第26話 ゲンカイジャー、NewTuberとも戦う③
「渋谷区に広大なフィールド反応!!」
「場所じゃなくて区か!?」
「はい! 今までにない規模のフィールドです!」
参った。ゲンカイジャーの弱点、それは人数が少ない事だ。広範囲でしかも人口密度の高いところに発生させられると、対処しきれない。今までは傾向として、フィールドが広いと単体が弱く、狭いとその逆になる事が多かったが、今回もそうとは限らない。とにかく現場へ急行せねば。
「ベアリーは、イレギュラーズと連携取って配信開始! 俺は、現場に向かう!」
「了解です!」
☆☆☆
「警視庁、警察庁及び関係各所には避難誘導の要請を! 荒巻さん! お待たせしました。出番です」
「フッ、心得た」
イレギュラーズ戦闘部門、それは国内のあらゆる組織から選抜した対異世怪人部隊、通称ASMS(Anti-Strange Monster Soldiers)。対モンスター専門とはいうが、彼らにもちろん実戦経験はない。あるのは、対人を想定した数限りない訓練の日々。イレギュラーズに召集されてからは、少ないデータから、予想されるモンスターの挙動に対処するべく研鑽を重ねてきたが、今日この日まで彼らに出番は無かった。
彼らは滾っていた。
「さあ、出るぞ! ゲンカイジャーとやらに手柄をくれてやるなよ!」
一同は荒巻の発した檄に気勢を上げた。初の出動。気負いは無い。
☆☆☆
「落ち着いて! 落ち着いて行動してください! 今、ゲンカイジャー及び専門部隊が対処しています! 皆様は、どうか冷静に避難行動を始めて下さい!」
警察の誘導が始まっている。ベアリーは配信を通じて、フィールドの範囲を伝え、そこから逃げる様に促している。もちろん、情報はイレギュラーズに提供済みだ。他のメンバーはバラバラに散って活動中。目下、グリーンが破竹の進撃中のようだ。敵はというと、
「よりによってスライムの大量発生かよ!!」
“可愛いんですけど!”
“どうにか、このモンスター飼えませんか!?”
“エサは何ですか!?”
餌はテメェの皮膚とかなんじゃねぇの? と答えたいがそうもいかない。ああ! 仕事上のストレスが! オーバーフロー!
「えー……、渋谷一帯スライムまみれです。ハイ」
『キワム! まともに実況してください!』
プルプルのモンスターが街を埋め尽くしている。幸いにして、骨まで溶けるような強酸性の液体を吐く様な奴はいないようだが、弾力を持った体で体当たりを仕掛けてきたり、肌が火傷する程度の溶解液を浴びせてくる。
「紡ぐ
厄介なのが現れた。確か、ゲンカイジャーを目の敵にしているNewTuberだ。以前、視聴者がコメントで注意喚起してくれたことがあるし、何ならこのチャンネルの視聴者らしき人からコメントが来たこともある。魔物と和平とか、実現したら俺も戦わなくていいし、出来れば頑張って欲しい。だが、戦闘中はダメだ。邪魔でしかない。俺の見えないところで存分に対話とやらをして欲しい。
「そこの貴女! 下がって! 規制線から前に出ないで!!」
警察官からの声もどこ吹く風で女は実況らしき事を続けている。
「見てください。この愛らしい見た目。こんな生物を切り捨てる権利が誰にあるというのですか?」
くそう。スライムがべっちょべちょのゲロみたいなパターンの奴だったらサッサと片付けてとか何とか喚くに決まってるのに。下手に可愛らしい見た目のせいで避難を始めた人々の足が止まり始めてる。
「火傷したいのか!? 離れてくれ!!」
“紡ぐ会の教祖おるやん”
“殺生反対!!”
“ササっとスライム片付けてコラボしてくれ(笑)”
(笑)じゃねーよ。
「武器を持って近寄らないで下さいますか!」
何だコイツめんどくせぇ。
「このすらいむさん達より、あなたの方がよほど世界にとって危険だという自覚がおありですか!?」
「ないですね」
“即答でワロタ”
“危険が危ない”
“それはモンスターさん側の意見なんだよなぁ”
“モンスタークレーマーさんや”
俺は、愛野とやらの眼前に迫ったスライムをさっくり両断した。地面に落としたゼリーみたいにスライムは砕けた。
「きぁああああああああああっ!? 皆さん! 彼の蛮行をその目に焼き付けて下さい!」
地面にへばりついたスライムの残骸を指さしながら発狂する愛野。シンプルにうるせぇ。
「愛野さん、実は俺も魔物との対話とやらに興味があるんだ。ぜひ、鍋でも囲んでじっくり話し合ってくれ。ほら、そこにもいるから! 頼むから俺の為に和平を実現してくれ!!」
"煽りか(笑)”
“鍋の具材?”
“食べられませんのシール貼ろう”
俺はスライムをまた一匹斬った。他のスライムは俺の事をぺちぺち殴ってくるがダメージは無い。別のスライムが一匹愛野に近づいていく。
「ひぃっ」
嫌悪感を露わにする愛野。どこかで見たことがあると思ったら、合コンで年収聞いてきた女に正直に答えた時の顔だ。顔に出してんじゃねぇよ。
「ぷにぃ!」
「あ……わ……私は愛野……、愛野晶です。貴方お名前は? お話しできるかしら?」
「ぷっ!!」
あ、ヤバい。
「ひぃぃぃぃっ!? 私のデオーリュのスカートが!?」
スライムの吐き出した液は、愛野のスカートに大穴を開けていた。対話を頑張る聖人をやられる訳にはいかない。
「この!!」
問答無用で溶解液を吐き出したスライムを問答無用で叩き斬った。
「ほ、ほーらヨシヨシ、怖くない怖くない……げぶぅっ!?」
あ、またスライムが。今度は腹に体当たりかよ。痛そう。
「せいっ!!」
いかん。愛野さんにはぜひ和平を実現してもらわないと困る。スライムをまた一匹処理。
「愛野さんは俺が守る!!」
「え!? え、あ……」
“えっ!?”
“えっ(キュン)”
“敵対する組織同士のラブロマンスは定番ですね(鼻ホジ)”
そうこうしている内にスライムが殺到し始めた。
「ぷにぃ」
「ぷぷ」
「ぷにゅあ」
「お、おは、お話……」
「ぷにぷーにー」
「」
「ぷぷっ」
「」
「い、いやああああああっっ!!!」
な、なんてことだ……。俺の希望が走り去ってしまった。
「俺の希望に手を出すなぁぁぁぁぁっ!!!」
“変な輩に希望見出しててワロタ”
“スライムさんへの八つ当たりはやめなされwww”
“戦隊ヒーローってブラックなんやなぁ(白目)”
「愛野さん! スライムとの交流! 俺は信じてるからな!」
いつか必ず、実現して欲しい。そう思いながら俺は一帯のスライムを処理した。
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