかり期待していたのだがそれもただの一時の迷いか。ならば一撃の下に葬り去ってやろう」
途端、威圧感が増大し、身体に震えが生じる。
「『ヴァルキュリアシステム、起動』」
来る。来る、かわせかわせかわせかわせかわせ…!!
「ようやく見つけたぞキチ砂ァァ!!」
その時だった。緊張が極限まで達したその瞬間に静寂に包まれた空間に一つの大声が響き渡る。
何事もすぐに対応すべく神経を張り巡らせていた俺は反射的にその声のした方向を振り向くと、見覚えのある顔の男が立っていた。
「串焼き先輩!?」
「まさかお前Aims引退したんじゃないだろうな!?勝ち逃げなんて許さんぞ……?」
ぴたりとプロゲーマーの串焼き先輩――串焼き団子の動きが止まり、頭に手を添えた。
「……えーと、すまん。お取込み中だった?」
「ええと、仕切り直しとかそういったものは…」
「行くぞ」
「ですよねー!?」
神経をかき乱され集中力が途切れた俺は神速の一撃に対応することが出来ずにそのまま腹部を貫かれて体力を全損させられた。
そして先刻の宣言通り、一撃の下に葬り去られた俺は、一時的な街へのアク禁をくらったのだった。
「……ええ……」
その後、ぽつんとその場に残された串焼き団子と、目を回しながらその場でぐったりしているライジンは気まずい空気になったそうな。
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