変態スナイパー、MMORPGに襲来

#001 『Skill Build Online』


「あ~くそあちぃ~」


 Aims日本大会から一ヵ月の月日が過ぎようとしていた。ついに今日が『Skill Build Online』サービス開始初日である。今日の正午に正式サービスが開始されるのだが、サービス開始前に、徹夜のお供であるエナジードリンクやカップ麺などの補充に近くのコンビニまで買い出しに出ていた。

 昨日から高校も夏休みに突入したので、今日からゲームを遠慮なくやり込むことが出来る。ライジンから30分前のインを約束されたので、なるべく早く帰らなければ。


「一応ポンにも連絡しとくか……。11時半にはインします……っと」


 AR拡張現実のSNSアプリを起動し、グレポン丸にメッセージを飛ばすと、即刻メッセージが返ってきた。


「はやっ!ええと、了解、その時間にインします……か」


 メッセージを確認し、家に向けて歩き出しながら、ベータテストの情報から得た情報のおさらいを始めた。


 『Skill Build Online』。


 記憶を失った主人公が、『シャドウ』と呼ばれるナビゲーションAIとともに、自身のルーツを探しに行く……というストーリーらしい。スキルと呼ばれる能力を使い、記憶を取り戻すために自身の強化を行いながら旅をする放浪者トラベラーという立場になって冒険をするのだとか。

 まあ、ストーリーはひとまず置いといて、このスキルと言う要素が重要になってくるそうだ。どうやらAimsの優勝賞品にもあった、スキルポイントというポイントを用いて、自由にスキルを取得し、自分に合った好きなプレイスタイルで遊べる。だからSkillbuildスキル構築。なるほど、安直だ。

 しかし、それならばありふれたMMORPGと変わらないが、SBOの魅力はプレイヤーの思考をスキャンしてスキルを新たに生成するという前代未聞のシステムがあるのだとか。それだけでなく、今の時代には考えられないレベルのグラフィックや、NPC自体が独立した思考を持つという、一体いくら開発費につぎ込んだんだというレベルの出来らしい。ベータの時点でそれだから、製品版には尚更期待できる。

 因みに、このゲームは『人の可能性を見せてみろ』という挑発的な謳い文句を掲げているようだ。プレイヤーの思考をスキャンしてスキルを生成するという時代の最先端を行くシステムも、『人の可能性』とやらを最大限に発揮する為に作られたのだろう。

 そんな挑発的な挑戦状を叩き付けられて、ゲーマー魂が燃えないはずが無い。


「Aimsはこのゲーム開発のための資金調達とか書かれてたのには思わず笑ったな……」


 実際にライジンのゲームプレイ動画を見たら、確かに凄まじいグラフィックだった。資金調達と言われるのも納得のクオリティ。MMORPG廃人のライジンをしてFPSキチガイと呼ばれるほどの俺が、初めてMMORPGに興味を持ったほどだった。まあ、グラフィック云々はまあいいとして、俺が一番興味を持ったのは……。


か……」


 にやりと思わずあくどい笑みがこぼれる。

 流石に『ぼくがかんがえたさいきょうのすきる』は作ることが出来ないだろうが、ある程度ならば実現可能だろう。俺が一番最初に作りたいスキルは……。


「まあ、作れるかどうかは分からんし、実際にプレイしてみてからだなぁ……」


 もしかしたら俺が作りたいスキルはデフォルトであるのかもしれないし、そもそも作ることが出来ないスキルなのかもしれない。まあ、俺が作りたいのは簡単なスキルだから作ることはできると思うけどさ。


「あー、なんだかんだでハマりそうだな俺……」


 まぁゲームは楽しければ何でもいいか、と笑ってから走り出した。





「おいっすライジン、もうインしてたか」


「二時間前からとっくにインしてるよ。ポンも呼んでるんだって?」


 家について数十分後。VRデバイスに初期から備え付けられている、アバター同士で会話できるチャットルームにてライジンと合流した俺は、掲示板を眺めながら情報収集に努めていた。


「そうそう、そろそろ来るとは思うんだけど……」


「すいません準備してたら遅れました!」


 グレポン丸――――ポンは、Aimsで使用しているゴツイオッサンアバターで突如出現する。このゴツイアバターで敬語口調なのだからそのギャップにいつも笑いそうになってしまう。


「ようポン。ポンもベータテストやってたんだってな?どうだった?」


「本当凄いんですよ!リアル過ぎてもはや異世界に迷い込んだって感じで!プレイスタイルも自由だし、のんびり楽しめたらなぁって」


 ポンが興奮しながらそういうものだから俺も思わず気分が高揚してくる。まあ時代の最先端を行くと言っても、実際に体験してみないと分からない。まあ、ポンの反応を見る限り、世に言う駄作でも十分楽しめそうだしな。


「そいやライジンはまた動画とか別ゲーのメンバーでクランとか作んの?」


「いーや、今回はお前が結構乗り気で来てくれてるっていうのがあるからな。折角だしSBOのクランはお前と作りたいって思ってた。ポンも来いよ」


「お、じゃあそうすっか」


「ほ、本当!?いやぁやっぱり持つべきものは友達だねぇ!」


 若干厨二(人名)っぽい口調になってるポンに苦笑いしながら、掲示板や情報系サイトから初期ジョブに選択すべきジョブを検討していた。


(……ふむ、やはりこのジョブだろうな)


 俺が選択しようと決めたのは、掲示板や、情報系サイト不人気ぶっちぎりの一位、狩人(弓使い)である。不人気の理由は、弓矢の費用がかさむと言うのと、まずもってモンスターに矢が当たらんからダメージすら出せないそうだ。不人気だから選ぶと言う反骨精神は持ち合わせていないが、初期スキルと、レベルアップで獲得出来るスキルの詳細を確認した結果、このジョブが1番俺に合っていると思った。高速機動は得意だから剣士もいいかと考えたが、どっちかと言うとAimsの時みたいに一発一発に火力を置いた、尚且つ変態機動が可能なこのジョブが1番だ。


「なあ、ポンとライジンはなんのジョブにするんだ?」


「あー俺は双剣士かなぁ。DPS秒間火力結構出るし機動力高い方が俺のプレイスタイルに合ってるし、ベータで一通り使った中で1番しっくり来た」


「私は花火師です。コストは最高レベルでかかりますけどやっぱり私は爆発至上主義ですから」


 双剣士は今作1のDPSが出るジョブとして知られている。クリティカル率を向上させる自己強化バフと他のジョブに比べて圧倒的な手数の多さが売りなのである。花火師は爆弾などの爆破属性を持つ投擲アイテム系で攻めるジョブだ。一発一発の火力は出るが、狩人(弓使い)以上に費用がかさむので、不人気ジョブ3位にランクインしている。


「さすが伝道師の言葉は違いますわぁ…つかAimsで花火満喫しきったんじゃなかったのかよ…」


「ポンはなんとなく予想ついてたけどそういうなぎ…傭兵は何にするんだ?」


「おい今リアルネーム漏らしかけただろ、マナーなってないな全く……俺は狩人(弓使い)」


「おいおいやめとけって。使い勝手の悪さだとダントツレベルの不遇職だぞ?……まあ言うだけ無駄か。Aimsの対物ライフルなんて使いづらさの極みなのに使いこなすようなお前だもんな。まーたこのゲームでもやらかすに決まってる」


「やらかすってなんだやらかすって。俺は普通にエンジョイしてるだけだ。ただ、エンジョイの情熱が人より天井突破してるだけだ」


「人はそれをガチ勢という。まあ世界大会蹴るような男だもんなお前……。後で泣きついたって知らないぞ?」


「分かってるって。あ、そうだ。スキル生成権について聞いてもいいか?」


 スキル生成権については、ベータテストでは一つしか与えられてなかったらしく、しかもベータテスト時点ではサーバーの過負荷防止の為にサブ垢は禁止されていたので、検証しようがなかったらしい。情報サイトでもあまり情報が載ってなかったので、折角ならこのゲームにも詳しいであろうライジン先生に聞こうと思ったのだ。


「ん?あー、生成権な。あれ貴重だからむやみやたらに使わんようにな。初期配布で一回分貰えるけど、知識なしで使うと無駄にするだけだから」


「無駄にするって言うと、強すぎるスキルだと必要なスキルポイントが増えすぎて取れないって解釈で良いのか?」


「そうそう、その解釈であってる。例えば『世界全体に大規模な爆発魔法を解き放つ』スキルの場合、必要なスキルポイントは数百万、数千万単位になる。んで、基本的にレベルアップや、高難易度クエストとかこなして貰えるスキルポイントは少量だから、実質無駄に使い潰すだけなんだよね」


「そんなスキル取ろうとした先駆者やべーやつがいるのか……」


 俺が呆れてため息を吐くと、ポンがそっぽを向いた。お前だったのかよ。


「それだけか?もうサービス始まるし、もうゲーム起動しときたいんだけど」


「オッケー。ありがとライジン。ゲーム始めてある程度進めたらメッセ飛ばしてくれ。どこどこに集合とか指定して貰えると助かる」


「始まりの町の噴水広場……と言いたいとこだけど絶対そこ待ち合わせのたまり場だろうからなぁ……。まあ人の具合を見て決めるとしよう」


 時刻は11時45分。ゲームスタートはまだ出来ないが、キャラメイクは行うことが出来る。見た目よりもゲームプレイを重視するタイプの俺は、凝った見た目にしないのでこれぐらいにインすればサービス開始に間に合うだろう。


「んじゃ、SBO内で」


「了解!それじゃ、楽しんで!」


 そう言い残してVRチャットルームから退出するグレポン丸とライジンを見届けてから、Skill Build Onlineを起動する。起動まで数秒を要してから、壮大なBGMとともにタイトルが表示される。


「それじゃ、ゲームスタート!」


 新規キャラ作成と表示された場所を触れた途端、意識が途切れた。


 



『……ス……』


 何か声が聞こえる。耳元で何か囁かれている感じがする。


『……スター……』


 徐々にはっきり聞こえてきた。何やら機械音声染みた声が聞こえる。


主人マスター!』


 完全に意識が覚醒する。先ほどから聞こえていた機械音声は、どうやら球体の形をした小さい浮遊ロボットだった。……あれえ?ファンタジーなのにロボット?多分こいつが……『シャドウ』?


『良かった、意識が戻ったのですね……。私の事はわかりますか?』


「っは!てか意識を失ったのか!?やっべ、サービス開始に間に合ってるのか!?」


 シャドウの言葉をガン無視で起き上がって慌てて時刻を確認する。どうやら意識が途切れたのは一瞬のことだったらしい。びっくりした、意識を飛ばすなんて一歩間違えたら安全衛生面の問題で発売中止のゲームになっちまうぞまったく……。

 

『どうやら記憶が混濁しているように見られる……。大丈夫ですか?』


 あ、やべ。無視したら勝手にルート分岐挟んでしまったみたいだ。

 ロールプレイ、ロールプレイ……と。


「あ、ああ。すまないシャドウ。大丈夫だ。だが、ここがどこなのやら……」


 辺りを見回すと、だだっ広い草原のど真ん中だった。チュートリアルエリアなのだろうか。


『ここは【始まりの平原】です。始まりの町【ファウスト】に最も近い平原と言われています……。今のあなたの姿では町人に認識されません。まずはあなたを蘇生しましょう』


 と、ここでようやくキャラクタークリエイト画面が表示される。

 おお、キャラメイクはここで行うのか。ゲームプレイ前にキャラメイクを行うゲームがほとんどだが、最近のゲームでゲームが始まってからキャラメイクを行うゲームは稀だ。少し新鮮な気持ちになりながら

 目の前に表示されたウインドウを操作する。


「うわなんだこの項目の数!?まじかよ、こんだけ弄る項目あるならキャラ被ることなんて絶対ないだろ……。キャラメイク凝らない主義の俺でも流石にこんな用意されたら適当に作るの申し訳なくなってきたんだが……」


 流石国内500万、世界2000万人のプレイ人数を超える超人気FPS『Ruin gear』を資金調達と言わせるほどの出来である『Skill Build Online』。 安直な名前の割に凄まじい完成度だ。


「あ、現実と性別は変えられないのね……。せっかくだからネカマプレイしてライジンを炎上させてやろうと思ったのに……」


 イケメン人気配信者にべったり張り付く寄生女プレイヤー……。炎上間違いなしなのだが性別変更が出来ないのなら仕方ない。……ならば。


「うーん……どうせなら現実の俺にどこまで近づけられるかやってみるか?」


 リアルの俺……日向ひなたなぎさは中性的な顔立ちとよくいわれている。どうせ男でしかプレイできないなら中性的な顔立ちにすれば良いのではないだろうか。


「ふふふ……Aimsで俺を利用してこのゲームの特典を貰った罪、償ってもらうぞライジン!」


 高笑いしながら俺はキャラメイクに勤しみ、結局キャラが完成したのはサービス開始した一時間後の事だった。

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