第15話 限界アイドル、松浦 カンナ①

「改めまして、アンコ ザ ナイトフィーバー☆こと、玉聖こと、肥川ひかわ 聖志きよしでーす」


 ゴーレムを倒した俺達は、開店前の【めちゃんこ!がぶり寄り!】に集まっていた。夜の明かりの中でなければまぁ、ベアリーも目立つまいと。ハルカは学生の身分がある為、ゴウは外出許可が降りなかったため、それぞれリモートで参加だ。機器はアンコが用意してくれた。


「属性情報の奔流に飲まれそうだ」

『魔素中毒やブラック務めや、ヒーローヲタクがひどく頼りないタグに見えますね』

『ブラックサラリーマンなんてもう擦られ過ぎて雑巾みたいになってるし』


 誰が雑巾じゃ、誰が。音声だけの参加だと本当に強気だなコイツは。


「いやぁ、でもいい仕事した後はお酒が美味しいわね」


 アンコ(本人希望の呼び方)はカウンターの向こう、髪を束ねたラフな恰好で日本酒を呑んでいた。現役時より体重を相当落としたらしく(とはいえレディーに体重の詳細は聞けない)、それでいて体は常に鍛えているので筋密度はほとんど変わっていないとのこと。練り上げられたその肉体は彫刻の様ですらある。


「一応確認だが、ゲンカイジャーとして戦ってくれるという事でいいんだよな?」

「接客の時以外はね。と言ってもお店が開いてる時も常に居る訳じゃないからそれなりに戦えると思うわよ」


 仲間にして良かった。


「これから一緒に頑張りましょうね、キワムちゃん♡」


 なぜ、そこで俺の名前が出るのか。その色っぽい目は何なのか。誤解は解けたはずではなかったのか。俺は差し出されたビールをグイと飲み干した。今日はご厚意により、奢りだそうだ。


『アンコさんはなんでヒーローになろうと思ったんですか? ヒーロー好きですか? てゆうかもう存在自体がヒーローじみてますよね。戦績とか』

「無敗だもんな」

「アタシは……ヒーローになったっていうより、単純に人助けがしたいからかな。それにどっちかって言うとアタシの憧れは魔法少女だし」

『かっけぇ……! 魔法少女もいいですよね!』


 そんなガチムチの魔法少女がいるか! と思ったが、いたわ。最近のアニメ業界怖い。


『何はともあれ、これから宜しくお願いしますね』

「ゴウちゃんも、早く元気になってここに来てね」


 そう言うと、アンコは手羽先の唐揚げをおつまみに出してくれた。鶏は手をつかないことから力士にとって縁起がいいのでちゃんこ料理に重用されるらしい。甘辛いタレで酒が進む。


『ぜひ!』

「うーん、やはりこちらの世界の食べ物は最高ですぅ」


 ベアリーは感動の余り、涙を流している。普段、そこら辺で買ってきた菓子パンや総菜ですら感動しているベアリーだ。本格的な外食となればそれはもう感涙ものだろう。今日以降はまたしばらく食パン生活が続くと思って欲しい。貯金をこれ以上取り崩すのは勘弁だ。


「さて、話と言えば世間の反応についてと、後は今後の俺達についてだが」


 世間の反応は、ゴーレム事件のせいで飛躍的に増えたみたいだ。さすがに都市伝説扱いとか、一時的なバズりではなくトレンドの上位を関連ワードが独占している。一部では正体考察まで行われているらしい。


『ボクのサイトにも色々情報が入って来てて、迷惑系NewTuberだとか正義の味方だとか評判的には真っ二つなんですけど。どちらかというと前者の受け止め方の方が多いみたいです』

「つまり悪評ってことか」

「こちらの世界の事はよくわかりませんが、魔物を倒すのは英雄的行為ではないのですか?」

「魔物がまず存在しない世界だからな。今のところ映像含めて偽物扱いが主流って事だ。魔物の死体も残らないし」

「そうなんですね。不思議です」


 魔物が当たり前に存在して、人々に害をなす世界なら確かに崇め奉られてもおかしくはないが、この地球では魔物と言えば空想上の生き物だ。かと言って人々に危害を加えるのを黙ってみている訳にも行かない。悩ましい。


「今のところは世論が過熱しないように行動するしかないな。警察の対応も含めて」


 そう言えば、あの喚いていた警察官どうなったかな。変に恨まれてないといいけど。


「出動した時のアリバイも欲しいわね。みんながみんなヒーローが出た時だけ居なくなるんじゃその内怪しまれちゃうし」

「…………ベアリー、聖石で対応できるか?」

「フフフ、キワム。私を誰だと思っているんですか。召喚士ですよ。召喚士。その中でも勇者召喚が出来る一流の一族!」

「古文書パクられた一族な」

「ぐっ……、ま、まぁ、皆さんの影を使ったシャドウサーバントを召喚するぐらい聖石を使えば容易いことです」


 また、課金か……。いざ、仲間が出来てもいきなり金の無心はしにくいな。なんで俺が借金持ちみたいなことで悩まなくてはいけないんだ。


「ベアリーちゃん、スゴイわね!」

『魔法! 魔法! 魔法!』

『と、すると後は今後の活動についてですね』


 今後の活動と言えばもちろん仲間集めとモンスター対応だが、ベアリーが何やら一言あるらしい。


「あ、あのですね。ガケップ値が高い人材が居るのですが」

「素晴らしい。すぐ仲間にしろ」

「ですが、満身装衣のストックが後一つだけなんですよ」

「何!? たった五人であの魔王に立ち向かえと言うのか!?」

『何言ってるんですかキワムさん。戦隊は五人が定番じゃないですか!』


 ハルカはそう言うが、これはニチアサヒーローの物語ではなく現実に起きている問題なのだ。いくら一騎当千とは言え、本来なら軍を編成して事に当たるべき事案だ。何より、安定して参加できるメンバーが少なすぎる。家でダラダラ過ごしている暇な人材が必要だ。崖っぷちに居るような人間が。


「今後はUQの消化で新しい満身装衣が出来るかもしれませんが」

『追加戦士ですね! ゴールド、シルバーあたりですかね! ブラック!? いやいや……』


 ハルカはもう黙っていて欲しい。


「で、ガケップ値の高い人材の事を私なりに調べてみたのですが」

「どんな子なのかしら? 男子? 女子?」

「女性アイドルです」

『えっ!? 有名人ですか!?』

「馬鹿な。ガケップ値の高い人間だぞ」

「まぁ、一般的な有名人とは言い難いですかね」

「アタシ、アイドルに憧れた時期もあったわぁ」

「とりあえず、一度会ってみて仲間にしたいかどうか決めますか?」


 そう言って、ベアリーは新しい仲間(予定)の情報を開示した。

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