#019 第二回考察回と夏アプデの訪れ
「粛清の代行者考察第二回ー!」
「「「いえーい!」」」
【リバス渓流】崖エリア。レベルダウンしてしょぼんとした串焼き団子を迎え、俺らは再びこの場所にやってきていた。追加二回のヴァルキュリア遭遇戦を経て、得られた情報をもとにクエストの発生条件を各々考察していた。
余談だがリスポーンした後にようやくポンの存在に気付き、ポンと顔を合わせたとき『はぁっ!?あのごっついオッサンアバターのグレポン丸の正体がこいつだとぅ!?』と大層いい反応を示してくれた。だけど容姿について褒めなかったところを見る限り本当にこいつは妹一筋なんだなぁ……と呆れ半分、感心半分だった。
パン、と両手を叩くと、にこやかにライジンが話を切り出した。
「さて、相対して分かった事を早速当人たちから聞きましょうかー!では串焼きさん、村人、どうぞ!」
「あ?シオンに手を出したらぶっ殺すぞ?」
「うっわ串焼きさん当たりきっつー……。取り敢えずシオンの事は置いといてですね……」
「シオンを置いといて、だとぉ!?てめえうちの美少女妹のことをほっぽり出してどこの馬の骨ともしれねえ女の事を語り合うんじゃねえ!!」
「どうしよう村人、俺はこの人をクランメンバーに引き入れた事をひどく後悔している……」
「そうか?俺は見てて面白いからオッケーだぞ」
「何も解決していないんだよなぁ……」
ガルルと今にも噛みつきそうな猛犬の形相でライジンへと掴みかかる串焼き団子。まあどっちにしろシオンと交際しようと考える上では必ず通る道だ。それが早いか遅いかの違いだろう。
でもこのままだと話は進展しないしな……。助け船を出してやろうか。
「まあまあ。……俺はあいつの攻撃は
最初こそ俺に殺意を漲らせて襲い掛かってきていたが、途中から……というか串焼き先輩と戦っていた時は罪人を罰するというよりかは、飽くなき闘争心の赴くままに戦いをしていたような気がする。
それに、シャドウの発言とあの時俺がヴァルキュリアに手合わせをお願いした時の発言を考えてみると一つ浮かんでくるものがあった。
「楽しんでいる以上に感じた一つの真実……。多分だけどヴァルキュリアが本気で挑んでくれるのは
「は?誠実?何それ気の持ちようってこと?」
「違う違う。……本当に根本的な事。簡単に言っちゃえば
「えっと……?ライジンさん、団子さん分かりますか?」
「なるほどね、大体言いたいことは分かったよ。さっき呼び出したときと串焼きさんが呼んだときの彼女の反応が違った状況を考えてみたら結構あっさり結論が出たよ」
「え、え?えーと、私にもわかりやすく説明してもらえたらなぁ、と」
「あはは、ポンはログアウトしていたから状況が分かんなかったもんね。えーと、村人が呼び出したときは殺意バリバリ、串焼きさんが呼び出したときはむしろ好意的。これ、なーんだ?」
「なんだそのへったくそなクイズみたいな出題の仕方……」
「ええと、呼び出すための条件は、恐らくカルマ値の一定値の到達。そして呼び出した条件の違い的に、カルマ値の数値?」
「正解。で、串焼きさんが呼び出したときは村人は粛清の対象にあって村人のカルマ値がまっさらになってるって事なんだよね。そこから考えてみると誠実でなければならないという事はカルマ値が綺麗な数値じゃないといけないってことでしょ、村人?」
「流石ライジン褒めて遣わす!」
「何のキャラだよお前は……」
ジト目でこちらを見てくるライジン。やはりその視線には無視+口笛が最適だな。
「んで代行者さんがぽろっとこぼしてくれた言葉なんだけど、
「確かなんか言ってたよね?しかるべき場所で私に挑みに来いって」
「あー、うん、そういう事言ってたよな。ってことは認められた状態でその場所でカルマ値まっさらでヴァルキュリアに会う事がクエストの発生条件ってとこか?」
「しかるべき場所って言ってもその場所がどこか分からない上にこれからどんどん先のエリアも増えていく以上、どこで挑むのか分からないですよねぇ…」
うーん、結局進展したようで進展してないなこりゃ。まあクエストの発生条件と思わしきものは分かったからほかのプレイヤーよりかは先を行っているだろう。どうせヴァルキュリアシステムがバレるのも時間の問題だ。そこからこの情報を引き出すのは当分先だと思いたい…。
うんうん唸る俺らだったが、ここで意外な救世主が現れる。
「なぁ、一つ疑問に思ったこと言ってみても良いか?」
と、串焼き団子がおずおずと手を上げたのだ。
「串焼き先輩、何か気付いたことでも?」
「まあ、素朴な疑問なんだけどさ……。あの女騎士ってカルマ値?が一定以上達すると来るんだって教えたよな?ってことはさ……」
俺らは首を傾げたまま次の言葉を待つ。
「
その内容はあまりにも自然に疑問に思う事で、本当に一番最初に気付くべき事で――。だからこそ見落としていた。【戦機】ヴァルキュリアが粛清のために出動していない場合の所在。確かに考えられる限り一番そこが怪しい、よな?
「それだ!……ヴァルキュリアの待機所的なところがあるんだろう。そこで認められている+カルマ値まっさらの状態で会いに行く。それこそがクエストの発生条件、と考えるのが妥当かな」
「なーるほど、確かにそりゃそうだ。ヴァルキュリアさんが街中をほっつき歩いていたらそれこそ話題に上がるだろうし、隠し場所にいるに違いねえ。串焼き先輩ナイスだわ!」
「そ、そうか?いやぁそんな褒められると照れるぜおい…」
(((ちょろい)))
俺を含めてこの場にいる全員テレテレしている串焼き団子を見て同じことを思っているだろう。こいつはあれだ、才能云々で褒められるタイプだろうからこういう何かの閃きで褒められることに慣れていないんだろう。まあFPSは戦術とか立ち回りとかいろいろ考えることはあれどそういうのも含めて才能とかセンスとか言われるだろうしなぁ……。
そのうちテレテレしていた串焼き団子がごほん、と一つ咳をしてから。
「んでさ、その場所ってどこよ?」
「結局そうなるのかぁ……!」
ですよねー。暫定的な条件と場所こそ推測できたにしてもその重要な場所が分からなければ意味が無い。振り出しに戻されて再スタートされた気分だわ……。
「取り敢えず呼び出しても無駄なのは良く分かったから今後はそのヴァルキュリア待機所(仮)を探す方針で行こうか」
「そうは言うけどそんな簡単に見つかるわけないだろうしまあ今は純粋にゲームを楽しむか……。……ところで粛清の代行者って複数体いるのか?さすがにヴァルキュリア一体ってわけではないよな?このゲームの目標が悪い事をするプレイヤーをボコす奴をボコすだけってあまりに酷くね?」
「いや、運営も二つ名は複数体存在するって言ってたからヴァルキュリア以外にもいるみたいだよ。いまはサービス開始したばかりだから全然進んでないだけで表立って出てきてはいないけど今後はもっと別の二つ名も出てくるだろうさ」
「あー、そっかヴァルキュリアにご執心だとその分他の代行者が疎かになっちまうよなぁ……。うーん、まあ他のプレイヤーがいる以上独占は厳しいか……」
全く内容も知らないうちに最速攻略して他プレイヤーの度肝を抜かすというのもたまらなく楽しそうなんだがヘイト買いそうだな。まあ羨望と嫉妬はゲームにつきものか。
とはいえ正直ゲーム側からのヒントが少なすぎて代行者のクエストを発生させようにもその条件を探すのが難しすぎる。いや、本来こんな早くヴァルキュリアを討伐しようと画策する奴がいるのがおかしいからかもしれないけどさ。もうちっとこう、ね?
「ま、掲示板とかでヴァルキュリアの情報が流れだしたら動き出す感じでいいんじゃない?それに次のアプデでイベントも来るし、そっちを楽しもうよ」
「そうしますか。ポンと串焼き先輩もそれでいい?」
「了解です。夏イベント、楽しみですよねぇ」
「それな。特にPVPイベントが待ち遠しいわ。村人、絶対負けんなよ」
「えっもしかして俺置いてけぼり……?」
基本的にゲームの情報しか収集していなかった俺は夏のアプデなるものの詳細を詳しく知らなかった。PVPイベントとか初耳…いやよく考えたらクラン云々の話をした時にそんな感じの事を言ってたな。というか串焼き先輩このゲームでも俺と戦うつもりかよ。もちろん売られた喧嘩は買うけどなぁ!
俺が闘志を燃やしているとライジンが何か思い出したのか「あ」と声を漏らす。
「そういえば今日の昼にアプデの情報追加だったな、誰か見た?」
ライジンがそう言って周りを見回すが誰も頷かない。それを確認すると、ライジンはウインドウを開き、運営からのアップデート情報を確認し始めた。
しっかし夏イベントかぁ…。なんだろう、やっぱり夏をテーマにしたエリアとか解放されるのかな?リアルで海行くのめんどくさいからスイカ割りとかしてえ。
スクロールしながら情報を確認するライジンを見ながらあくびをすると。
「ああああああああああああああああああああっっ!!?」
唐突に大声をあげたのでビクッと身体を震わせる。わなわなと指を震わせたままフリックすることでこちらへとウインドウを飛ばしてくる。
急にそんなことをしてきたのでライジンの方を見るといいから読め!とばかりに指先をウインドウに向けた。なんなんだ、一体。
ポンと串焼き団子の三人でそのウインドウをのぞき込むと――。
「「「は(い)っ!?」」」
思わず三人とも声を上げてしまった。なんてことの無い一文だったのだが、俺らを驚愕させるのには十分すぎる内容だったのだ。
『今回のアップデートで実装されるイベントエリア、【星海の海岸線】には粛清の代行者が存在します』
それは見る人が見れば分かってしまう、プレイヤーに向けたメッセージ。
『二つ名討伐』というメインすぎるイベントが、静かに実装されるのである。
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