#006 変態スナイパー、交渉する。(有利に運ぶとは言ってない)


「あっお帰りー。……どした?なんかやつれてんぞ?」


「お気になさらず……」


 カップ麺を食って再びダイブすると、ライジンはまだ武器屋で装備を物色していた。ライジンの言葉から察するに恐らくVR機器に備わっている感情表現エンジンが働いて今の気持ちを表情という形で表現しているのだろう。……今の気持ち?絶望。


「あんな短い時間で攻略するとは流石変態スナイパー」


「おいそれもはや別の意味だろうが」


 俺はエロゲをしていたわけではないのだよ。……うん、ギャルゲの方が近いか?リアルシミュレーションギャルゲ。何それ新しい。

 俺は一つため息を吐いてからライジンに向き合う。


「とりあえず今の気分を払拭するには検証がしたいです。検証しないとトリップ出来ないです」


「検証ってなんか危ないお薬かなんかだっけ?ちょっと僕何言ってるか分からない」


「考察と同じようなもんだと考えてみ、多分わかる」


「あっ……合法だね!(にっこり)」


 大分頭のおかしいいつも通りの会話をしていると、周りのプレイヤーからやべえもん見ちまったと言わんばかりの視線が殺到した。君達も検証キメる?


「その前にちょっと矢を買い足しに行きたいな。雑貨屋的なとこで売ってるのか?」


「ああ、一応消耗品ショップで売ってるけどそれ不便だよなあ……。どうせなら武器屋で買えた方がいいよね。ちょっと待ってて」


 確かにわざわざ消耗品ショップまで行くのは面倒だよな。どうせなら武器屋で買えた方が移動が少ないし楽でいいよな。


「って、なにすんの?GMコール?」


「いやいや、わざわざそんなことしないよ。ちょっと見てな」


 そう言うとライジンは武器屋の店主の前に行き。


「なあ店主さん。うちの相棒が弓さっき買ってただろ?どうせならここでも矢を入荷したらどうだ?それなら売れ行きも伸びると思うし、弓使いの人も楽出来て一石二鳥だと思うぜ?」


「んあ?うーん……確かにそうだよなぁ。あんまり競合すると組合がうるせえんだが……。まあ矢ぐらいなら大丈夫だろ。納入依頼しておくから今後ともうちをよろしく頼むぜ」


 そう会話するとライジンはこっちに戻ってくる。


「…………な?」


「なにそれハイテクノロジィ」


 すげーな。もはやAIの域じゃねえよ。なるほど、この世界のNPC達は人間だと思った方がいいのか。ロールプレイ得意な人強そうこのゲーム。


「まあ入荷するって言っても時間経たないと入荷しないからとりあえず消耗品ショップ行こうぜ」


「変なとこでもリアルだなこのゲーム……」


 まあリアルタイムでショップの商品の値段が変わるようなゲームだ。それもそうだろう。




 消耗品ショップ、という名の露天商の前で俺は恐れおののいていた。


「木の矢一本50マニー……だと……!?」


 あれえデジャブ。おかしいな、俺が使っていた石の矢に至っては100マニーもするんですけど……?

 ゴブさん三匹を弓矢一本で仕留めても赤字ってどういうこと?さっさといい狩場に行けと?残念ながらレベル上げられないから先進めないんだよなあ……。


「本当に弓使い可哀想だな……。どうする?セカンダリア行く?」


「さりげなくジョブチェン勧めるな」


 いや実際揺らぎつつあるけど……。【跳弾】取ったし引くに引けないんだよなあ……。


「このゲームドロップアイテムとか無いの?モンスターと戦ってアイテムの一つも落とさんのはMMORPGの仕様なの?」


「え?モンスター一匹につき一個は落とすだろ?何言ってんだ?」


「は?」


 いやいや、そんなまさか。リザルト画面でも表示されてなかったし。しばらくライジンが首を傾げると、唐突に「あ」と漏らす。


「あーもしかして設定でドロップアイテム非表示にしてんじゃね?」


「えっ何そのはた迷惑な設定」


 そんな項目弄った覚えないぞ。つかそれ需要あるの?


「いやなんかベータの時にガチャ感覚で素材が手に入る方が面白いって言いだしたユーザーがいて、倒した後にアイテム確認しないとドロップアイテムが見れないっていう設定がゲームシステムに組み込まれたんだろうね。俺はベータから設定諸々引き継いだからそこらへんはちゃんと直してあるんだけど」


「最高に迷惑なんだが?」


 つーかドロップの時点でガチャのようなもんだろ……。

 ぶつぶつ文句を言いながら設定をオフにし、ドロップアイテムが見れるように切り替える。そしてそのままメニュー画面を操作し、所持品を開く。



――――――――――――――――――


【ゴブリンの手斧】 所持数8個

ゴブリンが持っている手斧。斧自体は粗悪なもので実用性に欠ける。


【ゴブリンの腰巻】 所持数10個

ゴブリンが巻いている腰巻。強烈な悪臭がするので取り扱いには注意。


【ゴブリンの角】 所持数2個

ゴブリンの額に生えている角。硬く尖っている。


【スライムの粘液】 所持数58個

スライムの粘液。粘着性が高く、長時間この粘液に物を浸すと溶かす性質を持つ。


【スライムの核】 所持数1個

スライムの生命エネルギーの源。魔力を貯める性質があるため、いろんな分野で応用できる。


【レッドボアの生肉】 所持数6個

レッドボアの精肉。味は微妙だが需要は高い。


【レッドボアの毛皮】 所持数2個

レッドボアの身体を覆う厚い毛皮。保温性に優れる。


――――――――――――――――――



「は?ガチャ最高なんだが?」


「大丈夫?てのひらぐるんぐるんしすぎてそのままねじ切れてない?」


 降って湧いたドロップアイテムの存在に思わず高笑いしたい気分に襲われる。なんだろう、今の気持ちを表現すると、コツコツ一定額貯金してたけどいつから貯金してたのか忘れてていつの間にか気付いた時には大金になってたって感じ。いや俺金に困ってないけど。


「これ売りたいときってどうするのライジン?」


「ウインドウ操作でもいいけど、素材を出して直接交渉を持ちかけた方が売却値が上がることがある。だから話術に自信があるなら直接交渉がお勧めかな」


「オッケー」


 ふふふ、Aimsのゲームモード、『テロハント』で対戦相手を尋問して相手の位置絶対吐かせるマンとして活躍した俺の脅迫わじゅつ見せてやんよ……!


「あー、行商のおっさん?ドロップアイテム売りたいんだが、ちょっといいか?」


「ありがとうございます。どのような代物でしょう?」


 と、その前に素材を出さないとだな。

 えーと、ゴブリンの腰巻はちょっとやばそうだからそれ以外を具現化するか。



ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょべちょ……



「ちょちょちょちょお客さん!?」


「村人、ちょっとステイ」


「あん?」


 一気に具現化して出していたらライジンに止められた。


「いやなんでそんなに素材あんのかって言いたいのもあるけどお前スライムの粘液地面に出してどうする!?ゴブリンの素材粘液まみれだぞ!?」


「あー、それもそうだな。おっさん、なんか壺かなんかない?」


「それもう少し前に言って欲しかったのですが……」


 顔を引きつらせながら行商NPCは脇に置いてあった壺を引っ張って、それを指さす。


「これにスライムの粘液をお入れください」


「すまんね、今地面にある分は回収するわ」


 地面に広がったやたら粘着性が高い粘液に触れると、勝手に所持品インベントリに仕舞われていく。すげー便利。ゴブリンのアイテムがねちょってるのは自業自得だけど。


 他のドロップアイテムを出していくと、ある品物を見たとき商人の眉がわずかに動いた。

 それを見逃さず、俺はにやりと笑った。


「【スライムの核】……。これ多分貴重なんだな?……相場は?」


 あれだけスライムを倒したのにたった一つしかドロップしていなかったのだ。レアドロップ品と考えて間違いないだろう。

 俺の言葉を聞くと行商NPCは眉一つ動かさず。


「3000マニーですね」


「6000マニーだ」


 さて、交渉開始と行こうか。


「待て待て、そんな大金で仕入れたらうちも商売あがったりだ、4000マニー」


「まあまあ、貴重だから仕入れるのも大変だろ?この機会を逃したら早々手に入んないんじゃないのか?5500マニー」


「そんな大金じゃ買い取れないよ、ほかに当たってくれ」


「分かった、じゃああんたの店は二度と利用しないよ」


 俺は学んだ。このゲームはプレイヤーの感情がNPCに影響を及ぼすということを。

 俺の悲しそうな表情ロールプレイを見て行商NPCは慌てて食い止める。


「わ、分かりました、ではそのスライムの核とほかの素材を含めて買い取りましょう、8500マニー」


 ん?……スライムの核じゃないにしても、ほかの素材でそんなにも行くもんなのか?


「ほかの素材と含めてか……なら11000マニーだな」


「無理だ、そんな高値じゃ買い取れない。最大限譲歩して10000マニー」


 ふむ、一万マニーか。それならば序盤のドロップ品にしてはいい金額だろう。


「よし、じゃあ10000マニーで買い取ってくれ」


「かしこまりました」


 所持金に10000マニー追加されるのを見て俺は満足気に頷く。よしよし、後は検証用の弓矢も買って早速検証しに行こうじゃないか。

 メニューを操作して木の矢を50本、石の矢を25本購入すると、ライジンの方へ振り向く。


「ライジンは買うもんは買ったか?早速だが検証したいから行こうぜ」


「あぁ……!うん…………そうだな……!」


 ん?なんでこいつプルプル震えて笑いこらえてんの?





「なあなあ村人さんや」


「なんだいライジンさんや」


 消耗品ショップから離れた俺らは、再びフェリオ樹海に行こうと歩き出していた。その途中でライジンが急に肩を叩いてきたので後ろに振り返る。


「あのさ、スライムの核の今の相場って10000マニーなんだよね」


「あんのくっそじじぃぃぃぃぃぃいい!!?」


 おい!?嘘だろ、相場の3割吹っ掛けてくる行商人がいてたまるか!?いや事実居やがった!


「いやあ、流石でしたよぉ村人さぁん?スライムの核以外無料ただで取引するなんてぇ?」


「やめろライジン今その煽りは俺に効く……!!」


 ライジンも腹立たしいが、その前にほんとあの行商NPCどうしてやろうか。


「なあ、合法的にNPCぶちのめせるジョブとかない?もしくは嫌がらせ出来るジョブでも可」


「何その世紀末ゲー……」


 ライジンが呆れたようにため息を吐き肩をすくめた。うん、無いなら本気であの行商NPCの店二度と利用しないようにしようかな。悪評も垂れ流してやろう。レッツ、営業妨害!


「そうだ、町の外から石ころ跳弾させて嫌がらせしよう」


「その嫌がらせ斬新すぎない?」


 だって特定出来なさそうじゃん。やはり跳弾は全てを救う。


「特定不明の嫌がらせを行うプレイヤーか。はあ、お前カルマ値上がっても知らんぞ?」


「なんじゃそりゃ」


「悪いことすると蓄積する裏ステータスマスクデータ。カルマ値を稼ぎすぎるとNPCの評価が落ちたりとか最悪恨みを買い過ぎて賞金首扱いされる」


「石ころ投げてたら賞金首扱いとか世知辛い世界じゃね?」


 さしずめ『石ころ投げの村人A』ってか。賞金額低そう。多分100マニー。


「他にもPKされても相手にデメリット無くなったりするからあんまり上げない方が良いぞ」


「うへ、因果応報ってやつか。徹底してんなあ」






 ――――この時の俺はまだ気付いていなかった。


 まさか始まりの平原でスライム狩りをしまくっていたせいで、スローター抑制お仕置きMobが湧いてしまい、その被害にあったプレイヤーが多く存在し、カルマ値がに達しそうになっていたことに。


 それを知ることになるのは数日先の事となる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る