「となりのトトロ」から分析するプロットの正体。

となりのトトロには大別して2種類のシーン変化があります。それはキャラクター間の関係性の変化とキャラクターの精神的成長です。



ところで、シーン変化とは、ストーリー全体の変遷のことです。このシーン変化を、因果関係から何種類かに分離できます。これをプロットと呼びます。


ちなみに、シーンが変化する間は、「承」と「転」のあいだであり、主人公はある種の「旅の最中」であることを改めて確認させてください。


さて、プロットについて分析するために「となりのトトロ」のストーリーを具体例に確認します。


となりのトトロでは、次のようなストーリーが展開されます。


1 3人家族が田舎に引っ越す。

2 これから住むことになった古びた民家を全員でお掃除する。

3 カンタに「おまえの家、お化け屋敷」と、さつきがからかわれる。

4 ススワタリが家から逃げていく。

5 七国山病院へ入院中のお母さんを家族全員でお見舞いに行く。

6 さつきが学校に行く。

7 めいとトトロの出会い。

8 めいの一時的な失踪。外でお昼寝している。さつきが発見する。

9 3人でトトロの木にお参りに行く。

10 ある日、寂しがっためいがさつきの学校に来てしまう。

11 カンタが雨のなかでさつきに傘を渡す。

12 眠っているめいを背負っていたさつきが、トトロにバス停で出会う。

13 トトロたちとさつき、めいが夜に空を飛ぶ。

14 七国山病院から急な電報が届く。

15 お母さんの帰ってくる日が延期される。

16 さつきとめいの喧嘩。

17 ショックを受けて泣いているさつきと慰めるおばあちゃん。

18 めいは、とうもろこしを持って家出。

19 めいの失踪が発覚。さつきは周囲と協力してめいを探すことに。

20 七国山病院への途中で、車に乗った二人のカップルに出会う。

  二人はめいを知らない。

21 カンタとさつきが道で情報交換する。

22 さつきにおばあちゃんが差し出したくつは、めいのものではなかった。

23 さつきはトトロと再会する。

24 ネコバスが、めいを行く先にする。

25 さつきはめいを発見。二人は泣いて和解する。

26 ネコバスが、七国山病院を行く先にする。

27 病院の前の庭の木のうえでさつきとめいの父と母の様子をトトロたちと見る。

28 めいのとうもろこしを窓際に残す。

29 さつきとめいは、ネコバスで家に帰る。

30 母が退院して、家に帰ってくる。4人家族に戻る。




これらを、キャラクター間の関係性の変化とキャラクターの精神的成長というプロットに分離しましょう。


カンタとさつきの関係性についてのプロットは、3、11、21です。始めは小学生低学年のようだったカンタが次第に思春期の少年のような態度を取りはじめます(11)。事実、かさを返しに家に現れたさつきに、カンタは恥ずかしがって顔を見せませんでした。


この部分的な和解のきっかけは、シーン10で、めいが学校に来たときに、担任の先生が「さつきさんのお家はお母さんが入院されています」と説明したことが原因だろうと考えられます。


そして21では、カンタとさつきは、知り合い、あるいは友人のように、情報を交わします。18のめいの失踪がここでも関与しています。





続いては、さつきの人間的成長のプロットを分離します。


1、2、3、5、6、8、9、10...以下略。


ほとんどで関わっているので、さつきがストーリーの主人公であると考えられます。特に注目したいのはシーン12 さつきとトトロの出会いです。


このシーンは、大人になりかけているさつきが、一時的に子どもに戻るシーンであると考えられます。これは、カンタの家に、大人として傘を返しに行ったのとは対照的です。


また、16のさつきとめいの喧嘩は非常に印象的です。大人になりかけている少女、さつきとまだ子どもの、めい。この二人の立場の違いであると考えられます。非常に説得力のあるシーンになっているのは、二人の年齢が離れているためです。


しかし、17でさつきは母の死を想像して、子どものように泣き出します。めいはショックを受けて、こうして18のめいの家出につながります。


ですから、さつきの人間的成長は、めいの人間的成長でもあるのです。




となりのトトロは素晴らしいストーリーが展開されています。過不足なくシーンが変化し、必然性と説得力を持って読者に訴えかけます。


特に、トトロ、ネコバスといった言葉の交わせない不思議な生き物と、さつきとめいが心を通わせるシーンは、まさに子どもの世界の現出であり共感覚です。


子どもの非言語的で感覚的な世界に耳を傾けよう、というメッセージに他なりません。26のネコバスが七国山病院を目指す場面は、まさに、このクライマックスです。このシーン26でネコバスは人間の言葉を語らずとも、さつきとめいの想いを理解しています。


「となりのトトロ」は、今後、ご説明する2章の共感覚や、3章の社会的状況が明らかに優れています。視聴者は、容易に物語に惹きつけられますし、また物語のエンドロールでストーリーの余韻を十二分に感じられるでしょう。


特に、ストーリの「転」として、16、17、18が優れた機能を果たしていることも、特筆に値します。また18の暗示として、8が機能していることにも、注意してください。





プロットは一連のシーン変化を記述したものです。ですから、プロット自体は説得力を持ちません。一定の社会的状況のもとで、複数のプロットが互いに混ざり合うことで、ストーリーが生じ、説得力が生まれます。これをプロットの行間を埋めると言います。


説得力の源泉については前稿で述べた3つが重要です。再掲します。


1 共感覚

2 キャラクターの主張・目的意識

3 社会的状況

 


また前前稿で述べたように、プロットが、シーンの必要性を判断する一つの目安になります。


プロットをつくると特に重要度が高いシーンがあります。重要なシーンに至る過程としてストーリーを見れば、不要なシーンは排除できます。となりのトトロならば、25、27のシーンが重要でしょう。このストーリーに至るまでに、作者はさまざまな試行錯誤をしたはずです。



最後に、言及したいのは、冒頭の1から終着点の30も一つのプロットであることです。お母さんが病院から家に帰ってきています。これによって、家族愛という物語のもう一つのメッセージが強調されています。優れた物語は、このようにプロローグとエピローグが対応していることが多いようです。


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これで第一章は完結です。この作品は、むしろ第二、三章と第一章が連動することで価値を生んでいます。次のページからぜひ第二章もご覧ください。

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