skill build online ~変態スナイパーによるMMORPG挑戦記~

立華凪

プロローグ 変態スナイパーは無双する


 西暦20XX年。VR技術が発展し、完全没入型VRシステム、通称フルダイブシステムが確立され、一般的に普及され始めてから数年が過ぎた。今でこそ快適なゲームプレイが出来ているが、技術が確立して間もない時はそれはもう酷いものだった。高すぎるグラフィックに機体そのもののスペックが追いついておらず、数少ないフルダイブゲームには期待に満ちた全世界の同志諸君ゲーマーによる同時接続にサーバーが悲鳴をあげ、結果としてラグが絶えずまともなゲームとして成り立っていなかった。

 ゲーム界の大革新ともいうべきVR技術の発展はすぐに終焉を迎えるかと危惧されたが、多数のゲーム会社の必死の取り組みによりその事態は回避された。

 従来のヘッドマウントディスプレイの他に、脳内情報の読み取りの高速化と、サーバーへの接続の円滑化を実現したヘルメットタイプの機体も発売され、更にはリクライニングチェアタイプの機体、果てにはカプセルタイプまで……。

 まあ、後者は値が張ってしまうので一般人には中々手の出すことのできない代物であるが、ヘルメットタイプは十分学生でも手の届く範囲内で、ヘッドマウントディスプレイに至っては安価で入手することが出来、一家に一台レベルで普及されている。

 一応俺もヘルメットタイプのVRギアを持っているのだが、俺はあるにおいて秀でた才能を持っていたらしく、一般人からプロゲーマーまで参加できる公式大会で見事優勝を勝ち取ることが出来た。

 その優勝賞品であるリクライニングチェアタイプの機体に横たわりながら、俺は一言。


「フルダイブシステム・オンライン」


 脳内に直接送り込まれる信号によって彩られた電脳の世界に今日も俺は飛び込む。




――――ファーストパーソン・シューター。




 通称FPSと呼ばれるそれは、ファーストパーソンという読んで字の如く、一人称、つまり自分視点で展開されるシューティングゲームを主に指す。銃器を持ち、リアルタイムでプレイヤーと対戦することを主軸としたゲームに、俺は人生を費やしかねないほど恋焦がれた。

 たかが情報、ポリゴンの塊――――否。違う人間と対戦することに楽しみを見出した俺は、徹底的に研究と自己研鑽を重ね、プロにも通用するレベルにまで成長した。


「決勝まであと10分か……。あいつらはもうインしてるかな?」


 その結果がこれである。血と弾丸が飛び交う世界、『Ruin gear ~Ash in the mercenaries~』、通称Aims。

 公式大会にもかかわらず、国内のプロゲーマーからアマチュアまで、あらゆる人間が参加している大会の決勝へ、を決め込んでいた。

 前回はリクライニングチェアタイプの機体が送られてきたが、今回は何がもらえるやら。

 おっと、もう優勝するつもりでいた。油断が何を産むか知れたもんじゃない。気を引き締めないと。


「おう傭兵A!今頃来やがったか!お前以外はもうインしてるぞ!」


 声のした方向へ振り返ると、そこには俺のFPSフレンド兼、今回のチームメイトの『ボッサン』が手を振っていた。それを見て俺も手を挙げて応じる。


「ボッサン、ライジンはまあそこらへんぶらぶらしてるとは思うけど、グレポン丸と卍血の弾丸卍ブラッドバレッドは?」


「ポンは試合に使う擲弾発射機グレネードランチャーの弾薬を店で限界まで買い込み中、厨二は今頃愛銃のメンテナンス兼鑑賞してる」


「グレポン丸のやつまさかこの大会であの技をやるつもりか? 必勝法だけど運営の意図しない挙動グリッチすれすれだろアレ?」


 俺が顔を引きつらせながら言うあの技というのは、通常の弾薬ポーチの他に、エクストラポーチと呼ばれる追加弾薬を持てるポーチがあるのだが、それを大量に持ち込み、擲弾発射機グレネードランチャーの弾薬を、通常よりも多く持ちこんで圧倒的な火力でねじ伏せるという技だ。……一見すると普通に見えるが、エクストラポーチを含め、自分の弾薬が尽きてしまうと補給手段が無くなってしまう。にもかかわらずそれを全弾一気に1ラウンドで使い潰し、敵を殲滅するという戦法だ。3ラウンド制、延長で4ラウンドにもなるこの大会のゲームモードにて、この戦法を取った場合、その後のラウンドでは実質プレイヤー一人が格好の的となる。

 もちろんこの技……というか、常勝手段はすぐに運営に対策された。グレネードランチャーを装備できるのは一チーム一人までという枷が付けられ、もしも二人以上いた場合はお互い別の武器に強制的に装備変更される。オンラインのマッチングではほとんど装備変更を余儀なくされるが、公式大会であればその心配は無い。

 まあ、正々堂々という点では忌み嫌われる類の技だから、公式大会でやるやつなんて滅多にいないんだけどさ。


「グレポン丸のやつ花火大会スレの筆頭だもんなぁ……まさか公式大会でもやるとは」


「この大会でAims引退するらしいぜ?だから最後にドでかいの撃ちあげるんだとさ」


 花火大会スレというのはこのゲーム、Aimsのグレポン祭りが修正されてなかった時に某掲示板で賑わったスレッドである。グレポン丸……俺のチームメイトが立案し、広めてしまったのだが、一時期は本当にグレネードランチャーを持っている相手しかいなかった。戦場に飛び交うのが弾丸ではなく砲弾であり、空中でぶつかり合って爆発が巻き起こる……。その様子がまるで花火のようだから花火大会と呼ばれるようになった。


「厨二の具合は?」


「僕の愛銃なら3km先の相手もヘッドショット余裕さぁ……!とかほざいてる」


「上々。あいつが本調子なら安心だな」


 卍血の弾丸卍ブラッドバレット。一応成人しているらしいが、現役の厨二病。回転式拳銃リボルバーをこよなく愛し、このゲームにおいてもリボルバーしか使用しないという拘りを持っている。ただ、その分リボルバーの扱いは並外れていて、空気抵抗などの物理演算が働くこのゲームにおいて、狙撃銃スナイパーライフルと同じ射程範囲で撃ち合うことが出来るという変態ぶり。……俺と対戦して、敗北してからなんだかんだでフレンドとなり、今に至る。


「おっす傭兵!遅かったな、Bot撃ちはしなくて平気か?」


「おうライジン。カフェイン摂取もしてきたしコンディションは完璧」


 ライジンこと桐峯雷人きりみねらいとはVRMMORPG界隈ならばトップクラスの有名人にして俺のリアフレである。動画配信サイトで積極的に活動し、そのイケメンフェイスをそのままゲームに反映させている彼は国内外問わず多数のファンを獲得している。FPSはあまり得意ではないみたいだが、大会の人数の埋め合わせとして呼んだのにも関わらず、俺の誘いに応じてくれた優しい奴でもある。


「変態射撃期待してんぞー?あ、そうだ。この大会終わったら話があるんだけど良い?」


「了解。またなんかのゲームの誘いか?」


「まぁそんなとこ。でもまぁ今はこの大会に集中してくださいな」


 ライジンは俺の背中をバシッと叩き、サムズアップして笑顔を浮かべる。


「お、ポンと厨二。そろそろ始まるから作戦立てるぞ」


 グレネードランチャーの弾を買い込んだらしいグレポン丸と、リボルバーをくるくると回転させながらニヤニヤ笑ってる卍血の弾丸卍ブラッドバレットがこちらに向かってくるのが目に入る。そして、テーブルに座ったのを確認したら、ボッサンが地図を広げる。


「ルールは『コントロールポイント』で、2ラウンド先取のチームが勝利なのは変わらんが、マップが【ドストン戦線】なんだよなぁ...」


「げっ、マジ?俺あのマップ嫌いなんだけど」


 露骨に顔をしかめるライジンをまぁまぁと窘め、脳内で戦場の構図を描く。


 コントロールポイント。Aimsにて人気のゲームモードであり、大会でも主にこのルールが用いられる。ルールとしては、5対5の対戦形式で3箇所のコントロールポイントと呼ばれるポイントを全制圧するか、敵チームのプレイヤーを全員キルした方の勝利となる。そしてプレイヤーの他に一般歩兵30名が分け与えられ、好きなように指示をする事が可能なのだ。ポイントを制圧するもよし、敵陣を偵察させるもよし、プレイヤーを襲うもよし。この自由に扱える歩兵の要素が人気たる所以でもある。


「相手って紫電戦士隊パープルウォーリアーでしょ?あいつら名前からして凸ってきそうな名前してるくせにキャンプするから嫌いなんだよねぇ……しかもマップも芋砂多いマップだし」


「まあそういう作戦なんだから仕方ないだろ。キャンパーならキャンパーでポンが刺さるじゃねえか。それに、傭兵Aのやつがやってくれるだろ」


「言ってくれるね。まあ、開幕一人は持ってくつもりだけど」


「まーた変態リスキル思いついたのか?運営がお前対策にあの複雑なマップを作ったって言われてるのにまたあの運営の裏をつくスポーンキルしたら泣くぞ?」


「理論上敵と味方のリスポーンポイントまで壁があって、跳弾制限を超えなきゃどのマップでもスポーンキル可能だよ」


「そんな跳弾リスキル出来るのお前だけだっての。どうやったら【首都アルディン】のスポーンキルなんて思いつくんだよ?あそこ15回以上跳弾させてるだろ?」


「ひたすら検証の積み重ねだよ。ある程度跳弾リスキルに慣れてくれば反射角とか分かってくるようになる。あのマップくそ広いからカスタムゲームで何度お世話になったことか」


「もうお前のスポーンキル回避するためには運営が大会用に新マップ作らないといけないだろうな……」


 ボッサンがそう言うと、チームメイトがうんうんと頷く。失礼な、人を人外呼ばわりはやめてくれ。


「まあそれは試合開始後のお楽しみとして、作戦だな。まず1ラウンド目はポンの花火で先制を取る。それである程度数を減らしたら俺とライジンがARアサルトライフルで突っ込む。厨二と傭兵Aが遠距離支援。まあ花火もあるから1ラウンド勝利は堅いな。2ラウンド目はガン凸で行くぞ。兵士含めて全員でな。相手も花火持ってたらきついが、3ラウンド目まで持ち込まれたらそこからは自由に行くぞ」


「作戦って言う名のごり押しだねぇ……」


「そのごり押しが通るだけのPSプレイヤースキルがこのチームにある。いつも通り、


 ボッサンの言葉に苦笑する。公式大会の決勝だというのに気楽とは。まあ、ゲームは何事も楽しむのが大切だしな。


『試合開始まで、あと1分』


「ほら、アナウンスも入ったし、銃器取り出そうぜ」


「あ、開幕は耳塞いでてもらえるか?サプつけてるけど一応な」


「了解!おっしゃ二連覇勝ち取りに行くぞお前ら!」


「「「「おう!」」」」


 俺たちの身体が透け始め、ショップなどがある中立区から今回の戦場、【ドストン戦線】へと強制転移させられる。

 俺の愛銃に跳弾性が高い特殊弾薬の入ったマガジンを装填し、コッキングしてから伏せてすぐバイポッドを立て、スコープを覗き見た。


「よし、んじゃまあぶちかましますか」


『さてさてやってまいりました第二回Aims日本大会!決勝の幕開けです!』


 アナウンスと共に凄まじい大歓声が聞こえ、カウントダウンが表示される。


『FPS専門プロゲーミングチームにして数多のゲームで日本一に輝いてきた強豪チーム、紫電戦士隊パープルウォーリアーvsアマチュアだけどその実力はお墨付き。前回日本一に輝いた変人分隊による対戦です!!』


 開始のカウントダウンを待つ。神経を研ぎ澄ませ、鋭く狙いを定める。


『どちらも超高レベルのプレイヤー揃いですからね!試合開始が楽しみです!』


 ボッサン、ライジン、グレポン丸、卍血の弾丸卍ブラッドバレッドはそんな俺の様子を見て銃器を置き、耳を塞いだ。


『ではこれより試合を開始します!Good Luck Have Fun!!』


 試合開始の宣言と同時に、トリガーを引いた。

 対物ライフルにも装着可能な特殊なサプレッサーを付けているとはいえ、この銃の発砲音は抑えきれず、エネルギー弾特有の鋭いブォン!という重低音が鳴り響く。

 壁を反射して反射して反射して……。

 幾度とない跳弾を繰り返し、ほんの2秒と少しで。


一人撃破エネミーダウン。後4人」


 視界の右上にプレイヤーのキルログが表示され、コッキングしながらそう告げる。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??な、なにが起きたのでしょう!?試合開始と同時に変人分隊の傭兵A選手が放った弾丸が紫電戦士隊パープルウォーリアーのアッドマン選手の頭を撃ちぬいた――――!?』


 それと同時にグレポン丸が走り出し、山なりに向けてグレネードランチャーを構える。


「傭兵君に続いてぶちかますよー!!」


 ポン!ポン!と小気味良い音を立てながらグレネードランチャーの弾が吐き出される。

 手慣れた様子で装填と発射を続け、立て続けにキルログが二つ表示される。


『続いてグレポン丸選手のグレネードランチャーでエムゾウ選手とSAINA選手も吹き飛んだ――――!?に、日本トップクラスの強豪チームに圧倒的すぎる!!』


「ああああああ!!?ポンめぇ!SAINAは僕がやりたかったのにぃ!!」


「喧嘩してる場合か!いくぞ厨二!まだ敵は二人残ってるし、次のラウンドもあるだろ!?」


 駄々をこねる厨二を引っ張り、愛銃を持って前線へと走り出す。


「兵士諸君!君らは次のラウンドまで待機だ!もしここまで来たら応戦するだけで構わない!よっしゃライジンあの馬鹿どもに続けえ!」


「おう!」


 続けてライジンとボッサンもアサルトライフルを持って走り出し、前線へと突撃した。





「マジかよおい、開始1分でもう二人かよ!あいつらマジいかれてるって」


「……無駄口叩かない、多分こっちの兵力的に相手は兵士を温存するだろうからこのラウンドは捨てるけど少しでも多く兵士を減らしに行こう」


 紫電戦士隊パープルウォーリアーの残り二名のプレイヤー、リーダーの串焼き団子と副リーダー、シオンはエリア確保を捨てて、変人分隊のリスポーンポイントに向けて走り出していた。


「やっほーシオンちゃん♪うちの変態砂から待ち伏せ頼まれてたから遊ぼーよー!」


「……出たな厨二。残念だけど今遊んでる暇は無いの」


「つれないなぁ。でもねぇ、僕も頼まれたからには逃がすわけにはいかないんだぁ」


 チッと舌打ちを一つして、シオンはSMGサブマシンガンを厨二―――卍血の弾丸卍ブラッドバレットに向けてにらみつける。


「串焼きは先に行って。私がこいつを引き付けておくから」


「すまん、頼んだ」


「あっれれえ?逃がすと思ったぁ?……うわったたた、シオンちゃんやる気満々だねえ!」


 卍血の弾丸卍ブラッドバレットがにやりと笑うと、シオンは無表情のままSMGサブマシンガンを乱射し、距離を詰める。


「ああそうそうシオンちゃん、うちの変態砂から伝言」


「……?」


 銃を撃ち合いながらも卍血の弾丸卍ブラッドバレットは話し出す。


「勝つからには完膚なきまで叩きのめすからそれを超えるつもりで来い、だとさぁ」


「――――上等!」


 シオンのやる気のなさそうな目に火が灯る。その小さな体が加速し、卍血の弾丸卍ブラッドバレットにナイフを持って近接戦闘に移行した。


「ちなみにさぁ、シオンちゃん」


「……なに?そろそろ集中したいんだけど」


「うちの変態砂、今頃何してると思う?」


「――――まさか」





「そろそろ敵陣か……。もうアルファとブラボーは制圧されてるから急がないと」


 串焼き団子はシオンと別れてから最高速で走り続けていた。走りながらログを確認すると、既にライジン、ボッサンの手によってアルファとブラボーのポイントが陥落しているのを確認し、舌打ちする。


「ッ!」


 ブォン!という重低音を聞いて慌てて串焼き団子は真横に飛ぶが、右腕に弾丸が当たり、はじけ飛ぶ。


「てめぇ変態砂!」


「えっマジ?俺そんな名前で呼ばれてたの?」


 変態スナイパー、略して変態砂と呼ばれた男、傭兵Aは心外そうな表情で対物ライフルを構える。


「さっすが串焼き先輩、あそこから反射で避けて被害が右腕だけとはあっぱれですね」


「お褒めにあずかり光栄です…じゃねえよ!てめっ公式戦で花火とかなぁ…!」


「ナイスノリツッコミ。花火抜きにしても一番槍ファーストブラッドは俺が頂いたからね。文句が言いたいなら跳弾可にしてるこのゲームの運営に問い合わせ願います」


「まじチートまがいの命中精度しやがってどうやったらあんな精密計算出来んだよ全く…」


「んじゃ無駄話はこの辺で終わらせて、このままラウンドもいただくよっと」


 重低音が響くと、再び対物ライフルの弾丸が放たれ、それを紙一重でかわす串焼き団子。


「お前対策のためだけにAGI特化のビルドにしてんだよ!なめんな!」


「あー、忠告しとくぞ。降参リザインするなら早めにな」


「大会で降参リザインするわけないだろ!今日という今日こそは一泡吹かせてやる!」


 そう言って傭兵Aはライフルを構えることなく、AGI特化の性能をいかんなく発揮し、凄まじいスピードで迫りくる串焼き団子ににやりと笑う。


「ちなみに、さっき撃った弾だけどな、今狙って撃った弾じゃないんだわ」


 くるっと後ろに振り返り、無防備な姿を晒す傭兵Aにイラっとした串焼き団子は、銃剣で狙いを研ぎ澄ませ────!


GGグッドゲーム。次のラウンドもよろしくな」


 跳弾限界。25回を限界まで使い、跳ね返り続けた弾丸は、迫りくる串焼き団子の頭を正確に撃ち抜き、血の花を咲かせた────。





 その次のラウンドも、前のラウンドでライジンとボッサンが敵兵士を全滅させたおかげで兵士を含めた数の暴力であっという間に勝利し、見事優勝を収めた。あまりにも酷い絵面だったので、彼らの尊厳のためにも描写はしないでおこう。

 Aims内の大会用の特設ステージの近くに設置された休憩スペースで、味の薄いコーヒーを飲みながら表彰を待つ。


『なっ、なんという事でしょう!?あの紫電戦士隊パープルウォーリアーが為すすべもなく蹂躙され、対して変人分隊は一人も欠ける事なく優勝を勝ち取りました!!!え、えーっと、チートとかではない、ですよね?審議のほどお願いします』


 うーん。跳弾スナイパーやってたら大会実況の人にチート疑われたよ。確かに慣れない人から見るとヤバい奴にしか見えないけど、一応跳弾は仕様の範囲内だし、跳弾マガジンは1マガジンしか持てないからこっちも外すと後々厳しい戦術なんだよなぁ……。


『あっただいま報告が入りました!チートを使用した形跡は無い、ですって……?あ、あれ人間の動きじゃなかったんですけど……』


「あー司会さん?さすがに大会でチーター呼ばわりはひどいと思うんですけど……」


『あっ、す、すみません!!』


 集中した疲れで気怠くなりながらそう言うと、司会さんが慌てて謝罪して来た。そして、司会さんが気を取り直して優勝者インタビューをするべく、リーダーであるボッサンの元へ行くのを眺めていると、一つの影がこちらに近づいてくるのが視界に入る。


「おっすシオン。GGグッドゲーム。厨二からの伝言は伝わったか?」


「……GGグッドゲーム。宣言通りの結果で悔しい。……やっぱり傭兵は頭おかしい。うちのリーダーが手も足も出ない奴なんて日本で傭兵だけ」


 近づいてきた人物は紫電戦士隊パープルウォーリアーの副リーダー、シオンだった。


「そんなことを言っても俺もあいつに初めて会ったときはそれはもうボコボコにやられたんだぞ?鍛錬と研究の差だ。ほかのゲームに浮気してるやつが一点特化してるやつに勝てると思うこと自体おこがましい」


「……傭兵も色んなゲームに手を出してるでしょ。それにしても傭兵はおかしい。成長速度もそうだけど異常なまでの反応速度と空間把握能力。……卒業後はうちのチームに是非」


「やっぱり勧誘か……。俺はゲームは勝つことを義務にしてやりたいんじゃなくてわいわい楽しむ主義なんだよ。……まあ、気が変わったらお願いするかもな」


 卒業云々は、シオン――――藤咲紫音ふじさきしおんもリアルでの知り合いで、俺のリアル事情を把握しているからである。


「……楽しみにしてる。……それはそうと、なんで厨二を私に差し向けた?」


「あいつが会いたがってたから。シオンちゃんとの撃ち合いはゾクゾクするねぇって褒めてたぞ」


「……凄く不愉快。傭兵の物真似が凄く似てるのも腹立つ」


「えっ、マジ?……あいつに毒されすぎたかな……お祓いしとこ」


 えんがちょ、と一人で勝手にしていると、ステージの方が騒がしくなる。どうやら優勝者インタビューが終わったのだろう。


「……傭兵、表彰始まる。早く行くといい」


「シオンもな。じゃ、また明日」


「……おーう」


 俺は特設ステージの壇上にひょいっと上り、すでに並んでいた4人の元へ合流する。


「傭兵遅いぞー。シオンちゃんと何話してたんだ?」


「勧誘受けてた」


「まあやっぱ欲しがるよなーそりゃ」


「まあ今勧誘受ける気は無いけど」


「今ってことはいつかは受けるつもりで?」


「まあ気が変わればな。ほら、表彰始まるぞ」


『第二回Aims日本大会、優勝は変人分隊に決まりました!!!皆様、盛大な拍手をお願いしますー!!!』


 ネット中継されている会場のそこかしこから、凄まじい大歓声と拍手が送られ、それに応じて手を上げる四人を真似て、手を上げる。


『今回大会から世界大会の出場権が与えられますが――――』


「あ、俺らパスで」


『ええっ!?そ、それはまたどうして!?』


「引退する奴もいるし、それに、フレンドたちと腕試しのつもりで挑んでる大会だからな。正直名誉とかはいらないんだ。世界大会は紫電戦士隊パープルウォーリアーに出場してもらってくれ」


『は、はあ……。わ、分かりました。では、優勝賞品をお選びください』


 司会の人がそう言うと、俺の目の前に紫色のウインドウが表示された。なるほど、今回は選択式なのか。

 Aims内で売り払えば一財産になるようなレア銃や、アタッチメント、果てはリアルの温泉旅行や海外旅行まで様々な景品が並んでいた。どれにしようかなと悩んでいると、一際異様なものが目につく。


「なんだこれ…?『Skill Build Online スキルポイント50ポイント+スキル生成権3つ』……?なんで別ゲーの報酬がこっちに?」


「おっ傭兵もそれに目がいったか。お目が高いな」


 俺に声をかけてきたのはライジンだった。お目が高いとはどういうことだ?


「このゲーム、Aimsの開発元の会社と同じ会社が近々発売する超大作MMORPGなんだよ。ベータテストはもう終わっちまったけど、繊細すぎるグラフィックとかほぼゼロタイムのサーバーへのレスポンス、果ては独自開発したAIによって制御されたモンスターエンジン諸々搭載。二、三世代は先を行く技術で開発されてる神ゲーって前情報が出ててな。この大会が終わったらこのゲームに誘おうかと思ってたんだ」


「あっ、まさか、Aimsの大会の参加に協力してくれたのは」


「ご明察。何かしら報酬あるかなって期待してたら本当にあった」


 こんにゃろ。MMORPG専門がFPSに顔を出すなんて珍しいとは思ったが、これが狙いか。


「せっかくだし、一緒にこれ選ぼうぜ?FPSばっかやってるお前でも絶対気に入るからさ」


「……まあ、Aimsも二連覇で一区切りついたし、まあやってもいいかな」


 とりあえずプレイしてみて、ハマったらそのまま続けてもいいかもしれない。ただ、あくまで本命はFPSだけどな。

 ふと他の人が何を選択したのか気になり、グレポン丸のほうを見る。

 

「ポンは何にするんだ?」


「え?えと、SBOのスキルポイントと生成権……」


「お前もか。てか、お前が引退するのはこのゲームに専念するからか?」


「う、うん……。傭兵君もSBOやるの?」


「ライジンに誘われたからな。そうだ、せっかくだからポンも一緒にプレイしようぜ」


「ほんと!?ぜ、絶対だからね!インするときメッセ飛ばしてね!すぐ行くから!」


「お、おう」


 すごい食いつきようだな。そんなに面白いゲームなのだろうか?……興味が湧いてきたな。


『それでは!優勝した変人分隊の皆様お疲れ様でした!!続いて、紫電戦士隊パープルウォーリアーの表彰に移ります――――』


 厨二とボッサンにも聞こうとしたが、司会の人に遮られてしまった。

 まあ、大体予想も付くし、いいか。



 こうして俺のAims大会は幕を閉じ、一か月後に正式サービス開始の『Skill Build Online』に向けて待機することとなったのだった。



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