#012 変人たちのボス攻略 その1
「さて、俺に対して言うことは?」
「えーっと、お疲れ様?」
「おぅけい、ちょーっとお灸を据えなければなぁ?歯ぁ食いしばれやぁ」
「いや!乱暴にするのはやめて!(裏声)」
「何やってるんですか……」
フェリオ樹海の奥深く。セカンダリアに繋がるエリア最北端の森林地帯で落ち合った俺とライジンが茶番を繰り広げていると、木々の中からポンが出てくる。
その姿を確認した俺とライジンはポンの方へと振り向いた。
「おう来たなポン。エリアボスの情報を共有するからこっちに来てくれ」
「ええと、本当に三人で攻略するつもりなんですか?……確かレベル10以上の6人
「低レベル少人数撃破はゲーマーとして腕の見せ所なんだよ。フルダイブVRである以上、攻撃は当たんなければ問題ないし、事前情報さえしっかり把握していれば大体初見でも攻略出来る。まあポンが不安でも俺らがなんとかして見せるから安心しなよ」
「さっすがイケメンは言う事が違いますなぁ!あ、僕後ろから見てるんで頑張ってくださいね!」
「お前も働け!つか実質ソロは流石にまだめんどくさい。時間がかかりすぎるから」
「それでも時間かければ行けるって言い切っている事がもうベテランのそれなんだよなぁ……」
ため息を吐いてライジンの方を向くと、ライジンはウインドウを操作すると、俺とポンの前にウインドウが表示される。
「まあ事前情報はこんな感じ。俺のフレンドに
そう言われてウインドウを確認する。
――――――――
マンイーター 推定レベル15 植物種
基本的に触手を用いての攻撃を行ってくる。動き自体は単調な物が多いが、こちらの動きを確認しながら対応を変えてくるので少し厄介。というのも
――――――――
「序盤の敵にしては厄介すぎやしないか?」
「確かにゴブとかに比べれば厄介な敵だろうけどね。まあそこまで苦戦しなかったよーとは言ってたから平気かと」
「トッププレイヤー基準の苦戦しなかったは不安要素でしかないんですがそれは」
生憎俺はMMORPGに関しては素人同然なんでね。
「村人の常人離れした空間把握能力があれば毒霧の範囲の把握とかも楽勝だろ。俺がひたすら近接でごり押すから遠距離支援よろしく」
「なんか俺の評価異様に高くない?まあ毒霧はガスグレネードだと思えば良いとして、酸を飛ばしてくんのはなぁ……」
酸飛ばしてくるような相手は流石にAimsにもいなかったしなぁ……。
「まあそんな鬼畜仕様じゃないだろうさ。最初は相手の攻撃を見て行動範囲とか攻撃範囲を把握しよう。そのうえで指示を飛ばすよ」
「さっすがイケメン頼りになるぅ!」
「ライジンさん、頼みました」
「ふふん、任せてくれ!」
得意げに鼻を鳴らすライジン。MMORPGの経験が浅い俺が全体を遠距離から指揮するよりもRPGの経歴が長いライジンが指揮した方が正確だしな(建前)彼には馬車馬の如く働いてもらおう(本音)。
「で、この先にそのマンイーターとやらがいるのか?」
「そうそう。一応他のプレイヤーが挑んでいる時は途中参戦は出来ないけど、戦闘の様子は確認できるよ。……ほら、今も他のプレイヤーが戦ってるよ」
ライジンが指を指した方向を見ると、巨大な花の形をしたモンスターとプレイヤー達が交戦しているのが視界に映る。
システム的に侵入を制限しているらしく結界のような物が張られているせいで先には進めないが、どんな感じの戦闘かは把握できるだろう。
【鷹の目】を発動し、ボスとの戦闘の様子を覗き見する。
「うげ、なにあれエッグ。気色悪い上にやたらでかいから嫌でも視界に入るなアレ……」
「牙とかえぐいねアレ……。ポン的には大丈夫?」
「え?ええ、まあ。至近距離で見たら気持ち悪いかもしれませんがまだ平気な部類ですよ」
「あっ捕食された」
「……」
「ポン、ポンしっかりしろ!衛生兵ーっ!!」
プレイヤーの一人がマンイーターに頭からパックリいかれてモグモグされている様子を直視したポンが気絶しかける。いや普通に血しぶきとか出てたらR18だろうなぁ……。これは女の子であるポンにとっては精神的にきついだろ……。いや男の俺でもきついもんアレ。
「つかさっきの表記に無かった捕食行動思いっきりしているんですが?」
まあ名前
「あ、あれぇおかしいなぁ?」
「……もしかしてお前隠してたな?」
「……せっかくなら体験していただこうと」
「おっけーポン、こいつが食われそうになったら見捨てようぜ」
「同意です」
「あれぇ孤立無援!?マジで悪かったって!あの捕食行動トラウマもんだから勘弁して!?」
「そのトラウマを俺らに体験させようとした奴が言う言葉じゃないんだよなぁ」
頭からパックリムシャムシャなんてまともな精神してるやつからしたら心折れるだろ……。運営の性格の悪さが垣間見えるな。
と、丁度その時マンイーターが花弁の真ん中に存在する大きな口から紫色の煙を首を振りながらまき散らした。
「お、毒霧吐いたぞ。範囲確認しとけ」
「へいへい。……大体エリアの三分の一ってとこか。まき散らし範囲が固定なのかランダムなのか。もう少し吐いてくんないかなぁ……」
「それ今挑んでいるプレイヤーさん達が可哀想なので勘弁してあげてください……」
ポンが俺の肩に手を添えながらそう言う。うーん、だって回数こなさないと把握出来ないじゃん。彼らには悪いけど人柱になってもらおうと思ったのだが。
「あの範囲なら多分毒霧射程外から撃てるだろうから大丈夫だな。ライジンの攻撃の手が止まるかもしれないけど」
「効果時間もどれぐらいなのか知らないとな……。村人、カウントしてる?」
「今四十秒経過した。段々薄くなってきているから霧の散布時間は一分ぐらいかな」
そのままカウントしていくと丁度一分を経過した時点で毒霧が霧散していく。霧が晴れた瞬間、止まって防御に徹していたパーティが攻勢に転じた。
「近接系ジョブには毒霧、遠距離ジョブは触手による攻撃、か。バランス取れてんなぁ」
「うちのパーティは遠距離二人、近距離一人だから毒霧はそこまで警戒しなくてもいいかもね」
「問題は触手、か。ライジン触手処理任せてもいい?出来る限り支援はするが」
「任せとけ。その代わり毒霧散布中は攻撃よろしくな」
ライジンと会話をかわすと、目の前の戦闘が佳境に入る。体力が残り少なくなったのか、地面に固定されていて動かなかったマンイーターが地面からボコッと飛び出した。そして、酸を吐き散らしながら暴れまわるマンイーターの攻撃をタンクが防ごうと盾を構えるが、盾が溶解していく。
「地面から飛び出して暴れまわるのか…」
「それも脅威だけどあの酸も注意だね。…あのパーティ、情報不足だったね。これは戦線が崩壊するだろうなぁ……」
盾が溶解されたのを目を見開いて驚いたタンクの男が、慌てて代わりの盾を取り出そうとウインドウを操作するが、その隙をマンイーターが見逃さず、触手で薙ぎ払った。そのままタンクの男は吹き飛び、木に叩きつけられてがくりと項垂れる。即死は免れたみたいだが、あの様子だとしばらく戦線復帰は厳しいだろう。
「あーあー、手負いの獲物ほど恐ろしいものは無いって言葉の意味が良く理解できる光景ですな」
タンクに回復ポーションを振りかけようとした短刀使いも視界外からの触手によって吹き飛ばされる。その様子を茫然と見ていた魔法使いらしき少女もマンイーターに攻撃を加えようとして、近寄ってきたマンイーターによって頭からパクリ。戦線が崩壊したことに指揮官らしき
「うっわ一気に四人やられたなぁ……。良かった、発狂モードあるって知れて」
「本当に人柱になってくれたなあのパーティ……」
残す一人もマンイーターの触手攻撃でみるみる体力を削られ、ポリゴンとなって砕け散った。総勢六名ものパーティは、発狂モード突入数十秒で全滅してしまった。うーん、本当に三人で削りきれるか心配になってきたぞ。
「これ前のパーティ挑んでから何分ぐらいで挑戦できんの?」
「確か倒してなければ一分ぐらいでリポップするはず。倒した場合は十分のインターバルが必要だけどね」
ということは次のマンイーターは一分後に出現か。
辺りを見回すと、ほかのプレイヤーの姿は見当たらない。これならすぐに挑戦できそうだ。
「平日の昼間だから過疎ってんのかな?」
「いや、多分サーバーが違うからだと思うよ。数百万人が同じサーバーでプレイしてたら流石に鯖落ちするかもしれないからね。Aimsだと国ごとの鯖かもしれないけど、この手のMMOって、一つの国でもいくつかの
ちなみに重要Mobなどがいるエリアは共通サーバー、プレイヤーの干渉したMobの記憶はサーバーを変えても引き継がれるそうだ。ちなみにサーバー移動もほぼゼロタイム、しかも満員の際はサーバー移動させられるらしいが、移動したことすら気付かないらしい。ハイテクノロジー。
「ちなみにパーティメンバーも同じサーバーに移動させられるらしいよ。まあ滅多に満員にはならないらしいけど」
「本当にこの会社このゲームのためにどんだけ金つぎ込んでんだよ…」
いや快適にプレイさせてもらえるのは嬉しいんだけどさ。ちょっと色々と赤字になりそうなレベルで充実してるからこっちが不安になるわ。
「お、マンイーター出現したみたいだね」
「おっしゃこのゲーム初めてのボス戦、気合入れていこうぜ!」
ライジンが先ほど戦闘が行われていたエリアを確認してそう伝えてくる。このゲームでの初のボス戦に心が躍る。強敵との戦いってこうなんでわくわくするもんかね。
一時的に侵入不可領域と化していた結界が解かれ、ボスエリアに足を踏み入れる事が可能となる。
合図をしてからそのまま真っすぐ進んでいくと、地鳴りが発生し、地面から勢い良く先ほど見た巨大な人食い花が出現する。
「さあ、ボス攻略を始めようか!」
ライジンの宣言と共に俺らは駆け出した――――!
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