番外編 グレポン少女の独白

 

「はぁ……駄目だ私。Aimsの時は全然平気だったのに……何でSBOで現実の自分と似たような顔にしちゃったかなぁ!?そのせいで面と向かって言われてるようで耐えられないよ……」


 第一回Aims日本大会の優勝商品、リクライニングチェアタイプのVR機器から身体を起こしたポンはそう呟いた。

 心臓の鼓動がやけに煩い。激しいリズムを刻みながら動き続けるものだから呼吸も荒くなってしまうので一つ深呼吸をして呼吸を整える。


「で、デート……傭兵君と……!」


 ううう~!と顔を真っ赤にして足をじたばたさせて悶えるポン。まあ実際にはライジンも含めてなのだが、今の彼女にはそんな事はすっかり頭の中から抜け落ちていた。

 と、悶えているとARデバイスからメッセージの通知音が響く。


「あっ、メッセージ……。ええと、13時、フェリオ樹海入り口で……か。了解しました……と」


 メッセージを即座に返信し、AR拡張現実のデバイスをスリープモードにする。そのまま時刻を確認すると11時半。そろそろお昼時だ。


「少し早いけどお昼ご飯食べちゃお」


 キッチンへと行き、冷蔵庫から昨日の余り物を取り出し、レンジで温める。そして炊飯器で炊いていたご飯を茶碗によそってテーブルへと運んでいく。

 昼ご飯を並べながらふと。


「そう言えば傭兵君、私のだし巻き卵食べてくれたかなぁ……」


 食べた感想を聞きそびれてしまった。親から教えてもらった味付けだから好みかどうかは分からないけど、美味しいって思って貰えたらなぁ……。それだったら喜んで毎日作るのに……。


「ま、毎日だなんてそんな……お、お嫁さんみたい……よ、嫁!?」


 自爆してしまい、仰け反るように悶えると、そのまま壁に頭を打ち付けて後頭部を抑えて蹲る。


「い、いったぁ~!!……はぁ……」


 ひとしきり悶えた後、ため息を一つ吐いた。そのまま壁に背を預け、天井を仰ぎ見る。


「最初はこんなじゃなかったのになぁ…」


 遠い昔を懐かしむように、ポンはそう呟いた―――――




 ◇




 出会いなんてどこにあるかなんて分からない。ほんの些細なきっかけだった。


「ふぁあ、遅くまでやっちゃったなぁ……。今日、学校なのに……」


 グレポン丸改め紺野唯がAimsを始めて四か月の時の出来事だった。エクストラポーチというアイテムが追加され、グレネードランチャーの時代が訪れた。今日も今日とて数あるグレネードランチャーの中でどの武器が一番強いか検証しながら対戦モードを回っていた。

 ゴツイオッサンアバター姿のポンは、ウインドウを開く。


「ええと、入手した武器は適当にオークションに流して……と」


 Aimsというゲームは、基本的に対戦モードをこなすことで武器がランダムドロップする。超レアであるエキゾチックウェポンを除くグレネードランチャー以外の武器は基本的にオークションに流す主義のポンは、日課であるオークション流しを行っていた。


「最低価格で良いよね……。始めたての人が良い武器をすぐに使ってもらえるように……」


 最初は自分も苦労したからなぁ、とポンは苦笑する。

 自分もかつて今の相棒である『ギャラルホルン』というエキゾチックのグレネードランチャーがドロップするまではランダムドロップする低レアリティの武器を使いまわし、散々対戦相手のk/d比キルレ上げに貢献していた。そんな苦い経験からその時の苦労を少しでも緩和するようにという意味を込めて低価格で武器を流していた。ポン自身、Aimsというゲームが好きで、もっとこのゲームが盛り上がってほしいという願いも込めている。


「もうこんな時間!早く寝なきゃ!」


 時間がすでに午前三時を回っており、授業中に居眠りをしてしまうのは確実だった。慌てて武器をまとめて選択し、オークションに最低価格で出品する。警告文が出るがいつもの事なのですぐにイエスを連続でタップし、そのままログアウトした。


 この時は不幸が重なっていた。いつもの相棒以外の武器を装備して検証していたせいで相棒が所持品欄に加わっていたこと。間違えて相棒の装備のロックを解除していたこと。いつもよりも警告文が一つ多かったことに気付けなかったのは時間に焦っていて、眠気で思考能力が鈍くなっていたからであろう。



 ◇



 ――――同時刻。


「オークションで良い武器ないかなーっと」


 傭兵A。リアルネーム日向渚もその日が学校であるにも関わらず深夜までゲームを続けていた。こちらの場合はいつも通りの事なのだが。

 こういう深夜帯はガチ勢も多く、割と良い武器がオークションに流れている。時折掘り出し物があるのでこまめにチェックしていた。

 本当に、たまたまだったのだ。


「は?『ギャラルホルン』が1000クレジット!?いやいやアホでしょこんなん買うにきまってるじゃん」


 その武器を目にし、即決で購入したのは。

 基本的に出品価格の十倍で即決となるこのゲームは、どれだけウインドウ操作が早く、札束で殴れるかでオークションの商品を落札できる。10000クレジットなんて大してどころかまったくもって痛手にならない。にやりと笑いながら熟練のウインドウ捌きで誰よりも早く武器を購入した。


「確かこれRMTリアルマネートレードで今3M近くで取引されてるやつだよな?……え、何?引退するの?……引退するにしても大盤振る舞い過ぎない?」


 今はグレネードランチャー一強の時代であるがゆえにとんでもない額になっている武器だ。

 普通にスナイパーを買うだけのつもりがヤバすぎる物を購入してしまった。


「いやこれオークション流してもゲーム内通貨で500Mとかでも即決ぶっこむ人いるだろ……。ふふふ、一体いくらで売れるんだろうか……!」


 にやりと悪い笑みが浮かぶ。花火信者にとっては垂涎モノの代物だ。いくらかかってでも入手してこようとするだろう。


「あっ、そうだ。出品者調べよ」


 ふといったいどんな人物がこんなヤバい代物を最低価格で売ったのか気になり、購入詳細を開いて出品者名を調べた。すると、渚にとって衝撃的な名前がウインドウに表記されていた。


「グ、グレポン丸……だと?」


 ウインドウを操作する手が思わず震える。忘れもしない。この前同じPNプレイヤーネームの対戦相手が居て、また脳死グレポンのプレイヤーか、とそこまで脅威と認識していなかったのだが、グレネードランチャーを活かした立ち回りに圧倒され、したのだ。

 その後のラウンドは対戦中に出会う事が出来なかったため、敗北したまま試合が終わってしまった。


 。敗北したまま引退されるなんて以ての外。勝ち越し引退は許さないと渚の精神に火を付けた。


 これを間違えて売ってしまったという事に賭けるしかない、とオークションという名の競売ショップの前で数日にかけて張ることを決めた渚は、とりあえず今日は落ちて学校が終わってから張り込み開始だ、と息巻いた。




 ◇




「ない!ない!!!え?どうして、私の相棒が、所持品に無いの!?」


 その日の夕方。Aimsにインしたポンは、久しぶりに対戦モードで相棒を使おうとして異変に気付いた。

 所持品に入れておいた筈の『ギャラルホルン』が無くなっていることに。


「ま、まさか……」


 急速に血の気が引いていくのを感じ、慌ててオークションの出品リストを確認した。


「う、売っちゃってる……」


 『ギャラルホルン』の落札表示を確認してその場でへたり込んだ。半ば放心状態でAimsの少し黒ずんだ空を眺めて、現実逃避する。


「そ、そうだ。落札者……もしかしたらお願いしたら……いや、ないよね……」


 そう思いながらも一筋の希望に縋り、落札者名を確認する。


「傭兵A……さん?この人ってミニ大会上位常連の人だよね……。はぁ、やっぱり無理そうかなぁ……」


 あまりこのゲームに詳しくない初心者が落札したなら所持金全額と引き換えに交換トレードすれば返してもらえたかもしれないが、熟練のプレイヤーとなるとその価値を正しく評価しているだろうから無理だろう。それに適正価格で購入しようとしてもオークションの即決価格を出せるほど懐が潤っているわけでもない。


「他のグレネードランチャー探しに行こう、はぁ……」


 悲しい気分になりながら競売ショップへと足を運んだのもそれもまた、偶然だった。



「ううう、ギャラルホルン……」


 やはりエキゾチックウェポンはそうそうオークションにも出品されるものではない。相棒の名前が無いことを確認してポンは再びため息を吐いた。


「引退するの嫌だなぁ……」


 でも正直もうやめた方が良いのかな、とポンは思う。ゲームをする女の子はあまり良く思われないと親から言われていたし、その自覚もある。その親はゲーム経由で知り合い、結婚に至ったのだが、それは一種の偶然であり、必然というわけではない。親も心配して言ってくれているので気持ちは分からないこともない。

 勿論出会い目的でゲームをやっているわけではなく、純粋に好きだからゲームをしているのだが、ポンという少女はゲームが原因で周囲の人間に嫌われてしまうのを恐れていた。というのも彼女は学校ではお淑やかな性格で、成績優秀、容姿端麗と完璧美少女と言っても過言ではない。そんな子がAimsという人と対戦して殺しあうような血生臭いゲームの廃人プレイヤーと知られ、仲良くしてくれる子が離れてしまうのが怖かったのだ。


 もうログアウトしてそのまま引退しようかな、とウインドウを操作したその時だった。


「見つけた」


「え?」


 その声に反応して思わず振り返り、ウインドウを消す。振り返った先に立っていたのは長身痩躯の青年アバターの男だった。


「……グレポン丸さんだな?俺の名前は傭兵A。昨日あんたの『ギャラルホルン』を落札したプレイヤーだ」


 ポンはその言葉に驚き、眼を見開く。そのまま注視すると、青年アバターの男の頭上に『傭兵A』というPNプレイヤーネームが表示される。まさか購入した本人に会えるなんて思ってもいなかった。このチャンスを逃してはならないと、拳をギュッと握る。


「あ、その、ええと……。無理を承知で頼みますが、『ギャラルホルン』を交換トレードしていただけませんでしょうか?」


「やっぱり出品ミスか……。んなこったろうと思った」


 頭をガリガリ掻きながら傭兵Aはそう言う。

 事情を把握してくれているならもしかしたら……!とポンは期待で胸が躍る。

 だが、次の言葉でポンは一気に気落ちする。


「いくら出せる?」


「……え」


 分かり切っていた。むしろ、これが当然の対応だ。ミスだろうと自分の失態には変わりない。それなら適正価格で自分で取り返すのが当然だ。慌ててウインドウを操作する。


「ええと、今の私の所持金全額で50M出せます……」


「……適正価格ならその十倍は必要だな」


 ポンがウインドウから銀行バンクを含めた所持金全額を確認し、その金額を告げると傭兵Aは頭を振って無慈悲に告げる。やりきれない気持ちにポンは歯を食いしばった。


「そ、そうですよね……。じゃあ、私このまま引退するのでその子を大事にしてあげてください……」


「……まあ待て、結論を急ぐな。物は相談なのだが、一つ、提案がある」


 ログアウトボタンを操作しようとしたポンの手が止まる。何を言い出すのだろうと傭兵Aを仰ぎ見ると、彼はニッと笑みを浮かべて人差し指を立てた。


「俺と1on1してくれ。あんたは覚えていないかもしれないけど俺はあんたに負け越しているんだ。そんなあんたが勝ち越したまま引退するなんて許さない。――もちろん、武器を返した上での1on1だ。ちゃんとした武器じゃなかったから負けたなんて文句いいわけ、聞きたくないからな。この要求を呑むならあんたにこのグレネードランチャーを無償で返そう。――どうだ?」


 その言葉にポンは驚き、先ほどの言葉を反芻する。


 ―――今、彼は何と言った?返す?私の相棒を?無償で?1on1の要求を呑むだけで?


 傭兵Aにとってはそのたかが一敗が死ぬほど悔しいのだが、そんな事をポンが知る由もなかった。


 わなわなと肩を震わせて、思わず笑みがこぼれる。対戦していた時の私、ナイス!と思いながら傭兵Aと名乗る男に詰め寄る。


「わ、分かりました!是非!やりましょう、1on1!」


「よし、契約成立だな。んじゃ、これは返すぞ」


 傭兵Aがウインドウを操作すると、ポンの目の前にウインドウが表示される。交換トレード申請のウインドウだ。すぐに承諾すると、『ギャラルホルン』とウインドウに名前が浮かび上がり、こちらは何も交換内容を提示しないまま交換トレードが成立する。


「帰ってきた……。本当に、私の相棒が……」


「おいおい、まだ1on1をしたわけじゃないぞ?まあそのまま逃走されても俺からは取り返す手段はないんだけどさ」


「いえ!もちろん!私の全身全霊を持ってお相手します!」


「そう来なくっちゃな!よし、フレンド申請するから承諾してくれ」





 こうして、ずっと一人でプレイしていた私のAims初めてのフレンドが出来たのだ。


 ちなみに対戦結果は私の惨敗。圧倒的なまでのプレイングを見せつけられ、清々しい気分のまま私は敗北したのだった。



 ◇



 そして、その後も傭兵Aと一緒にプレイすることが増え、彼のフレンドを紹介してもらったりもした。更に喜ばしい事に、大会のチームメンバーとしてもお誘いが受けるほどに仲は進展していった。



「グレポン丸さん」



「グレポン丸」



「ポン」



 そして仲が進展していく毎に、傭兵Aが私を呼ぶ名前も変わっていった。そんな些細な事でも私は嬉しかった。仲の良いフレンドだと思ってもらえている、信頼してもらえている。そんな気がしたから。

 傭兵Aは言動こそ荒っぽく、ぶっきらぼうなところもあるが、根の所は身内に結構甘く、優しい性格であるのは一緒にプレイしているだけでも知ることが出来た。

 そういった事を一つずつ知る度に少しずつ惹かれていったのは、私自身でも気付かなかった。



 ―――そんなある日の事。


 嫌な夢を見た。自分が廃人ゲーマーであることを知られて、それを噂されてしまい、周りの人間から距離を置かれて孤立してしまう夢を。

 傭兵Aとプレイしている間は嫌なことを忘れて楽しくプレイ出来た。だが、ログアウトするたびに現実を再確認させられた。


 ―――彼なら、どう思うのだろうか。


 ふと、そんな思いが胸中で渦巻く。

 もしかしたら彼も、廃人女ゲーマーだと知ったら幻滅するかもしれない。

 でも、どうしてもその答えが知りたいと傭兵Aを呼び出した。



 ◇



 カスタムゲーム。【首都アルディン】の夜設定という夜景が1番綺麗なマップの屋上に彼を呼んだ。



「どうしたポン?急に呼び出しなんて珍しいな?」


「あ、あの……。傭兵君」


「ま、まさか引退か!?うぐぐ、ポンが居なくなってしまうのは手痛いからなぁ」


「いや、そうじゃなくて……。えと、相談が、ありまして」


「相談?」


 傭兵君が首を傾げるのでそれに首肯する。心臓の鼓動がうるさい。答えが聞きたくない。でも、どうしても知りたい……。


「その、マナー違反だって分かってはいるのですが……少し、リアルの事で」


「まあ別に構わないけど、俺学生だし、参考になるか分からないぞ?」


「だ、大丈夫です!意見を、聞かせていただければ……」


 傭兵Aは私を成人している男性プレイヤーだと勘違いしているからの先ほどの言動だろう。でも、それならそれで好都合だ、と彼には申し訳ないがこの状況を利用させてもらおう。


「ええとですね……。あるところに、周りから綺麗で可愛くて、頭も良いし、性格も完璧だとチヤホヤされた女の子がいました」


「それ、ポンが片思いしてる女性の話?」


「ま、まあそんなところだと思って下さい。それで、その女の子はゲームが大好きで、廃人プレイヤーとまで言われるレベルにゲームをやり込んでいます」


「ふむふむ」


 ぎゅ、と拳を握って続く言葉を告げる。


「傭兵君は、その女の子が気持ち悪いほどにゲーム好きだと知っても、それを知らなかった時のように接することが出来ますか?」


「……いや普通じゃね?」


「え?」


 まさかそんな早く答えが返ってくるとは思わなかった私は、拍子抜けしてしまいました。


「別に人間、趣味の一つや二つ、普通にあるし。見た目っつーか外面だけで判断するような薄っぺらい人間じゃないというか……」


 彼は少し苦笑いしながら言葉を続けます。


「……まあ、そっちからリアルの話を切り出したなら言っても良いか。ちょろっと俺の黒歴史晒すけど、俺、リアルじゃ凄い女っぽい外見なんだよね」


 その話は初耳でした。彼のリアルの友達であるライジン君からもそんな話は聞いていません。


「んで、俺が小学生の頃仲良くしてた女の子が居て、その子の事が好きになったんだよ」


 ふとチクリ、と胸が痛む。自分でもわからないけど、好きという言葉が彼の口から出たことに少しモヤっとしたのだ。


「で、いざ告白したらその子、なんて言ったと思う?『ごめん、女の子っぽいから友達としてしか見れないかなぁ』ってそれはまあこっぴどく振られたわけですよ」


 ははは、と今はもう吹っ切れたのか彼は笑いながらそう言います。


「んでそれはもう大層ショックを受けた俺は、自分が女っぽい外見なうえに、性格が大人しいせいで振られたから、自分を変えようと思ったわけ」


 昔を懐かしむように、彼は夜空を見上げます。


「色々自分を変えようとした。一人称を『僕』から『俺』に。強気な言葉遣いに。外見がそうでも、は違うと。そう知って尚、一緒に居てくれる人を探すために」


「中……身」


「まあそんな苦い経験があるし、自分自身もそうだから外見で全てを判断する人が嫌いなんだ、俺。根暗そうでも実際に喋ってみれば良い奴なんて沢山いるし、このゲームのフレンドだって見た目こそ変な奴は多いけど、付き合いが長い奴も沢山いる」


 ニッといつか見た、少年のような笑みを見せた彼はこちらをジッと見つめます。


「もちろん、ポンのことだって好きだぜ?」


「ふぇっ!?」


 まさかこのアバターに対して好きだと言ってくるとは思いませんでしたので不意打ちを突かれました。感情表現エンジンがフル稼働し、みるみるうちに顔が真っ赤になってしまいます。


「あ、言っておくけど同性愛者じゃないからな。普通に友達として好きって事。そこは留意しておくように」


「は、はい」


 び、びっくりしたぁ。私が女だって気付いたのかと思った。


「ポンだけじゃない、ライジンやボッサン、厨二ーー。たくさんのフレンドの事が好きだ。馬鹿どもとつるんでいる時間が、リアルでの女っぽい自分を忘れられて、を曝け出せる。曝け出してなお、付き合ってくれてる奴らが好きでたまらない」


 少し恥ずかしくなったのか、彼は少し頬を染めます。


「ああくっそ羞恥心やべぇ…とまあ俺はそんな感じなわけなんで、外面だけじゃなく、でもしっかり判断して、付き合おうと思うならありなんじゃないか?とだけ、言っておく」


「ありがとう、ございます」


 また一つ、彼の秘密を知れた。簡単な相談な筈だったのに、こんな話を聞けるとは思わなかった。嬉しい気分のまま、彼に微笑みかける。


「最後に、一つ良いですか?」


「ん?」


 私は、一つの決意を固めました。……自分の気持ちに、正直になろうと。


「もし、その女の子が傭兵君の目の前に現れたら、傭兵君はどう思いますか?」


「俺?うーん、とそうだな…」


 腕を組んで悩み始める傭兵君。言ってしまってから少しだけ後悔しました。

 心臓の鼓動が隣にいる彼に聞こえてしまいそうなぐらい非常に煩く、顔が赤くなっていくのを感じました。あと少しで安全装置が起動し、強制ログアウトの数値に達してしまいそうなので、一つ深呼吸をしてから、彼の言葉を待ちます。


「ゲーム好きなんて俺にとっては最高の条件だしな。多分遭遇したらベタ惚れするかもしれん。ま、色々話してみて、気が合えばの話だけどな」


 ははは、とそう言いながら彼が笑うので。


「そうですか」


 私もまた、それだけ呟いて、笑ったのだった。












 それが、私の恋の始まり。





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