第52話 AAW(後半)

吸気音と排気音にエンジンファンの駆動音。

3種類の波形の事なる高周波がナナの頭上を飛び去り、耳のすぐそばを空気を引き裂いて飛翔体が駆け抜けた。


空気の壁を破れる速度の物体が自身に当たればどうなるかは実体験を伴わない感覚でも分かりやすく、ナナの場合はその影響を一瞬で力学的に分析することもできてしまう。

彼女の頭には、飛翔体の硬度と衝突した時の面圧力に応じて、自分の顔面から脳の一部が露出していた可能性。

物が頭蓋骨に当たり、砕けた骨片が後頭葉から脳幹をズタズタにしていた可能性。

頭蓋骨が破片の貫通を防いでも、その衝撃により脳に深刻なダメージがでる可能性が浮かび上がった。

どんな身体的苦痛を味わうか、どんな死に様になるか、多種多様なパターンがとめどなく頭の中を駆け抜けて、自律神経以外の全てを平伏する恐怖心として顕現した。


恐怖を応えるために強張った体は、肺を押し付け全てを吐息として絞り出し、思い出して再開した呼吸は茹だるほど熱く、続いて全身の皮膚から水滴状の汗が吹き出した。

恐怖で指先すら動かない彼女のその発汗は恐怖による交感神経の作用もあったが、そのほとんどは頭上を通過したエンジンの排熱によるもの。


彼女の自我は死んでいた可能性に、心を奪われ硬直している一方で、彼女の肉体は最大限のスペックを活かして生存の可能性を探り、その一つとして、体温を維持する為に汗を流す。

そして、その汗が媒介となり砂埃が体に張り付くと、彼女は砂漠と一体化し、弾丸の通り雨に次いで、航空機が備える全てのセンサーからも彼女を覆い隠していた。


この砂漠は世界最高温を記録したこともある土地だったが、それでもエンジン排熱よりは格段に涼しく。

耳鳴りを招くほど耳を聾したエンジンの轟音もかえって、航空機が遠ざかっていく事をタイムリーに正確に告げていく。


その結果は、地獄の最下層から一層上に登れたようなものだったが、この些いなストレスの低下は、ナナに仮初の安心感と本能的に作用したアドレナリンの暴走気味の解放感の享受させる。


両手の指先は恐怖の余熱で情け無く痙攣していたが、ナナにはその不随運動が、敵に対する激しい怒りの象徴に見えていた。

無意識に敵の去った方角を睨みつけ、感情を最大限の精度で言語化した。


「私を殺し損ねたね」


どこからそんな言葉が湧いてきたのかも考えず、ナナはただ敵にも自分が味わった恐怖の と同じもを味合わせたい衝動に従って車両へと駆け寄った。


「みなさん大丈夫ですか?!」


中を覗いたら、知ってる人が細切れになってるかもしれない、などという想像をする余裕は彼女になく、幼稚で無垢なご都合主義に車内へと掛け戻っていた。


車内は受けた銃撃の威力を物語って混乱を極め、ルーフは無数の穴からは太陽光線が柱状に注がれ、車の血肉のような断熱材がそこら中で垂れ下がり、破損した電線が火花と、電子機器のエラーを誘発していた。


そんな車内で、最初に見えた人影は運転席でハンドルにしがみつくドク。


「大丈夫ですか?!」


鬼気迫るほど精巧な生き人形然としてドクが、はっと目を瞬き、脂汗の光る顔で、どちらが幽霊なのかとナナを見る。


「俺は無事だ………。ハンドルを……身を挺して守ったんだ」


「そうですか……よかった」


この数分間常に生と死がカムシャフトのように、付かず離れずを繰り返され、期待を裏切られる事に備えていたナナはドクの生存の喜びは上手く表現できなかった。

そして、機械的に八つ裂きにされている車内に向き直り、ファルコンの乗る砲塔へと急ぐ。


砲塔を覗き込もうと駆け寄ったとき、彼女の足は何かに滑り、床に手をついた。


「——!!?」


その直後、おぞましい赤色のドロリとした物を潰す感覚と共に撥ねた液体が顔に付着する。

赤色の一点で、それが何を即座に推察すると、周りの大人がそうしていたように恐慌をなんとかして激怒へと置き換えようと試みる。


「…………クソッ……血だ。ドクさん! 血です!」


識別した事実をいくつかの言葉を忌避して報告すると、「どうなってる?! 砲塔が動かないぞ」と砲塔から声が響いた。


それはファルコンの声で、ナナは用心深く、空の上から聞こえてない事を確かめた。


「フレディ? どこを撃たれた?」とドク。


「分からん。だが砲身自体は無事みたいだ」と的外れなファルコン。


「馬鹿野郎。お前はどこを撃たれたって聞いてんだよ!」


「俺は無事だ。航空機関砲くらって話せるわけないだろう」


「アレは機関砲じゃねぇよ。機銃だ。連中もビビって小回りのきく対歩兵用機銃で撃ってきたんだ。さ。ブスがやるしょーもない流し目だ」


「どっちにしろ、くらってたら無事じゃ済まないだろ」


とりあえず2人は生きてい、しかも相当元気だと分かると、ナナは持ち前の好奇心に従って赤い液体の出所を探った。

捜索は万有引力を知っていれば目を動かすだけで済む程度の事だ。


「………ドクさん、これ……」


ナナが指差したのは、車内のキャビネットだった。

両開きの小さな保管庫は、被弾したらしく開止め金具が大きくVの字にへこみ、その隙間から血のような液体が、妙な粘性を示して滴っている。


「嫌な予感がする」とドクはその液体を指ですくい、ひと舐めすると液体の色素が浸透するように顔を赤くし始めた。


「ちっ。ミートソースだ! あいつらミートソースを撃ちやがった! 」


続いて、残り少ない頭髪を引き抜かんばかりにひっかんで嘆いた。


「………くそ。ミートソースはキャビネットにあったわけだ。そのキャビネットの裏には……旋回砲塔システムの制御ユニットがある」


ソースの喪失で怒っていたわけではなかったドクは、キャビネットを強引に引き剥がすと、その裏の制御パネルを開く。


同時にパチりと火花が散った。


「ソースを焦がしちまった。それにメイン制御システムもだ。発射角の制御も、車体の姿勢制御も偏差射撃の計算も全部死んじまった」


キャビネットから垂れたソースのほとんどは砲塔システムを緻密に制御し、射手を補助する為の電子機器へと流れ落ち、あちこちでいくつもショートを発生させ、しかも味わいの為に溶け込んでいた成分が焦げや固着物として電線が焼け切れまで電気を通し続けていたようだった。


間違いなく直らない。ナナはそう判断すると信号線と動力線を見分ける事に集中した。

砲塔が高性能な事は2人の会話から汲んでいた。だが、今は最低限の性能でも動いてくれればいい。


「………CPUは死んでますけど……動力はモーターですよね?」


「あぁ。そうだ」


「電力さへ供給できれば、砲塔自体はまだ動くんじゃないですか?」


「確かにそういう事だ。お前賢いな。本当は何歳なんだ? 」


「よく分からないですよね」


「ドク。問題はそれだけじゃない。砲の可動範囲も足りないんだ。もっと高角を狙う必要がある」


「天才お嬢ちゃん。何かアイディアはあるか?」


「えっと……砲を取り外すとか?」


ナナは、左手を握り拳にして、右手を広げたままその上に重ね、左手を車体、右手を砲塔として表し、その接続を切り離す事で車体に砲が当たらない高さまで持ち上げるというイメージの共有を図る。


「アイディアとしちゃ間違ってないが、時間も道具もない」


ドクは首を横に振って、ナナのジェスチャーを真似ると、砲塔ではなく、車体そのものから傾ける事を示唆した。


「それより車体安定用リガーを片方展開させて車体を傾けよう。レールガンだから反動でひっくり返るなんて事はないはずだ」


「ひっくり返るのは、この局面だけで充分です」


——————————————————————



「フレディ。いくつかの補助機能は完全に死んでで、シェルショックみたいな動きもするだろうが、なんとかなりそうだ。WW2のやり方でいこう」


「どうなやり方だろうと、落とせれば同じだ」


ドクは、制御ユニットの端から砲塔へと伸びているヘビ大の太さの電線を一絡げに掴んだ。


「まずショートしてダメになった回路をバイパスする」


ふぅ、と息を吐き、音にならない声で「クソッタレ」と呟くと、その線の束を一気に引き抜いた。


バチバチッ!!


引き抜かれた線は、多頭の竜のようにそれぞれが稲妻を吐き、強烈な光と共に周囲数十センチの範囲を焼き焦がした。


「な!? どうして電気が?!」


「今のモーター賢い。最低限のデータを維持するために自前のバッテリーを備えてる」


「ドクッッ! 砲塔が自律制御も効かなくなったぞ!」


「クールにしてろファルコン! こっちはちょっと心臓が止まりかけたんだぞ」


「ナナ。これが左右の旋回で、これが砲身の上下。問題はこれを繋ぐ電線がないって事だ」


「制御ボックス自体が金属ですよね?」


「そうだ。そうだがな、回路としては荒過ぎる。どこに漏電が起きるか分からん。それこそ俺かお前か、フレディがプラズマ爆発するかもしれない」


「でも、都合良く、絶縁体に固定された電導体で、それなりの長さがある物がここにありますか?」


「あぁ。あるぞ。そこのウッドケースの鍵を壊してくれ」


ドクの指差す方向には、衣装棚のような木製の収納家具があり、観音開きの扉の取っ手は鎖と南京錠で閉じられていた。


「叩くんだぞ。撃つなよ」と拳銃が差し出され、ナナは命令に従って鎖を思いっ切り叩き、その衝撃で取っ手そのものが扉から剥がれ落ちる。


「………これって……」


「絶縁体に囲まれた伝導体だろ? 」


衣装棚の正体はガンロッカーだった。中にはたくさんの両手で構えるタイプの銃器がならび、その一部は木製や樹脂製の絶縁体のボディが備わり、銃身は当然金属製。伝導体で間違いない。


意味を理解すると、ナナはカウボーイが使うレバーアクションライフルと、見るからに木製の狙撃銃。樹脂フレームが多用されたショットガンを取り出した。


「銃は3丁。電線は9本。だが、1丁と5本は固定していい。動かさないからトリガーガードに結びつけておく。

大事なのは残りの4本だ。こっちは必要に応じて銃身に押し付ける必要がある」


「えっと、その4本が砲塔側の上下左右の制御線ですね。極を反転させれば動きも反転する。

他に気をつける事はありますか?」


ナナはこの質問の馬鹿さ加減を知っていた。不完全な間に合わせの配線で、巨大な装置を動かそうとしているのに安全なわけがない。


「山ほどある。だが、気にしても仕方ない事ばかりだ」


「何人たりとも危険を冒さずには勝てないってやつですね」


「我が魂に哀れみを、の方が保険が効く」


「勇気を出してる私への………皮肉ですか?」


「そうだ。俺はリガーを作動させ、レールガンへの電力分配も確認しなきゃいけない。

だがら、フレディは砲手でおまえの指示係。お前が砲塔を作動させる。フレディが命中させる。

プレッシャーを掛けたくないが、誰がミスると全員死ぬ。敵も次は腹を決めてくるだろう。こっちも腹を括る必要がある。

……嬢ちゃんが背負うには重すぎるからな」


「耐えられると私が決めたのですから、ご心配なく……」


自分の発言を顧みて、復讐心とは異なる恐怖の鈍化に加え、冷静ながら前向きに生き残る事を考えられている自分は、コンバット・ハイ状態なのではないかと推察した。

少し生物として壊れはじめて、アリッサや怒ってる時のツルギのように自分もイカれだしてきているのだろう。その成長と呼べるのか分からない内面の変化を、ナナは精神の鍛造と名付けた。

鉄塊が金槌でへこまされながら形作る鍛造加工のように、ここにいる大人2人も、そしてアリッサ、ツルギ、大尉もみんな基の人格が精神負荷の金槌で変形したから、怖いくらい強靭なのだ。


「なんなら、私はとても慈しまれているようにも感じています」


「マゾなのか?」と言ったドクに、ナナは電線を押し付けるかどうかを逡巡し踏み止まった。


「私がサドになる前に自分の持ち場に行ってください」


「 とりあえず、威勢は大事だ。出来る事は全てやった。こっから先は天運が味方するかどうかだ」


——————————————————————


その直後、無線盗聴装置が、敵の周波数から拾った音を耳打ちした。


「地上部隊より伝達。拠点から東の方向にて、正体不明の車両を目視。敵の増援だ。対空砲火に注意されたし」


「………増援?」


敵が敵が増えたと言ったのだから、ナナたらからすれば味方が増えた事になる。しかし、ドクやファルコンがそれを知っていた様子はない。

おいそれと降って湧いた幸運と享受出来ないのならば、この謎の味方の情報は、どう好意的に見ても状況を混乱させる所属不明の勢力でしかない。


「は。そんなの居るわけねぇ。デマだ。姑息な事をしやがる」とドク。

盗聴していたからこそ、苦難に溺れ、藁にも縋りたいを水底に引き摺り込む欺瞞工作と即座に断定する。


だが、ナナの意見は違った。


「………アリッサの仕業かもしれません。私たちにとって、今の情報はデマでも本当でも影響はありませんが、あの飛行機には違います」


無差別な心理戦などと言うものをアリッサなら実行するだろう。なおかつそれを聞くのが二元論で判断する事を癖づけている人々となれば、しきい値を設けた上で影響を制御できるとも思い上がれるだろう。

意図を汲むなんて受動的なら反応すら必要なく、敵機を含めた傍聴人全てが一つの方向性へと向かわざる得なくされていた。


「………あいつは今どこにいる? 敵の無線を持っているならあの病院だな。屋上からの視点なら敵機が視認できているのか?」


ドクだけはまだ無線の真意を疑うが、ナナとファルコン、アリッサの手口に心当たりのある2人には、手を汚すことすらしない黒幕からの抹殺命令が、自分たちに与える恩恵を確信していた。


「今の無線はパイロットにも必ず届いた。

奴だけは、信じたくなくとも東に別の攻撃部隊がいると考え、移動しなければならない。

この状況で、奴がまだ俺たちとケリをつけるつもりなら、南から高度を落として突っ込んでくるしかないな。

南西たぶん255度の方角だ。古典的だが太陽を背に向かってくる」


「欲を言えばもう一声だが。悪くない賭けだろう。カジノで使いたい運も使えばな」


好転し始めた状況にも、緊張を逃す安全弁のようなジョークにもナナは笑えなかった。

腐臭か、本当の硝煙の香りともいう刺激が鼻をつき、大脳皮質を麻痺させたように表情が動かせない。

そして、その理由を言葉にして考えないように努めた。



「回収機より、地上部隊へ」と再び盗聴装置が声を傍受「第一攻撃目標の報告を求む。一撃目の効果を知りたい」


通達の電子音に続き、パイロットの肉声が届くと、すぐに彼の味方を自称する者からの応答が入る。


「こちら地上部隊。敵装甲ユニットへの損害軽微。復旧作業中と思われる行動を確認。

まだ攻撃態勢は整っていない。今のうちに確実に仕留めくれ。


「回収機より地上部隊へ。任せろ。そのツケは必ず払わせる」


再び聞こえた盗聴音声は、グロテスクの一言に尽き、ナナの胸を締め付け、背骨をナイフで裂かれるような悪寒を覚えさせる。

怒りや復讐心があれば、自分でも人を殺せるだろうが、それはあくまで殺人という認識をより強い感情で希釈してかろうじて実行できる程度なのに、無線から聞こえる音声の片方は、人の感情や共感能力を巧みに利用して、死ぬ為の行動をとらせるように差し向けていた。


「酷い……酷過ぎる……」


ナナが足をすくませたのは敵も人間だと認識してしまったからだった。ドクもファルコンもツルギでさえその事実からは目を逸らし、必ず“敵”や“連中”などと言葉を置き換えていた。しかし、この偽の地上部隊の無線手は、相手を人として接している。残酷になれる人間を理解し始めたナナにとって、この残酷な人間という存在はあまりにも恐ろしい悪魔だった。


「全くだ。あいつはまともじゃない。だが、生きる為には俺は、あいつの思い通りになってやる」


残酷になれる人間は、悪魔の声に耳を貸していた。


「フレディ。あいつが味方の内に、できるケリはつけよう」


「任せろ。狙いは分かってるんだ。今度は外さない。完璧なショットを決めてやる」


ともう1人の賛同者ファルコンは、ナナに向けて指示を出した。


「ナナ。砲塔を指示した方角に旋回させてくれ………できるか?」


「やらなきゃ、私たちが死んでしまう……」


ナナは理性を放棄してそう答えた。本音だけを言えば自分は確かに死にたくないのだ。


「そうだ。やっぱりドクに頼もう」とファルコン。


ナナはムキになって、銅線の一つを銃身へと押し付ける。ライフルのフロントサイトとトリガーガード、電線が触れる2箇所で同時に青白い閃光が走り、それに連動して、車両そのものがシュレッダーに落とされたような騒音と共に砲塔が稼働した。


「……ストップ。方角良し。方角はこのまま、仰角は14度にしてくれ」


ナナは同じ作業を繰り返した。

繋いだ電線は火花を散らし、少し鈍い駆動音が轟く。


「ぴったりだ。ナナ。俺はお前の決断を尊敬する。でも、迷いながら行動するのは良くない。俺は最初からこれを最高のショットにするって決めてたんだ」


そして、モーターのけたたましい音と比べて、遥かに大人しく、しかし一番の出力を生み出しているはずの車載型レールガンの砲声が響いた。


「命中」


ナナは自分がした事を確かめるために、窓から外を覗き込んだ。


地平線と太陽が棲み分ける空の向こうに、陽光に映る不純物のような黒い影が次第に大きくなり、それに従って、黒い影が、黒く角張った形の双発垂直離着陸機である事がはっきりと確認できた。レーダー反射断面積を抑えた線の細い輪郭は、トンボや鳥に例えられる、この手の機体とは異なり、どこか微生物の拡大図のような有機的なシルエットをしており、収斂進化の果てに誕生した異界の怪物を思わせた。

扁平な形のエンジンは両翼の端にあり、今は吸気口から伸びる推力発生装置が垂直に曲がって徐々に高度を下げつつある。


「あれは離着陸モード?」


「コックピットのメインコンソールを斜め下から撃ち抜いたはずだ。

パイロットの奴、相当ビビってるぞ。何せハンドルとフロントガラスがいきなりなくなったようなもんだからな」


「えっ!? まだパイロットは生きてる?」


「もちろん。狙った物に弾を当たるのはそんなに難しくない。俺はその上の次元の狙った通りに弾を当たる事ができる」


「フレディ。それなら1発目で決めろよな。

でも、あれは民間の機体だ。生存性は相当高い。制御不能に陥ったら、ゆっくり墜落するはずだ」


砂漠の遥か向こうで、被弾した航空機は高度を失いながら地面に近づき、長大な砂の波を引き起こしながら地面へと滑り込み、その機体の半分を埋めて大地へと突き刺さった。


「爆発もしないものなんですね」


「最近のは武器の誘爆以外ではほとんど爆発しない。つまらないよな。その代わりバッテリーが発火すると地獄だがな。

見たところ出火は無いな。あとで応援を呼ぼう。捕虜が見つかるだろうからな。

ドローンで監視させて、後で回収させる。ファルコンの大口が本当か証言してもらおう」


「誰か状況を報告しろ」とドクの首にかけられたヘッドセットからがなる。その声は聞き覚えのある大尉の声だった。


「大尉。こちらは全員無事。敵機は撃墜しました」


「今度は勘違いではないな。こちらかもよく見えた。も大はしゃぎだ」


「戦利品にメインエンジンでも持っていきましょうか? ヘラジカより迫力がありますよ」


「それは嬉しいな。置き場を作るから、3ヶ月くらいお前の部屋で預かっていろ。

さて、これ以上の褒め言葉はないぞ。

さっそくだがせこい問題について尋ねていいか?」


「お答えしましょう。車両は走行可能です」


「素晴らしい。お前たちの無事よりそっちを気にしていた。歩いて帰るのは嫌だ。特に口と舌がMAC11並の奴を連れてると尚更な」


「送迎はご心配なさらず。それに止血帯も。止血とマナーの悪い輩の猿ぐつわにはピカイチなのはご存知でしょう?

あと撃墜した機体の状態を見るに、捕虜がとれるかもしれません。事件の全貌が明らかになるではないかと思います」


「我ながら自分のリクルート能力に惚れ惚れするな。完璧なチームだ。

それでは、予定通りの地点で合流だ」

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