#007 変態スナイパー、検証する。
「弓使いLv5だと正面から打ち込むと反射した時に必ずしも直角に曲がるわけではない、ということか」
フェリオ樹海のフィールドの一角でボロボロになった弓を手に持ちながらそう呟く。
ほんの少しだけ面倒くさい事実に気付いてしまった。角度云々は微調整すればいいから問題ないので大して面倒ではないのだが、問題は
本来メリットであるそれは、急に成長されたら反射角を変えてしまう事態になりかねない。一桁台の反射ならさほど誤差は無いだろうが、二桁台に上ると確実に影響が出てくる。さて、どうしたものか。
少し悩んでからゴブリンと一人で戦闘しているライジンの方へ向く。
「なあ、ライジン。これスキルのレベルアップの停止とかできないのか?」
「んなもん出来るわけないだろ?RPGの掟だ、おとなしく従えって」
そう言いながらライジンはゴブリンに双剣を振り下ろし、ポリゴンに変えた。
うーん、やっぱ無理か。これは跳弾極める前に早く弓使いのスキルレベルをカンストする必要があるな。でもカンストするには弓を使って敵に矢を当てる必要がある。そんでもって現状武器使うと費用がかさむからなぁ……なんだこの負の連鎖。
そうだ、今スキルレベル3になったんだったよな。跳弾回数何回になったんだろ。
「ライジン、ちょっと検証がてら的になってくんね?」
「あれぇ?さっきここにいたゴブ君が見えなかったのかな?頼むタイミングおかしいよね?」
だって検証って思い立った時にやらないと意味ないじゃん。
「いや、ちょっと跳弾限界がいまどんなもんなのか知りたくてさ」
「それ俺である必要性なくない?さっきの煽り根に持ってんの?」
「いつから恨みを買っていないと錯覚していた……?」
ふふふライジン君、君は勘違いしている。俺は根に持つタイプなんでなあ!
問答無用と言わんばかりに弓を木に向かって構える。
「わー待て待て!いくらパーティと言えど
「プルプルが入ってないのでNG」
ピシュ!と音を立てて矢を放つとライジンが「やめろっ!?」と言ってその場から離脱しようと試みる。ライジンよ、残念だが的外れなとこに打ったんだ。ブラフだブラフ。
結果、合計反射回数は九回まで反射した。恐らく跳弾スキルはスキルレベルが上がる毎に三回跳弾上限が増えるみたいだな。
「びっくりさせんなよ……」
「だから跳弾限界調べたいって前もって言っただろ」
「的になってくれって発言をもう忘れたのかな?」
「ソンナコトイッタカナー」
適当に白を切りながらそっぽを向く。俺は今を生きる人間なんだ、過去は振り返らないッ!(キリッ)
「弓の検証はまあこれぐらいにして、次はモンスターのリポップ位置の検証したいんだけど」
「そんなんして何するつもりだ?まさかFPSみたいにリスキルするとか言わないよな?」
「うん、まあ似たようなもんってかそんな感じの事をしてみたいんだよね」
モンスターの湧き位置を先ほどから確認しているが、どうやら決まった位置にパターン化されているような感じがするんだよね。ある程度予測付けば遠距離でも狩りが出来ると思うんだよ。
「相変わらず発想がぶっ飛んでるというか、常識に囚われないというか……」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
何も決まったやり方で戦わないといけないという縛りは存在しないのだ。その人が思ったやり方で自由に楽しめてこそゲームだと俺は思う。
「大体ここら辺の敵Mobは、倒してから大体30秒に一回リポップしてるくさいんだよね。だからそのリポップ位置のパターン割り出せれば跳弾次第で町の入り口からでも狩り出来ると思う」
「よく確認してんなぁ……流石検証厨さん。でもそれゲームとして楽しいのか?」
「検証する分は楽しいだろうけど流石に数時間やってたら飽きそうだなぁ……」
「数時間もやれる気力を誇った方がいいと俺は思うぞ」
そんなもんかねー。
そう思いながら先ほどライジンがゴブリンを倒してから30秒過ぎたのを確認し、そのリポップ位置を把握する。
「あー、うん。多分大まかな位置は分かったわ。後は離れていてもポップするかどうか、付近にいないとポップしないのかって検証したいんだけど」
「了解。どうやって確認するんだ?」
「そこのゴブを倒してから30秒以内にここから離脱して、リポップ位置を予測する。そして遠くから俺が矢を放って経験値とか入るかどうか見てみる」
「わーお、原始的ィ」
だってそんぐらいしかできないじゃん、検証方法。
「んじゃゴブリンに切り込むぞ?逃げる位置とかはお前が指定してくれ」
「オッケーライジン、やったれ」
俺がそう発したタイミングで、ゴブリンが殴りかかってくるのを紙一重でかわしたライジンは、双剣の柄で頭を強打すると、ゴブリンがぐらりと体勢を崩す。その洗練された一連の流れに口笛を鳴らした瞬間、的確に肋骨の辺りに双剣が入り込む。そのまま切り裂き、回転しながらもう一度胴体を切り裂くとゴブリンの姿がポリゴンへと変わる。
「グッジョブライジン。ここから離脱するぞ」
「了解。どんぐらい離れる?」
「跳弾九回だから最大400mぐらいなんだよな。まあ200mぐらい離れればいいだろ」
「おっしゃ走るぞ村人!」
「
先ほどいた位置から、脳内で跳弾のルートを描きながら走り出す。走っている最中に、ライジンの方が走っている速度が速いことに気が付いた。
「移動速度の補正ってジョブの特性?」
「いや、AGI振ってるからだけど。村人の移動速度的にもしかして初期値のままなのか?」
「やっべレベルアップで勝手に上がるもんだと思ってたわ!」
「これだからFPS専は……」
だって俺の中のRPGってレベルアップしたらシステム的に上がる数値が決められてるという固定観念が染みついているんだもの。
「まあ検証終わったらステータスの振り方教えてくれよ、ライジン」
「俺じゃな……いや頼るんかい!」
いつも通りシャドウに頼むと見せかけてライジンに頼むとライジンは定型文を発しようとして急に言葉を変えてきた。ふむ、これは弄りがいがあるぞ。
「ライジン、ストップ!ここらへんで構わない!」
Aimsと違い、こちらの世界の方が疲労感もリアルなので身体が重く感じる。少しばかり息を切らしながら弓を担ぎ、先ほどいた位置に向けて弓を構えた。
「うーん、あそこの位置だと右の木からの反射が最適解かな」
「とりあえずやってみてくれ」
ほいほーい、と軽い相槌を打ってから矢を放つ。ある程度練習したことにより挙動が制御された矢は元居た位置まで反射していき、ゴブリンに突き刺さる……ことは無かった。
「ありゃスカしたくさい」
「まああんだけ精度良けりゃ何発かやりゃ当たるだろ」
次の矢を装填し、再び放つとしばらくしてゴブリンの叫び声が聞こえてきた。どうやら命中したようだ。そのままウインドウが表示され、結果を眺める。
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【Battle Result】
【Enemy】 【ゴブリン】
【戦闘時間】 0:28
【獲得EXP】 8EXP
【獲得マニー】 10マニー
獲得した経験値に伴ってレベルアップしました。
【狩人(弓使い)Lv8→9】
スキルポイント+2 ステータスポイント+5
レベルアップに伴ってメインジョブのスキルを獲得しました。
【鷹の目Lv1】
遠方の物をはっきりとした形に捉えることが出来る。
熟練度が一定数に達したため、スキルを獲得、レベルアップしました。
【弓使いLv5→6】
弓の扱いが上達する。飛距離が伸びる。
【跳弾Lv3→4】
投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面を反射するようになる。
特殊戦闘による称号を獲得しました。
【スナイパー】
称号獲得によるスキルを獲得しました。
【遠距離命中補正Lv1】
投擲アイテム、弓などの遠距離武器の命中に補正が入る。
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滅茶苦茶美味しいことになってるんですが?これには思わずにっこり。
「おっ、経験値入ったってことは倒したってことだよね。検証成功じゃん」
「一瞬敵湧かないのかと思ったけど遠距離でもちゃんと湧いてるみたいだな。でもどういう原理で湧いてんのか分からんなぁ……。付近で敵がやられるとその位置から近い決まったパターンの位置で湧くのか、それとも完全に湧く位置自体は固定化されてんのか……。前の説が有力くさいけどいかんせん検証数が足りないからもっと試行回数を増やしていくか」
楽しくなってきた、と口角を吊り上げると、俺の表情を見たライジンは苦笑いする。
「本当村人は努力の方向が変な方に天井突破してるよなぁ」
「実用性を意識したシミュレーションだと言ってくれたまえ」
おっと、三十秒過ぎていた。次の矢も撃っておこう。
「まずは遠距離から確実に当てる練習だな。安置で安心して狩れると気分的にも楽だし」
次の矢も外れてしまった。まだまだこのゲームでの跳弾を生かし切れていない証拠だろう。
「はいはい。……あ、村人、ステータス弄んないの?」
「……検証の楽しさで忘れてた」
いつもの悪い癖だ。検証し始めるとやらなきゃいけないことを忘れてしまい、後悔する羽目になる。Aimsでもミニ大会とかでエントリーし忘れで参加できなかったなどのちょっと悲しい思い出もあったり。
「メニューからステータス開いてみ。そこにステータスポイントってのがあるからそっから割り振れるよ」
ライジンに言われた通り、メニューを開き、ステータスウインドウを開く。
——————————————
PN:村人A
メインジョブ:狩人(弓使い)Lv.9
スキルポイント残量:63
スキル生成権:3回
ステータスポイント:145
所持金:5940マニー
HP:30/30
MP:10/10
STR:10
DEF:10
INT:10
MGR:10
AGI:10
DEX:10
VIT:10
LUC:10
スキル:【弓使いLv6】【近接格闘術Lv1】【跳弾Lv4】【鷹の目Lv1】【遠距離命中補正Lv1】
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ちょっと~?チュートリアル先輩仕事して?
「初期値からなんも振ってなかったから145ポイント余ってるわ」
「お前よくそれでいままでモンスター達と戦ってこれたな?」
ライジンが可哀想な目でこちらを見てくる。いやだってAimsでもステータスはあったけど、あれあってないようなもんだし。AGI特化ビルド最強時代は確かにステータスの影響ってスゲーとは思ったけども、結局STRガン積みが正義なんだよね!
「RPGの鉄則的に俺はどういう感じに振ればいいの?」
「弓使いで、なおかつソロもこなすとなるとSTR/AGI/DEX振りが良いと思うけど、村人の好きで良いと思うよ」
「おっけ、言われた奴多めに振っとくわ」
ステータスを操作し、ポイントを割り振っていく。
——————————————
PN:村人A
メインジョブ:狩人(弓使い) Lv.9
スキルポイント残量:63
スキル生成権:3回
ステータスポイント:0
所持金:5940マニー
HP:30/30
MP:10/10
STR:55
DEF:10
INT:10
MGR:10
AGI:50
DEX:50
VIT:20
LUC:20
スキル:【弓使いLv6】【近接格闘術Lv1】【跳弾Lv4】【鷹の目Lv1】【遠距離命中補正Lv1】
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「うっわまた極端に振ったなあ」
「攻撃は当たんなきゃいいって厨二が言ってたから」
「あいつの身のこなし本当変態だもんな……」
Aimsでの厨二はAGI極振りビルドで、軽装で戦場に出て、放たれる弾丸をことごとくアクロバティックな動きで避けていくのでそのプレイスタイルを参考にしようと思ったまでだ。
「まあ傭兵の反応速度なら再現できんじゃね?」
「いやいや、流石に無理。あいつの動きを完全再現しようとすると関節イかれるし骨持ってかれる」
体操選手と言わんばかりの柔軟さがあるからなぁあいつ。本当に何者なんだろ。
「んじゃ、俺はSBOのレビュー動画の編集仕上げて上げっから一旦落ちるわ」
「おっけー。俺はもうしばらく検証してるわ。いろいろあんがとライジン」
ライジンが町の方角に向かうのを見送ってから、俺はまた先ほどの位置に矢を回収しに行き、検証を再開するのだった。
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