第27話 ゲンカイジャー、NewTuberとも戦う④

「行け行け行け行け!!」

「一般人に気を付けろ!」

「イレギュラーズの実力を見せる時だ!」


 渋谷一帯は魔都と化していた。直接的な原因はもちろんスライムだ。だが、蠢く悪意はそれらのものだけでは無かった。


「みんなー! 見てるー?」

「噂の渋谷に来てみたぜ!」

「スライム、捕まえられるかな? やってみた!!」

「なんだ雑魚じゃん、ハイ、一匹処刑ー!」

「ご覧ください。これが政府の言う特定有害生物です。溶解液の噴射、体当たりに注意してください」


 マスコミやNewTuber及び、その亜種。インフルエンサーから配信者、そして、SNS映えするという理由で一般人も。もはや、渋谷はさながらフェス会場の様相を呈していた。対応に苦慮しているのは警察。


「下がりなさい! 下がって!」

「押すなよ!」


 文字通り押し問答を繰り返していたが、スライムというモンスターの危険性が上手く伝わっておらず、今や警察による防波堤は決壊寸前に追い込まれていた。


「初出動からハードな現場だな」


 荒巻はスライムを確実に処理しながら呟いた。所かまわず湧いてくるモンスターと警察の網を抜けてくる一般人。真に倒すべき敵は話にならないくらい弱いというのに、守るべき一般人が恐ろしく手強い。何か一つ、イレギュラーがあれば取り返しのつかない事態に陥るに違いない。待ちに待ったお披露目の舞台だというのに、晴れ晴れしいとは到底言えない胸中に荒巻は困惑していた。




  ☆☆☆



「妙……ですね」

『何か気になることでもあるんですか? ブルー』


 スライムの一匹を倒しながら呟いたブルーにベアリーが反応する。


『なーにか嫌な感じよね』


 イエローは両手に持ったスライムを猫だましの要領で押しつぶした。水風船が破裂するように弾け飛び四散したスライムに一瞥もくれる事無く次の獲物へ。


『歯ごたえが無さ過ぎてつまらないわ!』


 ピンクも流れ作業の様に鞭を振るう。


“ゲンカイジャーが強すぎるんじゃないの?”

“スライム如き、ピンク様にかかれば余裕余裕”

“イエローが屠ってるのは市販のゼリーか何か?”


 マルチアングルになった画面を見て、視聴者たちもゲンカイジャーの発言に反応する。


『……ベアリー、魔素発生装置が見当たらない』

『こっちも、だよ。どんどんスライムの動きが鈍くなってる……にゃん』

『グリーン、キャラが迷走してるぞ』


“レッド兄さん辛辣www”

“否めないwww”

“罠の臭い……か?”


 ゲンカイジャーに言い知れぬ不安がよぎった。グリーンの行く末についてではもちろんない。今までは単純にモンスターが現れたらそれを退治することで事が済んでいた。しかし今回は、作戦めいた裏を感じる。何者かの悪意が。


「数で押してくる作戦……という訳ではなさそうですし」

「見つけたぞ! ゲンカイジャー!!!」


 困惑する一同をよそにブルーの前に現れたのは、騎士の恰好をした謎の男だった。


“ん?”

“あれ、これって……”

“うわ、ついに出た”

“迷惑系の頂点にして原点”


「我こそは! アーサー・ヒルデ・ヨルン! 悪を打ち倒すもの也!!」


“背中向けて名乗るなよな……”

“とりあえず自撮り棒置こうか”


「味方ですか!? ありがたい!!」


“ちゃうちゃう! ちゃうでぇ!!”

“絡むだけ損”

“押しかけコラボですよ! しかも前回配信で不穏な事言ってた奴です!”


 男はレプリカの剣を鞘から抜くとスライムを一匹叩き潰した。


「見よ! こんな敵なぞ、私にも倒せるわ!! ハハハハ!!」


“ウゼェ……”

“スライム一匹倒しただけでイキりだすとか”

“どうやってここまで抜けたんだ?”


「真に私が倒すべき敵とは貴様だ! ゲンカイジャー!」

「なぜそうなる!?」

「貴様らだけが魔物を退治できると世間を偽っているせいで、私達は現場に立ち入らせてもらえないのだぞ!!」


“逆恨みじゃねーか”

“政府公認の躊躇のないモンスター舐めんなよ”


「違います! スライムはともかく、魔素やモンスターは本当に危険なんです!」

「もはや我らが交わすのは言葉に非ず!」


“全然言葉足りてなくて草”

“なにを起点にしてもはやなんですかね?”

“目的がはっきりしすぎているwww”


「さぁ、騎士の礼儀に倣い、貴様も構えて名乗れ!」


 アーサーは、再び剣を鞘に納め、杖の様に地面に突き立てるとブルーにも名乗りを催促した。


“戦場で何やってだコイツ”

“帰れ。土に”


「あ、え、えーと……蒼白の騎士、ゲンカイブルー……です」


“付き合ってあげる優しさ”

“まんまと乗せられてて草”


「いざ、尋常に!!」

「悪いですけど、今忙しいんで!!!」


 ブルーはそう言うと剣を手に走りこんでくるアーサー目掛けてゲンカイショットを放った。スライムたちは相変わらず所狭しと駆け回っている。これ以上付き合うのは時間の無駄だと判断したのだ。


「ハハハ! そんなもの効か――なにぃっ!?」


 ブルーとて、混乱の坩堝と化した現場とは言え、人に向かって銃器を放つことは炎上を招く可能性があった。ならば、一時的にでも止まってもらうしかない。そう判断して撃ち抜いたのは、アーサーの持つレプリカの剣。


「バカな!? 俺の聖剣エクスカリバー(税込25,990円)が!? その手の武器はおもちゃじゃ無かったのか!?」


“そんなわけないやろ”

“頭お花畑で草”


「ぷにっ!!!」

「ぐぇっ!!?」


 ブルーの処理が遅れた分、二人の周りにはスライムが殺到し始めていた。アーサーは既にスライムの強襲を喰らい、悶絶している。


「危ない!」


 ブルーのゲンカイショットがスライムを一匹一匹確実に処理していく。一方、スライムの予想外の動きに翻弄されるアーサー。折れた聖剣で反撃を試みるが、数という力に屈しそうになっていた。


“ざまぁwww”

“ノコノコ出てきてこのザマwww”

“出番終わったぞ。さっさと帰れ”


「こ、こんなハズでは……。こ、こんな……!!」

「――諦めるな!!」


 泣きそうな声を上げるアーサーを叱咤したのは、意外にも決闘を申し込まれたゲンカイブルーだった。


「敵をよく見て、隙を見て逃げるんだ!」

「こ、こんな雑魚相手に逃げるなんて……」

「逃げる事なんて恥じゃない。自分の間違いを認められないことの方がよっぽど恥ずかしい事だぞ!!」


“公開処刑ならぬ公開説教www”

“ブルー兄さんの言う通りや”

“ほんまブルーさんの優しさは五臓六腑に染み渡るでぇ”


「お、お前らが……俺達の居場所をう、奪うから!!」

「何?」

「俺達の表現の場を奪うから!!」


 スライムを振り払いながら泣きわめくアーサー。その姿は痛々しいを通り越して、哀れみさえ誘う異様な姿だった。


「俺だって、本当はヒーローになって人助けでもしたかったさ! でも……でも!」

「…………」

「学もなけりゃ根気も無い! たまにバイトしてみりゃクソうぜぇ店長だの、上司だの! ストレス解消にパチンコ行ったら負けるし、借金背負うし! さらに溜まったストレスを発散しに風俗にハマるし! 楽して稼ぐにはNewTuberが一番だったんだ!」


“清々しいまでのクズでワロタ”

“何の時間? コレ”


「世直しを標榜してれば再生数稼げたのに、お前らが本物のヒーローなんて始めるから!」


“なんという責任転嫁www”

“すげぇな……コイツ”


 全てを吐き出したアーサーは自嘲気味に笑った。


「ハハハ……いっそスライムにやられて死んじまおうかな。そしたら伝説として残るかもな……」


“称号『最弱の男』”

“死んでからバズってどないすんねん”


「もし、君が本当に世のために働きたい、というならやれる事はいくらでもあります。だから、そんな捨て鉢にならないで、出来ることからやってみて下さい。僕は貴方を応援します」

「ブルー……、隙あ……ゴフゥッ!!」


“コイツマジか”

“響いてない……だと……”

“スライムさんナイス”


 ブルーは説得を諦め、次の現場へと急ぐのだった。

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