#013 変人たちのボス攻略 その2
「村人は後方、ポンは中間で待機!隙を見てボムの投擲!」
「「了解!!」」
ライジンはそのまま毒々しい斑模様の花弁を頭に持つ巨大な花の化け物に切りかかる。ライジンの高速の一撃は、触手を切り裂きながらそのまま次の刃へと振るっていった。
そのまま俺はギリ、と弓を構えながら待機する。まずは最初に敵の行動範囲、攻撃範囲の確認。最初は地面に埋まったまま動かないので行動範囲は制限されてはいるが、触手はかなりの距離伸びるようで恐らくこのボスエリア全体まで届くだろう。これが非常に厄介だ。
「ライジン、しばらく頼めるか?」
「オッケー、回避の熟練度上げも兼ねるからじっくりどうぞ」
いつまで経っても攻撃してこない俺らよりもちまちま攻撃しつつ回避し続けているライジンが癪に障ったのか、ライジンだけに集中して触手攻撃を続ける。その状況を有効活用し、観察を続ける。
「すごい……。あの猛攻を回避し続けるなんて」
「俺とライジンは厨二に身のこなしを教えてもらった事があるからな……。あいつの完全再現は無理だけどある程度の回避術は心得があるんだよ。それに、ライジン自体MMORPG歴も長い。あれよりもっと早くて手数の多い敵にも幾度となく戦ってるだろうからあの程度の敵なら大丈夫だろう」
ライジンの身のこなしに感嘆の息を漏らすポンに、笑いかけながらそう話す。
真剣な表情で敵を見据える彼は見る人が見れば見惚れるだろう。事実、ポンも吸い寄せられるように視線をライジンに向けている。はぁーイケメンイケメン。
「ライジン、触手の限界の長さを測って貰えない?」
「……なるべく駆け回るから攻撃範囲に入らないように注意な」
ダン!と足を強く踏みしめ、後方に跳躍するライジン。その姿を無数の触手が追いかけ、絡みつこうと襲い掛かる。かわし切れない触手を双剣で切り裂きながら上手く回避し続ける。
と、ビン!と触手が大体二十メートルほど伸びた途端、そこから先が伸びなくなるのを確認した。
「なんか掃除機のコードみたいですね……」
「言い得て妙なのがじわるからやめて」
言われてみれば確かになぁと思いながらマンイーターを観察する。だが、切っても切っても次から次へと生えてくるのを見ると、あまり痛手になっていないように感じる。なんか目に見えて分かる弱点無いのか。
「弓が通用するか調べたいな…ライジン、触手の硬さはどんなもん?」
「すげー柔らかい!多分弓矢だと貫通すると思うぜ!」
「了解!ならそろそろ攻撃加わるわ!」
「任せた!」
ライジンとスイッチし、すかさず弓矢を放つ。弧を描きながら飛んで行った矢はそのまま伸びきった触手を根元から断ち切る。マンイーターも、切っても切っても伸びてくる触手でも、ばっさり切られると苦痛なのか、低い呻き声を上げた。
ひとしきり唸ると、攻撃のターゲットが俺の方へと向けられた。触手を鞭のようにしならせ、叩きつけるように襲い掛かってくる。
「させるかよ!」
ライジンがこちらに向かって襲い掛かってくる触手を双剣の両刃で受け止め、そのまま切り裂くことで触手攻撃を止めた。その瞬間、マンイーターの身体が大きく揺らいだ。着実にダメージが入ってる証拠だ。
その様子を見て思わず、
「あれ、もしかして楽勝?」
「村人、気を抜くな!まだ触手攻撃しかしてこないから対処は楽だが毒霧や酸が混じってくるとめんどくさいからな!そうやってすぐ油断すんのがお前の悪い癖だ!」
「すまんすまん、気は抜いてはないんだがつい、な」
ライジンはいたって真剣な表情で触手の迎撃を続ける。惚れ惚れする技量だ。大量の触手の猛攻を受けているのにも関わらず、ライジンのHPバーは一ミリたりとも減っていない。全ての攻撃を捌き切っている、という芸当は並大抵のプレイヤーではできないことだろう。
「ポン!そろそろ頼む!」
「はい!【
ライジンが再び真後ろに飛ぶと、入れ替わりでポンがミニボムを持って突撃する。そのままミニボムを投擲すると、触手を巻き込んで強い閃光を放ちながら爆裂する。
ドゴォォォォォォオン!!
とても
だが、放った矢はマンイーターのわずか横に着弾した。くっ、外れた。少し計算が狂ったため外れてしまったが、次は外さない。
「レベル上がってまた威力向上した?ポン」
「はい。それもありますがスキルで【
「かなりってレベルでもない気がするけど…」
ライジンが問いかけると、笑顔を浮かべながらポンが答える。少し引き気味にライジンが口元を引くつかせるが気持ちは分からないでもない。いや正直こんな火力出るとは思わなかった。
「だが、今の爆弾でかなりダメージが入ったっぽいな。見ろ、炎上の状態異常も発生してる」
ライジンがそう言うのでマンイーターの方へ向いてみると、火をまき散らしながらガクガクと身体を震わしていた。ブスブスと煙を全身から立ち昇らせて苦しそうに呻きながら頭を上に向ける。
『ギィィィィィェェェアアアアアア!!』
甲高い声を上げながら口元から紫色の煙を放出し始める。ここからは毒霧を吐いてくる行動パターンの追加か。だが、叫んでいる今がチャンスだ。すぐさまルート計算、確立し、矢をすぐさま装填、射出を行った。未だ上を向いているが関係ない。口に入れたきゃ
一、二、三、四、五、六反射。跳弾の効果が発動した矢は木を反射して直角にマンイーターの口の中に吸い込まれていく。
『グェイェェェアァァア!!?』
跳弾によって威力減衰しているが、マンイーターの体内はもちろん急所判定らしく、困惑しながら身悶えた。その様子を眺めていたライジンがヒュウっと口笛を鳴らす。
「すっげ、今のルート計算一瞬かよ!?」
「舐めんな!こちとら15回までは即座に計算可能じゃいっ!」
「流石人外変態砂だけあるな!」
それ褒めてねえだろ!と叫ぼうとするが、すぐにマンイーターが前方に向けて毒霧を吐き散らす。それを見たライジンはすぐに距離を置いてポンを連れながらこちらへと走ってくる。
「毒霧散布中はお前らの防御に徹する!あまり離れるなよ、カバーしきれなくなる!」
「ポンのミニボムで霧を晴らすことはできないのか!?」
「多分さっきのボムを受けて確実にミニボムを脅威と認識したはずだ。触手に弾かれて多分通用しない!」
「何それ優秀過ぎるAI積んでんなぁおい!」
学習機能付きかよ!まったく、とことん金の無駄使いしやがって!(褒め言葉)
と、怒りに震えたマンイーターが再び重ねるようにして毒霧を吐き散らす。一回分の霧ならまだうっすらとマンイーターの姿が確認できたが、二回目の毒霧はそのまま濃霧となり、視界を完全に遮ってきた。
「弓矢も当てさせねえってか!だけど移動してねえなら問題ねえ!」
ギリリと矢を引き絞る。だが、矢は撃たせないとばかりに濃霧の中から触手が飛び出してきた。
「げっ、あっちからは見えてんのかよ!」
「多分植物系のモンスターだから【熱源探知】スキルを持ってるんだよ!」
「サーマルビジョン搭載とか勘弁しろっ!」
悪態をつきながら回避しようと身構えるが、ライジンが前に出てきて触手を弾いた。
「だからさせねえっての!」
ライジンがすかさずカバーしたことにより事なきを得る。そのまま先ほどマンイーターがいた位置に向けて矢を放った。
触手を貫通しながら本体へと突き刺さったらしく、『グェェアァ!?』とマンイーターが短く悲鳴を漏らした。
「……触手を貫通、本体に命中、多段判定、複数ダメージ?」
ふと、自分の放った矢を見ながらそんな呟きを漏らす。何か、アイデアが浮かびそうだ。だが、明確なビジョンが見えてこない。濃霧のせいでマンイーターに対してどう矢が飛んで行ったかが見えなかったからだろうか。
「ッ!ポン!村人!酸が飛んでくるぞ!」
未だ濃霧は晴れていないが、その合間を縫って黄色い液体が飛んできた。
流石にライジンも酸を受けることが出来ず、飛んでくる液体を避ける。
「ポン!ボスに命中させなくてもいいからボムで霧を晴らせないか!?」
「了解です!ええと、威力重視じゃなくても良いんですね!?」
「威力重視だとこちらも巻き込まれかねないからな!爆風を発生させるだけでいい!」
ポンがミニボムを取り出し、爆発範囲を見極めながら投擲しようとする。
「すいません村人君!カバーお願いします!」
「任せろ!」
短く返事を返すとポンはミニボムを投げた。すかさず範囲外に吹き飛ばそうと触手を閃かせるが、矢で触手を断ち切って邪魔をする。そのまま霧を晴らすことだけを目的としたミニボムは地面に着弾し、爆ぜた。
ドゴォォォン!!
先ほどよりも小規模な爆発が発生し、その爆風によって毒霧が辺りに霧散していく。それと同時にライジンが突っ込み、再び近接戦闘へと移行した。
「一気に畳みかける!【クリティカルゾーン】!!」
ライジンを中心とした短い範囲が黄色く輝く。ライジンがベータ版の時に動画で紹介していたスキルだろう。確か被弾した時点で効果リセットだから邪魔しないようにしないと。
「ライジン!あとどれぐらいだ!?」
「多分ゲージを見る感じ三割ってとこかな!ポンの爆弾がかなりいいダメージを出してくれたおかげだな!」
ライジンはそう叫びながら次から次へと双剣を高速で閃かせる。すごい、未だにノーダメージだ。
触手、酸をかわしながらその速度は徐々に増していく。
「すっげ、コンボスキルでもあるのか?」
「ご明察!敵の攻撃を捌いたり回避するごとに移動速度が早くなるスキルだよ!」
にやりと笑い、ライジンは剣を振るう。その邪魔にならないように弓矢で援護を続ける。
と、その時地鳴りが発生し、マンイーターがボコッと地面から飛び出した。
「おっしゃラストスパート!クリティカルゾーンは最高倍率まで上がった!ポン、ミニボムで吹き飛ばせええええええええ!!!」
ライジンがこちらに向けて走ってくる。その言葉を聞いてポンが「
マンイーターはそれを見て怒りの咆哮を上げると、身体を大きく震わせ、
「おい、あいつ無茶苦茶に触手を振るってくるぞ!」
最後のあがきと言わんばかりに同時に2つまでしか振るってこなかった触手を総動員し、一斉に襲い掛かってきた。そして、そのまま距離を詰めてくる。
「ポン、行けるか!?」
「厳しいです!もうミニボムは残り一つですし、触手が邪魔して届くかどうか…!」
「触手を吹き飛ばすだけでも良い!ポン、頼んだ!」
ライジンが一身にその触手を捌きながら焦燥に駆られた表情で叫ぶ。ライジン一人であの大量の触手を捌くのはもう限界だろう。俺の矢の支援でも限界がある。ポンが確実にマンイーターの弱点にミニボムを叩き込めるかどうか…!
ポンが投げたミニボムは、弧を描きマンイーターの花弁へと飛んでいくが、触手によって弾かれてしまった。
「ご、ごめんなさいっ!?」
「くそっ、そろそろ限界だッ……!?」
ライジンが苦言を漏らしたところで、俺は弾かれたミニボムに向かって走り出した。
「うおおおおおおおおおおお!!」
「村人君!?」
「村人!?」
弱点に、叩き込めばいいんだ。そしてその効果が一番発揮できそうなのは、体内。内側から爆散すればとんでもない火力が出るだろう。なら、それを確実に実行出来る人物は?
「ポン!ライジン!どっちでも良い!確実にあいつを一瞬でもいいから怯ませろぉぉぉ!!!」
ガシっとミニボムを掴み、そう叫ぶと二人とも俺の意図を理解し、すぐさま動き出す。
「【ライトニングスラッシュ】!!」
「【爆裂アッパー】!!」
ライジンの電撃をまとった一撃でマンイーターが一瞬硬直し、ポンの拳が爆発しながらマンイーターをかちあげた。そして、真上を向いたまま完全に動きが止まる。
「ナイスだ二人とも!後は任せろ!」
跳弾は、
「ぶっ飛べクソ花!!」
ライジンのクリティカルゾーンを踏みしめ、跳躍しながらミニボムを投擲する。木々を跳弾しながら先ほどの矢と同じように真っすぐ、直角に。
『ゲェギャァァァァァァアアアアアアア!!!』
奇しくも咆哮を上げたせいで口が開き、その中へとミニボムが吸い込まれていった。
『——————————————————!!!!』
次の瞬間、声にならない悲鳴を上げ、マンイーターが内側から爆裂した。爆炎を上げながら轟、轟ッと燃えていく。そして、ボロボロになった身体をひとしきり大きく震わせたかと思えば、そのまま大量のポリゴンとなって散っていった。
「
着地し、ポリゴンを背後に笑みを携えながらそう言った。その様子を見ていたライジンが顔を赤くしながら口元を抑える。
「かっけえけどくっそ厨二っぽい…」
「うるさい黙れ!こういうのは雰囲気が大事なんだよ!」
思わず俺も羞恥で顔を赤くしながらライジンに中指を立てる。ポンも顔を赤くして口元を抑えている。……調子乗ってくそう、カッコつけるんじゃなかった。
と、マンイーターとの戦闘がここで完全に終了し、『congratulation!』と文字が表示されてリザルト画面が表示される。
——————————————
【Battle Result】
【Enemy】 【マンイーター】
【戦闘時間】 15:36
【獲得EXP】 720EXP
【獲得マニー】 300マニー
【ドロップアイテム】 【人食い花の球根】 【斑模様の花弁】 【毒花粉】
獲得した経験値に伴ってレベルアップしました。
【狩人(弓使い)Lv10→12】
スキルポイント+6 ステータスポイント+15
レベルアップに伴ってメインジョブのスキルを獲得しました。
【戦線離脱Lv1】
敵Mob、敵対プレイヤーに近付くと移動速度が向上する。
熟練度が一定数に達したため、スキルを獲得、レベルアップしました。
【弓使いLv7→8】
弓の扱いが上達する。飛距離が伸びる。
【跳弾Lv8→9】
投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが減少する。
【鷹の目Lv1→2】
遠方の物をはっきりとした形に捉えることが出来る。
【遠距離命中補正Lv3→Lv4】
投擲アイテム、弓などの遠距離武器の命中に補正が入る。
特殊戦闘による称号を獲得しました。
【人食い花を倒した者】【投擲師】
——————————————
「お疲れ、村人、ポン」
「おう。お前もな」
「お疲れさまでした!」
戦闘の疲れで三人とも地面に座り込みながら笑いあう。初ボス戦闘は完全勝利。ライジンは最後の猛攻で少しは体力を削られたがそれ以外に目立ったダメージは無い。俺とポンはライジンがカバーしきったおかげでダメージゼロ。事前に情報をしっかり収集しておいたおかげで楽、とは言い難いが戦闘を有利に進められた。
「さてさて、セカンダリアに着いたらログアウトしてさっきの戦闘を編集するかなー」
「やっぱお前動画撮ってたか……。まあ、MVPはお前だし、好きにしな」
「いやいやぁ?最後の最後でかっこいい名台詞を残した村人君MVPですよぉ?」
「マジでそれだけはカットしろ、いやほんとマジで!」
「か、かっこよかったです……よ?」
「ぐはっ(吐血)」
ポンも笑いかけながらそういうものだから羞恥心が加速する。ぐううういつもの癖のせいで全世界に俺の醜態がぁぁぁあ!
そんなこんなで、俺らのボス攻略は終了し、セカンダリアへと足を運んだのだった。
余談ではあるが、ライジンの動画で見事俺の醜態は晒されたのだが、これが意外にも好評だったのだ。美少女の厨二病ってうけるもんなんだなぁって。まぁ声完全に男だけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます