『二人きりになると欲望に忠実な子供は小学校三個分欲しい系舌フェチ幼馴染』

 翌日、放課後。

 俺は囲碁部の部室で椅子に座り古条島を待っていた。


 囲碁部――といっても既に形骸化しており俺と古条島、他三名の幽霊部員でかろうじて存続しているだけの遊び場だ。


 俺も古条島も最初は本気で囲碁に取り組もうと考えていたが、平安時代の天才棋士の霊がいなかったのでやめた。


 幼馴染(仮)の到着をいまかいまかと待っていると、ついにその時が訪れた。


 扉の開く音を聞きながら、俺はそちらへ目を向けずボーっと窓の外を眺める。


「ちーくん、もう来てたんだ」


 古条島の声。


 ちーくんとはもちろん俺、幼馴染の織皿おりざら千鶴ちづるくんである。


 日頃、先輩先輩と呼ばれている俺にとってその愛称は非常に心揺さぶるものだった。

 

「えへへ、ちーくん。ちーくん」


 言いながら近付いてきた古条島が、俺を後ろから抱きしめる。


 大胆な行動。

 いきなりのクライマックスに俺の鼓動は激しくなり、自分の身体が心配になった――が、それよりも。


 古条島が心配だ。心臓直接押し当ててんのかってくらいバックバク。

 こいつ死ぬんじゃねえの。


「我慢してた分、いっぱい……しよ」


 古条島は一度離れると、定位置であるテーブルを挟んだ向かい――ではなく、俺の左隣の椅子に腰を下ろした。


 俺の肩に頭を預ける。

 そして右手を俺の左手に絡ませると、優しく、けれど力強く、握った。


「ちーくん……私ね、一緒にいるだけじゃ……嫌だよ」

「ひらり……」


 多分ちゅーだ! ちゅーがくるぞ! 濃厚なやつ! 

 だって舌フェチだもの!


 ――が、俺の予想と裏腹に、待てど暮らせど古条島は動かない。


 どういうことだ?

 そういうことか。


 ここは俺にリードしてほしいということだろう。

 もしくは、気を遣ってくれたのかもしれない。


 任せとけ!


 俺はゆっくり古条島に顔を近付けながら、チャンスなのでおっぱいを触った。


 思い切り突き飛ばされた。


「な、ななななにをするんですかーっ!」


「ええ……だって俺の幼馴染はおっぱい触られるのが好きなんだもん」


「だもん、じゃないですよ! かわいこぶらないでください!」


 怒られてしまったが、全面的に俺が悪いので言い返すことはしない。


「い、いきなりこんなの無理に決まってるじゃないですか! アクセルの踏み方も分からないのに高速道路に放り込まれた、みたいな! 料理教室一日目、皮も剥けないのに満漢全席みたいなっ!」


 顔を真っ赤にして胸を抑える古条島。

 意味分からんこと言ってるし、本当に限界なのだろう。


「悪かった。これは卑怯なやり方だった。俺は正々堂々お前を触る」


「ひえっ」


「だけどそれは今じゃない。お前から俺の胸を撫でまわすまで待つよ」


 リクエストからも分かる通り、俺はどちらかというとむちゃくちゃにされたい方だった。


 けれどそんな性癖は、俺に触るだけで死にかけてしまう古条島を前にすれば、僕じゃない誰かの物のように思える。


「つ、次は上手くやってみせますから、もうちょっとイージーなのから始めましょう」


「じゃあ『毒舌風だけどよく聞けば好意丸出しのダウナー系幼馴染』で」


「先輩って幼馴染が好きなんですか?」


「いや、お前が好き」


 結局はその一言に尽きる。


 恥ずかしさに悶えながらも「へへへ」とだらしなく笑う古条島の頭を撫でた。

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色んなヒロインをシミュレートしてくれる小っちゃな後輩 鳩紙けい @hatohata

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